鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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あれ?早坂ってヒロイン枠だっけ?って思う今日この頃。


あいフレンドシップ

早坂愛は僕にとって友人である。

あの嘘つきで本来的には泣き虫な近侍で先輩なあの人のことを僕は友好的に思っている。

別に僕は誰でも助けるなんてお優しい精神はしていない。

仕事柄、色々とアフターフォローだったりなんだったりでそうしているように見えるかもしれないけれど、そんなことはない。

僕が基本的に助けるのは、僕が気に入った人達だ。

例を挙げるなら、優や伊井野や美青とかがそういう人達だ。

他の人は結構適当というか、そんなに面倒を見る気はない。

基本的にそこで起きた問題の根本解決を図るぐらいしかしていない。

これも仕事の一環で、次にまた同じようなことが起きないように予防しているに過ぎないし。

大仏への対応とかそうだ。

まぁ、別にそれはいいとして。

前に言った通り、僕がそうやって手助けをするのは仕事の時もあるし、単純に気に入らないから動いていることもある。

まぁ、要するに自分の為ということだ。

だから、何かをしてもらう必要なんてない。

……そもそも、そんな資格さえないのかもしれないしね。

 

***

 

「漫画とかでよく軽いノリで女湯覗く展開あるけど、やってること普通に犯罪だよな」

「いきなり何の話だよ」

 

木曜日の夜頃。

僕と優と伊井野は、生徒会室で過ごしていた。

 

「いや今頃、会長たち風呂の時間かなと思って」

「ああ、まぁ、テンプレといえばテンプレだな」

「窃視行為は軽犯罪法1条23号に該当するわ。バレたら一発退学もあり得るわね」

 

流石は伊井野。

法律関係はあらかたもう記憶しているのだろう。

僕なんて、よく聞くようなものしか覚えていない。

 

「あとアレもあるわよね。男湯と女湯が時間で入れ替わって…」

「主人公が取り残されるやつか。最近、増えたよな」

「マジで起きたら、宿の信頼問題に関わるよな」

 

本当にな。

いや、まぁ、事実は小説より奇なりが日常みたいな僕に言われたくないだろうけども。

 

「その辺は物語がどうこうというよりも、サービス回のテンプレとして存在しているからな。取り敢えず、風呂イベントやるならこれしろって言うノルマというかお約束というか…」

「それで結局、主人公だけ美味しい目にあうのはなんでなの?」

「あれも男の微妙な感情が絡み合ってるからな……」

「結局、男の妄想というか願望みたいなものだからな。まぁ、現実的に言うなら、そんなに見たいならそれが出来るような関係を築けるように努力しろってなるからな」

 

正直、裸に無意味に願望を抱きすぎてるような気がするし。

ぶっちゃけ言って、同じ人間なんだから身体的なアレコレなんて見た目上大差ない。

差があるとするなら、きちんと触れなきゃ分からないような柔らかさとか位だし。

 

「……不潔ね」

「それな」

「まぁ、あれもあれで本当に裸に興味があるというより、そういうノリを楽しむのが目的なんだろうな。よく分からんが」

 

本当によく分からない。

何故、高々裸程度でそんなに興奮するのか。

一番もえるのは、裸ではなく、それを恥ずかしがっている顔だろうに。

 

「今、なんか変なことを考えなかった?」

「いや、お前たちの場合はそんな状況を考えるまでもないよなって思った」

「おい。セクハラだぞ」

「うん。いや、それは本当にゴメン」

 

友人だからとそういう風に言うのはアレだな。確かに。

素直に反省しよう。

 

「まぁ、実際は濡れ髪サイコーとかやってそうな感じがするけど」

「なにそれ?」

「ああーー…、なんか分かるわ」

 

優は分かるらしい。

まぁ、これは僕にも分かる。

 

「こう、非日常でありつつも現実感のある感じだよな」

「そうそう。後は、普段は髪をきちんと結んでいる人とかはギャップがいい感じに働くよな」

「男子って、そういうのが好きなの?」

 

伊井野が呆れるような目線でこちらを見る。

ふむ。

これは意外と女子に通じそうな話題な感じがするんだけど。

 

「そうだな。例えば、爽やか系のイケメンが髪を濡らしてオールバックにしているとかが近いかな」

「……なんとなく分かったわ」

 

分かるらしい。

ちょっと、ニヤけてる。

こういう感性は男だと本当によく分からないので、例を出すのも難しいんだけど。

 

「おい、ミコ。今、誰で連想してた?」

「うっ!…………内緒」

「ふ~~ん」

「なにゅすりゅのよ」

 

優が伊井野の頬を掴むと上下左右に回す。

ああ、こいつら、本当に可愛いな。

軽く見当違いな嫉妬をしているのも、ちょっと恥ずかしくて言えないのも可愛いわ。

撫で回したくなる。

いや、もう、本当に好き。

あっ、そろそろ時間か。

 

「僕はそろそろ行くわ。明日は学校に来ないから」

「何かあったのか?」

「親戚関係でちょっとトラブルがね。まぁ、すぐに済むと思うけど」

「そっか。それじゃあ、月曜日ね」

「ああ、デート楽しんでこいよ」

「「なんで知ってるんだよ(のよ)!!」」

 

僕はニヤけながら、生徒会室を出る。

なんで知ってるかって?

聞いてたからに決まっている。

さて、それじゃあ行きますか。

京都に。

 

***

 

さて、何故京都に行くのか。

それは今朝の話になる。

 

「さて、どうしたものか…」

 

早坂先輩の解任問題。

解任自体は、上からの指示であるからそんなに大した問題であるとは言えないだろうが、問題はそれによって早坂先輩が危険に晒されることだ。

四宮かぐやの近侍の解任。

これに反応する勢力が存在する。

まぁ、主に争っている四宮家の跡目達だが。

彼らは、自身が一族内で地位を築くためなら結構ヤバめのこともする。

ていうか、他の人の人生だとかそういうことを考えない。

財閥である以上、黒い面は多少なりともついてくるのは分かるが、それでも倫理を知らない人達だ。

まぁ、そういう風に育てられてきたのは容易に察しはつくけれど。

で、その人達に早坂先輩は狙われているのだ。

まず、僕の所で保護するという選択肢はなかった。

どれだけ特殊な事情を持とうと、僕の家はあくまで一般家庭。

財閥にかなう道理はない。

それでは、他の家ではどうか。

駄目だ。

どの家庭も、財閥から守るには力が足らないし、家によっては早坂先輩を利用しようとするだろう。

一番可能性があるのは四条家だが、四条先輩はともかくとしても、家自体は四宮憎しの感情で発展している。

その中に放り込むのは危険だ。

だから、早坂先輩が一応の枕がつきながらも、安全な場所に逃亡するという手法が方法として安定はする。

正直、物事が解決しているとは言えないけれど。

しかし、それ以上の最善手は僕がどうこう出来るようなものではない。

四宮かぐや次第だ。

だから、そのことに関しての議論は止めておくとして。

問題は、だ。

四宮家の追跡を振り切れるのかどうかだ。

流石に4大財閥の一角。

そんな簡単に逃げ切れるとは思えない。

しかし、僕は現状、この東京からは早々出られない。

僕まで居なくなると流石に手が回らなくなるし、最悪帰ってこれない状態になりかねない。

八方塞がりだ。

 

プルルル

 

「うん?撫子?」

 

電話に出る。

 

「どうした撫子?」

『ちょっとね。耳寄りというか、気になる情報が入ってきて』

「お前の耳寄りね……。どんな内容?」

『貝木泥舟って覚えてる?』

 

貝木泥舟。

臥煙さんの後輩にして、ゴーストバスターの肩書きらしきものをもつ職業詐欺師。

ある時は中学生相手に小銭稼ぎのように金を巻き上げ、ある時は高校生の為に神様を騙す人物。

まぁ、その辺のエピソードの大半は撫子から聞いたエピソードだけれど。

 

「覚えてるけど。何、今東京に居るの?」

『ううん。でも、京都に居るらしいんだ』

「………」

 

ドンピシャかよ。

都合がいいな、おい。

 

「それはアレか?僕に京都まで行って来いということか?」

『そうだね。こっちは原稿を済まして、まぁまぁフリーになったし。それに、私なら兎も角、白兎なら大丈夫でしょ』

「………そうだな。さっさとチケット取って行くよ」

 

そうして電話を切る。

全く。

世の中は優しいのか厳しいのか。

単純な優しい世界は信じないんだけどな。

 

***

 

というわけで、翌日の6時位。

夜も9時台の新幹線に乗り、軽く寝不足気味に僕は京都に来ていた。

 

「いや、マジで眠い」

 

さて、今回の僕の目的は2つ。

1つ、早坂先輩の安全な見送り。

2つ、貝木泥舟の捜索及び交渉。

どちらにしても、まずは人探しだ。

まぁ、学校の団体が泊まっている宿程度なら簡単に調べがつくので、問題は詐欺師の居場所だ。

今現在の進行具合、そして何を対象にしているかで色々と変わってくる。

撫子の時のように不特定多数を対象にしているのなら、見つけ出すのはそんなに難しくない。

何故なら、相手側から交渉を持ちかけられたいからだ。

相手から頼られ、その頼った対価として金をせしめる。

実際に何かしてくれるとは限らないというのに。

まぁ、そういう所も込みで騙すのが詐欺師だ。

 

「とりあえず、ネットでも見ながらぷらつくか」

 

***

 

とか、まぁ、色々と言ったものだが。

どちらの情報も3時間位で手に入れてしまった。

正直、僕が一番驚いている。

詐欺師の居場所がこんなに簡単に分かるなんて、それこそ詐欺臭い。

ていうか、ブラフの可能性も十分にある。

警戒はしておいた方がいいかもしれない。

ひとまずは、早坂先輩の所に向かった。

初日は学校全体での行動の方が多い。

それに、暗黙の了解で離れるにしても、初日で離れる人はいないだろう。

どっかのアホでもなければ。

だから、初日で拐われてることはないと思っていた。

そして、実際にその通りだった。

僕は早坂先輩の居る所の木から様子を伺っていた。

 

「なるほどねぇ……。白銀先輩に助けを求めたか」

 

まぁ、人間関係的にも妥当なラインではあるとは思うが……。

イマイチ、頼りないよな。

荒事慣れしている人物じゃないし。

龍珠先輩辺りなら慣れてそうだけど……、まぁ、あの人もただ人が良いってだけでもないしな。

 

「で、見張りも追跡要因もいると」

 

さて、どうしたもんか。

単純にそいつらをぶっ倒しても、湧いて出るだけだしな。

騒ぎを起こすのも……。

 

プルルル、プルルル

 

スマホが鳴る。

スマホを見ると、メールが送られていた。

そのメールを開く。

 

「………ふむ。じゃあ、僕は時間稼ぎに勤しみますか」

 

メールの返信をする。

行動方針は決まった。

そうして確認作業をしていると、早坂先輩がトイレの中から走って出てきた。

バックに発信器付けられている。

それじゃあ、それを使って時間稼ぎと交渉するとしますか。

そうして、僕は早坂先輩が走って通り抜けるタイミングを見て、全力のダッシュ発信器を外しつつ、横を通り抜ける。

すぐに音を確認する。

 

「ちゃんと、付いて来いよ」

 

***

 

そうして、僕は適度に付いてきていることを確認しつつ、とあるカラオケ店を目指した。

お店の人には待ち合わせですと言って、とある部屋を訪れる。

 

「どうも、こんにちわ貝木泥舟さん」

 

そこに居た男は全身黒ずくめ、第一印象はそりゃ不吉そうな男になるよって感じの風体だった。

脇のコートは茶色だから、そっちを着ていれば多少は印象が変わる気がする。

 

「なんだ、お前は。いきなりカラオケの部屋に入ってきて」

「いえいえ、僕はあなたの電話番号を知らないのでこうして直接会わないと交渉が出来ないものですから」

「話をする気がないのかお前は?」

 

駄目か。

会話のショートカットしたかったんだけど。

 

「そうですか。どこから話して欲しいですか?」

「お前みたいな得体のしれない男とは話したくないがな」

「得体のしれないって、詐欺師に言われたくないですよ」

「……誰だお前は」

「鳴山白兎。あなたと同じゴーストバスターですよ」

 

多少の皮肉も込めて言う。

まぁ、そんなことを言われても特に何も思わないだろうけど。

多少の沈黙の後、

 

「臥煙伊豆湖の使いか?」

「いいえ。むしろ、交渉したいのは臥煙伊豆湖との連絡を取れるようにして欲しいんですよ」

 

この詐欺師への交渉は、これだ。

臥煙伊豆湖との連絡ルートを繋げること。

早坂先輩にもお願いしていたことではあるが、やはり、同じ専門家であの人の考え方をある程度理解している人物の方が確かではある。

詐欺師だけれど。

 

「俺は臥煙伊豆湖とは縁を切られたんだがな」

「これは僕が任された仕事の一環ではありますが、交渉しているのは僕自身です。だから、問題なんてありませんよ」

「屁理屈だな」

「ええ。屁理屈です。ですが、多額の報酬があるというなら、屁理屈に乗るのもやぶさかじゃあないでしょう?」

 

本当は縁も戻っているのにとは言わなかった。

……恐らく、この方法では釣れないだろう。

金が好きな人であろうと、その為にリスクを犯せる人はあまりいない。

金とは手段であり、ツールだ。

物事を達成する為の手段。

物事を達成する為のツール。

消費しなければ、ただの紙切れだ。

だから、金が欲しさにわざわざリスクのある選択肢を取ろうとする人は、余程追い詰められている人物だ。

そして、そういう人を引っ掛けるのが詐欺師だ。

 

「では、いくらでそれを求める」

「200万円。勿論、活動経費は別途で支払いますよ」

 

少しの沈黙があった。

だが、

 

「駄目だな。桁は1つ足りないんじゃないか?」

「別に神様を騙せなんて言ってないんですけどね。たかだか、人探し。もっと言えば、ソーシャルに広い人脈を持つあの人の影を、本気で追えない訳ではないでしょう?それに、期限の設定もしていない。仕事の合間に少し足を動かせば、200万が手に入る。十分に得はあるでしょう」

「そもそもでお前が200万を支払える保証はない。所詮は子どもだ」

「ええ、子どもですよ。なので、その臥煙さんにツケといてください。あの人も文句は言えない筈ですから」

 

実際は文句を言うかもしれないが、東京をどうにかこうにか保っているのだから、完全な拒否は出来ないと思う。

その上で、拒否ならまぁ、その時はその時でちょっとドンパチやりかねないけども。

 

「大人任せかよ。自分の仕事だろう」

「あの人が自分の仕事を果たしてないから、尻をぶっ叩こうって話なんですよ」

「…………」

 

貝木泥舟は考えている。

まぁ、自分のあの先輩がそんな風に言われるなんて思いもしなかったんだろうし。

良くも悪くも、臥煙さんを上に見る人は多い。

でも、僕からすればそんなものは勘違いだ。

あの人もあの人で、失敗はするし、馬鹿もするし、やらかしもする。

高嶺の花なんてのは他人を区切って理解をしようとしない為にある。

奈落の泥が言えることでもないけれど。

 

「駄目だな。やはり、俺が受ける理由には足りない」

「そうですか。それなら、最後のダメ押しに前金として四宮家とのパイプなんて如何ですか?」

 

ある意味、一番の交渉材料だ。

 

「四宮家?詐欺師が金持ちを狙うなんて考えなら…」

「いえ。詐欺師が狙うのは金持ちではなく、心に余裕のない人だということは知っていますよ。その上で言ってるんです」

 

それは早坂先輩や四宮先輩を見ていて、そして、実際に屋敷内に入ったことがあるからこそいえることだけれど。

 

「四宮家はブラック企業以上にブラックで、闇が深い。心に余裕なんて持てない。そんな家柄ですよ。なら、付け入る隙が多いと思いますよ」

 

正直、凄い悪辣な手段ではある。

普通の知り合いには絶対に見られたくない交渉シーンだ。

見せられるのは、精々撫子とかの専門家関係位だ。

基本的に僕は誰かが損をする展開は嫌いだ。

ある行動に対して、それをすることで生じる不利益を最小に抑えることを心がけている。

だが、全てがそれで回るほど世の中は甘くない。

どうしたって、損をする誰かが出てくる。

その時に僕は少ない方を切り捨てる。

切り捨ててしまう。

灰被の話がそうであるように、僕は犠牲を許容してしまう。

僕自身だって、少数の側だっただろうに。

今でも、少数の人間だろうに。

仕事は言い訳にはならない。

状況は言い訳にはならない。

言い訳していい理由にはならない。

許せれはしない。

それでも、僕はそれを貫くしかない。

大を取らざるおえない。

対策はする。

けれど、それでどうにかなるものでもない。

僕は東京全体の為、あるいはどこかの誰かの為に僕はその少数を切り捨てる選択を取っている。

 

「どうですか?」

「……いいだろう。話になるだけの利益もありそうだ」

「そうですか。まぁ、こちらから催促はしません。結果は臥煙さんからの連絡といった形で受け取ることにしますよ」

「おいおい、それは流石に信じ過ぎじゃないか」

「催促したって人探しは進展しませんし、別にあなただけが頼りという訳でもないので」

 

これは少し嘘だ。

現状、臥煙さん探しに関してはこの人に任せるしかない状況になってはいる。

だが、まぁ、そこを信じて頼り切る選択肢なんて最初からないし。

当たればいいやの、宝くじ感覚の依頼だ。

それに個人的にはもう一つの方が重要だし。

 

「さて、僕もそろそろ行かないといけないので。あっ、これパイプになるものなので」

「ふん。今回お前が得るべき教訓は、人を信じすぎてはいけないという所か」

「そう見えたなら、それはそれで僕に騙されてますよ?」

 

そうして、僕はカラオケの部屋を出る。

発信器は置いてきたし、あの人詐欺師だからどうとでもするだろう。

 

***

 

そして僕は空港に向かう。

国外に脱出するなら、まずはそこからだろう。

が、

 

「うわー……、随分と厳重な」

 

まぁ、当たり前と言えば当たり前。

例え、発信器による追跡は振り切れても、そもそもこちらが逃亡を狙うなら、大きな移動手段を封じに掛かるのは必定だ。

だから、先回りして封じていられてもおかしくない。

ゲンナリとしつつも、音を確認する。

ふむ。

どうやら、早坂先輩と白銀先輩は既に捕まっているようだ。

とはいえ、捕まってからそんなに時間も経っていなさそうだけれど。

 

「とりあえずは、報告っと」

 

メールを送る。

まぁ、あの人のことだから自力でどこに居るかは掴んで移動してきているだろうけど。

僕はまず、この中に入らなきゃだな。

そうして、僕は空港内に入る。

まぁ、入ること自体は難しくない。

四宮家、この場合は三男のようだけれど、あっちだって大騒ぎにしたい訳ではないだろう。

あくまでも内密に、ひっそりと取り込み筈だ。

だから、空港を閉鎖するとかの流れにはならないし、すぐさま連れ出すということもしないだろう。

 

プルルル

 

思っていたよりも早くに返信が返ってきた。

すぐに内容を確認する。

………。

これなら僕が何かするまでもない。

となると、僕がすべきことはひとつ。

どっかの会長さんの救出だな。

 

***

 

そうして僕は白銀先輩の居る付近の個室カフェにまで近づいたのだが。

うまく擬態してはいるけれど、恐らくは四宮家の人員が外に1人、個室内に2人居る。

まぁ、白銀先輩の重要度はそこまで高くないし、隠密に動く必要もあることを考えれば妥当な人数だろう。

個室内に入ってしまえば、後は静かに制圧し返すのも難しくはないんだけど、問題はどうやって中に入るかだ。

店員さんには待ち合わせですで通じるだろうが、外で警戒している人はそうはいかないだろう。

下手に倒せば、周りに勘付かれる。

いっそのこと、通報した方が早そうな感じだ。

そんなことを考えていると、室内の方から声がした。

 

「うぐっ!」

「おい、お前!」

「どうした?」

 

外に居た人員が中に入っていった。

チャンスはここだな。

僕はすかさずカフェの中に入ると、

 

「待ち合わせです」

 

と言って、ズカズカと進み、白銀先輩の囚われている部屋に入る。

そこでは、目を抑えている男が一人、外に居たのが一人と中に居た男が一人。

そして、両手と口を紐で塞がれている白銀先輩が居た。

 

「なんだきさ…!」

 

外に居た男が言い終わるよりも先に鳩尾に結構痛い一撃を入れて黙らせる。

中に居た男はすぐさまスタンガンを取り出して仕掛けてくるが、普段が普段なだけに簡単に見切れてこちらにも一発。

 

「ぐっふ!」

 

と、そこで落としたスタンガンを拾ってきっちり三人にとどめをさす(気絶させる)

ま、こんなものか。

白銀先輩の方を見ると、目を見開いている。

……僕が居ることに対してなのか、僕がここを制圧したことに関してなのか、はたまた別のことなのか。

まぁ、今は重要なことじゃない。

とっとと、白銀先輩の紐を解く。

 

「うん!ぷふぁーっ。鳴山!お前なんで…!」

「僕はふと八つ橋が食いたくなっただけですよ。というか、白銀先輩こそ何してるんですか?ナイト役に選ばれたならちゃんとナイトにならないと」

「ううっ……。ていうか、その様子だと、お前早坂のことを知ってたのかよ」

「知ってましたけど?何か?」

 

僕はなんてことないような顔でそう言う。

 

「……早坂のことをどう思っているんだ?」

「なんですか。秘密にされてたのがそんなにショックだったですか?」

「お前はそうじゃないのか?」

「ええ、違います」

 

出会ったときには知っていたというのも勿論ある。

だけれど、そんなことはどうだって良い。

友人だから隠し事はなしなんて風になるのはおかしいし、友人だからって嘘をついてはいけないなんてことはない。

他人に相談出来ないことを抱えている人なんて、意外と沢山いる。

僕もある意味そうだし。

でも、そういうのを許してあげなきゃ、受け止めなければ、その人は前へは進めない。

許せないというだけで切り離していいものじゃない。

 

「少なくとも、僕にとっての早坂先輩は友達想いの愛すべき嘘つきですよ。色々と文句を言い合ったり、呆れたり、面倒臭く感じても、四宮かぐやという一人の主人で姉妹でそして、友達の為に嘘をつく。ほっとけない友人なんですよ」

 

あるいは、僕と似ているからなのかもしれない。

常日頃から、罪悪感を抱えていることも含めて。

だから、自然と助けたくなるのかもしれない。

 

「……お前はあいつのことを分かっているんだな」

「なに言ってるっすか。さっさと、早坂先輩の所に行くっすよ」

 

声色高めに、いつかどこかで聞かせたような口調で僕は言う。

 

「お前…!……はぁ、そういうことかよ」

「世の中って意外とそんなものっすよ」

 

***

 

そうして、僕と白銀先輩は早坂先輩の所に向かう。

そこには丁度、メールの送り主、四宮先輩が三男と早坂先輩の所に来ていた。

 

「……知っていたのか」

「ええ。その上で私は早坂を許すことに決めました。お引取り願います」

 

白銀先輩は驚いたような表情をしている。

僕はまぁ、最初からやり取りを聞いていたし、それに

 

『早坂がどんな仕事をしていたのか、昨日の朝聞いたわ。確かに許せないって思った。……でも、あの日言った通りよ。私は許せるようになりたい。早坂を許したい。だから、協力して欲しい。あの子と……もっと話す時間が欲しい』

 

……こんなメールが送られてきた以上、僕が直接何かする必要なんて何もない。

この話の主役は、最初から四宮かぐやと早坂愛だ。

 

「……分かった。今後早坂愛には手出ししない。それでいいな」

「お好きに」

 

そうして、三男は去っていく。

 

「白銀先輩は、とりあえず四宮先輩の方に行って下さい。余計な心配かけたんですから」

「……分かった」

 

僕は三男の方に向かう。

適度に距離を保ちつつ、今回の計画のあらましを盗み聞く。

そうして、三男が車の前に立った時、

 

「おい。いつまでつけるつもりだ」

「流石に警戒心が強いですね。心配しなくても、ただちゃんと何もしないか見送りに来ただけですよ」

 

まぁ、気づかれる。

別に僕は気配を消すのが得意って訳でもないし。

 

「お前はかぐやの知り合いか?」

「まぁ、そうですね。でも、今回の場合で言うなら、早坂愛の友人の方が正しいですね」

「あの裏切り者の鼠のか?」

「そうですよ」

 

正直、裏切り者の鼠という表現はイラッとはくるが、外面的には間違ってないから訂正は要求しない。

 

「アホばかりだな」

「人はクレバーなだけでは幸せにはなれませんから。時にはアホにもなれないと。家の位とか、お金とか、立場とか、そんなものを全て投げ捨てるぐらいに。まぁ、こんな子どもの意見を真に受けたりはしないでしょうけど、いつの日か、あなたにもあったそういうものを掴みなおせるといいですね。後、カフェの所で3人に伸びさせてるんで」

「いきなり何を言い出すかと思えば。ガキでアホだな」

 

そうして、三男は去っていった。

僕も空港内に戻った。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

外で話している間に、早坂先輩と四宮先輩の話はついたようだった。

……何の話をしていたかは聞いていない。

部外者は完全に立ち入り禁止だ。

まぁ、四宮先輩にはメールでのやり取りで、白銀先輩は直接助けちゃったから、当然のことながら僕が居ることが早坂先輩にもバレた。

これでも、ひっそりと見送ろうとしていたのに、早坂先輩は僕を見つけるや否や僕の手を取って、四宮先輩達から離れた場所に移動した。

そして、開口一番、

 

「あなたは馬鹿なんですか?」

 

そう言われた。

ぐうの音もない。

 

「……別に僕は八ツ橋食うのと詐欺師を騙すために京都に来たのであって、今回の件はたまたま知っただけなんですけど」

 

大嘘だ。

いや、八つ橋も食いに来てるし、詐欺師とも会っているが、本命はこっちなのは一目瞭然だろう。

でも、一応は言っとかないと。

 

「……そういう所があなたらしさなんでしょうけど、わざわざこんな所まで来て……」

 

俯いて、罪悪感がありありと分かって。

でも、別にそういうのが見たかった訳じゃない。

 

「前にも言ったじゃないですか。自己満足でやってることですよ。僕に報いたいなら、むしろ、笑ってて欲しいんですけど」

「ですが!」

「それに、本当に大変なのはここからですよ?ここからは嘘も偽りもない生活なんですから。それに関して、僕はそんなに手出ししませんよ」

 

周りに出来るのは手助けまで。

実際に変えるのは本人だ。

本人の努力で変えていく。

まぁ、僕と違って失敗はしないだろうけど。

 

「それでも気になるなら、また今度横浜でも一緒に行って、色々と奢ってくださいな」

 

そうして、僕は頭を撫でる。

優しく、でもちょっとからかうように。

 

「……本当にあなたはそればっかりですね。そんなに奢られたいんですか?」

「建前ですよ。他人の不幸は蜜の味とは言いますけど、僕にとっては大切な人の幸せこそ蜜の味ですから」

「本当に、厄介な人ですね」

 

早坂先輩はそう言うと、抱きついてきた。

 

「ちょっ!?」

「……私とあなたは似ています。人に尽くしてばかりな所も、人のことをちょっと信用できていない所も、罪悪感を抱えている所も。だから、今度は私が助ける番です。あなたに今までしてもらったように」

「いや、それは良いんですけど。抱きつく必要あります?」

「へぇーー、女性慣れしているように見せかけて、結構心臓バクバクいってますね」

「いや、ちょっと、これ以上勝てない人が増えるのは困るんですけど…!」

 

そういうのは、TG部と美青位で十分…!

ここで更に増えたら、雑魚キャラになってしまう!

 

「あなたにはきっちりと借りを返して、また、友人として、からかい倒してあげますよ」

「いやだこの人。素が出てきたと思ったら、意外とSなんだけど…!」

 

尽くす人は大概にしてMって相場は決まっているのに。

でも、僕はMじゃない!

 

「それではそろそろ行きますね」

「……まぁ、早めに戻ってきてくださいよ」

「ええ」

 

そんなこんなで、早坂先輩はどこかへ飛び立った。

飛行機に乗る直前、早坂先輩は僕に耳打ちしていった。

 

『本当にそういう所が嫌いで、………好きですよ』

 

次の日。

一応、ホテルは取っていてそこで休んでいた。

正直、かなり疲れた。

移動距離もあるが、詐欺師相手にしたのがかなりキツイ。

なんか、仕返ししてきそうな感じもするし。

まぁ、そうなったら他の専門家も普通に来れるってことだから良いことなのだろうけど。

今日は僕も完全にフリー。

まぁ、夕方の便で一足早く東京に戻るけど。

京都の町を散策しながら、八ツ橋を食べる。

………。

なんか、つまらないな。

ゆったりしている筈なのに、全然休まらない。

 

「はーくと君!」

「ボフッ!」

 

背中に突撃される。

誰が犯人なのかは考えるまでもないだろう。

千花先輩だ。

 

「一応、往来の場なのでそういうことをするのは止めてください」

「それは往来の場じゃなかったらアリだと?」

「いや、そうじゃないですけど」

 

千花先輩はすぐに離れて、佇まいを直してちょっと責めるような口調で言う。

 

「今回も裏でご活躍だったようですね」

「いやいや、そんな大したことはしてないですよ」

 

ちょっと、追手を巻いて、白銀先輩を救出しただけで別に大したことはしていない。

活躍というなら、四宮先輩の方がよっぽど活躍したと思う。

ていうか、

 

「僕が来ていることを知ってたんですね」

「会長から早坂さんのことでトラブったって聞いた時点で動いてるって確信しましたよ。仲良かったですもんね」

「いや、まぁ、他にも色々とあるんですけど」

 

詐欺師に会ったり、詐欺師と交渉したり、詐欺師に押し付けたり。

色々とした。

……改めて、人に言えないことばっかしてるな。

詐欺師のことをとやかく言えない位には。

いやいや、本当に。

 

「頑張りましたね」

「……急に頭撫でないで下さいよ」

 

本当に、こういう、クリティカル、つか、母性の塊みたいなって…!

もう、なんか本当に勝てなくなってきている。

悔しい。

 

「どのみち、今日中に東京に戻るんで、遊ぶなら今日までですよ」

「なら、一緒に観光しましょう!」

 

そうして、実質デートをした。

具体的な内容は伏せておく。

リンチ、よくない。

まぁ、つまらなさとか吹っ飛びましたよ?

そりゃ、もう。

そうして、僕の乱入した修学旅行は終わった。

そして、月曜日。

 

「は?」

 

僕は今までのしっぺ返しを食らった。

 




次回、白兎くんが酷い目に合う。

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