鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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修学旅行編に入るぞと思う今日この頃。


あいトラベル

どうも早坂愛です。

3学期も始まり、かぐや様の惚気話も酷くなっていく一方です。

いつの日だったか、鳴山くんが言っていた、付き合ってからの方が面倒になるというのは正しかったようです。

毎日、毎日、会長とあーだのこーだの、キスの話を中心に永遠と聞かされる。

あんなにもきつい筈の仕事の方がマシだと思ってきた辺りから、末期だと感じました。

疲れている身には、とても堪えるような甘ったるい発言の数々。

こっちはそういうことなんて一切出来ないのに。

本当に、世話の焼ける主人です。

ですけれど、こうして世話を焼ける時間も後少し。

その間に出来ることをしてあげたいです。

 

***

 

深夜の11時。

私はこの時間に電話していた。

四宮家の本家、にではなく、

 

「いや、流石に問題点あり過ぎじゃないですか?」

「なんですって…?」

 

鳴山くんにである。

定期的に行っている愚痴を聞いてもらう会。

今回で通算30回目位になるでしょうか。

学校を含めたら、60回位いきそうですね。

随分と聞いて貰ったものです。

以前のこともありますし、彼には随分と貸しを作ってしまっている。

だから、彼の頼みにも答えてあげたいのですが中々と成果が上がらずにいます。

そのことを不甲斐なく思っているのですが、それはそれとして。

 

「私の完璧なプランのどこに問題があるんですか?」

「色々ありますが、一番はスケジュールですね。予定を詰めすぎです。学校の遠足を思い出してくださいよ。あまりにも、予定を時間で区切っていてつまらなく感じることがあるでしょう。デートには時間にゆとりをもって過ごすのが一番ですよ。後、雰囲気がどうの言いますけど、結局そういう雰囲気は周りではなく自分で作るものですよ」

「知ったような口を……」

「知ってますから。あの時もやることは脱出ゲームだけでしたけど、思ってた以上に時間が経ちましたし」

 

そうやって、どこか懐かしむような悲しむような口調でそう言った。

……彼の昔のことは彼への調査の段階で知った。

とは言っても、彼の本職を知った限り、それで全てという訳でもないのでしょうけど。

それでも、彼の過去は波乱を含んでいます。

人を嫌いになっても仕方がない位の目には合っている。

なのに、彼は笑って、誰かを助けながら過ごしている。

私はそこに歪さとどこか共感を覚えている。

 

「まぁ、そんなことはどうだっていいんですけど。そんなに文句があるなら、僕が付き合ってあげますよ。朝から夜まで、いくらでも」

「はぁ…、そういうことを言うから女たらしとか言われるんですよ」

「いやいや、僕のことをちゃんと知っていた上でたらしこまれるような人なんてそうそう居ないですから。それとも早坂先輩はこんなことでたらしこまれるんですか?」

「そんな訳ないでしょう」

 

そして、そういうことをからかうような口調で言う。

どこまでが本心でどこまでがからかいなのか。

仮にここで私が乗っかったとしても、すぐに彼は日取りを決めて、実際に付き合ってくれる。

本当に世話を焼くのが好きな人。

ある意味、奉仕の精神に溢れすぎている人だ。

彼の友人としては、そういう所が好ましくもあり、……そして、どこか不安にもなる。

その後も、彼とは改善するならどこなどのアドバイスを元にプランの練り直しなどをした。

 

「そろそろ寝ますか」

「……いつもありがとうございます。こんな与太話に付き合ってもらって」

「好きでやってることですよ?こんなのはどこまで行っても、何をやっても、自己満足であって然るべきなんですよ。そうじゃないと、釣り合いが取れない」

「……見返りも求めずにですか?」

「見返りは楽しそうに笑っている姿ですよ。楽しそうに、なんのしがらみもなく、自分を出して、笑っている姿。そういうのを見ていたいだけですから」

「…………」

「それじゃあ切りますけど、その前に1つ。………修学旅行で職を離れる前に言っておくべきですよ」

 

そうして、彼は電話を切った。

どこでどうやって仕入れたのか。

探るのが最早聴覚云々で片付くレベルでもないような気がしますが。

それにしても、本当にお節介焼きですね。

本当に。

 

***

 

そして、今日は修学旅行の当日。

 

「いよいよ今日は修学旅行ねっ!」

「こんなに楽しみな修学旅行は初めてだわっ!早坂も準備は出来てる?」

 

ウキウキな様子のかぐや様。

ほんの数年前なら、全く見せなかったであろう表情。

見ていて嬉しいけれど、そんなことばかりも言っていられない。

きちんと、言わなくてはならない。

 

「かぐや様。大事な、とても大事なお話があります」

 

これからの私達の為にも。

あの時に、言えなかったことをちゃんと。

 

「今回の修学旅行を以て、私は、この仕事を辞めます」

「え………っ」

「それと……、今までずっと言えなかったのですが……っ」

 

言葉に詰まる。

怖い。

この子に嫌われるのだけが、怖い。

でも、ここを乗り越えるって決めた。

背中を押された。

だから、

 

「私はーー」

 

***

 

修学旅行の新幹線の中。

私とかぐや様は話していた。

 

「うちを辞めた後はどうするの?」

「ひとまずでやることはありますが……。その後は自由に過ごそうかなと」

 

本当にそこまでの自由があるかは分からないけど。

正直、しばらくは狙われの身になるだろうし。

 

「やること、ね。あなたって存外、()のことを気に入ってるわよね」

「……どういう意味ですか?」

「さて、どういう意味かしらね」

 

謎めかして、かぐや様は言う。

彼のことをどう思っているのか。

 

「彼には色々と助けてもらいましたし、まぁ、若干アレな面もありますが、いい人だとは思っていますよ」

「そう……」

 

若干、不満そうな声でかぐや様は言う。

そういうことを訊いてるんじゃないということなのだと思う。

けど、彼をどう思っているかなんて、私にも分からない。

悪い印象は持っていない。

命の恩人であることは確かだし、色々と気にかけて動いてくれている。

それに対して、凄く感謝しているし、ありがたくも思っている。

けど、そこから先は考えていない。

それ以上先は、大事なものが変わってしまいそうだから。

 

「へいへい!愛ちゃんと四宮さん、トランプやらない~~?」

「ポッキーあるけどいる~~?」

 

クラスメイトで比較的話す火ノ口さんと駿河さんが誘ってきた。

 

「やるやる~~!」

 

この子達にはいつも通りのギャルモードだ。

いくら四宮家の近侍を辞めるとはいえ、それでも、元々そういう立ち位置だというのを悟られるのはよろしくない。

ただでさえ、これから火種が多くなるのだからこれ以上増えるのは危険だろう。

 

「四宮さんと愛ちゃんが話してるなんて珍しいよね!」

「そう~~?私と四宮さんはそれなりに話すよ?」

「そうですよ」

 

***

 

1日目は、そこまで大した問題はなく終了した。

かぐや様も居る中で拐いにくるつもりはなかったということなのでしょう。

事を荒立てるつもりはあちらとしてもないでしょうし。

ですが、強硬手段にでないと限りません。

だから、すぐにでも国外に出て隠れる必要があるんですが。

その為には、味方が必要だ。

だから、

 

「相変わらず嘘ばかりだなお前は。また、そうやって俺を騙そうっていうのか?スミシー・A・ハーサカ」

 

かぐや様の彼氏の力を借りることにした。

 

***

 

「ハーサカ…。俺にはどれが本当でどれが嘘なんだかさっぱり分からん。フィリス女学院の生徒というのは……」

「嘘だよ。あれは通販で買った制服。私は幼等部から秀知院」

「バイトでメイドやってるって話は?」

「それも嘘。小さい頃から住み込みで袖付きをしている生粋の使用人」

 

改めて、自分がどれだけの嘘を積み上げてきたのかが分かる。

嘘、嘘、嘘、嘘、嘘ばかり。

その話していた中で本当のことと言えば。

 

四宮かぐやの情報を本家に流してるって所」

「一番、嘘であって欲しかった所じゃねぇか」

 

白銀くんは呆れた様子で言う。

確かに、自分でも呆れるような嘘つきぶりだ。

本当に。

 

「……幻滅した?」

「当たり前だろ。正直キレてる」

 

……当たり前だ。

私がしてきたことはそういうことだ。

怒るのが当たり前で、失望するのが当たり前。

何もおかしなことはない。

この様子だと、協力も見込めないかもしれない。

 

「で……、どうするんだ?」

「どうって」

「気づいて欲しかったんだろ。ヘルプサインじゃないのか?助けが必要なら素直にそう言え」

 

……流石は、かぐや様が惹かれた人ですね。

優しくて、お人好しだ。

幻滅してなお、手伝ってくれるというのだから。

彼とも違う、お人好し。

 

「ありがとう」

「礼は、事態が終わってからにしろ」

 

***

 

次の日。

私と白銀くんは班から抜け出して。

追跡を警戒しながら、歩いていた。

 

「私の目的は2つ。1つ目は『かぐや様と君の関係がバレないようにすること』。2つ目は『四宮家から逃げ切ること』。1つ目の理由は、再三に言ってるようにかぐや様の日常生活を上に報告する義務あって、そこからあなたたちの関係を隠し続けるのは難しい。それがバレる前に四宮家から離れたい。2つ目の理由は、幼少期から四宮家に尽くしてきた私は多くの人達から四宮家の機密を握っていると思われてる。四宮家の庇護から抜ければそういう人から狙われる。だから、今すぐにでも海外に飛んで身を隠したい」

「……成程な。しかし、それならボディーガードでも付けたらどうだ?」

「四宮家のは駄目。一番信用出来ない人たちだから」

「俺には荷が重いぞ。他に適任はいなかったのか?」

「……ッ」

 

私はその言葉に言葉が詰まる。

居る。

きっと、単純な利益とか関係なく、助けてくれる人。

純粋に力があって、多分、この役目をちゃんとこなしてくれる人。

でも。

彼にはもう頼れない。

これ以上、彼に迷惑はかけれない。

 

「他に頼っていい人なんていないよ」

「得もないのに私に手を貸してくれるなんて酔狂な人、そうはいないし」

「その点、君は部分的とはいえ関係者だし、かぐや様を守るという意味では君にもメリットが……」

「そうやって、すぐ損得に結びつけるのは癖か?」

 

流れを切るように、少し怒ったような声で白銀くんは言う。

 

「相手に何か提供しなければ何も要求出来ない?」

「自分から人を遊びに誘うのが怖いタイプ?」

「まずはその臆病さをどうにかしなきゃなんじゃないか?」

 

そして、白銀くんは私の手を握って走り出す。

私は白銀くんの言葉にドキリとしていた。

その言葉が図星だった、だけじゃない。

何故か私はその言葉で鳴山くんを連想した。

別に彼は臆病ではないというのに。

 

「何故人類が群れ……、徒党を組むのか?」

「それはマンモスを一人で狩ることは出来ないからだ」

 

走りながら、白銀くんは話す。

 

「一人で対処出来ない問題に遭遇した時、互いに協力を仰げる関係……。それが友人関係だと俺は思う」

「なんか実利的すぎる考えだね」

「浅い受け取り方だ。この話の肝は『互いに助けを求められる関係』という部分だ。つまり、お前が誰かに協力するだけじゃ成立しない。『お前からも助けを求める』ってことが出来なきゃ、友達ではないということだ」

 

互いに協力を求められる関係、か。

その話に、私はやっぱり自分のことと共に鳴山くんのことを思い浮かべる。

彼の今と過去を思い浮かべる。

彼は協力を求めない訳じゃないけれど。

けど、彼自らの協力はあったのだろうか?

 

「たまに見かけるだろう。嫌われる事を怖がって、何も要求出来ずに一方的に与える奴」

「人の輪の中に居るのに、一人で居る時より孤独な奴」

「ああいうのを友人関係と呼んではならない」

「あれはただの奉仕と搾取だ。バランスが取れていない」

 

奉仕と搾取……。

だとするなら、彼には本当の意味で友人なんていないのかもしれない。

だって、彼は与えてばかりだ。

与えてばかりで、自分から求めるということをしない。

彼が協力を求めるときも損得による交渉をしている。

私に対しての依頼がそうであるように。

自己満足なんて言葉で、納得したように振る舞う。

……彼の過去がそうさせるのかもしれない。

 

「……でも、そうしなきゃ人と過ごせないなら?そうやって、与えていなきゃ人と関われない人間はどうすればいいの?」

 

人に与えていなければ、人から拒絶され、否定され、ただ苦しめられる人間はどうしろというのか。

 

「それはお前の話か?」

「違う。だけど、私はそういう人を一人知ってる」

 

そういう生き方をしている人を知っている。

器用なように見せて、本当は不器用な人を。

 

「それは単純にそいつの世界が狭いだけだろう。頼れる先なんていくらでもあるのに、それに気が付かないそいつの未熟さだ」

 

厳しい言葉だ。

それに、それは出来る側の人間の発言だ。

頼りたくても頼れない、信用なんて出来る人間なんていない。

そんな中で過ごしてきた人にその言葉はあまりに残酷だ。

助けを求めても、助けてくれなかった経験のある人には尚の事。

 

「だから、お前の世界もまだ狭い。案外、どんなお前でも受け入れてくれる奴は多いんじゃないか?お前が心を開けば、解決することも多いんじゃないか?もっと、自分と周りを信じてみたらどうだ?」

 

その言葉は、彼にも言われてた言葉だ。

あの時は個人の価値観だと言って、深くは話さなかったけれど。

彼もずっと、そんな風に思っていたということなのか。

……矛盾している。

だって、それなら彼は一番最初にそれをしていなければならない。

人に頼らなければならない。

受け入れてもらわなくてはならない。

心を開かなければならない。

でも、彼はそうしない。

平気な顔をして、今の道を歩んでいる。

平気なはずないのに。

その様子はまるで罪悪感にまみれて、自分を罰しているかのようで。

それがどこか私と重なるようで。

そういう所が、そういう所が私は、

 

「たまらなく嫌いなんですよ」

「ん?何か言ったか?」

「なんでもないですよ」

 

白銀くんに言っても仕方がないことだ。

彼の話なのだから。

 

***

 

まだ話は続くけれど、ここで一区切り。

一旦、女子トイレに入ろうとした所で、待ち伏せを食らった。

 

「お静かに…、出来る限り穏便に事を運ぶよう申し付けられています。大人しくついてきて頂ければ……」

「すいません!ちょっと先譲ってもらっていいですか!ジュース飲みすぎて膀胱が…!」

 

妙にタイミングが良いけど、ナイス!

譲るように見せかけて、全力で走る。

見た感じ、四宮家の人間だ。

恐らくは、長男陣営に敵対している次男、あるいは三男陣営。

……やはり、この人達から逃げ切るのは厳しいものがある…!

でも、捕まるわけにはいかない。

 

「おい、早坂!」

「とにかく、今は走らないと」

 

そうして、白銀くんと合流した時、一陣の風が吹く。

危うく、帽子が飛ばされそうになるのを抑えた。

その時にバッグが触られたような感触があった。

 

「なんだ?今の風」

「………」

 

もしかして。

来ているのだろうか。

私の解任に関しては気づいていた。

なら、その先も気づいていたとしておかしくない。

無言実行する彼なら、やりかねない。

 

「……行きましょう。立ち止まっていられません」

「あ、ああ。そうだな」

 

巻き込みたくない。

これ以上、彼に迷惑をかけたくない。

だって、これ以上に彼に借りを作ってしまったら、対等な関係でいられない。

それは嫌だ。

彼とは対等で居たいから。

 




明日も投稿するよ。

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