鳴山白兎と早坂愛の関係は友人である。
最初の出会いは協力関係ではあったけれど、そこから順当に関係を深めていったと言えるだろう。
三学期の3月。
卒業式も終えて、早坂先輩は学校生活に復帰していた。
流石に1年の総締めと言える三学期の内の一ヶ月を休んだのは痛手だとは思うが、しかしちゃんと進級は出来るらしい。
その辺は流石というか、裏で校長が暗躍してそうだなーとは思いつつ、しかし、ちゃんと進級出来たことに安堵はしていた。
元々、早坂先輩が一ヶ月も休むことになった原因は僕にある。
正直、臥煙さんを見つけ出して下さいなんて、今にしても随分と無茶振りだと思う。
それを見事に成し遂げる辺りは早坂先輩もかなりの逸材といえるけれど。
それでも、あの人材に貪欲な専門家に関わらせたことは早坂先輩にとってはあまり良いこととはいえないだろうし。
まぁ、こんなことを早坂先輩に言っても
『いや、あなたこそ今まで何をやっているんですか?得したことなんて殆どない癖に』
と言われるのが目に見えているのだけれど。
まぁ、その通りだ。
結局の所、僕と早坂先輩は意外な所で似たもの同士であるということなのだ。
***
卒業式も終わった後の春休み前の休日。
僕は以前の約束を守るべく、朝の少し早い時間に横浜で早坂先輩と待ち合わせしていた。
「お待たせしました」
「いや、そんなに待っていませんよ。……」
早坂先輩の格好は白いブラウスに青のスカートを履いている。
早坂先輩にしては珍しい清楚な感じの服だ。
なんだかんだ早坂先輩自体の素の好みはギャルっぽい服だし。
「……どうかしました?」
「いや、珍しい服を着ているなーと」
「……似合いませんか?」
「いいえ。そういう服も似合ってると思いますよ」
そこにお世辞はない。
美人はよっぽどおかしな服でもない限り、何でも似合う。
それに普段とのギャップもいいしね。
「それじゃあ、行きますか」
「ええ」
***
「それにしても、私と出かけることを彼女さんには言ったんですか?」
「一応は。具体的に誰かは言ってませんけど」
電車で移動しながら、話している。
思えば、早坂先輩とこうして話すのも一ヶ月ぶりだ。
以前は色々と愚痴を聞いてたりしたな。
「それ、私だって知られたら酷いことになりません?」
「はは、なりませんよ。もうそういうのはどこにも向きません。僕に向きます」
「あなた、何やってるんですか?」
「馬鹿をやったんです」
早坂先輩も大体の概要は知っている。
だから、僕の馬鹿も知っている。
「本当に馬鹿ですよね。自分の命も顧みないで」
「早坂先輩も似たような者だと思いますけどね。大切な人はちゃんと守りたいでしょ?……ていうか、どの辺りまで聞きました?」
「あなたと書記ちゃんが生涯の付き合いになっているという所までは。でも、私は門外漢ですから全部が理解出来た訳ではないですね」
「そうですか」
まぁ、良いことだ。
ここまで関わらせておいてなんだけれど、やっぱりこういう怪異譚に一般人を巻き込むのは気が引ける。
怪異なんて存在は知らないなら知らない方が良いものなのだ。
「取り敢えず、臥煙さんには気をつけて下さいよ。あの人材ブラックホールにハマるとどこまでもズブズブな関係にもっていかれますからね」
「そういうあなたが既にズブズブなんですね」
「そうですよ。ぶっちゃけ、今の生活も臥煙さんとの契約ありきですからね。その癖、仕事は下手なブラック企業よりもブラックですし。なので、早坂先輩には僕を反面教師にしてあの人と適切な距離感で過ごして欲しいです。千花先輩にも言いたいですけど、ある意味僕と同じ位ズブズブですからね」
僕にしても、千花にしても、生殺与奪の権を臥煙さんに握られている。
いざとなれば、抵抗することも出来るがそうした後に来るであろう数の暴力を考えるだけで恐ろしい。
まぁ、僕は兎も角、玉枝に関しては依然として世界が狙えるスペックの持ち主だから下手な手出しはこの世がエライ地獄になることを考えると簡単にどうこうはしないとも思うけれど。
一回臥煙さんを完全に無効化したという実績もかなり大きいだろうし。
とか、色々と言いはするけれど、僕も千花もそこまで大それたことを起こすことはない。
臥煙さんもそのことが分かっているからある程度放置しているのだろうとは思っている。
思っているだけで、実際は多分違うけど。
「まぁ、多少のブラックさなら、私も対応出来ますけど」
「ブラック企業を卒業したんですから、ちゃんとホワイト企業に就職して下さいよ」
***
そうして、汽車道を通って、僕たちはハングリータイガーに来た。
「ランチサーロインステーキのRを一つ」
「ランチオリジナルハンバーグのRを一つ」
互いに注文をする。
お肉が届くまでの間、少し雑談をする。
「そう言えば、早坂先輩は臥煙さん探しでどこら辺を回ってたんですか?」
「意外とそんなに回ってはいませんよ。アナログにただ歩いて探すなんて手法は取っていません。基本はデジタルにハッ……、まぁ、幅広く情報を集めて探しましたね。行った所と言ったら、沖縄や北海道、後はロンドンとかですね」
今、ハッキングって言いかけましたね。
まぁ、四宮家の近侍ならそのぐらいは朝飯前か。
問題は何をハッキングしているのかですけど。
………。
GPSのハッキングとかしていそうだな。
怖い怖い。
「臥煙さんの活動区域に関しては僕も把握している訳じゃないですけれど、沖縄や北海道からなんで次がロンドン?」
「あの人、ランダムに瞬間移動するが如く移動していたので」
「それはまた……」
どこか一箇所ではなく、色んな所に移動させていたのか。
過去の事例に専門家を追い出すために北極と南極に閉じ込めたというのは聞いたことがあるけれど。
まぁ、玉枝としては時間が稼げれば、それで良かったんだろうからな。
それでも探索側は色々と大変だろうな。
なんというか、DP頃の準伝を思い出す。
あれ、地味に大変なんだよな。
厳選も難しいし。
「まぁ、ヒンバスよりはましか」
「何の話ですか?」
「若い頃の苦労の話ですよ」
RS時代をゲームボーイアドバンスで駆け抜けた世代の話だ。
まぁ、とうの昔に世代交代したんだけど。
「お待たせしました」
「お、きましたね」
ちょうど、お肉が出来たようだ。
「「いただきます」」
うん、美味しい。
流石に有名店というだけはある。
「本当にすいませんね。本当なら、修学旅行に帰ってきたタイミングでそのまま学校生活を継続する筈だったのに」
「別に言われる程でもないですよ。理由付けとしてのそれはありましたが、実際に一人旅をして、今の私について振り返ることは出来ましたから」
「自分探しの旅にでもなりました?」
「ええ。探すような所にあるものでもありませんでしたが」
それはそうだろう。
自分なんてものはどこか遠くにあるものじゃない。
結局の所、他の人との関わりを通して自分をどう見つめるかだ。
「それで何が分かりましたか?」
「さぁ。ただ、私にとって帰る場所がここであることを改めて理解しただけです」
「……やっぱり、似てますね」
「何がですか?」
「ここにも鏡があるって話ですよ」
***
その後に映画やコスモワールドで遊んだ。
映画は面白かったし、コスモワールドも中々と楽しめたけれど。
けどまぁ、予想通りというかなんというか。
「もう夜の8時。カップヌードルを作ったり、脱出ゲームをしている時間はないですね」
「……そうですね。確かに私が間違っていたと認めざるおえません」
夜の中華ディナーを食べながら、二人で話す。
「まぁ、デートの行き先そのものが悪い訳じゃないですから、その辺の分量の調整が出来れば良いんじゃないですかね?」
「流石は彼女持ち。よく知ってますね」
「そうでもないですよ」
できてまだ2週間位だ。
2週間で他の女性と出掛けてるのはどうかと言った感じだが、前々からの約束だし、春休みは何かと忙しそうだからな。
そう言えば……、
「それにしても、早坂先輩は一体どういう人と付き合うんでしょうかね?」
「なんですか急に…」
「3学期の始め頃を思い出しまして」
3学期の始め頃、平行世界から広瀬さんと早坂さんがやってきた。
彼らがやってきた理由は、夢里奈ちゃんの救出という目的はあったけれど、よく考えるまでもなく、本当の目的は僕への説教する為に玉枝が送り込んだのが主な目的だろう。
まぁ、それも隠すつもりはあまりなかったようだけど。
普通に怒ってたけど。
と、それはまぁ良いとして。
広瀬さんは早坂さんの恋人だった。
しかも、ヤることヤッてる感じで。
随分と仲良くイチャついてるなと思った。
世界が違えば、それは全くも他人と言えるがしかし、参考位にはなるだろう。
その上で気になる。
「早坂先輩って、ああいう自分の気持ちが分かってくれる依存体質の人が好みなんですかね?」
「いえ、それはないですね」
「断言しますね」
正直、ノータイムで言われるとは思わなかったんだけど。
「正直、彼がどういう人物であるかなんて、あの時間だけで見抜くなんて私には出来ないので、確かな判断とは言えないですが。それでも、あの人が私の好みであるとは言えないでしょう」
「その心は?」
「あなたほど人に踏み込もうとはしませんから」
「なんですか、その理由」
それ、意味的に考えて人の深い部分に踏み込んでくるって話ですよね。
単純な人間関係的には、そこまで親しくない人にそこに踏み込まれるのを嫌う人は多い、というかそういうことをする相手は基本的に拗れている人物で、そういう人ほど踏み込まれることを嫌う。
まぁ、僕もそういう人間だろうと言われれば、確かにその通りだ。
美青や千花ならいざ知らず、全く信頼を築いていない人物、それこそ広瀬さんみたいな人には明確に拒絶を叩きつける。
で、その辺を考えると、
「別にそんなことはないんじゃないですか?彼も大分人に踏み込もうとしていると思いますけど」
「そうではなくて、人への面倒見があなたの方がしているという話ですよ」
「それは……、どうなんでしょうね?場合によりけりって感じがしますけど…」
仕事ってことなら、それなりに奥に踏み込まなきゃカウンセリングなんて出来ないだろうし。
もっと言えば、まともな社会復帰だったり持ち直す為にはちゃんと面倒見なきゃだろうし。
比べて僕は、正直公私混同というか多分に趣味の部分が含まれている。
仕事によるアフターケアというか、予防的に面倒を見ていることもある。
が、正直、予防程度でしかなくてそこまで面倒を見ているとは思わない。
本気で面倒を見る時は100%趣味だ。
優のこともそうだし、ミコのこともそうだし。
千花のことも、最後にしたのは専門家としてじゃない、完全に個人的なことだし。
だから、恐らくそれは間違いだ。
「僕が本当に面倒を見るのは、僕が気に入っている人だけですよ。その他の人への対処なんて少し話したりちょっとだけ知り合いに頼んだりしている位ですよ。早坂先輩は僕の気に入っている人の範囲だからそう感じるのかもしれませんけど、意外とそうでもないですよ」
「それを本気でそう思っているからあなたは…。いえ、あなたの認識としては間違っていないんでしょうね。実際が全体的にワンランク上なだけで」
「なんですか?僕が人の面倒を見るのを大好きな、世話焼き人間だとでも思っているんですか?」
「その通りでしょう」
「そうですね!はい、その通りですよ!」
普通に言い負かされた!
色々とおかしなポイントあるけど、認めちゃったから確定の流れにしかならねぇ!
すいませんね、広瀬さん!
言い負けました!
でも、そっちには絶対に伝わらないから良いよね!
「はぁーー。ていうかさらっと流しましたけど、なんで基準に僕が居るんですか?」
「身近な男の例があなた位だからですよ」
「白銀先輩も居ると思うんですけどね~」
***
そして食事を終えて、港の見える丘公園に来た。
「へぇー。確かにカップル多いですね」
「そうですね」
いやはや、随分とイチャイチャチュッチュと。
確かにしやすい雰囲気にはなるだろうけど。
「これ、初デートとかで行く場所じゃあないでしょう。ウブな人達だとこの雰囲気で余計にできなくなるでしょ」
「……そうですね」
チラッと横を見ると、早坂先輩が顔を赤くして下を向いている。
なんていうか、僕の知り合いで2番目にウブなの早坂先輩だよね。
因みに1番は四条先輩。
「早坂先輩。彼氏を作るならちょっとウブな人にしましょう。その位の方が安心した進展になる気がします」
「アドバイスどうも。……そういうあなたは慣れた様子ですね。まさか…」
「いや、まぁ、校内でTPOも弁えない連中のアレコレとか聞いてたらそりゃあ、この雰囲気にも慣れますよ。それ抜きにしたって、もっとドロドロとしたのも見てきましたし」
「無駄に耳年増ですね」
「デフォルトなもので」
知りたくもないことを知ったりはするけど。
まぁ、基本的には有効活用しているから文句はないけれど。
「まぁ、恋人が居ることが幸せの第一条件って訳ではないですけど、どうせなら全力で青春して貰った方が嬉しいですから」
「……それを当たり前みたいに言うんですよね、あなたは」
「いや当たり前ですよ。身近な人に幸せになって欲しいと思うのは」
当たり前で普通のことだ。
いちいち言うまでもない。
いや、一年前の僕ならまた違ったことを言うのかもしれないけれど、少なくとも今の僕にとってはそれが正解だ。
「全く」
早坂先輩は呆れたように溜息をつき、月を見上げる。
その顔は月明かりに照らされて、綺麗だった。
「月が綺麗ですね」
「……美青が居るので、死ねませんね」
「そういう意味じゃないですよ」
「ええ、知ってますよ」
そうして僕たちは月を眺めていた。
外の風は随分と涼しかった。
***
後日談。というか、今回のオチ。
後日の放課後。
生徒会に四条先輩がやって来た。
「四条先輩。今日はどのような要件で」
「今日は…、御行と優の二人と遊びたい気分だから来ただけよ」
「一応、僕も居ますけど」
「誘うと思うの?」
「まぁ、なんだかんだで誘うかなーとは思いますけど」
四条先輩は時々生徒会室に来る。
主に、白銀先輩、優、時々四宮先輩、ミコの割合で会いに来る。
因みに僕に会いに来たことはない。
まぁ、そんなに仲がいい訳ではないからだが。
ぶっちゃけ、対応の度合いは四宮先輩と大差ない。
まぁ、なんだかんだで誘いはする辺りは良い人なんだけど。
「遊ぶと言ってもどうします?ゲーセンでも行きますか?」
「それでもいいが一旦着替えに帰らないといけないぞ。制服のままというのは生徒会としての示しがつかん」
「まぁ、そうですね」
四人で歩いていると、丁度角の所で早坂先輩に会う。
「今から俺たち遊びに行くんだが、早坂もどうだ?」
「いいんですか?」
「勿論です」
「断る理由はないわよ」
「……では」
ふむ。
いい傾向、いい傾向。
「じゃあカラオケとか?」
「「それは駄目」」
「白兎、仲良いの?」
そうこうしている内に、バッティングセンターに来る。
「流石ですね、早坂先輩。よっぽど雇用主に不満があったんですね」
「そういうあなたこそ、初めてという割には当てまくるじゃないですか」
「相変わらず、意外とムカつくやつね、鳴山」
「うわー……」
「本当に3人でバカスカ打ってる」
いやー、楽しいな。
こういう運動もたまには。
「それじゃあ、5人で成績でも競いますか。何人が同着1位になるか楽しみですね」
「負けた人がジュース奢りね」
「いいですよ」
そうして、バッティング対決をする。
「負けませんからね。早坂先輩」
「こっちこそ」
僕と早坂先輩は友達だ。
早坂の気持ちは好意になりきっていない好意です。