鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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一人だけ世界観が違う今日この頃。


はくとバレンタイン

バレンタイン。

元は聖バレンチヌスの命日であるけれど、今現在では女性から意中の男性にチョコを送る日として知られている。

とはいえ、その認識もここ最近の友チョコやらの影響で、女子がチョコを色んな人に送る日みたいなものに変わってきているようにも思う。

これもある意味、時代の流れだ。

僕にとってのバレンタインは、平日と大差はなかった。

周りにされていることを考えたら、むしろくれるものは何かが仕込まれているのだろうと疑うし、そもそも小中は公立の学校だからそういうものは持ち込み禁止だったし。

つまり、高校になって初めて、正しくバレンタインを経験するということなのだろうけど。

しかし、僕こと、鳴山白兎は怪異の専門家である。

つまり、こういうイベントを普通に過ごせないことが確定しているのだ。

色んな意味で。

 

***

 

2月13日。

バレンタインの前日。

僕はミコの家に来ていた。

 

「それにしても、バレンタインのチョコ作りで男に教えを乞うのはやっぱり変じゃないか?」

「でも、私の周りで一番そういうのが上手いのは白兎でしょ」

「まぁ、そうだろうけど」

 

つまり、そういうことである。

ミコにチョコを作るのを手伝って欲しいと頼まれた。

誰宛のかなどとは訊かない。

というか、訊くまでもない。

これ、中々と怪しまれないか?とか思われるかもしれないけれど、勿論僕はそんなヘマをしないようにしている。

優には断りを入れてないが、まぁ、入れる必要もないだろう。

作るものが作るものだし。

 

「さて、因みにどんな感じのチョコをご所望なんだ?場合によっては材料を買いにいかなきゃだけど」

「それは、あのチョコクッキーみたいなの作ろうかなって」

「チョコクッキーね…」

 

お菓子の類はあまり作らないからどの位の難易度かは分からないが、まぁまぁ作りやすい部類だろう。

調理器具も一通り確認する。

ふむ。

どうやら、ちゃんと揃ってはいるらしい。

ただ、使われた形跡があまりない。

新品かとも思ったが、外に出されていくらか経っているようだ。

これが意味するところは、僕の領分ではない。

家庭内の問題に関しては、直接的な害でもないと割り込めない。

早坂先輩のことがそうであるように。

家族というのは、それだけややこしいものだ。

 

「材料もあるっぽいし。それじゃあ、作るか」

「うん」

 

そうして、ミコのお菓子作りにちょっとアドバイスをしつつ手持ち無沙汰なので自分も適当にお菓子作りをする。

 

「それにしても、ミコは千花先輩とか四宮先輩とか誘わなかったのか?料理上手って意味じゃあ、多分四宮先輩も料理は出来る部類だろうし、千花先輩も楽しそうって乗ってくれそうだけど」

「ああ。四宮先輩は一応訊いてみたんだけど、『いや。もうごめんです。あんなことは…』って言われて断られて、藤原先輩は……、色々とからかわれそうだったから」

「だったら、僕も大概なんじゃないのか?」

「アンタ、一対一の時にはそういうことあまり言わないでしょ」

「そうだっけ?」

 

いや、大分やっているような気はするけど。

まぁ、からかうにしても今はしないんだけどさ。

真面目に作ってるし。

 

「ああ。で、そこは混ざりきるまでね。結構力いるから」

「分かった」

「……………」

 

結構、テキパキとやれてるな。

まぁ、意外でもないか。

器用なタイプって訳でもないけど、自分で考えて出来ることをしてきたタイプだし。

人の指示も素直に受け取れれば、変なことをせずに守るし。

お菓子作りには向いてるタイプかも。

こういうのは、素人が半端にアレンジしようとして失敗する所までがオチだったりするけど、ちゃんと指示通りに動ける人間はこういう時に強い。

そういう所が良いところだ。

 

「こんなもので良い?」

「ん。良いんじゃないか。じゃあ、型に流し込んでチンするだけだな」

 

そうして、ひとまずの作業は終わり。

後は焼けるのを待って、焼けた後に色々とするだけだ。

焼けるのを待つ時間に僕の作ったお菓子、というか

 

「パフェ?」

「いや、まぁ、かなり簡単だからな」

 

***

 

レンジで焼けるまでの間、僕の作ったパフェ(カップは2つにしてある)を2人で食べる。

 

「美味しい!」

「それは良かった」

 

まぁ、パフェは基本的に生クリームとアイスと果物を順番に乗せていくだけだから、そんなに難しくない。

強いて言うなら、崩れずに綺麗なバランスを保つのが厳しいぐらいだ。

 

「白兎って、いいお嫁さんになりそうだよね」

「いやお嫁さんかよ」

「だって、全体的に主婦力高いし」

 

いや、一人暮らしだから自然と身についただけだし。

そして、そこを参考に選ばれるのが勘弁して欲しい。

ある程度したら、みんな出来るようになるから。

 

「家庭科でも、一人で先にバッグを作って、ポケットやら装飾やら作ってたよね」

「時間が余ったからな」

「生き方不器用なのに、手先は器用だよね」

「生き方の不器用さ加減でお前に言われたくないよ」

 

ていうか、生徒会メンバーには言われたくない。

勿論、僕も言わない。

皆揃って、50歩100歩だ。

 

「それに、僕の場合は一人でやらなくちゃいけないからしていたが故に身についたものだし」

「そうなの?」

「グループ作業のものを一人でするとかまぁまぁあったし。だから、効率の良く、器用にこなしていかないと間に合わないってことが多かったから」

「……どうして先生に言わなかったの?」

「低学年位の時は言ったけど……、結局、何も解決しなかったから。だから、諦めちゃった」

 

正直、失望したって面が大きい。

先生に対して。

今でこそ、クラス単位の子どもの操作は難しいってのは分かるけど、でも、当時の僕にそれを分かれって言ってもね。

仮に分かったとしたって、納得はしないだろうし。

どの道、失望してただろうということは想像に難くない。

勝手だとは思うが、子どもは大概勝手なものだと思う。

 

「よくそれで、今みたいなこと出来るようになったわね」

「いや、今月のことからも分かるように別に僕は人に好かれるタイプじゃないからさ。好かれる為の努力はしてるけど、元々のタイプの問題が完全になくなった訳じゃないし。だから、こういう風に話せるのも相当に親しくないと無理」

「ふ~~ん。白兎ととしてはどこまでが親しい範囲な訳?」

「少なくとも、お前や優は十分に親しいとして。美青や千花先輩も当然として。TG部も親しいけど、ここまでの範囲にはなってないかな。後は多分既に知られてるから、四宮先輩とあの先輩には話せるかな」

「……もしかして、白銀会長は入らないの?」

「入らないな」

 

あの人とはね…。

なんというか、変人度が足らない。

今の白銀先輩の変人さって大概にして四宮先輩絡みだし。

もっとこう、天然でとんでもねぇなって要素が欲しい。

後は、千花先輩へのこととか早坂先輩のこととかでイマイチ好感度が上がらない。

まぁ、あの人が色んな人に好かれるのは本当に分かるんだけどさ。

 

「まぁ、こういう性格だから孤立したんだけど」

「確かにいい性格とは言えないわね。……でも、それに助けられている人も居るんだから、無理する必要はないわよ」

「……本当にミコは優の良いお嫁さんになりそうだな」

「!!」

 

ミコが顔を赤くしている。

いやいや。

この表情を今すぐ撮って、優に送りつけたいな。

 

「な、何よ急に…!」

「いや、ふと思ったから言ってみただけ。ああ、孫の顔がみたいな」

「いや、子ども抜かして孫なの!?」

「え?だって、結婚して子ども作るまでは確定でしょ。子供の顔は確実に見れるから」

「勝手に確定させないでよ!」

 

まぁ、美男美女カップルではあるから絶対可愛い子どもだろうなって思ってるよ。

気分的には、初老のおじいちゃん位の気分だ。

パフェの最後の一口を頂く。

そのままスプーンを前後に振って、

 

「友人として、その位に応援してるってこと」

「……変な所で重いのよ」

 

***

 

バレンタイン当日。

今日も今日とて早めに登校する。

忘れられてるかもしれないが、清めの塩を蒔くために。

と、校門前まで来ると、意外、という程ではないかもしれないけれど人がいた。

 

「早坂先輩?」

「おはようございます」

 

早坂先輩がジャンパーを来て待っていた様子だった。

髪も切って、こざっぱりした印象だ。

ギャルっぽくなったとも言うけど。

 

「わざわざこんな朝早くに来るのを待ってたんですか?」

「今の時間帯なら、何も言われないですから」

 

そう言って、早坂先輩は少し俯きながら、チョコをこちらに向ける。

僕はそれを頂戴する。

 

「お礼を兼ねたチョコです」

「お礼はいいですよ。今月の始めには既に貰ってますよ。……早坂先輩が証拠を集めてくれたのは分かりますから」

 

四宮先輩はそこをなんとも言ってなかったけれど。

それでも、まぁ、分かる。

誰が何をしてくれたのか。

今の自分が何に支えられているのか。

どうにも、まだ認識が甘い所はあるみたいだと猛省している。

まぁ、僕にとっての僕がどうでも良かったからなのもあるけど。

 

「いえ。まだ返しきれてないですから」

「あーー…。まぁ、それなら気の済むまで、いきすぎない範囲で貰いますよ」

 

ここで遠慮しても、変な感じになるしな。

相手の厚意にはある程度甘えるのも必要か。

 

「それでは」

「はい、また」

 

そうして、早坂先輩は校門を通り過ぎる……その前に、

 

「それ、義理か本命か。どっちだと思います?」

「…………」

 

やめてよ。

またなんか、フラグが立ったみたいな感じになるじゃん。

………。

 

「義理でも本命でも嬉しいですけど。正解は、間を取って友チョコだと予想しますね」

「正解です」

 

正解らしい。

まぁ、そんな関係だ。

 

***

 

まぁ、そんな感じでスタートしたバレンタインだが。

 

「えへへへ」

「キィーー」

 

見事に幸せと不幸せのラインが出来上がっている。

このイベント、相当に正と負が入り混じりやすい。

テスト期間でさえあれなのに、今はなんか妬みの量が圧倒的に多い。

これが怪異化するのも時間の問題だ。

いや、本当に勘弁して欲しい。

絶対に碌でもない。

 

「おー、鳴滝」

「ん。槇原」

「はいこれ」

「ありがとう」

 

槇原からチョコを貰う。

これでTG部は二人目。

まぁ、それがどうという訳でもないけど。

 

「よーーー!白兎!」

「テンション高いな、優」

「見ろよこれ」

「それなりに貰ってるな」

 

1、2、3、4、5。

ミコのはまだっぽいから、大体6個位か。

 

「お前はどうだ?」

「うん?」

 

僕のは早坂先輩に始まり、ミコに槇原に寺島先輩に紀先輩に巨瀬先輩に子安先輩にその他諸々だから。

 

「今は12個だな」

「ええー……」

 

優がちょっと落ち込んだ、

別に落ち込む必要なんてないだろ。

本命もまだなんだし、それに、

 

「つっても、基本は義理チョコだよ。たまに友チョコって位で」

「いや、それでも十分だろ」

 

て、言われてもね。

 

「白銀先輩とか30個位貰ってるぞ」

「うわ、えげつな!」

「そうそう。上には上が居るんだし、まだ貰えるだろうし、量よりも質だろう」

 

まぁ、白銀先輩は本命も多いだろうけどね。

優はまぁ、本命は一人だけだし。

むしろ、それが正しい位だし。

 

「それもそう、なのかな?」

「心配しなくても、一番の絶品がこの後待ってるよ」

 

***

 

という訳で、放課後。

僕は屋上で

 

「……ナニコレ?」

 

何がなんだか分からない触手生物と対峙していた。

生物、なのか?

僕が何故屋上に来たのか。

理由は簡単で、よくないものが屋上の所に収束していたからだ。

今までは多くの怪異が大量発生という感じであったのが一纏まりになったと思ってきたのだが。

しかし、目の前のそれは動物のキメラと言われるとあまりにもすっきりしていて。

しかし、何かのモチーフかと訊かれればそんな訳でもない。

例えるなら、モジャンボに全体的に気持ち悪さを足した感じだ。

その癖、変に甘い匂いがする。

クソキモい。

 

「つーか、これ怪異か?」

 

オールを構えながら、僕は考察する。

いや、匂い的にもこれは怪異なんだけど……。

なんかそれとは別のナニカな気もする。

なにかとんでもないものな気がする。

 

「って、ヤバっ!」

 

いきなり触手が伸びてきた。

ギリギリで躱しながら思う。

それなりに早い。

この様子を見る限り、対空はまず出来ない。

空中じゃあ、身動きが取りづらい上に、相手の触手は何本もある。

掴まれたら最後、抵抗が効かなくなる。

つーか、こいつが窓から学校に侵入したら色んな意味で大惨事になる!

 

「速攻で潰さなきゃだな」

 

相手の触手を避けて、切って、反らしながら近づく。

空中にいけない分、集中して攻撃がくるが単純な正面なら言うまでもなく、後方からの攻撃も音で探知が効く。

触手は切ったら、動かなくなるようだ。

しかし、

 

「これ、残機無限とか言わないよな」

 

触手が一向に減る機会がない。

一度に20何本も相手しながらだと、流石に近づけない。

けど、持久戦になると恐らく先にバテるのは僕だし、いくら結界を張っててもどこかでバレる。

 

「嫌だなほんと、って」

 

ここで僕は思考が乱れた。

足を掴まれ、逆吊りにされそうになる。

しかも、その状態で触手は容赦なく襲いかかる。

 

「クソッ。男の触手プレイに需要なんてないつーの!」

 

本当かどうかは知らない。

知りたいとも思わないけれど。

しかし、このままではいつかヤラれる。

どういう意味でかは知りたくもないが。

冷静に考えろ。

あいつはそもそも何の怪異だ。

嫉妬?

恨み?

いや、甘い匂い。

今日で甘い匂いと言えば、

 

「チョコ!」

 

と、何の怪異かが分かっても手の打ちようがないかとも思ったが。

これがある。

僕はそれをポケットから取り出すと、大きく頭上へと放り投げる。

正直、当たるかどうかは賭けだが、どうやら当たりだったようでその怪異は頭上のものへと僕への触手を外してまで追いかけていった。

これで奴は頭上を飛び、避けられることもない。

僕はオールを奴の中心部に向けてフルスイングした。

兎のバネを活かしたスイングはちっとやそっとでは止められない。

そのままオールは奴の中心部を破壊した。

そうして、貫かれた怪異は徐々に雲散霧消していった。

僕は落ちてきた、オールと頭上に投げたものをキャッチする。

 

「まぁ、自分で買ってたものだから問題ないけど」

 

投げたのはチロルチョコだ。

要するにあの怪異。

バレンタインの妨害をする為の怪異で、チョコを奪うことを目的としたものだ。

だから、僕に襲いかかってきた。

それなりにチョコを貰っている僕を。

……なんというか、男の浅ましさを感じる怪異だ。

いと哀れなり。

 

「ん?」

 

ふと屋上のある一点を見る。

そこには、さっきのに似た小さいナニカがあった。

 

「え、なにこれ?」

 

手触り、匂い、感覚。

これらがこれは生物であると言っている。

しかも、チョコでもあると言っている。

触手らしきものはない塊だが、妙にリアルな足がある。

意味が分からない。

訳が分からない。

いや、マジでなんだこれ?

しかも、これ自体に怪異的な要素が欠片たりともない。

つまり、科学で証明がつくもの……。

つくのかこれ?

え、え、ええーー……。

世の中には多くの不思議がまだまだ存在している。

怪異など関係なく、存在している。

それを実感させられたような気がした。

 

「ああー!白兎くん。ここに居ましたか!」

 

と、結界はあった筈なのに普通に来た千花先輩がそこには居た。

……本当にこの人は。

 

「あれ?キューバリファカチンモじゃないですか!」

「キューバリ?」

 

これの名称だろうか?

しかし本当に何なんだこれは?

 

「千花先輩知ってるんですか?」

「それは去年、かぐやさんがバレンタインに阿天坊先輩に渡された製法で作ったチョコです」

「………」

 

……阿天坊先輩か。

いや、でもあの人はなぁ……。

つーか、古き妖怪というよりもこれはクトゥルフの類になるし。

あれの神話生物感はたしかにある。

………。

やぶ蛇な気もするし、これに関してはスルーした方がいい気がする。

 

「でも変ですね。それは生徒会室にあった筈なんですけど」

「そうなんですか」

 

まぁ、その辺は触媒としてここに運ばれたで説明がつくからいいけど。

 

「で、僕のことを探してたみたいですけど、どうかしました?」

「え?あ、ああ!ええと、これです」

 

そうして、千花先輩が取り出したのはハート型の箱。

それがなんであるかなど訊くまでもない。

僕はその箱を受け取る。

 

「ありがとうございます」

「……なんだか、あっさりですね」

「しどろもどろになるほど、ウブじゃないですし」

「分かってると思いますけど、本命ですからねそれ」

「……分かってますよ」

 

ああ、恥ずかしい。

こう、好きな人に正面切って言われるのがこんなに恥ずかしいとは。

前の愛してるゲームも大概だったけど、今はそれ以上にバクバク言ってやがる。

でも、千花先輩も大分恥ずかしがっているからお相子としよう。

 

「白兎くんは……、何か言ってくれないんですか?」

「……言えません。半端な言葉は言えませんから」

 

本当に最低だ。

こんな中途半端で。

それがどれだけ酷いことかも分かってるのに。

決められていない。

 

「あんまり、時間をかけないで下さいよ?」

「そうですね」

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

半端者の僕は、優とミコの甘酸っぱいチョコの受け渡しを聞きつつ、窓から外を眺める。

夕焼けにはまだ早いが、徐々に暗くなっている。

 

「好きなのにな……」

 

好き、なのだ。

恋愛的な意味で。

美青も千花先輩も。

だから、何も言えない。

決められない。

本当に酷い男だ。

思わず、ため息も零れる。

 

「はぁー……」

「また、何を悩んでいるんですか?」

 

ちらりと横を見ると美青が居た。

ちょっと気が付かなかった。

随分と気が抜けているらしい。

 

「どうにも、僕の人生には悩みが()()()らしい。1つの解決でまた別の問題が発生するみたいだ」

「そういうときこそ、頼ってほしいんですけど……。もしかして、今回は私達ですか?」

「はぁー。そうだよ。だから、お前らには頼れんよ」

 

気持ちなんて分かってる。

互いの気持ちを互いが分かっている。

だから、変な誤魔化しはしない。

良いこととは言えないけど。

 

「先輩は意外と優柔不断ですね」

「切り捨ては出来るタイプだと思ってたんだけどな。どうにも、自分限定みたいだ」

「それが一番の困りどころですけど。まぁ、でも。両方取れない状況に対して優柔不断になりやすいんでしょうね」

 

ああ、それは確かに。

両方を取れる場面で躊躇したことないわ。

切り捨てる、っていうのが拒否感があるんだろうな。

 

「本当にな……」

「……。先輩。私は藤原先輩が好きな白兎先輩ごと受け入れますよ」

「は?」

「本当は私だけにそういう目を向けて欲しいし、他の人にデレてるのは嫌で嫌で嫌ですけど」

「それは許してないんじゃないか?」

「でも、そういうのも飲み込んで受け入れます」

 

………と、言われても。

 

「交際相手にそれを要求するのは大間違いだろ。相手の器の大きさに甘えるのは失礼だし、侮辱でさえあるだろ」

「確かにそうですね。でも、先輩だって大概器の大きな人なんですから許されていいんじゃないですか?」

「僕、器小さい部類だと思うけど」

 

器が大きいなら、中学時代にあんなことになってない。

というか、それとこれとはまた別だろう。

 

「そんなことないと思いますけど。それに白兎先輩が幸せを得られるなら、やっていいと思いますよ」

「色んな人が不幸になりそうな気がするけど」

 

どうにも自分中心は難しい。

幸せって、こんなに大変なものだったのかと痛感する。

こればっかりは全部は取れない。

 

「とりあえずは、ハッピーバレンタインということで」

 

そうして、美青からハート型の箱を受け取る。

 

「本命ですから」

「……分かってる」

 

やっぱり恥ずかしい。

こいつは恥じらわないから余計に。

 

「私の方が美味しい筈なので」

「そこで張り合うのか」

「これは戦ですから」

 

そう言って去っていく。

 

「帰るか」

 

帰り道。

僕は貰ったチョコを食べる。

 

「ちょっと苦いな」

 

それは果たして、チョコの感想なのか現実に対してなのか。

 




これが優柔不断の問題点。

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