鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

66 / 86
この話は大丈夫なのか心配になる今日この頃。


こばちマーメイド

大仏こばちは風紀委員である。

伊井野の親友であり、優の友人である。

僕はそんな彼女のことは好まない。

恐らくは、あちらも僕の事を好きじゃない、というか嫌っている。

互いにそのことは自覚している。

大人な一面があるから表立っての対立などせずに周りから見れば普通のクラスメイト、あるいは友人の友人という風に感じるだろうけど。

さて、何故そんな関係なのかと聞かれれば、解釈の違いである。

僕はあいつらに対してお節介を焼き続けているし、あいつは見守る。

……正直、僕が色々とやりすぎなのは認めている。

どう考えたって過保護だし、行き過ぎているのは認める。

だが、目に見える問題を放置して何もしないのは納得がいかない。

見ているだけでは、何もしていないのと変わらない。

状況は本人だけで変えられないこともある。

どうしようもない袋小路に彷徨うしかない人も居る。

そういう時に誰かが動かなければ、待っているのは碌でもない結末だ。

誰も幸せにならない、そんな結末だ。

僕はそんな結末を多く見てきた。

いつ見ても、気持ちのいい結末にはならない。

だから、僕は動き続ける。

対して、あいつはただ見ている。

あいつらの様子を眺め続けている。

何をするでもなく。

あいつにも、色々と過去があることは知っているけれど。

それでも、僕はあいつが気に食わないのだ。

 

***

 

ターン、ターン

 

バスッ

 

「上手く決まらないなぁ…」

「やってるな、優」

「白兎か」

 

とある1月のある日の放課後。

僕と優は体育館に居て、優はバレーボールの練習をしていた。

 

「俺は今度のクラスマッチの練習だけど、お前は何しに来たんだ?」

「僕も練習。もうちょっと、技の精度を上げておきたくてね」

 

優は疑いの視線を向けている。

まぁ、半分本当で半分嘘だ。

 

「どうせだから、一緒にするか?四宮先輩のスパルタも助手役が居た方が捗るだろうし」

「……、相変わらずだな」

「でも、今は止めておくか。もうすぐ来るし」

「誰が?」

「あらら、二人でどうしたんですか?」

 

丁度良く、千花先輩が来た。

こっちに来ていたのは分かったから問題はないが。

 

「もうすぐクラスマッチが近いのでその練習をしていたんですよ」

「へぇー……」

「な、なんですか、ニヤニヤして」

「ミコちゃんにカッコいいとこ見せたいんですね!だったら私が教え……!」

 

千花先輩はニコニコしていた表情から一変して、顔が真っ青になって頭を抱えた。

ヤバい!

千花先輩のトラウマが!

 

「どうしたんですか藤原先輩!」

「千花先輩、大丈夫です!優はあんなポンコツとは違います!千花先輩を酷い目に合わせたりしませんし、僕も手伝います!だから、立ち上がって下さい!

「白兎くん……!」

 

僕は千花先輩の背中をさすりつつ、体を起こした。

こればっかりは、僕にはどうにも出来ない。

教育に対してのトラウマは他のものに比べて、立ち直るのが難しい。

この場合の問題は()()()()()()()()()()()()()ことだ。

これが教育に上手くいかなかったのが理由なら、改めて教育をすることで乗り越えるという形は取れる。

だが、問題は教育の過程で教える側が酷い目にあったことで、これを再度の教育でどうにかしようとすれば、またあのポンコツに晒され、より傷ついてしまう。

これも全て、あの白銀先輩(ポンコツ)の所為だ。

 

「そうですね…!私は過去の自分(よわかったおのれ)を超えます…!」

「よし!特訓するぞ!」

「いや、別に特訓とかいいですよ」

「これは皆の為の特訓だ!拒否権はない!」

「ええー……」

 

優が嫌そうな顔をしている。

四宮先輩もため息をついている。

二人には悪いが、今は優の技術向上よりも千花先輩のトラウマ克服の方が重要だ。

これを放置すれば、後々の生活にも影響を及ぼしてしまう。

具体的には、千花先輩が本当の子育てをする時に今のようなフラッシュバックを抱えながら接しなければならなくなる。

それは子どもにも家庭にも悪影響を及ぼすだろう。

防がなければならない…!

 

「石上くんは何が苦手ですか?」

「まぁ……、ジャンプサーブですかね」

「サーブ……」

「なかなか軌道が安定しなくて、ちょっと苦手なんですよね」

「ちょっと苦手……」

「大丈夫ですよ!あのポンコツ基準とは違いますから!一般的な苦手の範疇ですから!」

「なんだかボロクソに言ってるけど、何があったんだよ?」

「お前は知らなくていい……。あんな悲しいことは、知らなくていいんだ……」

「はぁ……」

 

本当に、アレは知らない方が良い。

特に白銀先輩を慕っている優には、アレは酷いショックになってしまうだろう。

世の中には知らなくていいことが多くある。

怪異を知らなくていいように。

 

「まぁ、取り敢えずやってみろよ。僕はお前がどのくらい出来るかは知っているけど、千花先輩は知らないから」

「…よく分かんないけど」

 

そうして優はボールを上に投げると、サーブを入れた。

 

「ジャンプしなきゃ入るには入るんですよね」

「えっ…?天才?」

「馬鹿にしてます?」

 

馬鹿にしてないんだよ。

ただただ酷い目に合って、ハードルが下がってしまっているんだ。

 

「千花先輩、取り敢えず3日後位からスタートしているって考えた方が良いですよ。アレとは違うんです。アレとは」

「……そうですね」

「取り敢えず、ボールを持ってきましょう」

 

そうして、僕と千花先輩は一緒にボールを取りにいく。

ひとまず、このカルチャーショックから抜け出させなければ、トラウマは払拭できない。

なにやら、白銀先輩が優と接触したようだけど、今は放っておいておこう。

 

「千花先輩。あれが正常な人です。普通の苦手です」

「そう…、ですよね。あれが普通なんですよね。……いつの間にか会長が基準になっていたみたいです」

「少しずつ、治していきましょう。いくらでも付き合いますから」

「ありがとう」

 

そんな風に和んでいたけれど。

あろうことかそのポンコツは、優にバレーボールを教えようとしていた。

しかも、

 

「こういうのはコツ掴めばあっと言う間なワケ!」

「実際そんな難しい事でもないんだって!」

「俺、こう見えてバレー結構上手いんだぞ?」

ほんのちょっと練習しただけでなんとかなったし!」

俺の考案した特訓メニューがあれば、何の問題もー」

 

思わず、ハリセンで頭をぶっ叩いた。

 

「あっつっ!鳴山庶務に藤原書記!?居たのか…、っていうかいきなりなんだ!?」

「理由はあなたが一番分かっているでしょう?いえね、白銀先輩の努力する姿は素晴らしいと思いますし、尊敬の念も感じてはいるんですけど、そういうことを言うのなら、色々と台無しにしますよ?」

「いや、え?なんでお前が…」

「僕にとってはあなたより千花先輩の方が大切ですし、その努力を軽く見るような発言は許しませんよ?」

「……………すいません」

 

白銀先輩が謝った。

まったく、世話になっておきながらそういうことを言うんだから。

 

「……お前って、怒ると怖いんだな」

「そんなことないだろ。僕が怒っても、真面目に聞く奴なんてほとんどいないし」

 

まともに聞いてくれるなら、小中学校であんなことになっていないし。

いや、もうね。

それに関してはちょっと諦め気味だし。

 

「まぁ、もうちょっと言いたいことがあるのでこっちに来て貰いましょうかね。ね、白銀先輩」

「……はい」

 

***

 

その後、白銀先輩と特に何も言わなかったけどついてきた千花先輩と優の所を離れて、白銀先輩にちょっとした雑談をした。

そうそうちょっとした雑談。

本当だよ?

まぁ、そんなこんなの雑談を1時間位して、白銀先輩と千花先輩は帰った。

白銀先輩はなんか怖がっているようだったけど、まぁ、そんな怖い話はしてないし気の所為だろう。

僕は体育館の扉前に来た。

来たが、どうやら先客が居たようだが、僕はそれを無視して扉の窓から中を眺める。

優は激しく動き、必死に四宮先輩の動きについていこうとしていた。

 

「何しに来たの?」

 

先客の大仏が訊いてくる。

 

「様子を見に来ただけだ。まぁ、四宮先輩がついているから何も心配はしていないけど。お前こそ……、っていうまでもないか」

「……何でも知っているって言うの?」

「まさか。お前が優に()()()()()()()()()()()()()()僕の領分じゃないからな」

 

何でも知るなんてのは、僕の役割じゃないし。

それはどっかの行方不明のお姉さんの役割だ。

 

「……何か勘違いしてない?」

「さぁね。答え合わせする気もないけど」

 

ぶっちゃけ、そこまで踏み込む気にならないし。

過去のことはまぁ、知っているけど。

それでも、僕はこいつに共感出来ないしな。

 

「本当にミコちゃんや石上に見せて態度と違うよね」

「誰にでも同じ態度とってるやつの方が気持ち悪いだろ。お前だって、伊井野に見せている態度と優に見せている態度に明確に差があるしな」

「………」

「………」

 

お互いに黙る。

図星だから、ではない。

明確に敵対の意思を感じているからだ。

優も伊井野も素直だから、言葉に出して喧嘩するし、仲直りも出来る。

僕や大仏はそうじゃない。

早々に言葉に出さないし、表向きは友達の友達みたいな距離感だ。

人はそれを『大人』と評するのかもしれないけれど、僕から見れば、そうであることの意味はあまりない。

現状は維持できても、それ以上は得られない。

本当に欲しい物は手に入らない。

本当に欲しいものを手にするのは、維持するものよりも変えようとするものだ。

 

「ここらで明言しておくか?お互い、どう思っているか」

「何の意味があるのそれ?」

「僕はお前が嫌いだ」

「そして言うし。そういう所が嫌いだよ」

 

目を反らした。

特に話を続けるつもりはないようだ。

……僕もそういう所が嫌いだ。

 

***

 

その日の夜。

僕は撫子の所に向かっていた。

横には川が流れている。

丁度、締切が近いらしいから夕飯を作ろうという考えだ。

漫画家というのも、中々難儀な仕事だ。

 

「これ、作品がヒットしたら専門家業が出来なくならないか?」

 

まだ先になるだろうと予測はしておくが、まぁ、その辺は運というか時勢によるけど、いつかは必ずヒットするだろう。

……まぁ、他の専門家達が帰れるようになれば問題はないだろうけど。

ここらで一回、東京の外に出てみるというのも選択肢に加えるべきか?

しかし、帰れなかった場合に撫子にかかる重圧が大きいしな。

 

「リスクの度合いをもっとかんが……!」

 

突如、胸をナイフで刺すような痛みが襲ってきた。

いや、実際に刺されたことなどないのだけれど、胸に何かが刺さった時はこんな感覚だ。

この状態では少し難しいが、落ち着いて自分の音を聴く。

 

ドクンドクン、ドクンドクン、ドクンドクン

 

血が漏れ出ている音はしない。

だが、心臓の挙動は明らかに刺さった時の挙動をしている。

 

「面倒な呪いを掛けやがって」

 

僕は怪異化の深度をあげて、痛みに対しての耐性を高めた。

 

「うぅ……」

 

正直、怪異化の深度を上げるのは危険だ。

今は怪異の要素を持つ人間位の立ち位置で落ち着いてはいるが、怪異化していき怪異としての側面が強くなり過ぎれば僕は人を呪わなければならなくなる。

それが出来なければ、バランサー案件になる。

僕はもう人を呪いたくはない。

だから、怪異になるのを避けなければならない。

 

「まぁ、ここまでなら大丈夫だけど」

 

一時的に呪いを治した後、徐々に怪異化を解いていった。

とはいえ、一時的。

恐らくは、日の出辺りでまた再発する。

継続的な呪いだ。

 

「てことは、今晩中になんとかしなくちゃなのか」

 

はぁ、撫子は忙しいだろうし、自分でなんとかしなくちゃだな。

 

***

 

さて、まず僕を呪うような人物は誰だろうと考えようかと思ったが止めた。

考えるだけで、数え切れない。

小中学校の人はいざ知らず、秀知院の方でも色々としてるから割と恨まれている節はある。

まぁ、その辺の妨害は口と情報で黙らせてきている。

その辺は秀才達の中でも所詮は高校生というか、虎の威を借る狐でしかない。

たまに命を掛かる仕事をしているこっちとしては、なんてことはない。

まぁ、今現在、命に関わる呪いをかけられている身としてはそんなことも言ってられないんだけど。

それはおいておいて。

取り敢えず、僕の恨み関係から探るのは却下。

しかし、そうなると怪異の気配から探るしかない。

ただでさえ時間がないというのに。

 

「しゃあないな」

 

そうして僕は歩いて気配を探る。

ま、そうそう見つかるとも思わないけれど。

しかし、僕個人を狙った呪いは、……まぁ、そこそこにあるけれど。

基本的に単発の呪いで、解除したら人物は特定してちょっとだけお灸据えて放置している。

そいつらの生活に影響はでない範囲に留めてはいるし、手出ししなければ何もしないと言っているから、その後手出ししてくることは基本的にない。

だから、また新しい人物なんだろうな。

 

「って、これは……」

 

丁度、僕が呪いを受けた時と同じ匂いを感じた。

ここから、北西か。

はてさて、どんなやつなのやら。

 

***

 

それで匂いが最も強い所に来た訳だが。

 

「いい加減、不法侵入しなきゃいけない事態は止めて欲しいんだけど」

 

専門家になってから不法侵入した回数がそろそろ3桁になるんじゃないかと不安なんだけど。

嫌だよ、そんな犯罪歴。

………まぁ、最初の怪異譚でとっくに駄目なんだけどさ。

 

「さて、家には既に親とかも……、ああ、はいはい。そう言えば、そういう家だったな」

 

片親な上に揉めに揉めまくった家だ。

まぁ、一々どうこう言うつもりもないけれど。

じゃあ、まぁ、単純に。

 

ピンポーン

 

チャイムを鳴らす。

家の中から軽く音がしたが、ある時から音がしなくなった。

………。

もう一度チャイムを鳴らす。

 

ピンポーン

 

………。

返事がない。

なんだ?ただの屍かなにかか?

さらにもう一度チャイムを鳴らす。

 

ピンポーン

 

………。

全く。

 

「おい大仏!いい加減開けろや!」

 

僕は思い切り大声を出す。

ご近所迷惑になるくらいの声量で。

流石に黙っていられなかったのか、中から走って降りる音がすると、中から大仏が出てきた。

 

「ねぇ、常識って知ってる?」

「常識なんて守ってたら、自分の身も守れないんだよ」

 

***

 

という訳で、合法的、とは言い切れないけど、まぁ、不法侵入にはならない範囲で家に入った。

大仏は寝間着ではあったが、正直なんとも思わない。

妹と中学まで一緒に暮らし、たまに撫子の家で寝ることもある僕が今更同級生の寝間着程度で何か思うと思う方が間違いだと思う。

そこで例外になりうるのは、あの2人位だ。

 

「それで何の用?どうして私の家を知ってるの?」

「探してたらたまたまこの家で見つけただけだよ。なぁ、呪いをかけた大仏さん?」

 

はい。今回の犯人は彼女です。

正直、意外でもなんでもない人物でちょっと安心した。

これで意外な人物だと、色々と対応の範囲を広げなくちゃいけなくなって困ってしまう所だ。

 

「何の話?下らない話なら、帰って欲しいんだけど」

「お前が何を言ってるんだ?僕相手にそういう誤魔化しが通じるとでも?」

「そもそも呪いなんて非科学的な……」

「ウチの学校にはオカ研あるし、その非科学的なものに頼ったヤツの言い草とは思えないな」

 

こういう手合いはまぁまぁ居る。

自分の犯行を認めない人物。

まぁ、僕は確信を持ってでしか追い詰めないけど。

 

「本当に何の話をしてるの?私が何かしているみたいに…」

「いい加減にしろ。自覚なくしている訳じゃないこと位分かってるだよ」

「………」

 

低い声で言う。

自覚のあるなし位簡単に見分けがつく。

まぁ、他人を呪う系で自覚がない人物の方が少ないけれど。

まぁ、僕はそういう余計なやり取りは好きじゃない。

グダグダな迂回ルートで時間を潰されたくないのだ。

特に、命がかかっている場面では。

 

「……あなた、本当に何者?」

「僕は専門家だよ。お前がかけたもののな。残念だったな」

「…………はぁーーーー。上手くいかないものだね」

 

大仏は体をぐうーーと伸ばすと椅子に思い切りもたれかかった。

 

「で、動機はアレか?僕のことが嫌いだからか?」

「そうだね。あなたが嫌い嫌いで仕方がないよ。私のもの奪い去っていくあなたが憎い」

 

憎いときたか。

意外と言われない言葉だ。

ウザいとかそういう言葉はよく聞くんだけど。

しかし、

 

「心当たりがないんだが?」

「ふざけないで。あなたが私からミコちゃんや石上を奪ったんじゃない」

 

僕はこの段階で話を真面目に聞く気が失せた。

下らない妄言を言われることを察したからだ。

 

「高等部からいきなり現れて」

「簡単にミコちゃんや石上と仲良くなって」

「当たり前みたいに二人を近づけて」

「裏で二人の評価を上げるために動いて」

「そして、当たり前みたいに二人の隣に居る」

「あそこは私の場所だったのに」

「あなたは私の居場所を奪った」

「それを心当たりがない?」

「ふざけないで!」

 

はぁ、やっぱり下らない妄言だ。

 

「で?言いたいことはそれだけか?」

「なっ!」

「僕がお前の場所を奪った?勝手にお前がそう感じているだけだろ。僕はただあいつらと友好関係を築いただけ。友達にランクをつけるか否かは人それぞれで違うけど、他の友人のランクが上がった所で自分の友人としてのランクが変動する訳じゃないんだよ」

「そんなこと…!」

「ていうか、僻みというか偏見だよな。あいつらを分かってやれるのは私だけみたいな勘違いでもしてるの?そういう風に自分に依存させて何が楽しいの?」

「依存させているのはあなたの…!」

「僕はアドバイスを送ってるだけだし、他のことだって、僕が気になったからやっただけ。既にあいつらは僕が居なくたってやっていける位には成長している。むしろ、お前は何をしていたんだ?二人が追い詰められていることも、現状が駄目だってこともお前が一番先に知っている筈なのに、何も行動しなかったんだろう?」

「それは私には……!」

「私にはそんな力はない?いや、力の有無なんて関係ないね。それで言ったら、僕は一般家庭の混院。立場で言ったら最弱クラスだよ。でも、僕は動いた。頭使って、打てる手を考えて行動した。僕を前にそんな言い訳は通用しない。ていうか、その考え自体、あいつらのあり方の否定だよね」

「………」

「結局の所、お前は何もせずに勝手に怒りを感じているだけだ。何も行動していない癖に大人ぶって、私はちゃんと見ているんだって、分かった振りをしているだけだ。見守るっていうのは相手のことを考えて、助けが必要な場面でちゃんと手助けしていることを指すんだよ。見ているだけなら何もしていないのと同じ。いじめでも言うだろ?見ているだけなら、いじめているのと同じだって。それと同じだよ。文句があるなら言ってみろ」

 

言い過ぎと言われるかもしれない。

大半の人は、そんな勇気なんてでないと言うかもしれない。

実際、その通りだ。

そうやって、庇って、それで自分が傷つくのは大半の人は嫌がるだろう。

そうして、見て見ぬ振りをするのが、今を崩さない最善の方法で賢い方法でもあるんだろう。

人は力あるものに惹かれるけれど、それはその範囲内に入れば傷つかないのも理由だ。

主流に従えば、孤立することもない。

それが正しいか正しくないかに関わらず。

でも、そうして安寧を得ることが実社会でうまくやっていく為の方法であり、それも間違っておらず、非難されたものではないと言えるだろう。

だが、知ったことではない。

そんなのは、そういう風にして諦められた人間には関係ない。

そのまま、同調してやられた人間にはたまったものじゃない。

僕はそれを知っている。

そういう理由なら許そうなんて、よっぽどのいい人でなければ起こり得ない。

いじめを受けた人物が人に優しい、なんてことはない。

人は人に受けた分だけ溜め込み、蓄積する。

それは危険な要素となる。

それが爆裂したのが、あるいは僕であり、千石撫子であり、灰被未見でもある。

まぁ、全ての人にこれをしなければいけないとは、流石に僕も言わない。

でも、分かったような口を利きながら、何もしないのは我慢ならない。

私には無理なんだなんて大人ぶった諦めなんて、どこまでも自分本位で相手のことなんてまるで思ってない。

同じ自分本位なら、僕は助ける。

そして、自分達も色々と酷い目にあっているのに、それでも人の為に何かを出来る優や伊井野がどうしようもない位、強くてかっこいいのだ。

 

「………」

 

大仏は黙ったままになった。

今のうちに、大仏に掛けられた呪いの大本を潰した。

そして、帰る間際。

 

「今からでも遅くないから、ちゃんと自分から動け。受動的なのがお前の悪い所だ」

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

結局、大仏が使った怪異は『戻り人魚』という怪異だ。

原題は人魚姫。

王子様に惚れた人魚が喋れないことと人魚に戻れないことを引き換えに人となって会いに行くも、他の女性に既に取られており、王子様をナイフで刺せば元に戻れるが、結局は刺せずに海に入って泡になって消えた話だ。

この場合の王子様はあの二人。

僕は他の女性ということなのだろうけど。

この怪異。

実は完全にバッドエンド専門だ。

なぜかと言えば、僕を刺した所で喋れるようになる訳ではないからだ。

だって、僕は王子様ではないのだから。

僕を殺した所で結局は話せるようになる訳でもなく、ただ人殺しとして何も言えないまま裁かれる。

正しく因果応報、自業自得、人を呪わば穴二つ。

つまりは、そういう怪異だ。

はてさて、僕を殺せてたとして、あいつには一体何が残ったんだろうかね。

という訳で、球技大会。

 

ゴスッ

 

パン!

 

優は見事な動きでトスもブロックもアタックも行っている。

流石は四宮式指導法。

スパルタではあっても、確実に能力が向上するようなプランを組んでいるだなと感心する。

 

「僕も負けてられないな」

 

僕も一般的に違和感のない範囲で本気を出す。

結果として、

 

ピーピー

 

「優勝!1年B組!」

 

「「「「うわーーーー」」」」

 

周りの盛り上がる声が聞こえる。

汗も流れて少々気持ち悪いが、気分はとても爽やかだ。

優と目が合う。

 

タン

 

何も言わずに手を叩き合う。

 

「流石だな、優」

「お前も色々とフォローしてくれてありがとう」

 

そうして、クラスの授賞式を終えて優は伊井野の所に向かう。

 

「はい、スポドリ」

「ありがとうミコ」

「おめでとう優!優勝だよ優勝!」

 

伊井野は今にもジャンプしそうな位の笑顔で優のことを褒める。

優も言葉が出ない位照れているみたいだ。

そこに少しためらうように大仏が来た。

 

「えっと、石上。おめでとう」

「ありがとう大仏」

 

そう言って、優は微笑んだ。

……本当に何を勘違いしているんだろうね。

そもそもで、あいつらが友人に優劣なつける訳もないのに。

 

「僕はもうちょっとここにいるから()()()先に戻ってて」

「おう」

「早めに戻ってきなさいよ」

 

優と伊井野はいつも通りと言った感じで戻っていく。

大仏は驚きの表情を見せているが、僕はハエをはらうかのような動作をした。

意図が通じたのかどうかは知らないが、大仏は優と伊井野の所に向かった。

 

「「お疲れさ、ま……」」

 

ほぼ同じタイミングで現れた美青と千花先輩。

最早、ここまでくるとコントだな。

ていうか、美青もクラスマッチのこと知ってたっけ?

いや、まぁ、色々と筋は考えられるけど。

 

「別にそんなに疲れてませんよ」

「クラスマッチのこともそうですけど、なんかまた厄介事をしていたみたいなので」

「大仏ちゃんでしたっけ?彼女の面倒も見てたんですね」

 

と、二人は僕の両隣に陣取る。

心なしか距離が近いと感じるのは多分気のせいではない。

それにしても、面倒ね……。

別に今回は降りかかる火の粉は払って、祓っただけなんだけど。

 

「別に何もしてませんよ。僕は普段どおりに過ごしているだけです」

「そのいつも通りが心配なんですけどね」

「人の世話ばかりしてないで自分の世話もしてくださいよ」

 

自分の世話か…。

はてさて、こんな愚か者にそんなことする資格なんてあるのかね?

まぁ、でも。

 

「僕は平気ですよ。慣れっこですから」

 

そんな風に僕は嘯く。

 




ごめんなさい。
今後の展開上必要なイベントなんですけど、凄いヘイト混じりな感じになりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。