鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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久々に投稿する今日この頃。


後日談 はくとシン

罪と罰。

これはあらゆる創作のテーマとしても扱われる、答えのない問いかけだ。

何を罪とし、何を罰とするのか。

それは時代が決めるものか。

場所が決めるものか。

あるいは。

人が決めるものなのか。

神が決めるものなのか。

そこに確固たる解答はない。

僕に言えることは、少なくとも僕は罪を犯し、罰を受ける存在であるということだけだ。

僕のしたことは、時代も、場所も、人も、神も、きっと皆が罪であるというだろう。

怪異は言い訳にはならない。

怪異は望まれて、そこにいるのだから。

人が望むからこそ、怪異はいるのだから。

もしも、怪異に罪が生まれるのだとすれば、それは己の在り方を偽った時だけだろう。

その時に許さないのは世界。

裁くのはバランサーだ。

まぁ、条理から外れた存在がそれでもなお自己を保つには確固たる在り方が必要ということだ。

 

閑話休題

 

つまり、人の罪は人にしか背負えないという話だ。

僕個人の考えを述べるのであれば、己の罪は己が背負うしかない。

他者に押し付けてはいけない。

他者に罪を背負わせることは即ち呪い。

人を呪えば、それ以上の呪いを背負うこととなる。

それは結果として、己を更に苦しめることになる。

その苦しみは、他者に押し付けること止めない限り、終わることはない。

罪を背負うこととは即ち罰を受けるということだろう。

罰とは、ただ苦痛を与えるものではない。

罰とは、その罪の重さを理解し、忘れることがないように己に刻み込むことだ。

故に、罪に向き合わずに他者に押し付けるものは永遠とただの苦しみを受け続けることになる。

無知の無知であることは罪にはならないだろう。

だけれど、罪の無知は許されない。

厳しいようだが、しかし、必要なことだから。

僕は今も罰を受けよう。

自分の罪を忘れない為に。

そして、誰かが罪を犯しそうになった時。

止められるようでありたい。

あるいは、誰かが罪を犯し、悔いている時。

その誰かと向き合い、罰を受けつつも、前を向けられるようにしたい。

それが僕が僕で決めた、自分の在り方なのだから。

 

***

 

夏休みの新幹線の中。

僕こと、鳴山白兎は、

 

「ぁっ~~っぁぁぁっ~~~」

「白兎、大丈夫?ゾンビみたいな掠れた声になってるけど」

 

疲れ切っていた。

さて、何故こんなことになっているのか。

それは夏休みに入って少しした頃。

とある財閥を、武力的かつ経済的かつ法律的かつ呪術的に倒したことが理由だ。

3学期の早坂先輩の解任になると分かった辺りから仕込みを開始していたが、それをどうにか成功させたのだ。

実際の内容はまた別の機会に譲るが、まぁ、色々やった。

因みに臥煙さんは説得した上で巻き込んでいるから、問題もない。

呪術的とは言っても、精々特定の()()に関わることに手出しをするな程度のものだ。

基本的には人間社会のルールの中で倒した。

まぁ、流石に日本経済の方にも一時激震は走ったが、すぐに対処出来るように準備はしていたので問題はなかった。

と、ここまで何やら凄いことをした、みたいな雰囲気になるが間違いである。

僕自身は利害の一致する人物達をつなぎ合わせ、そこに僕自身の希望を差し込んだだけだ。

大きな動きはもっと上の人達がしていた。

何より、一番頑張ったのはあの二人だ。

そこを譲ることは出来ない。

が、それはそれとして臥煙さんとしても得は結構あったが、というかあるようにしたのだが、流石にやることが大きいので対価として大量の仕事が渡された。

それを10日間徹夜して片付けた。

それに加えて、更にとある元ご令嬢の海外行きの費用やらを渡したりなどの後処理をし終えたのがつい2日前。

夏休みの宿題はことが起きる前に片付けていたのは良かったが、流石に神様でもほぼ不休で働きづめては疲れるというもので、2日経った今でも疲れが取れていないのであった。

 

「やっぱり、止めておいた方が良かった?」

「うんにゃ、むしろ外に出るようにしないと体がダルくなる。休むときは段階的に休まんと」

 

実際は神様なので、体がだるくなるということもないのだが、まぁ、気分の問題だ。

ある意味、僕もまだ人間性が残ってもいるということかもしれない。

と、美青とは今、GWの福引で当てた旅行中なのだ。

多忙に溢れるであろうこの夏休みの中で2大楽しみイベントの1つだ。

これに行かないという選択肢はない。

 

「それに」

「んん?」

「癒やし成分が枯渇しすぎてからね。存分に補給させて貰わないと」

 

そう言って、手を繋いで少しこちら側に美青を引き寄せる。

久々の人肌はとても心地良い。

本音を言うなら思い切り抱きしめたい所だが、流石に横並びの席でそれは出来ない。

 

「白兎、頭がちょっと駄目になってません?」

「なってるだろうな。でも、駄目になれるのはお前が居るからだよ」

「そんなこと言って。まぁ、嬉しいんだけどね。甘えてくれてるんだし」

 

美青もこちらの方に寄りかかってくる。

それを受け止めながら、居心地の良さを感じていた。

 

***

 

新幹線から乗り換え、電車の中。

僕たちは旅行先の話をしていた。

 

「旅行先の地名は確か、外賀梨村(とがなしむら)だったな」

「そうそう。温泉とか梨の産地で有名な所らしいよ」

 

後は犯罪率の圧倒的な低さなんかが見て取れたな。

元々は知る人ぞ知る秘境のような所だったらしいが、今の現代日本において、そんな場所はまぁないわけで。

とはいえ、一般的な知名度はそれほど高い場所ではない。

事実、僕も最初に場所を聞いても、どこだかは分からなかった。

 

「ああ、でも、温泉はいいな。疲れを取るのに向いてる」

「そうだね。お土産にも困らなさそうだし」

 

そうして話していると、ふと違和感を感じた。

咄嗟に美青の手を取り、力を流し入れる。

 

「は、白兎?どうしたの?」

「あ、いや、う~ん、ひとまずは何でもない」

「なんか煮え切らない言い方ですね」

「まぁ、僕の考えすぎの可能性が高いから」

 

美青は不満そうな顔はしつつも、それ以上は聞いてこなかった。

それに申し訳無さを感じつつ、改めて感じた違和感を考える。

今のは何か()()()()()の中に入った感覚だった。

その感覚の分かりやすい例で言えば、結界だ。

結界にも探知するものから人の出入りを遮断するものまで色々あるが、そのどれもがまたげば空気が変わる。

一般人ではまず感じることのないものだが、専門家ならばそれは違和感として残る。

が、僕が感じた違和感は結界とは違う。

なんというか、本当に世界が隔てているというか。

どちらかというと、広瀬さんに会ったときの感覚に近い。

比喩ではなく、明確に世界が違うものにあったような感じのものだ。

だから、美青を保護する為に少し力を流し込んでプロテクトをかけたが。

しかし、考えすぎかもしれない。

結界に近しい何かはあるが、今は電車の中で内と外での出入りは自由に出来る。

それはつまり、何かの制約がつく類のものではないということだ。

ならば、特に気にする必要もない。

今は旅行中。

余計なことは考えないようにしよう。

 

***

 

そうして辿り着いた外賀梨村はとても綺麗な村だった。

 

「凄いね」

「ああ、ここまで綺麗なのは初めて見る」

 

自然と村が綺麗な情景を描いている。

これは意図して生み出せるものじゃない。

いくつもの努力を重ねて作り上げられたもの。

そうとしか思えない景色だ。

美青と手を繋いで、村を歩く。

流石に都会ほどではないが、村もかなり近代化している。

それでも、自然とのバランスに揺らぎがない。

 

「街にはその街の人の色が出るとは聞くけど、ここまで澄んでいるとは」

「え、そうなんですか?」

「ほら、ゴミとかがそこら中にある場所は犯罪率が高いっていうでしょ。環境は人に影響を与える。その逆説で人が環境に影響を与えることもあるって話だ。さっきの話で言うなら、ゴミをきちんと捨てて掃除したりすることで犯罪率が減るってこと」

「ああ、なるほど。それが色ってことですか。……白兎は環境を作るタイプですよね」

「環境が人に与える影響はよく分かってるからな。勿論、個人が環境に影響を与えることはあるんだけど、それはかなり難しい。なにせ小さい力で大きいものを動かすってことだからな。それが簡単に出来るタイプは多分、結構ヤバいヤツだよ」

「つまり、白兎はヤバいヤツだと」

「まぁ、神様だから。それに僕自身で変えてる訳じゃない。僕は影響を与えやすい人に干渉して望む指向性を与えているだけ。四宮先輩とかなら、やろうと思えば出来ると思うし」

「普通にそれはヤバいのでは?」

「まぁ、そうか?」

 

否定は出来ない。

割と成り行きとはいえ、神様にもなった奴がヤバくないとは言えない。

少なくとも、元神様の撫子は現在進行系でヤバさが増してるし。

それに別の意味でのヤバいのは確かだしな。

…………。

あの時の罪、そして仕事での罪。

大丈夫。

忘れていない。

失くさない。

手がギュッと握られる。

 

「大丈夫ですよ」

「本当にアッサリとバレるようになったな」

「白兎が分かりやすいのが悪いんです」

「違いないや」

 

***

 

そんな風に話しながら観光をする。

とは言え、博物館なんかがある訳ではない。

今向かっているのは、村にはつきものに近い神社だ。

 

「ここですね」

科見(とがみ)神社か」

 

神社の作りそのものはどこでも見るようなものだが、よく綺麗にされている。

やはり、ここにも村の色がある。

だが、

 

「どうしたんですか?眉間にシワを寄せて」

「いや、なんというか。意外なことがあってな」

 

神社の社に神がいない。

これだけ綺麗にされているのだ。

まず、参拝客がいないということはない。

なんなら、村からの信仰だけでも成り立つ位だ。

なのに、神がいない。

とはいえ、存在していないという訳ではないだろう。

来る時に感じた結界はここを中心として作り出されている。

結界というものは指向性を与える何者かが存在しなくては生まれない。

信仰の度合いから考えても、あの結界らしきものを生み出しているのはここの神に違いない。

勿論、出歩く神もいる。

というか、今の僕が出歩く神だ。

しかし、結界のようなものを作っている以上、自分の領域に己と同格クラスのものが入れば気づくだろうし、警戒だってするだろう。

それが何もないというのはどうしようもなく違和感だ。

 

「深入りしようとも思わないけど」

 

そう結論付けた時、声が聞こえた。

 

「はぁ……。行ってくる」

「え?あっ、ちょっ…」

 

美青の返事は待たずに声のした方に向かう。

待ってたら、間に合いそうになかったから。

普通に見ていたら気が付かなそうな木々の奥に駆け込む。

そして、向かった先で腕を掴む。

 

「で、これは何?」

 

そこに居たのは今にも包丁で襲いかかろうとした中年の男と、まさに刺されそうになっていた推定16歳位の女の子だった。

 

「なんじゃ、おどれは!離せ!」

「いやいや、包丁なんてものを抜き身で振りかぶろうとしている人を離せはないでしょ」

「じゃかましい!」

 

そう言って、こぶしをこちらに対して振るってくる。

その様は明らかに平常な人間のそれではない。

錯乱した人間のそれだ。

まぁ、そんな人間の相手はずっとしてきた。

なので、そのこぶしを簡単に受け止め、包丁を持っている方の腕に力を込める。

 

「ああ、だぁぁぁ!」

 

あまりの痛みで包丁を落としたのを確認して、僕は包丁を蹴飛ばし、腕を拘束したまま首を締める。

 

「うううぅ、うぁっ、ぁっ」

 

意識が飛んだことを確認する。

当然のことながら、死んではいない。

この程度の加減なら慣れたものだ。

首絞めは痕が残らずに制圧が出来るので便利だと思う。

と、まぁ、そんなことはおいておいて。

 

「あ、あなたは誰?」

「誰って、旅行者だけど」

 

***

 

神社の中、僕と美青とさっき助けた女の子は座っていた。

 

「さっきは助けてもらってありがとうございます」

「それは別にいいんだけど、なんで殺されかけてたの?」

 

あの後、中年の男にかけられた()()()()()()()()をそれとなく解きながら、通報しようとしたが

 

『それは待ってください!』

 

と、目の前の女の子に止められて、取り敢えずはその中年の男を起こしたがどうやら記憶が曖昧になっているようだった。

その子はその様子を見ると、少し疑問そうな顔をして、その中年の男に戻るように言った。

こちらもひとまずはそれに乗った。

訳ありなのは目に見えていたから。

物理的に。

という訳でどうやらこの神社の家系だったらしいこの女の子と神社でこうして座っている。

 

「それは……、分からない」

「分からないって…」

「じゃあ、質問を変える。お前は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「!?」

 

その少女は明らかに動揺していた。

訳の分からないことを聞かれたから、ではない。

何もない所から正解を引き出されたような顔だ。

 

「あなたも魔女なの!?」

「いや、全然違うが」

「あのー…、何の話か、全くついていけないですけど」

「アレだよ。タイムトラベラーならぬパラレルトラベラーなんだよ、こいつ」

 

来た時に感じた違和感。

その答えの半分はこいつだろう。

要するに中心点たるこの神社の家系で並行世界を移動してきた人物がいたから、結界に違和感が生じたのだ。

しかも、彼女は単純に並行世界を移動してきた訳ではないようだ。

肉体はこの世界のこの子のものぽいし。

 

「……あなたは何者なの?」

「さっきも言った通り、普通にここに観光しにきた者ってだけ。ようやく取れた休暇で疲れを取ろうと思っただけのね。まぁ、仕事しなくちゃいけなさそうだけど」

 

何一つとして、質問には答えてはいない。

だが、それとなく含む所は察したのだろう。

少し、悩むような素振りを見せながらもゆっくりと話し始めた。

 

「私の名前は科見礼子(とがみれいこ)。この神社の家系でこの神社の巫女。そして、いくつものカケラを渡った魔女よ」

「魔女?」

「魔女というのはこの神社にある文献に登場する存在の名前。カケラ、あなた達のいう平行世界を渡る存在のことよ。遥か昔、この神社が生まれた頃、この地を治めたのがその魔女、つまりはこの神社に祀られている神様なの。この地の神はカケラを紡ぐことでこの村を平定し、やがて崇められたと書かれていたわ。私はその魔女の家系の最後の一人。元々、科見家は子宝に恵まれる家系ではなくて基本的に子どもは一人だけだった。そして、私の両親は数年前に事故死した。だから、私一人。私が消えれば、この家系は潰えて神社も潰える。だからなんでしょうね、私は魔女になった。させられた、というのが正しいのかもしれないけどね」

 

と、その女の子、科見は言う。

僕は自分の心が冷えていくのを感じながら、疑問を口にする。

 

「それで?それがなんであんな風に殺されそうになるのに繋がるんだ?」

「……分からない」

「分からない?」

「分からないのよ。分かっているのは私が高校生になるまでにある一回を除いて必ず殺されることだけ。そして、その度に別のカケラの小学生の頃に戻されること。まるで運命でそう定められたように、延々と殺され続けた。もう200年はそんな日々よ」

「死因のパターンは?」

「分からないわ。死の前の数時間の記憶は引き継がれないのよ。分かるときは拷問されて殺されたときぐらいよ」

「嫌な死因ですね、それ」

 

美青は引いたように顔が青ざめている。

中々とショッキングな話題だろうに普通に話についていけてるのは僕との付き合いからだろう。

……なんだか、申し訳ない。

 

「そう言えば、一回を除いてって言ってましたけど、その一回は何だったんです?」

「その時はハイソサエティな女子校で、親友と一緒に行ったわ。とても楽しい日々だった。だというのに、またこの殺される世界に引き戻されたのよ」

 

科見は今にも狂いそうな声でそう嘆いた。

実際に怒っているのだろう。

何故、自分がそんな目にあわなければいけないのか。

どうして、乗り越えた筈のものに引き戻されたのか。

そういう怒りが込められていた。

ふと、大きな気配を感じたが気にせずに話を聞く。

 

「因みにその親友っていうのは?」

「ああ、幸在睡(さちありすい)っていうの。昔からの付き合いで今は一緒に暮らしてるの」

「一緒に?ということはその子の家でお世話になってるんですか?」

「いいえ、二人の家です。その……、睡の方の両親や兄も死んでいますから」

「………へぇ。よく二人で生活できるね。周りの大人は止めないの?」

「私はこの神社の跡取り。そこまで大きく反対はされなかった」

「ふぅ~ん」

「と、ところでその子はどういう子なんですか?」

 

美青が何か慌てた様子で話を変える。

……何が理由かはそれとなく分かるけども。

 

「睡はいつも頑張り屋で、運動なんかは私よりもよっぽど出来るの。……幼い頃に家族をなくして、それでも強く生きてる子なの」

「そう。所でトイレ借りていい?」

「え?ああ、そこの角の所にあるから」

「じゃあ、ちょっと失礼」

 

そう言って、僕はその部屋を離れた。

 

***

 

白兎が部屋を出るのを確認すると私は大きく息を吐く。

 

「はぁーーーー」

「どうかしたんですか?」

「いえ、白兎が雰囲気が怖かったもので」

「そうですか?」

 

どうやら科見さんは気がついていないらしい。

今回に関しては白兎も抑えていたから仕方ないのかもしれない。

いや、アレで抑えていたとも思えないけど、抑える努力はしていたから。

でも、アレに気が付かないというのは鈍感にもほどがある気もする。

白兎のあのキレっぷりを見たのは、いつだかのデートの時に白兎の小学生のときの同級生と出くわした位だ。

あの時は隠す気がないからか、終始絶対零度の態度を取っていた。

相手はそれに気づいた様子もなかったのだけれど。

白兎のことをよく見ているのもあるけれど、白兎の人の見方もよく見ていた。

だからこそ、よく分かる。

この人の話には、嘘がないということは。

でも、きっと白兎はそれ以上のことを見抜いてる。

恐らくは、今の話を聞いただけで色々な真相を見抜いたのだろう。

それでいて、あの怒り顔だからまぁ、アレなんだろう。

 

「なんというか、友達は大事にした方がいいですよ?」

「え?大事にしてるけど?」

「そうだといいんですけどね」

 

恐らくは大外れなのだろうけど、ひとまずは濁しておく。

後々の恐怖なんて、知らない方がいいに越したことはない。

 

「あの人がやるときは本気ですからね」

 

***

 

と、僕の様子からそれとなく見抜いたらしい。

流石は美青。

本当に勝てそうにない。

それはそれとして。

 

「こんにちは」

「こんにち……は?礼子の、友人なの?」

「違うよ。君がやろうとした惨劇を止めただけの人だ」

「……!」

 

僕の言葉を聞いて、幸在ちゃんは下を向く。

次に顔を上げたとき、彼女の目は人のものとは思えない、異常なものになっていた。

 

「あなたは何者ですか?」

「そうだね、君に力を与えた存在と似たような存在、かもね」

 

今回はあっさりと答えた。

 

***

 

二人で場所を移動する。

少しの森の奥。

いくつかのポイントを確認して、互いに向き合う。

 

「それにしても、よく私だと分かりましたわね。礼子は一度も気づく様子もなかったのに」

「さっきも言ったけど、似たり寄ったりの存在だからな。大体はぱっと見ただけで分かる」

「不条理にも程がありますわ」

 

幸在ちゃんは悩ましそうに頭に手を置く。

 

「不条理で酷いことをしている人が言えたことじゃないと思うけど」

「不条理……。まぁ、確かにそうですわね。でも、私は……」

「悪いよ」

 

先手を打って、答えた。

 

「どういう過程であれ、人を殺すというのは悪いことだ。言い訳の余地なくね。だから、お前は悪い」

「こっちの話を聞く気はないんですのね」

 

殺意に溢れた目をこちらに向けてくる。

次の瞬間、左斜めから飛んでくる尖った木を見ずにキャッチする。

その後に横から近づく丸太を前屈みで避ける。

当然、すぐ前にある落とし穴は踏まない。

 

「後、7つ。まだやる?」

「なんで分かるんですの?」

「なんでも何も、目につくんだから仕方ない。隠すのが下手ってことじゃなくて、どんなに隠したって残る違和感に僕が敏感なだけだよ」

 

僕の仕事がその違和感を拾う仕事だから、というのも勿論ある。

だが、それ以上に勝手に読み取れてしまうのだ。

こいつの思考が。

 

「まるで私の努力を嘲笑うみたいですわね。急にこんな人が現れるなんて」

「どうだかね。別に僕が現れなくたって、お前の言う努力は無為になっていたんじゃないか?」

「どういう意味ですの?」

「だって、そんな方法で掴んだ未来で、お前自身が幸せになることなんて出来ないんだから」

 

幸在ちゃんは図星を突かれたような、怒りに狂うような顔をしていた。

 

「あなたに何が分かりますの?」

「お前らに何があったのかは知らない。無理に知ろうとも思わない。でも、分かるよ。お前はただ怖いんだ」

「!!」

「今ある日常が壊されることが。あるいは、今の日常が幻だと言われることが怖くて怖くて仕方ないんだ。必死に追い求めて、ようやく掴んだ(もの)がなくなるのが怖くて怖くて仕方ない。なまじ、持たない冷たさと持っている温かさの両方を知っているから余計にそう思う。だから、無理矢理にでも保とうとする。たとえ、人を殺しても。たとえ、願った形でなくても。それでも、その恐怖に打ち勝つことなんて出来なかった」

「………」

「でも、そんなことで保ったものなんて砂上の楼閣よりも脆い。たった少しの風が吹いただけで崩れ去り、そのことにずっとビクビクと震えることしか出来ない。だから、幸せになんてなれない。疑うことしか出来ない奴は幸せにはなれない」

 

その僕の言葉を聞いて、何を思っているのか。

ずっと、下を見ている。

 

「……それじゃあ、私はどうすればいいと言うんですの?どうせ、このまま行けば失うって分かる。失いたくないから、沢山手を汚した。だったら、もうそれを貫くしかないんじゃないの?例え、怯えるしか出来なくても、続けるしか選択肢はない。どうせ、私に居場所なんてない。生きる価値もない。でも、それを認めたら、何も残らない!なら、例え夢でも幻でもそれに縋って何が悪いの!?殺したいなら殺せばいい!許せないなら許さなければいい!でも、これ以上奪わないでよ!何もない私から、これ以上奪わないでよ!正論なんて語って、私の意思まで奪わないでよ!」

「アホ」

「いたっ!」

 

それなりに勢いのあるチョップを僕はかます。

痛いは痛いだろうが、アホにつける薬にはまだ足らない。

 

「被害者ぶるのは止めておけよ。根本的にお前は加害者だ。加害者である以上は自分に対するどんな蔑みも罵りもきちんと受け止めなきゃいけない。受け止められないやつは、ずっと逃げる。どんなことからもね」

「だから…!」

「それともう一つ。生きる価値なら、ある。どんなやつにだってね。だって、未来なんて誰にも()()()()()。この世界に運命なんてない。あるのは因果だけだ。原因があって、過程があって、結果があるだけだ。原因は変えられない。過去だから。今のお前は何度でも繰り返せると思っているかもしれない。でも、違う。お前がしているのは平行世界を移動しているだけだ。その平行世界で起こしたことはなかったことにはならない。それに例え、本当に時間そのものを巻き戻せたって、巻き戻す前にやってきたこと、したことは残る。だって、未来を変えたいのは巻き戻る前の自分なんだから。だから、過去は変えられない。でも、未来は違う。どんな善人だって間違えることはあるし、どんな悪人だって正しいことをすることもある。そこにある可能性は等価で平等だ。だからこそ、殺すことは罪なんだ。その人の未来を、可能性を、奪う行為だから」

 

本当は僕に言えたことではないかもしれない。

多くの命を奪ってきた僕に言う資格なんてないかもしれない。

でも、今この子に必要なのはそういう言葉だ。

僕があいつらにそうやって救われたように。

 

「……居場所っていうのは与えられるものじゃない。作るものだ。人と繋がり、結んで、やがて輪になった所を居場所と呼ぶ。人との繋がりが絶対じゃない。ふとしたことで切れたり、失くしたりする。それでもまた結び合う。そんなことを続けるのがだ。それは辛いことかもしれない。それは苦しいことかもしれない。それは耐えれないことかもしれない。でも、その居場所にいられることが幸せなんじゃないかな」

「……それって、強くなきゃやっていけないんじゃありませんの?」

「そういえるかもしれない。でも、強いやつなんて全然いないし、本当の強いやつはそもそもその繋がりさえ求めようとはしないだろうよ。だから、皆が強いように見えるのは色んな居場所があるからだ。一つきりじゃない、色んな居場所で支えられてる。きっと、幸在ちゃんにもあるよ。もし、ないのだとしても、その時は僕が色んな居場所を見せる。輪の中に入れる。ここで会ったのも一つの縁、ならぬ繋がりだ。その位のことはするよ」

「……………あなた、結構なお人好しだって言われません?」

「そんな大層なものじゃないって言ってるんだけどね」

 

そう言うと、幸在ちゃんは少し笑うと、泣いた。

今まで我慢していたものを吹き出すように。

僕は黙って、傍に居た。

慰めなんていらない。

励ましなんていらない。

必要なのは自分の足で立ち上がることだから。

 

***

 

その後、泣き腫らした幸在ちゃんに対してこう言った。

 

「と、色々と言いはしたけど、悪いことは悪いこと。その罰は受けてもらわなくちゃいけない。でも、一般社会で裁けるようなことでもない。なので、こっちの上司と相談して罰を与えるので逃げないこと。死んで次の世界でとかも許されないから」

「言われなくても、逃げたりしませんわ」

「所でその変な口調は何?」

 

と、そんなやり取りをしつつ、神社の方で美青や科見ちゃんと合流する。

まぁ、泣き腫らして目で帰ってきたものだから、科見ちゃんには睨まれたが別に悪いことはしてないので何もしてないとだけ言った。

そうして、少し交流をして、夕食の前で別れた。

明日以降、観光大使をしてくれることを約束して。

あちらは帰った後に何かしらの話をしたかもしれないが、それを聞くのは野暮だろう。

そんな訳で旅館の中。

 

「本当に、白兎は『取り敢えず生』ぐらいの感覚で面倒事に首を突っ込みますね」

「やりたくてやってることだから否定は出来ないけど、なんか否定したいなそれ」

 

旅行中位、そういうことが起きずに過ごしたいのは本音だ。

でも、今回はそうもいかない。

案件の大きさ的にも、個人の感情的にも、そうは言えない。

だけど、それは美青には関係のない話ではある訳で申し訳ない。

 

「ごめん」

「別に謝らなくていいですよ。そういうことを分かった上で付き合ってるんですし。それに今回の仕事も別に終わった訳じゃないんですよね?」

「はぁ、本当に僕のこと分かってるな」

「恋人ですから」

 

恋人だから何でも分かるのはおかしいとは思う。

だけど、僕の恋人ならそういう人になるのだろうとも思う。

というか、そういう人でもなきゃ僕のことを好きになる訳ないし。

今でも、なんで好かれてるのかなって疑問に思ってしまうし。

まぁ、美青に失礼だから言わないけれど。

 

「私は、あなたが人の為に動けるお人好しだから好きなんですよ」

「本当に敵わないや」

 

***

 

深夜の12時少し前。

神様としての姿になり、神社に向かう。

寝息のする方に向かい、二人の寝ている姿を確認をする。

夜中に女性の寝室に侵入するのは中々と犯罪的ではあるが、勿論そんなことをする気は絶無だ。

僕は幸在ちゃんの胸に手を置くようにして、中にあるものを探って引き抜く。

引き抜いたものは小さな水晶玉。

僕はそれ持って、表に出る。

賽銭箱の前に立ち、力を僅かに込めて放り投げる。

次の瞬間、辺りは光に包まれ、やがて女神が目の前に現れた。

 

『よく、我が身の宿るものを見つけられたな』

「殆ど同格の存在に、よくも何もないでしょ」

『そうであるな。どこかの土地神よ』

 

そう、彼女がこの外賀梨村の神様。

この地を治めている神様だ。

 

『それで、我が身の宿るものを引き抜いた時点であの者は()()()()()ではなくなり、そなたの仕事も終わりの筈だが、何故わらわを呼び出した?』

「なに、ただ答え合わせがしたかっただけだよ」

『そなたなら答えなど、とうに分かっておろう』

「分かっていても、確定は欲しいものですよ。何かの間違いで困るのはあいつなんですし」

『やはり、お節介じゃな』

 

さて、何から話したものか……とその女神は悩む。

 

『そうじゃな。まずは魔女とカケラについてどう考えている』

「カケラってのは、平行世界のことじゃなくて人の想い。魔女ってのは、それを纏める為政者、あるいはそれらを受け止める神様って所かな。つまり、科見ちゃんの言ってることはかなり的外れってことだと思ってる」

『流石じゃな。そう魔女やカケラとはそういうものを示すものじゃ。魔女は正確に言うなら、為政者として人々を纏め、やがて神様として祀られたもののことを言う。つまりはわらわじゃ。当時からわらわはそなたらの言う怪異と関わりを持っていた。だから魔女という呼称が使われていた』

 

女神はそこから一拍して、語りだした。

この村の成り立ちを。

 

『元々、この村は流刑地じゃった』

『罪を背負った者達が集まる場所』

『かくいう、わらわもその一人じゃった』

『皆が皆、罰を苦しいものだと思い、辛く感じていた』

『だが、わらわはそうは思わなかった』

『罰は苦しめるものではなく、向き合う為のものだと思っていた』

『それはわらわ自身の犯した罪、怪異によって人を多く殺めたことを心の底から後悔したが故のことじゃった』

『罰を受ければ、許されたことにはならん』

『だが、自分への戒めとして残すことは出来る』

『わらわのその様子が不思議でならんかったのだろう』

『他の者が聞いてきた。わらわはそのまま答えた』

『周りの者はその時はそれで納得した訳ではなかっただろう』

『だが、次第に皆もわらわと同じように罪と罰に向き合うようになっていた』

『何故かは分からん』

『わらわは教えとしてそれを説いた覚えはないし、その考えが正しいとも思ってはいなかった』

『しかし、皆が己の罪を見つめ、成長していくのを感じられるのは嬉しかった』

『時が経ち、この地に一つの寄合所を作ることになり、その中心となったのがわらわじゃった』

『元々、纏め役などわらわの柄ではなかったが、皆の期待に答えるが為に引き受けた』

『そして、その役目を引き受け続けたのがわらわの血族。科見家じゃ』

『そして、ここが神社となったのもわらわの死後にわらわを祀ってから』

『わらわは人から神になったのではない』

『わらわは人々からこの人のような神であれとして、こうなった』

『生前のように語ったそれも、わらわのものではなく、わらわの元となった人のものだ』

『故にわらわに名はない』

『そんなわらわのことは置いておくとして、その後の村は他の者が来る度に皆がそれを説き、最初は反発があっても、徐々にそれを納得していった』

『そして、それを子々孫々へと伝えていった』

『親子で繋がていることじゃ』

『どこかで途切れて、壊れてもおかしくなかった』

『だが、それは一つ一つ繋がっていき、やがてこの村は罪の生まれない村になった』

『それがどれだけ凄いことかはお主なら分かるであろう?』

『人の世に罪は憑き物』

『だが、それを振り払い、乗り越えられる強さを人は持っている』

『そのことを証明した』

『その価値がどれほどのものか…』

『故にこの村は外賀梨、()()()と呼ばれるようになった』

『そうして、長い時をそのままに過ごした』

『だが、ある時、それを破るものが現れた』

『それがわらわの子孫であったのが皮肉だがな』

『アレはな、ここに居心地の悪さを感じておった』

『綺麗な世界に嫌気が指していた』

『綺麗すぎる水には魚は住めないというが、それに近いものだったのかもしれん』

『だから、アレはそれを変える方法を模索した』

『そして使った方法がわらわの力を、間違った解釈で使うことじゃった』

『初めにいったように、カケラや魔女に並行世界に関わるようなものではない』

『だが、怪異というのは人から望まれて存在する』

『故に観測者の視点次第でその在り方にも変化が生まれてしまう』

『その結果、わらわの力は平行世界を繋げるものになってしまった』

『そして、罪を望んだアレによって、罪の起きる世界になった』

『平行世界から人が訪れれば、当たり前だが強大な影響が出る』

『それも想い(カケラ)を繋ぐわらわの力で渡れば、その罪を欲する思いの影響も強大に出る』

『それがこの村のみで済んだのは、わらわの力の及ぶ範囲がこの村までであったからだ』

『もしも、わらわの力が世界中に及んでいたら、その世界は秩序のない荒廃した世界になっていただろう』

『そして、世界をそんな風に歪めれば、当然歪みの原因にしっぺ返しが飛ぶのは自明の理』

『故にアレは幾度も死んだ』

『幾度も死に、その度に世界を渡った』

『その年月は5()0()0()()にも及ぶ』

『多くの者を罪に浸しながらな』

『だが、この村の者は凄かった』

『罪を犯した後、己の罪を後悔し、向き合った』

『そして、それらの想いはわらわの力で紡がれ、遂には罪に打ち克った』

『この時ほど、感動したことはなかった』

『人は何度でもやり直せる』

『その証明に他ならない』

『だが、肝心のアレは全くと言っていいほど向き合っていなかった』

『いや、そもそも自分に原因があるということすら、自覚していなかった』

『遂には原因となった出来事すら忘却の彼方だ』

『だが、罰の為に他の者に罪を持たせる訳にはいかない』

『だから、アレの罪によって、家族を失ったあの者を支えることを贖罪とすることにした』

『が、後はお主の想像通りじゃ』

『結果として、あの者は孤独に苛まれ、やがてわらわの力に触れてしまった』

『そして、あの者はアレと共に世界を渡り、罪を犯し続けた』

 

***

 

女神の話を聞き終え、自分の中の推論と大差ないことを確認した。

まぁ、外賀梨村になった経緯に関しては流石に予測はついていなかったが。

 

『しかし、大体を感づいていることは分かったが、どうして分かったのだ?』

「まぁ、一番あり得ないと思ったのは、生かす為に平行世界を渡るって所だな。だって、平行世界自体でその家系の者が生きてるんだから、わざわざ渡らす必要ないって」

『それはそうじゃな』

「それに家系が潰えたから、信仰がなくなる訳じゃない。信仰というのは家族を問わずに人から人へと繋げるものだから」

 

科見ちゃんは自分のことをどこか特別な存在だと考えていた。

まぁ、実際に平行世界を渡れていたからそう考えるのも仕方ないのだろうが。

だが、結局は狭い世界しか知らないのだと思う。

世界は広い。

僕もまだまだ狭い世界しか知らないけれど。

それでも、自分がそう特別でないのはよく知っているし。

 

「後は僕自身の力で捉えられる情報と照らし合わせれはね」

『中々と優秀じゃな』

「そりゃどうも。まぁ、幸在ちゃんはこっちで引き取りますけど、科見ちゃんはどうしたものか」

 

幸在ちゃん的には科見ちゃんには傍に居て欲しいんだろうし。

罰を与えるにしたって、そういうのは違うだろうし。

それに放置したらしたでまたやりそうだし。

だったら、そっちもこっちで引き取って、強制的に厳しい社会で揉ませるというのも手だが。

 

『そなたは何故、そこまでする?』

「何故って……。僕も後悔している側だからだよ。後悔して、似たような結末なんて見たくなくて、だから行動するんだよ」

 

その考えは変わらない。

これは自分のエゴだということも含めて。

だけど、少しだけ変わったものもある。

それは、絶対に諦めたりはしないことだ。

僕は時として切り捨てなくてはならないと考えていた。

それが全体の為で、皆の為だからと。

でも、僕は自分が幸せになることを受け入れた。

皆がそれでいいと言ってくれた。

ならば、妥協なんてしない。

現実はそんなに甘くない。

全部を全部、拾いきれる訳じゃない。

でも、だからってそれで仕方ないと割り切るのは間違いだ。

 

『そうか。だが、それを続けるのは中々と辛いぞ。100年も200年も、時には見続けるしかないときもある』

「それでも続けますよ。それが自分で決めた罪との向き合い方で、信念なんですから。もしも、これを忘れる時がきたなら、それは目的が達成できたときだって、信じてます」

『似た者同士か』

「まぁ、僕とあなたとでは存在できる年数が違う。というより、あなたは時間なんて概念がないんですよね」

『そうじゃな。平行世界と繋がったわらわは平行世界のわらわと同一の存在と言える。そして、平行世界はそれこそ無数じゃ。外賀梨村のない世界や信仰のない世界も当然あるだろうが、無限の中に無限が内包されおるからな。わらわがこの世界から消えるときはあったも、わらわが消える時はないだろうな』

 

永遠に存在し続けること。

それは果たしてどのようなものなのか、想像がつかない。

吸血鬼でさえ、200年も生きれば飽きてしまうという。

なのに、その年数など軽く飛び越える永遠とは如何程のものなのか。

………。

そういう意味では、一番の被害者はこの神なのかもしれない。

 

『同情はいらぬぞ』

「分かってますよ。成り行きだとしても、それがどういうことかを分かった上で決めたことなんだから」

 

それは女神に向けた言葉であり、自分に向けた言葉でもあった。

二柱、いや、二人で笑い合う。

今宵の月はとても綺麗だ。

 

***

 

後日談、というか今回のオチ。

翌朝、朝一番に臥煙さんにメールを送った所、対処はそっちに任せると返ってきた。

投げやり的なニュアンスを感じるが、まぁ、あちらも大変なのだろう。

と、半ば無責任に考えつつ、今度は校長の方に連絡を入れる。

しかし、臥煙さんに関しては仕事ということでそんなに躊躇いもないのだが、校長に関してはちょっと罪悪感が湧く。

流石にこのタイミングで転校生二人をねじ込むのは大変なんてものじゃないだろう。

まぁ、頼む他ない。

埋め合わせは後で色々と考えよう。

という訳で、

 

「ああ、肩にくるわ~~~」

「相当に凝ってますわね」

 

幸在ちゃんの意外な特技である整体を受けている。

まぁ、怪異なのである程度は理想な状態をキープ出来るのだが、ここ最近はそういうのを気にしていられない忙しさだったからか、見事に駄目な状態になっていた。

 

「ああっっ~~でも、これは効くわ~~~」

「なら、良いですけど」

 

そうして、整体を受けた後、昼や夜に二人のおすすめの店で食事をした。

土地のものを使ったからか、結構美味しかった。

まぁ、美青に耳打ちで

 

「いつもの白兎の料理の方が私は好きですよ」

 

なんて言われたりもしたが。

そんなこんなで夜。

美青と二人一緒にベットの中に入る。

 

「はぁ、今日はまともに旅行したな」

「そうですね」

 

美青は僕の背中に手を回す。

 

「ちゃんと言ってくださいよ」

「旅行中くらいは普通に過ごしたかったな。そんなに巻き込まれ気質でもなかった筈なのになー」

「白兎は色々と気づいちゃって、それを放っておけない人ですから」

「まぁ、自分で決めたことだからな」

「やれやれですね」

 

僕も美青の背中に手を回して、苦しくならない程度に深く抱きしめる。

ぬくぬくとして、温かくて、心地いい。

ここ最近、不足していたものが埋まっていく感じがする。

が、足らない。

まるで足らない。

全然足らない。

 

「ねぇ、美青さん」

「なんですか?」

「6回戦、いい?」

「駄目。4回戦まで」

「それは残念」

 

そう言いつつ、軽く美青にキスをする。

触れ合う程度のキス。

そして、そのまま体を起こす。

 

「美青、愛してる」

 

 




鳴山白兎
◆秀知院学園高等部2年
◆TG部…部員
◆身体的特徴…黒髪
◆秀知院学園の神様

神様になった怪異の専門家。
その能力はかなり高く、臥煙伊豆湖曰く、ツバサハネカワとも戦えると評される。
実際のスペックとしては知識面、頭脳面ではあちらに軍配が上がるが躊躇のなさ、思考の推察ではこちらに軍配が上がる。

精神性も大概おかしいものの、自覚はしている。
彼のことを話に聞く程度では優しい、実際に話すと警戒と底知れなさ、深く関わるとただのお節介になるという独特なバランスを持っている。

基本的に誰でも許容し、三学期の事件の犯人すら少年院行きで済ませるように動く彼だが、小中時代の人達や友人をないがしろにして、それに罪悪感を抱いていない人には明確に嫌悪している。

彼は誰かを赦すものではなく、誰かを向き合わせるものといえるだろう。
彼の物語の終わりは静かに、沢山の心残りを抱えて、笑っているだろう。

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