鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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毎日投稿はそろそろ終了かなと思う今日この頃。


ゆうシークレット

私の名前は、伊井野ミコ。清く正しい風紀委員。

私が、正義をこよなく愛するのは、両親の影響が強いと思う。

父は裁判官、母は国際人道支援団体員として、働いていて、家に帰ってこれない日も多い。

けど、それは二人が悪い訳じゃない。

両親がそんなに働かなければならないほど、悪人で溢れているのが悪いのだ。

だから私は、先生の言いつけをちゃんと守るし、メダカの餌をあげも、花の水やりも欠かさない。

そして、学年1位もずっと取り続けている。

風紀委員に入ってからも、それを続けているし、例え上級生だろうとクラスの人気者だろうと、風紀を乱す人は容赦なく取り締まってきた。

そんな私を、疎ましく感じる人も多い。

最近友達になった、鳴山が言うには、

 

「それが、子供だからね。反抗期とかもそうだけど、この時期の子供は自分らしさの形成に取り掛かっている」

「だから、他人に指図されずに、自分のしたいようにしたい」

「そう思う時期なんだよ」

「それに、ルールだってあまり強くしすぎると個性が失くなるし」

「だから、少なくとも僕は一概に否定できないかな」

 

だそうだ。その後、個人の意見だから参考程度に止めてね。とも言っていたが。

なるほど、確かに一つの意見として見るなら、それはそれで一つの答えと言えるかもしれない。

けれど、それでも私は()()()()()()()()だと言いたい。

いけないものはいけないのだと、主張し続けたい。

そんな私に対して、意地悪な人もいて、本当は辛いと感じるときもある。

けれど、その度にこのステラの花を見つめる。

中等部の時、周りから疎まれて一番辛かった時、このステラの花と、「君の努力はいつか報われる」と書かれたカード。

名前も告げずに、励ましの言葉をくれた。

あの人みたいな、見返りを求めないピュアな想い。

それこそが、本当の愛の形だと思った。

以来、この花はずっと私を支えてくれる。

もし、この花をくれた人が分かったら、その時は感謝を伝えたい。

 

***

 

今日も、朝から風紀委員による服装チェックをしている。

夏休みも近くなっているこの時期は、生徒がたるんでくる時期でもある。

だからこそ、毎年この時期は取り締まりを強くするのである。

すると、()()()()遅く来ていた石上が、登校してきた。

 

「おはよう」

「おはよう」

「…おはよう」

 

石上とこばちゃんは普通に挨拶する中、私はぎこちなく挨拶した。

石上は、ヘッドフォンを付けず、服装も少し整えている。

長い前髪はそのままだが、それでも違和感がある。

 

「本当に最近は、早く来るね。なんかあった?」

「…まぁ、別に大した理由はないよ」

 

こばちゃんにそう答えると、石上は校舎の中に入っていった。

 

「…ミコちゃん。石上がきっちりしてきたのにどうして複雑そうな顔してるの?」

「だって、今まで言うことを聞いてこなかったあいつが、いきなり変わって、違和感があるというか、なんか気持ち悪いというか」

「ああ、要するに喧嘩友達がいなくなったみたいで寂しいと」

「違う!!なんで、あいつが変わったぐらいで私が寂しく思わないといけないのよ!!」

 

そうだ、わたしはあいつのことが、()()なんだから寂しいなんてことはない。

 

***

 

石上優。生徒会会計でもある。

私が虫酸が走る嫌いなやつである。

あいつは小等部の頃から、校則は守らない。

主な罪状としては、ゲームの持ち込みや授業態度が悪いことが挙げられる。

しかも、石上を怒った風紀委員長に頭を下げ続けたり、風紀日報には石上の違反をかなり柔らかく書いたり、石上が停学した時なんかには何度も直談判したりした。

こんなにフォローしてるのに、上から目線で意見してくる。

あれが死ぬほどムカつく。

本当に何様なのか。

それをこばちゃんに言ったら、

 

「そういうのを、石上にちゃんと言ったら。普通に感謝すると思うよ」

 

って言ったけど、それは嫌だ。

正義は見返りを求めないものなのだ。

見返りを求めない優しさだからこそ人の心は動くのだ。

あのステラの人のように。

 

ところが最近、石上の様子がおかしいのだ。

簡単に言うと風紀を守って、ヘッドフォンを必要な時以外しなくなり、授業もきちんと真面目に受け、私の言うことにも文句を言わずに従ってくれるようになった。

かなり急過ぎる変化に鳴山に理由を聞いたけれど、

 

「うーん。本人に聞いてないし、聞く気もないから明確な理由は分からないな」

「おおよそ、これが理由じゃないかってのはあるけど、推測で言うのはあいつも嫌がるだろうから言わない」

 

どことなくごまかしがあるように感じるが、これ以上聞いても、それ以上の回答が聞けそうにないので断念した。

正直、この状況は私にとっていいはずなのだ。

長年、叱ってきた人がやっと自分を省みて、生活態度を見直した。

それは、私にとっても長年の努力が実って、前進になったはずだった。

けれど、どこか違和感がある。

それがなんなのか、まだ分からない。

 

***

 

私は最近、よく生徒会室に行っている。

最初は、鳴山に石上と仲良くするために、見学も兼ねて行った。

その時の印象は、たいへんひどいものだったが、しばらく通っているとあの時が特殊だっただけで普段は真面目に働いていた。

石上も、あれで生徒会に重宝されるぐらいに優秀なのだ。

まぁ、仕事が終わったらゲームするのは、腹が立つ。(しかし、最近はそれをしていない。やっぱり違和感がある)

ちょくちょく遊んでいる時もあるが、みんな優しくて、悪い人達じゃない。

今日も生徒会室を訪れたが、人がいなかった。

荷物は置いてあるから、多分生徒総会に向けて、あちらこちらに行っているのだろう。

本当に大変な業務なのだろうと思う。

ふと、魔が差して、会長の机に座ってみる。

こうしてみると、結構この部屋も広い。

会長の椅子も座り心地が良い。

流れで、会長の引き出しを開けると、そこには「生徒会㊙レポート」と妙に可愛らしいデザインのものを見つけた。

 

「なんだろう、これ」

 

なにが、マル秘なのだろうか。

……はっ!!もしかしたら、この生徒会は裏で何かとんでもないことをやっているのかもしれない。

そうなったら、私がやることは唯一つ。

これを使って、会長達の不正を正すだけだ。

……今にして思えば、思い上がりも甚だしいし、勝手にその辺の書類を見たのは、こちらが怒られることだろう。

けれど、ここが一つの転機になったのは確かだった。

 

そこに書かれていたのは、石上の中等部時代に起こした事件の()()だった。

 

私はショックを受けた。

まるで、今までの見てきたものが間違いだったと見せつけられたようだった。

私は、あの事件は実際に石上がやらかしたのだと思っていた。

噂もあったが、実際にやりかねないと感じていたのが理由だった。

けれど、だからってちゃんと課題を出し続けているのに、いつまでも停学なのはおかしいと思った。

だから、先生に直談判もした。

その時に、私はあいつは反省文も書けないほど馬鹿なんです。と言った。

でも、違った。

あいつは、あいつなりの正義を貫いていただけだった。

大友さんを守るために、自分が一番辛くても、意地を通していただけだった。

 

「おい、伊井野」

 

上から声をかけられた。

そこに居たのは、白銀会長だった。

 

「それを見たのか」

 

普段では見せないような、かなり威圧的な真面目な表情をしていた。

 

「は、はい」

 

真実を知って、動揺していたのもあるが、それ以上に白銀会長の威圧感に怯んで、上手く声が出せなかった。

そうか、と言うと、会長は備え付けのポッドに水を入れ始めて、ソファの方に座るようにいった。

それから、携帯を取り出すとなにやら連絡を送っているようだった。

その間は、一言も声が出ずに、ただ叱られる子供のように怯えるようにソファに座っていた。

わたしにとっては、かなり長く感じたが実際は7、8分くらい経って、会長はお茶を二つ持って、一つを私の前に置くと、もう一つを持って、反対側に座った。

どうやら、さっきまでお茶を作っていたらしい。

 

「他の役員にはしばらくは生徒会室に来ないように伝えた」

「そ、そうなんですか」

 

うまく声が出ない。

何を言えば良いのか分からない。

そんな私の様子から察したのか、会長の方から切り出してきた。

 

「それで、聞きたいことがあるんじゃないのか?」

「は、はい。その、えーと、これに書かれていることは」

「ああ、事実だ」

 

会長は力強く断言した。

 

「石上は、大友京子への危害を防ぐため、荻野へ悪い遊びを止めるように交渉した」

「しかし、その中で、荻野は交渉材料に自分の彼女を差し出した」

「石上は、それに怒り、彼を殴り倒した」

「その後、人が騒ぎ聞き、集まった所で石上が大友にストーカーしていて、自身への逆恨みをしたと嘘の情報を流した」

「そして、石上に黙っていれば、大友には手を出さないと言った」

「後は知っての通り、あれは石上が悪いこととなり、停学を食らった」

 

会長が解説も交えて話す中で、私の心は全く落ち着かなかった。

やっぱり、石上が悪いんじゃないのか。

いや、それでも暴力に走ったのは、石上の落ち度だ。

でもしかし、自分の彼女を交渉の材料にするようなやつを許せるのか。

だとしたら、石上は()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そして、石上の進学後、その噂に違和感を持った俺たち、生徒会で調査を行い、それが出来上がった訳だ」

「どうして、石上は事実を言わなかったんですか」

 

本当は、その理由だって分かる。

でも、聞かずにはいれなかった。

会長は言った。

 

「彼女への被害を防ぐため。そして、彼女の()()を守るためだ」

 

そうだ。今は進学試験に落ちていない大友さんを、あいつはけして最適解とは言えないけれど、それでも守ったのだ。

それこそ、見返りなんてこれポッチもない。

むしろ、自分が損ばかりをした。

それでも、あいつはやりきった。

それは、私の言う正義と同じ。

見返りを求めない正義だ。

だから、生徒会の人達も動いたのだ。

 

「このことを知っているのは、俺たち、生徒会のメンバーと、校長、後はVIPの生徒だけだ」

「VIPの生徒がどうして?」

「ああ、四宮が彼らに報告してな。お陰で荻野は今、エゲツない目にあっているだろうな」

 

それは処断されなければならない人は処断されたという報告でもあった。

急な転校はそれが理由だったのか。

しかし、それで石上の環境が変わった訳じゃない。

いつまでも、同級生からは嫌われ続ける。

 

「そして、このことは他言無用だ。理由は分かるな?」

 

分かっている。

ここで、みんなに理由を明かせば、環境は良くなるかもしれない。

けれど、それが大友さんに伝われば、彼女は曇るだろう。

それは、石上の願いに反する。

だから、何も言わないのだ。

いつまでも、石上の正義は知られない。

 

「それでは、話は以上だ」

 

そう言って、他の会員を呼びに行こうとする会長に、

 

「私はどうすれば」

 

と聞いた。

そうだな。と、会長は少し悩む様子を見せると、こちらを向いて、

 

「もし、また石上が窮地に陥った時にあいつの味方になってやってくれ」

 

それだけ言うと、会長は部屋を出ていった。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

石上の真実を知った。

知った以上、おそらく今までと同じようには接することは出来ない。

私が知らなかっただけで、あいつの根底には私と同じ正義があった。

だとするなら、石上のことを嫌いだと言えない。

そうやって、人の為に行動出来るあいつを嫌いだなんて思えなくなる。

そんなことを、考えながら教室の扉の近くに来ると、教室に石上と鳴山が居て、石上の顔を見ると、咄嗟に隠れてしまった。

さっきの今で、まともに接せられる気がしなかった。

 

「あ、会長から戻っていいって連絡きてる」

「お、そうか。それじゃあこの話はここまでだな」

 

どうやら、会長の指示に従って、手持ち無沙汰だったから、鳴山と話していたようだった。

 

「それにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんというか、お前らしいな」

「そうか?」

「ああ、誰に送ったかは言ってないけど、大体想像つくわ」

 

それなのに、そいつとそんなに仲良くないんだから、全くお前らは。と、鳴山が言うのを、図星を突かれたような顔をして、若干不貞腐れたように石上が、言うなよ。誰にも。特に本人には。と言う。

 

「分かってる。分かってる。そんじゃ、いってらっしゃ~い」

「おう」

 

そういうと石上は、教室を出ようとするので、慌ててそこを離れた。

そして、生徒会室とは反対の階段の所まで来ると、腰が抜けたように座り込んだ。

……そんな、まさか石上が()()()()()だったの!?

それじゃあ、嫌っているような相手にまで励ましの言葉を送ったの!?

なによそれ。

意味が分からない。

……でも、この時私は知った。

自分が、あいつのことを全然知らなかったこと。

自分はあいつのことを散々恩知らずだって思ってたけど、自分もそうであったこと。

そして、違和感の正体。

あれは、あいつのことが()()()()()()って、小さく、しかし、奥底にあった気持ちが出ただけのだ。

 

「これから、どうすればいいの?」

 

その声は、小さく誰の耳にも届かなかった。




という訳で、初期設定の1年一学期篇は終了です。
このシリーズに石つばルートは存在しません。
次回は、夏休み。
二学期から本格的に関わる生徒会とは全く関係しない白兎の夏休みをお届けします。

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