鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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この二人は、お互いの視点の方が面白いなと感じる今日この頃。


ゆうファミリー

私にとっての家族は、正義の象徴である。

両親は二人共、みんなの為に働いている。

それはもう、中々に家に帰ってこれない位に働いている。

そのことを寂しく思うことは多いけれど、でもそれは二人が悪い訳じゃない。

二人がそんなに働かなくてはいけないほど、悪い人ばかりなのが悪いのだ。

それに、中々一緒に過ごせないだけで家族仲は、けして悪くない。

そう、悪くないのだ。

秀知院学園の中には、家柄の都合上家族関係が悪い人も多くいる。

あるいは、何らかの理由で仲が悪いとまでいかなくても、微妙な距離感になっている人もいる。

それは、悲しいことだと思う。

一緒に居れないだけでも、こんなに寂しいのに、仲が悪くてまともに話せないのは、辛いと思う。

もしも、私がそうなったら想像もつかない。

そんな話を鳴山にしたら、

 

「そうだな。その通りだと思うよ」

「家族は、生きてく上で必ずしも必要なものでは無いけれど、それでも居たら嬉しいものだと思うよ」

「親の方から仲を悪くするというのは、一つの虐待だと思うよ」

 

まぁ、一意見だけどな。と、お決まりの言葉のようにそう言う彼はどこか悲しそうな目をしていた。

彼も家庭に何かあるのかも知れない。

でも、私がそれを聞くのはきっと違うのだろう。

それでも、この話を聞いて私は思う。

やっぱり、家族は仲良くあるべきだと。

そのために、努力にしていくべきなのだと、そう思うのだ。

 

***

 

夏休み。それは、学生たちが羽を伸ばし、また風紀も大いに乱れる時期である。

しかし、校内ならともかく、流石に外でそういう人に会うことは滅多に無い。

それに、同時に勉強以外のやりたいことにも大いに打ち込める時期でもあるため、そのような輩の取り締まりは夏休み明けの油断している時にすることが、風紀委員の暗黙の了解である。

私もこの時期に勉強は勿論、内緒の趣味だけど、詩を書いたり、夢小説の投稿をしたりしている。

少なくとも、去年まではそうだった。

しかし、この夏休みは全くと言っていいほど、趣味をやれていない。

勉強は流石に疎かにしていないけど、それだって、イマイチ捗っていなかった。

理由については分かっている。

 

()()()()()()()()

 

一学期の終わり頃。生徒会室にて偶然、石上の秘密を知ってしまい、それについて考えていると、さらなる石上の秘密を知ってしまった。

お陰で、その後の一学期はかなり悩んで、こばちゃんや鳴山はおろか、石上本人からも、

 

「おい、大丈夫か」

 

と、言われる始末である。

その時私は、大丈夫だからちょっと一人にして、と言ったが、あれはあれで余計な心配をかけさせるだけだなと夏休みに入ってから気がついた。

これで、学期の中頃に知っていたら、確実にテストで点数を落としていただろうから、終わり頃で良かったと本当に思う。

……正直、中学時代の事件の真相の方だけなら、どうとでもなったと思う。

石上にも、正義があったのだと理解して、最近のえらく勤勉な態度も合わせて、ちょっとは優しく、仲良くしようかなと思っただろう。

鳴山が意図していたことが図らずも、達成するような状態になったと思う。

虫唾が走る位嫌いから、普通位になるのだろうと思った。

けれど、私は知ってしまった。

石上がステラの人だと知ってしまった。

つまりそれは、石上が私の努力をちゃんと知っていたことの証明だった。

あのステラの花とメッセージを匿名で送ったのも、自分が送ったのを知られると気持ち悪がられることもあると思うが、それ以上に彼の正義が名前を言うのを妨げたのだろう。

丁度、事件の真相も知ったのがこの考えを補強していた。

……思えば、石上の言うアドバイスを私は真面目に聞いていなかった。

上から目線でいうから気にしなかったが、結構有益なアドバイスばかりだった。

本当に、今更になって気がついた。

人のことを、特に石上のことを言えなくなった。

いや、石上の方が早くに私の意見を聞き入れたんだから、もっと言えない。

背中をクマのぬいぐるみに預けながら考える。

 

私はこれから、石上とどう接すればいいのだろう?

 

正直に言うと、私はステラの人に恋愛感情にも似た憧れを抱いていた。

それは、私自身があの花とメッセージに支えられてここまでやってこれたこと。

そんなことを見返りも求めずにやってくれたこと。

そんなあの人に憧れて、自分もそうしたいと思った。

石上の停学に直談判したのも、そんな側面があった。

 

けれど、そんな風に思っていた人が、実は自分が心底嫌っている人だったなんて、思いもしなかった。

 

印象の回転が止まらない。

感情が落ち着かない。

今、私は石上のことをどう思っているのだろう?

嫌い、ではない。

それは断言できる。

しかし、それでは好きなのかと聞かれると戸惑う。

だって、いままでずっと嫌ってきた。

いままでずっとひどいことを言ってきた。

そんな人のことを、急に好きになれるの?

それに、仮に、仮に好きだとしてその気持ちをあいつに言えるの?

こんな今まで嫌われながらも助けていたのに気づかずに怒鳴り散らしていた女が好かれるのだろうか?

少なくとも、私なら嫌だ。

そんな恩知らず、嫌いになって当然だ。

でも、今は石上に()()()()()()()自分がいる。

でも、どうすれば良いのか、学年1位の頭を必死に使っても、答えは出なかった。

そんな調子で気がつけば、8月の上旬。夏休みも中間に差し掛かろうとしていた。

 

「はぁー。どうすれば良いんだろう?」

 

答えの見えないことをずっと考え続けていた。

そうしていると、持っているスマホが鳴った。

見てみると、どうやら、クラスのグループで仲の良い人達が遊びに行く約束を立てているようだった。

……遊びに、か。

………そうだ、ちょっと出掛けよう。

気分転換になる筈だし、考え方も変わるかもしれない。

そうと決めたら、準備、準備。

 

***

 

やっぱり夏である。普通に暑い。

電車に乗って、適当なセレクトで目黒に来た。

けれど、行く宛もなく、外に出ると結構つまらない。

しかし、暑い。

そうだ、涼める場所に行こう。

スマホを使って、涼める場所を探す。

中目黒南緑地公園というのがあるらしい。

そこに行ってみよう。

しかし、こうも暑いと考え事をする余裕もない。

……いや、嘘だ。

考えようとせずに、先延ばしにしようとしているだけだ。

誰かに嫌なことをされたわけでもないのに、こんなに気分が沈むのは初めてだ。

そもそも、どうして今まで気づかなかったのだろう?

いや理由は分かる。

あいつのことを、ただの悪い人としか見てなかったからだ。

最初に生徒会を訪れた時に、誤解したのと同じ。

一度そうやって誤解すると、誤解を解くのに時間がかかってしまう。

きっと、そうやって思い込むのが私の悪い所なのだと思う。

今までも多分、そうやって誤解して見当違いのことを言ったこともあったのだろう。

高等部に上がってから石上が言った、もっと周りを見たほうが良い。相手の気持ちも考えろ。は、自分の経験に裏打ちされた言葉なのだろう。

いやでも、上から目線はよろしくない。うん。それは流石にあいつが悪い。

私も人のこと言えないけど。

そんな考えても、結論が出ずに悩んでいると、ふと花屋さんがそこにあった。

……花、か。

正直、あいつを思い出すワードだけれど、気分を落ち着かせるのには良いかも知れない。

買っていこう。

そうして、店内に入っていった。

店内には色々な花があった。

有名所のバラやアサガオ、時期的にもある彼岸花。

その他、色々な花が置いてある。

私が知らない花も結構ある。

あれ、この花なんだろう。

菊ぽいけど、花弁が赤くて可愛い。

 

「これって、なんて花なんだろう?」

「それは、エゾキクだな」

「へぇー、これエゾキクって言ぅ、ってえ!!石上!?」

 

振り返ると、そこにはエプロン姿の石上が居た。

いやホントになんでここにいるの!?

 

「何でここにいるの!?」

「いや、ここ母がやってる花屋だからさ。たまにこうして手伝ってるんだよ」

「そ、そうなの?」

 

そうだったのか。だから、花に詳しかったのか。

じゃあ、ステラの花の意味もわかって送ったのか。

ステラの花言葉「小さな強さ」「燃える思い」そして「見守る心」

他にも、「家族愛」「忘れられた恋人」とかの意味があるけど、流石にそれは違うだろう。

 

「そうだ、伊井野と少し話したいことがあるんだ」

「へぇっ!?な、何の話!?」

「なんで、挙動不審なんだよ。ちょっと抜け出せるか聞いてくるから待ってろ」

 

そういうと、石上はレジ前にいる女性に話しかけた。

母さんという声が聞こえたから、あの人が石上の母親なのだろう。

ぱっと見た感じ、石上と顔が似ていた。

どうやら、石上の顔は母親似らしい。

しかし、どことなく距離感があるのは何故だろう。

そうこうしていると、石上がこっちに戻ってきた。

 

「一時間、休憩貰ったからちょっと場所を移そう」

 

そう言って、移動していく石上を私は慌てて追いかけた。

 

***

 

「ここならいいか」

 

そういってきた場所が、中目黒南緑地公園だった。

 

「それで、は、話って?」

 

道に沿いながら歩いているが、その間、わたしはずっと心臓がバクバクしていた。

こうして隣を歩くだけで、恥ずかしいし、意識してしまう。

それに比べて、こいつは大して気にしていないようにスタスタと歩く。

なんか、悔しい。ムカつく。

流石に理不尽だし、それで変なことがバレるのが怖いから言わないが。

……()()()()が何なのかも知らないが。

それにしても、話ってなんだろう?

ま、まさか、告白!?

い、いや、それはないだろう。

こいつが私のことをそんな風に思ってる訳ない。

だって、散々ひどいことを言ってきた。

それなのに好きっていうのは、ただのドMだろう。

きっと、全然関係ない話だろう。

 

「いや、停学を食らった時の事件の話だけど」

「ああ、その話ね」

 

案の定、関係のない話だった。

けれど、結構大切な話だった。

 

「会長から聞いたんだよな、あの事件の真相」

「う、うん。私がマル秘のレポート見ちゃって、それで」

「それじゃあ、そのことは他の奴に黙っててくれるか?」

「うん。黙ってる」

 

余りにも素直な私に違和感があるのだろう。

怪訝な顔をする石上。

正直、全然話が耳に入ってこない。

お陰で、返事がおざなりになっている。

ずっと、意識し続けてる。

落ち着かない。

 

「あ、後、言いたいことがあったんだ」

 

そういうと石上は、こっちの方をしっかり見るとハッキリと言った。

 

「停学の時に、先生に直談判してくれて、ありがとうな」

「そのお陰で、僕は高等部に上がれた」

「会長たちに助けて貰えた」

「鳴山に会えた」

「きっと、伊井野が直談判してくれなかったら、中等部でいなくなってた」

「そして、会長たちに会えずに、今も自分の部屋に引き籠もってた」

「そうならなかったのは、伊井野のお陰だ」

「だから、ありがとう」

 

石上はそう言って頭を下げた。

違う。私は自分の正義に従ってやっただけだ。

そこまで、されるようなことをしていない。

いや、それよりも、

 

「どうして、石上がそんなことを知っているの?」

「ああ、校長から聞かされたんだ。一学期の終わり頃に」

 

なるほど。そのことを知っているのは中等部の先生とこばちゃん、後は校長ぐらいだ。

確かに、伝わるとしたら校長ぐらいだ。

それにしても、

 

「そういうのは、知られずにやるから意味があるのに…」

「まぁ、その気持ちは分かるよ。別に恩を売りたい訳じゃないもんな」

「そうよ。まぁ、ちょっとは感謝して欲しいと思うこともなくはないけど」

()()ちゃんと感謝してるよ」

 

そう言って、前を歩く石上を見ていると、耳が少し赤くなっていた。

ちょっと、恥ずかしかったらしい。

この流れだから、少し、気になったことを聞いてみよう。

 

「ねぇ、石上」

「うん、なんだ?」

「家族と仲が悪いの?」

 

そう聞くと、石上はなんとも言えない顔になり、どうだろうなと言う。

 

「なんとも言えない感じだな」

「どうして?」

 

石上は少し辛そうな顔になって言う。

 

「それこそ、中等部の時の停学でさ、親父から沢山説教貰ったり、殴られたり、母さんも毎日学校からくる在宅確認の電話で泣きそうになったんだ」

「それでも、僕は真相を家族にも言えなくて、かと言って謝罪も出来なくて」

「家族の仲が凄く悪くなったんだ」

「最終的に、自室のドアをチェーンで縛るくらいになってさ」

「けど、会長が来て、僕の言えなかった真相を暴いてさ、助けてくれた」

「その時にお前が言うべきはこうだろうって、作文用紙にでかい文字でうるせぇバッカ!!って書いてくれて、嬉しかった」

「それで、会長は家族にはきちんと言ったほうが良いって、真相を話してくれた」

「だから、うちの家族は会長のことが大好きで、家に来た時はなんか凄い歓迎ムードになるんだよ」

「それで、両親は、自分の子供を信じてやれずに責め立てたって、思っててさ」

「罪悪感が残ってるみたいで、距離感ができたんだ」

「それから、親に放任されるようになって、自由にしろって言われてる」

「これも多分、負い目からなんだと思う」

 

そう言って、話終えた石上の顔は、どことなく沈んでいた。

親が自分の子を信じない。

きっと、それは子供にとって耐え難いものだろう。

特に、親を信頼していた人にとっては。

でも、石上はきっと、それも自業自得だって、仕方ないんだって、割り切っていたのだろう。

そして、親もまた、自分の子を信じてあげられなかったことが、辛いのだろう。

親側も、子供側も、どちらも罪悪感がある。

正直、外側の人がどうこうできるようなことじゃない。

それでも、このままにするのは()()()()()()()()

 

「ねぇ、石上」

「なんだ?」

「石上は、家族とどうしたいの?」

「どうって、多分このまま、

「そうじゃなくて」

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そう聞くと、石上は驚いた顔をして、少し考えた後にこう言った。

 

「仲良くしたい。停学前のような家族の関係でありたい」

「それなら、()()()()()

「でも、今更、無理だろう」

 

「そんなことない!!」

 

私は力強く言う。

決まってることなんてなにもない。

だって、あんたに対しての気持ちが()()()()のだから、はじめから思い合ってる家族が変われない訳がない!!

 

「だって、お互いに相手のことを思い合ってるんでしょう?」

「だったら、今更なんて言わなくても、きっと変われる」

「諦めやすいのが、石上の悪いところよ」

「努力をしていれば、必ず結果はついてくる」

()()()()()()()()()()()()()()

「だから、諦めないで頑張りなさいよ!!」

 

かつて、石上から送られた言葉を使って、石上を応援する。

ちょっと上から目線になってしまったけど、石上の方は、どこか決意を固めたような顔になって、ありがとうなって言ってくれた。

その背中は、少しかっこよかった。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

丁度休憩時間も終わる時間帯なので、店に戻る。

その間、私は顔を赤くしていた。

わ、私、なんてことを!?

言ったことを後悔するつもりはないけど、結構恥ずかしい。

そうこうしているうちに、店に着き、私も恥ずかしさから帰ろうとした時に石上に呼び止められた。

 

石上は外に出ると、花を渡してくれた。

ヒメユリだ。

 

「えっと、この花は何?」

「さっきのお礼だ。あれで、家族と改めて向き合ってみようって思えたから」

「そ、そう」

 

お礼で花をあげるって、なかなか勘違いされそうなものであるけど、多分こいつは天然でやってるんだろうな。

 

「後、今月の20日に生徒会で花火大会に行くんだけど、お前も来るか?」

「えっ!?どうして…」

「いや、藤原先輩も来るし、その、もっと仲良く出来ないかなって」

 

ちょっと、照れ隠しもあったが、意図はハッキリ言った。

仲良くしたいって。

駄目だ。にやけてしまいそうだ。

だから、私は後ろ向いて、たこ焼きを奢ってよね。というと、駅に向かって歩き出した。

後ろから、おう。という声が聞こえた。

いつか、あんたにもヒメユリを送らなきゃと思った。

 

ヒメユリの花言葉は「誇り」である。

 

 




ええ、この物語では石つばルートへの道は開かれません。
ご了承ください。

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