鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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二学期編のことも考えながら書いてる今日この頃。


はくとツアー

夏休み。それは、多くの学生にとって、楽しみなものだろう。

ある者は思う存分ゲームで遊び、ある者は友人と遊びに出かけ、ある者はバイトに明け暮れ、ある者は勉強に励む。

下世話なものには、恋人との関係を更に深めるものもいるだろう。

これらは、学生の特権である。

社会人には、そのような一ヶ月単位での休みなど存在しないのだから。

そして、僕は学生であると同時に()()()()()()でもある。

そんな僕に、真っ当な夏休み期間などない。

どこかの魔術と科学の戦いに巻き込まれにいく平凡な高校生ではないけれど、専門家としての僕の業務は、夏休みの方が多い。

つまり、ちょっとした遠征である。

 

***

 

「やぁ、久しぶり。兎野郎」

 

駅について、早々にムカつく無表情の童女がそこに居た。

ここは、東京駅。色々な駅の基準点であり、中心点である。

さて、僕がここにいるのは、遠征のためである。

臥煙さんからこんなメールが届いた。

 

「ちょっと、遠征してもらうよ。一週間分の着替えやら諸々の旅行道具を持って、朝の9時に東京駅に来てくれ。迎えの者は出しておくから」

 

相変わらず、説明が足りていない。

他の人なら、ちゃんと説明しろと言うところだが、何せこの人だ。

確信犯的に情報を制限している。

だから、説明はその迎えの者にやらせるんだろうなとは思っていたが、まさか斧乃木余接とは。

メンドクサイたら、ありゃしない。

 

「今、失礼なこと考えてたろ」

「そうだが、何が悪い」

「ふん」

 

どつかれた。結構普通に痛いが、何でも無いふりをした。

こいつ相手に、舐められるのは癪だ。

 

「それで、お前ひとりか?」

「いいや、違う。もう一人、学生、というと違うけれど、未成年の専門家と行く」

 

君と同じで、もっと経験を増やして欲しいという臥煙さんの目論見だ。と、斧乃木は続ける。

まぁ、そりゃそうだろうなと言った感じだった。

あの人は、あれで未成年であることを重要視する。

つまり、いざ問題が起きた時に()()()()()()()()()()()()を重視する。

所詮は高校生。現実的にもまだまだ責任を取る能力には欠けている。

そのため、遠征又は夜更けまで未成年を拘束する場合、同様の人か、大人をつけるようにしているらしい。

確定的に言えないのは、人づてに聞いただけで、直接聞いたわけでは無いからだ。

人づてだと、どこかで誤情報が混じっている可能性がある。

だから、半々ぐらいの感覚で聞くのが、丁度いいのである。

 

閑話休題

 

さて、学生と言えない未成年とはどういうことだろうか。

 

「お待たせ。斧乃木ちゃん」

「待っていたよ。撫公」

 

そこにやってきたのは、長ズボンにTシャツを着て、それなりに大きそうなキャリーバッグを持った変な位に可愛いショートヘアーの女子だった。

 

***

 

「えっと、初めまして。千石撫子(せんごくなでこ)と言います」

「こちらこそ、初めまして。鳴山白兎だ。よろしく」

 

と、お互いに挨拶をして、新幹線のホームに向かいながら、自己紹介をしていく。

千石撫子。16歳。職業は、漫画家兼()()()()()()

この春に東京に出てきて、漫画を連載しているらしい。

とは言っても、まだまだ全然売れていないし、生活が成り立たないため、専門家としての仕事で生計を立てているらしい。

なるほど、学生で無いとは、そもそも高校に進学していないのか。

正直、何やってんだこいつ、がそれを聞いた時の感想である。

いや、高校にさえ進学しないで、漫画家で食っていくって、どれだけの修羅の道だか分かっているのだろうか。

いくら見た目が()()()()()、やって良いことの限度があると思うぞ。

 

「そうだね。確かにそれだけなら夢見るだけの甘ったれたガキだ」

「平然と、地の文を読むんじゃない。直接言わないから良いんだろうが」

 

こういう風に、斧乃木が絡むと地の文までも読んでくるから、果てしなくメンドクサイ。

千石撫子は、笑顔になっているが、どう考えても裏で切れているだろう。

どうしてくれるんだ。ファーストコンタクトから大失敗じゃねぇか。

 

「まぁそれもいいんじゃないかな。どうせ、最後には印象最悪で終わるんだろうし」

「勝手に決めつけんな。要件と宿泊するものを置いたら、すぐに帰れ」

 

本当に、腹立たしい童女である。

 

「分かったよ。撫公には既に今回の内容は説明してあるから、お前にはこれをやろう。お前の場合、こっちの方が分かりやすいんだろう?」

 

そう言うと、茶封筒を貰った。今回の仕事の内容と宿屋の場所、行き帰りの新幹線のチケットなどが入っていた。

 

「それじゃあ僕は失礼するよ。じゃあね」

 

そういうと、童女は去っていった。相変わらず、腹が立つ童女だった。

 

***

 

さて、新幹線での移動中に今回の仕事内容について、話しておこう。

今回の遠征の場所、島根県の出雲である。

セレクトが日本の怪異譚の聖地みたいな場所である。

出雲国。そこは、日本神話において、かなり重要な場所である。

なぜならそこは、大国主が祀られているところだからだ。

大国主。かの有名な建速須佐之男命の子孫であり、神話上で初めて、日本を治めた神である。

その行いを端的に言うと、日本随一の浮気者である。

日本を治めるために、あっちこっちに妻を娶り、子供を作ってやりたい放題。

お陰で、正妻がかんかんになるという自体が発生している。

出雲大社は、縁結びの神社として知られているが、祭神がこいつであると考えると必ずしも良い縁とは限らなそうだ。

一応、補足として大国主が娶ったのは主にその土地の有力者の娘であり、婚姻を結ぶことは、その家同士の繋がりを強めるためであるのを注意してもらいたい。

 

閑話休題

 

それで解決するべき問題は、ある異常事態を解決することにある。

それは、とある子供が全く()()()()()()ことである。

何故歳を取らないのか。その理由を解き明かすことも仕事の一部とのことだ。

詳しいことは、本人に聞くように書かれていた。

……歳を取らないね。この時点だと神隠しにあった位しか浮かばないな。出雲だし。

 

「なんで、出雲ならそうなうなるの」

「お前もこっちの地の文が読める口かよ」

 

全く、地の文は本来、誰にも侵されない聖域のはずなのに、当たり前のようにどいつもこいつも入ってきやがって。

 

「いやいや、そんなに読み取れるわけじゃないよ?」

「変に可愛らしいなお前。でも騙されないからな?普通に読んできてるのわかってるからな?」

「そんなこと無いと思うけど」

 

うーん。と、悩んでいるのもぱっと見で可愛いものなのだから、これは真性の部類だなと感じる。

真性なものほど恐ろしいのは、古今東西あらゆる者に言えることである。

そう考えると、こいつが高校に行っていないのはそこら辺に原因があるのでは無いだろうか。

 

「それで話を戻すけど、どうして出雲だと神隠しだと思う」

「いや、単純に神が集まる場所だからだよ」

「えっ、本当に?」

 

……どうやらこの娘は神話についての知識が足らないらしい。

 

「10月のことを神無月って言うことがあるだろう」

「あれは、10月は神様が一箇所に集まって話し合うからその間、神社には神がいなくなることを指してるんだ」

「その集まる場所が、出雲だ」

「だから出雲では、10月のことを逆に神在月って言うんだ」

 

ふーんそうなんだ。と感心するように言うが、果たしてどこまで理解しているかは不明である。

可愛いイメージで隠れちゃいるが、しかし、多分こいつ馬鹿だ。

 

「私としては、歳を取らないって聞くと、タイムふろしきが浮かぶかな」

「なんでまた、ドラえもんのひみつ道具なんだ」

「もう、22世紀まで、100年をとっくに切っているのに、未だにドラえもんは生まれそうに無いよね」

「まぁ、ドラえもんを作るより、タイムマシンを作るほうが難しいと個人的に思うけどな」

 

まだまだ、相対性理論のことも知り尽くせてないのに、タイムマシンなど夢のまた夢だろう。

まだしも、AIの発展によるドラえもん誕生の方が簡単な気がする。

でも、ドラえもんが出来ると人類はいよいよ要らなくなりそうだし、まだ生まれなくてもいいような気がする。

 

「でも、ドラえもんのひみつ道具で一番作れないのは、もしもボックスだと思うんだよね」

「それには同意する」

 

あれは、条理を捻じ曲げるヤバい秘密道具だ。

あんなもんが普通に売られているドラえもん世界の22世紀は一体どんなヤバい世界なのだろうか。

 

「意外と漫画とか読むの?」

「そうだな。そこそこ読む」

 

そこから、千石撫子との漫画トークを繰り広げるのだが、余りにも長いため、割愛する。

僕は、本筋から離れすぎるのは嫌いである。

 

***

 

という訳で一日目、7時間かけて、出雲に到着。

現在、夕方の4時半である。

一日目は、このまま宿屋に直行なのだが、一つ問題がある。

 

部屋が一つしか取られていない。

 

何を言っているか、自分でも分からないのでもう一度言おう。

 

部屋が一つしか取られていない。

 

……うん。ふざけんなテメー!?年頃の男女を同じ部屋に押し込むとか馬鹿のすることだろ!?

常識的に考えろよ、このボケナス!?

 

それを、千石に言うと(意外と漫画トークで仲良くなった)、

 

「えっ!?そうなの!?マジデスカ。あの野郎、覚えてろよ」

 

と、隠せない位にキレているのが分かった。

さて、ここで問題。

今私達は、お互いに宿代抜きで一週間旅行するぐらいの持ち合わせしかありません。

しかも、夏休みの時期で予約も一杯です。

ここで、私達のとれる最善の行動は何でしょう?

……えぇ~、やっぱりそれしかねぇの?

 

「どうする?」

「どうするって言ってもねぇー」

「別にこっちはそうなったらそうなったで何もなく過ごせるけど?」

「なんか、それはそれで女としての品格がなくなる気がする」

 

そんなことはないと思うが。

こっちとしては、盛りのついた猿じゃあるまいし、襲う気が全く起きないだろうし。

 

「それが女としての舐められてるツッてんだよ!!」

 

怒られた。もう、地の文が読まれるのは仕方ないと割り切るしかないのだろうか。

 

「そこじゃねぇだろうが!!いいぜ、やってやろうじゃねぇか!!どうなっても知らねぇからな!!」

 

怒られたけど、傍からみたら訳が分からないんだろうな。

 

***

 

さて、まだ怪異にあった少年とさえあって居ないのに、普段語るものよりも長くなるのは、何故だろう?

これ、ちゃんと語り終えられるんだろうか。

それはさておき、一日目の夜は特に何もなかった。

千石が妙に色っぽい食べ方や浴衣を着崩していたが、そんな色仕掛けは僕には意味がない。

というか、異性としての僕の興味を引くのに、初手色仕掛けは何の意味もない。

と、言う訳で二日目。

件の少年との待ち合わせ場所のある公園に訪れた。

隣で千石が色仕掛けについてぶつぶつ言っているが、そんなの知ったことではない。

と、そこに現れた少年は、特徴的な髪型をして、黒い大きな眼鏡を掛けた、どっかで見たような風貌の少年だった。

というか、見た目は子供、頭脳は大人な見た目だった。

 

「こんにちは、お兄ちゃん達だよね?待ち合わせの人って」

「あ、ああ、ええと、一応名前を聞いてもいいかな」

竜宮湖南(りゅうぐうこなん)だよ」

 

資料に書かれていた名前と一致している。

どうやら、間違い無いようだ。

 

「ねぇ、コナンくんに似てるって言われない?」

「言われるよ。というか、わざとそうしてるの。キャラ立ちのために」

 

千石が結構アレなことを聞いてきたが、この子もこの子でそう返すのは中々の逸材と言った感じだ。

 

「そういえば、月火ちゃんも言っていたけれど、クリエーターとして大変なのは魅力的なキャラを作ること何だよね。最近はやれ聖人君子だのやれウジウジ悩むなだの、キャラクターとしての個性が制限され気味なんだよね」

「それは、読者が求めるものと作者が作りたいものの違いが理由だろうけど、需要と供給という関係がある以上、読者の意見も取り入れないと駄目だろう」

「でも、それで物語の発展性が失われたら意味がないと思わない?存外、初期プロットのものをお出ししたら物議を醸しつつも味わい深いになったかもしれないし」

「それは結果論だろ。もし、完全に自分の思ったようにやりたいなら個人制作でやってろって話じゃないか?」

「漫画やラノベならまだ、それは出来るかもしれないけど、それだとまともに生活出来るぐらいのお金を稼げないじゃない。アニメは流石に作れないし」

「そもそも漫画家一本で生活が成り立つやつの方が珍しいだろ。それで稼ぐ気ならちゃんと考えてやらないと」

「あのー、そろそろこっちのことを話していいですか」

「「どうぞどうぞ」」

 

製作者(クリエイター)トークもそこそこにして取り敢えず、彼の話を聞こう。

 

「僕は今、13歳で中学一年生なんだけど、今の姿はどこからどう見ても、小学一年生だよね」

()()()()に、いつからなっていたのかは分からないんだ」

「一年生の頃からだってのは分かるんだけど」

「その前までは、ちゃんと()()して、身長も伸びていたし、体重も増えていた」

「おかしさを感じ始めたのは、二年生になってからだった」

「周りとの、身長差が大きくなっていた」

「これだけなら、まぁ成長期が遅いんだろうな、そういう身長が伸びないタイプなんだろうな、で済んだ」

「けど、明らかにおかしいと感じたのは、体育や食事の時だった」

「明らかに一年生並みの速さでしか走れないし、一年生並みにしか食べれなかった」

「幸い、勉強に関しては問題なかったけど、それでも周りが成長してるのに自分だけが成長しないのは結構辛かった」

「だから、まずは体力をつけるために必死で運動した。一年生のするような運動量じゃないって位に運動をし続けた」

「でも、()()()()()()()。50メートル走のタイムも握力もボール投げの飛距離も、どれも小学一年生のものと一切変わっていなかった」

「両親もそのことが心配だったみたいで、色んな病院に連れていって貰った」

「お母さんがよく、連れて行ってくれた」

「けど、何もわからなかった」

「健康的な体ですね。成長期が遅めなだけでしょう」

「そう言って、いつも帰された」

「そうして、もう手立てがないと思って折に、父の友人から連絡が入ってね」

「臥煙伊豆湖という人なら、それを治す方法が分かるかも知れないって」

「でも、うちの両親は忙しくて、帰るのも夜遅いし、帰って来るのもどっちか一方しかだけってのも多くて」

「だから、今日は一人で来たんだ」

「お願いします。どうか、この症状を治してください」

 

***

 

「この件、どう思うよ?」

 

一連の話を聞き、公園にいても仕方ないので、取り敢えず、鳥取県の砂丘でも見に行くかとそっちに向かった。

海に入るという選択肢も無きにしもあらずだが、それは仕事を終えてからである。

見た目通りの年齢で無いとはいえ、やはりまだまだ子供なのか、砂丘が楽しみだと言う湖南くんは可愛いものだった。

道中、色んな話(主に高校のこと)を話したが、湖南くんだけでなく、千石も結構真面目に聞いていた。

やはり、高校に行けなかったのがちょっとは未練があったのか、はたまた、漫画のネタに高校のネタを使いたいのか。

個人的には、後者のほうが好感が持てる。

そして、砂丘に着き、遊んでいる湖南くんを尻目に話しかけた。

 

「実際に不可解だよね。ただ()()じゃなくても起こり得そうな雰囲気もあるけど」

「まぁ、今回は原因は怪異だよ」

「どうして、そう分かるの?」

「そりゃ、怪異の匂いがするからだよ」

 

彼からね。というと、千石は驚いたような顔をして、怪異に匂いなんてあるの!?もしかして、専門家に必須な能力!?って言ったが、そうじゃないと言う。

 

「違うよ。これはあくまで個人的に持っている能力だ。必須の能力じゃない」

 

そう、こういう能力を持つ奴は()()()()()()()()()

 

「ただ、何の怪異かを解き明かさないことには手出しの仕様がないからな。彼からもうちょっと聞き出そう」

「なんかはぐらかされた気がするけど、いいよ。聞きにいこう」

 

と、その辺で走っていた湖南くんに僕は聞いた。

 

「今まで、家族との旅行で何かなかった?」

「えっ。うーん。何もなかったような、、あっ、一個あった」

「なんだい?」

「小学一年生の頃にね、家族のみんなでこんな広い海に来たんだけど、そこでね、お父さんと浜辺で歩いているとね、亀がひっくり返っててね、それを助けたの」

「おう、偉いな」

 

そうやって、頭を撫で回した。すこし、抵抗したけど嫌がっているようには見えなかった。

本当に子供は可愛いものだ。その無邪気さが()()()()あるけれど。

さて、これで僕個人の推理が信憑性を帯びてきたけど、確証はない。

臥煙さんに、少し調べてもらおう。

そうしている間に、湖南くんと千石は仲良く遊びながら情報を探っていた。

こういう時に、可愛いのは便利だなと思いつつ、僕もまた、混じりにいく。

 

***

 

その日の夜、湖南くんも同じ宿だったようで、一緒に戻り、一緒に温泉に入ったり、卓球したりして遊んだ。

その後、部屋に戻って、布団でこれまた妙に色っぽいはだけさせている千石と話した。

 

「なんだその格好。痴女かよ」

「違うもん。こうすれば、少しは欲情するかなーって」

「しねーよ。僕を落としたいなら、まず、僕の警戒を解けるようになってからにしろ」

 

むぅーと、また可愛い感じで振る舞うのだから、あざとい。

そのあざとさが僕に通じるかは別として。

 

「それで、分かったの?あの子に憑いてる怪異」

「あぁ、臥煙さんからも丁度裏付けも取れた」

 

そう、()()()()()()()()()

後は、明日、彼がそれと向き合えるか、だ。

 

「それじゃあ、どの道明日で仕事は終わり?」

「あぁ、そうなるな」

 

ふーんと、印象深いのか、そうでないのか、判断がつかない声で言った。

まぁ、でも、折角ここまで来たんだ。もっと楽しみたいよな。

 

「ま、終わったら海にでも泳ぎに行くか。動かさないと体も鈍るしな」

「いいの?私の水着で悩殺するよ」

「やれるもんなら、やってみろよ」

 

そんな、軽口を叩きながら、その日は眠りについた。

 

***

 

翌朝、湖南くんと千石を連れて、海辺の海岸まで来た。

ここなら、あまり人気もないだろう。

念の為、結界も貼っておいて、儀式の準備も昨晩、臥煙さんに頼んでおいた。

主に神酒のためである。未成年は、酒を買えない。

 

「さて、それじゃあ、今日のうちに君の問題を解決するけど、一つだけ先に覚えておいて」

「なんですか?」

「身長や身体能力はすぐには戻らないこと。これからは、かなりの速度で成長するとは思うけど、それでも急に身長が160センチになったりするわけじゃないのは、覚えておいて」

「はい、分かりました」

「それじゃあ、千石。頼んでおいたものは()()()()()()()?」

「うん。はいこれ」

 

と、手渡されたのはロープやらろうそくやらである。

これも式神を作る要領で描いて、実体化出来るのだから、中々怪異じみている。

それらを、所定の位置に置くと問答から始めた。

 

「それじゃあ、湖南くん。目を瞑って」

 

素直に従って、目を瞑っている。ここに来てから、ずっと素直な子だ。

だからこそ、この怪異に行き着いたのだろうけど。

 

「一年生の頃、旅行に行って、亀を助けたんだよね」

「はい」

「行き先は、鹿児島かな?」

「えっ、はい」

「ああ、目は開けないでね」

 

ここまでは、予想の範疇。というか、蛇足に近い部分だ。

 

「それじゃあ、その時の旅行の時に、お父さんとの関係はどうだったかな?」

「良かったと思います。一緒に釣りにも行きましたし」

「それじゃあ、お母さんとはどうだったかな?」

「お母さんとも良かったと思います。一緒にショッピングにも行きましたし」

「そうかい。それじゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「っ、そ、それは、、」

 

当たりだ。

 

「悪かったんじゃないのかい?湖南くんが高校を卒業したら離婚すると話す位に」

 

目を瞑りながらも、明らかに動揺していた。

図星を突かれたような顔をした。

隣にいる千石はそこまで動揺している様子はない。

彼女もそれとなく、気づいていたのだろう。

彼から聞いた両親の職業は、父がラーメン屋で、母がケーキ屋だった。

どう考えても、()()()()()()()()()()()()()()

飲食店は、高級な店でも無い限り、休みは確実に取れるし時間外労働など早々に起きない。

それを抜きにしても、彼からは、両親の片一方との思い出ばかりで、()()()()()()()()()()()()()を聞かなかった。

つまり、それほどに仲が悪かったのだろう。どちらも、関わりたくない位に。

 

「それでも、君のことは両親の二人共が愛してくれた。優しくしてくれた。甘えさせてくれた」

「だから君はその亀を見て、思ったんじゃないのかい?亀がゆっくり歩くように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?ってね」

「……」

 

沈黙は、肯定と同義である。つまり、その通りなのだろう。

怪異に成長が遅れるように願った。

それだけだ。

だが、このままでは彼は前に進めない。

余計な枷は外さなければならない。

だから、僕は言葉を紡ごうとした。

しかし、その前に千石が彼の肩を掴み、こう言った。

 

「あのね、いつまでも同じままでは居られないの」

「人は、いつか変わってしまうの」

「でも、それは決して悪いことばかりじゃないの」

「だから、湖南くんも変わろう」

「例え、お父さんとお母さんが離れていったとしても、湖南くんの前から居なくなるわけじゃないんだから」

「もし、それでも嫌なら、その気持ちを二人に言いなよ」

「精一杯努力したことは無駄にならないから」

 

その言葉が、果たしてどこまで湖南くんに響いたかは分からない。

でも、彼は確かに前を向いた。

 

「さて、覚悟は決まったかい?」

「はい」

 

力強い言葉だった。

僕は、海の方を向くと酒を海に撒いた。

 

「さぁ、目を開けて、その気持ちを伝えると良いよ」

 

そして、彼が目を開けると、驚いたような顔をしたが、それでもハッキリ言った。

 

「僕はもう前を向きます。成長することをもう拒みません。だから、進ませて下さい。お願いします」

 

ふと、彼から怪異の匂いが消えた。

彼の目に何が写ったのかは、僕や千石では分からないけれど、それでも、顔を上げた彼の素晴らしい笑顔に安心したのだった。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

 

「それで、結局どんな怪異だったの?」

「うん、ああ、のろい亀って名前だったよ」

 

約束通り、水着姿で二人でボール遊びをしている僕たちである。

傍から見れば、可愛い子とのデート。

周りから嫉妬の気配が感じられるが、心底どうでもいい視線である。

こいつの性格は、そんなに可愛くない。

そのぐらいが一番可愛いんだけどな。

 

「鈍い亀であり、呪い亀だ」

「つまり、成長を鈍くさせる呪いの亀ってこと?」

「まぁ、そんなところだが、神の使いをそんな言い方は良くないんだろうな」

「えっ、神の使いなの?」

 

そう、神酒を準備した段階で、察する人は察すると思うが、神の使いなのである。

この怪異の出自は分かりやすく、浦島太郎である。

あの物語では、竜宮城に数日過ごした後、地上に戻ると数十年経っていたというものだが、これは遊んでいる間に周りに置いていかれたという話である。

今回の事例では、成長するのを止めたかった。言い換えれば、()()()()()()()()()()とも取ることが出来る。

いつだかに報告で見た、うつろいねじりの逆をいく怪異と言えるだろう。

そして、浦島太郎の元ネタとして、日本神話の山幸彦の話がある。

そこで神として、塩椎神(しおつちのかみ)が、山幸彦を海の神である綿津見神のいる宮殿まで連れて行く話がある。

それまでの経緯と結末については省略するが、つまりこの塩椎神がその亀の由来である。

 

「だから、のろい亀は多分神の使いなんだろう」

「ふーん。旅行場所もそれに関係しているの?」

「まぁな。でも基本的には偶然の産物なんだろう」

 

トスをしあっていたら、千石がボールを落とした。

数日見てて思ったが、漫画家の割に体力はあるっぽい。

 

「それじゃあ、あの子に渡したお香は玉手箱の煙ってところかな」

「当たり。正確には、あの怪異に憑かれたやつに効く、歳をとる煙だ。とは言え、最初に彼に言ったようにすぐに本来の身長に戻る訳じゃない」

 

それでも、中学を卒業するまでには戻っているだろうけど。と続けると、またトスを開始した。

その夜、お互いの親睦を深めるのも兼ねて互いの怪異譚を語り合った。 

まぁ、こうやって専門家になっている時点でお互いの失敗談を明かし合っているようなものだったけれど。

お互いに語り合った後の感想は、似ているけど()()であった。

 

「でも、白兎くんと仲良くなれるとは思わなかったな。正直、初対面の印象は結構悪かったし」

「まぁな。斧乃木が余計な事言ったせいだよ。全く」

「一応、斧乃木ちゃんは私の親友だから、あまり悪く言わないで」

「そりゃ悪かったな、撫子」

 

名前呼びをし合うぐらいには、仲良くなった。

 

「それにしても、今回の仕事はぶっちゃけ白兎くんだけでも終わったのに、どうして私を巻き込んだんだろう?」

「さぁな。存外、僕たちを仲良くさせることが目的だったりしてな」

「えぇー。それじゃあ、()()()()()()する?」

「しないよ。愛のない()()()()()()は嫌いだし、それにお前とは友達としては親友になれても、恋人としては上手くいかなそうだしな」

「そっか。ざんねーん」

 

その後、残った三日間を千石とのデートしながら、楽しんだ。

夏休みはまだまだ続く。

 




この話の千石のキャラに違和感が結構あるけど、でも彼女は魔性で軽くビッチだと思う。
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