在るべき死に場所を探して   作:開屋

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不服な遭遇

 あの日から少し経った日の午後、自分の担当の授業を終えて僕は人里をうろついていた。決して暇を出されたわけではない。ここの生活に馴染むため、と慧音が改めて人里を見て回ることを勧めてきたからだ。

 

 数日前まで荒みきった心だけで見ていた人里も、こうやって見ると風情があって良い所に見える....のかもしれない。

 

 この世界は人と人との繋がりが希薄で、空虚なあんな世界とは違ってみんなが中身のある営みを続けて....そんなように見えた。....ついさっきまでは。

 

 

 

 適当に歩いて回っていると妙な格好をしている人、かは知らないが、誰かに話しかけられた。というか多分人じゃない気がする。これまでの経験を踏まえた上でそう勝手に断言させていただく。

 

「すみません、少しお話伺っても宜しいでしょうか?」

 

 相手はまず僕にそう尋ねてきた。今までこの世界で遭ってきた人妖とはタイプが違う。僕は手短に

 

「いきなり何ですか?」

 

 と、少し突っぱねる。この世界にもキャッチセールスは存在するのだろうか。

 

「おっと、いきなり申し訳ありません。私、記者をさせていただいております『射命丸 文』と申します」

 

 そう言って向こうは何か手渡してくる。名刺だ。こっちにもそんな文化はあるのだろうか。

 

「記者?」

 

 名刺を見て僕は呟く。名刺の存在に続いてそんな職業がここにあることに少し驚いた。

 

「ええ、幻想郷で『文文。新聞』を発刊させていただいています。良ければ....」

 

 そう言ってこちらに新聞を渡してくる。そういえば何となく思い出した。誰かが焚き火として新聞を燃やしていたような気がする。どうやらそれは彼女のものらしい。

 

 思わず笑いそうになり手元を口で抑えて

 

「まあ....少しだけなら構いませんが」

 

 その言葉に向こうは目を輝かせた。

 

「ありがとうございます!では早速ですが....あなたは外の世界から来た、ということでよろしいでしょうか?」

 

「まぁ、いわゆる外の世界、ってことになるんでしょうかね」

 

「どのようにしてこちらへ来られたのですか?」

 

「どのようにも何も....知らないうちにこの幻想郷とやらに行ってしまってたようだから答えようもない。寝てて起きたらここに居た、これだけです」

 

「ほう....たまに偶然こちらの方へ来てしまう方もよくいらっしゃいますからきっとそのパターンでしょうか。....本当にただただ偶然ここに来たのですか?何かしらのきっかけがありそうに思えなくもないですが....」

 

「そもそもここに来るまでここの存在を知らなかったから意識のしようもない。森で寝てたらいつの間にか周りの風景が前と違うものになってたんだ」

 

「森で....寝てた?」

 

「色々あったんだ。....別に大した事情じゃない」

 

「そうですか。普通ならばそんな事態になるようには思えませんが....」

 

 

 

 何だろう、彼女の言葉に妙に引っかかるところがある。言葉の端々に何か含みがあるように聞こえるのである。

 

「それで今、あなたは寺子屋で教師をしていると聞いているのですが、本当なのでしょうか?」

 

「....その情報はどこから仕入れた?」

 

「生憎ですがその件に関しては口を割ることはできません。情報元を迂闊に出すのは私のジャーナリズムに反するので」

 

「へぇ、そうかい。焚火代わりの新聞の発行元でもその辺りの良識はあるんだな」

 

「なるほど、確かに最初は荒れていたというのもこの様子を見るに伺えますね」

 

 

 

 何なんだ、彼女は僕を無意識的に煽っているのだろうか。それとも僕が今こうやって腹を立てているのも向こうの掌の上だということなのだろうか。

 

「もう十分だろ。こっちは用もあるから行かせてもらうぞ」

 

「そうですか?まぁこちらとしてもあなたのことをこれ以上聞いたところで特にネタにするようなこともなさそうですし....分かりました。ご協力感謝します」

 

 強引な形ではあったが無理やり取材を抜けた。これ以上彼女と話していると迂闊に変なことを口走ってしまいそうである。

 

「あ、そういえば私の新聞は鈴奈庵にも置いてあるので良ければ是非」

 

 去り際、射命丸が僕に言う。

 

「鈴奈庵?何だそれ」

 

「あら、ご存じではありませんでしたか。もう少し真っすぐ行ったところに『鈴奈庵』という貸本屋があるんですよ。あまりこの辺りのこともご存じ無いみたいですし、一度立ち寄ってみてはどうでしょうか」

 

 それだけ言って射命丸は行ってしまった。飛んで。やはり人間ではないみたいである。

 

「一体何だったんだ....変な記事でも書かれようもんなら承知しねーからな....」

 

 僕は独り言をブツブツ呟く。とはいえ貸本屋か。正直少し興味はある。彼女に何か施しを受けたような気もして少し気は進まなかったが、とりあえず行ってみることにした。

 

 

 

 

 

 その頃、昼休みを迎えた寺子屋では授業からの解放で人妖問わず思い思いの時間を過ごしていた。

 

「あれ?何か落ちてる。何だろうこれ....」

 

 大妖精が何かを見つけた。

 

「どうしたんだ?大ちゃん」

 

「あっ、チルノちゃん。えっと、さっきあの先生が授業してたところの辺りにこれが落ちてたんだけど....先生のなのかな」

 

「うーん、どうだろ。というか何だこれ?....お守り?」




 

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