ここはどこなのだろうか?昨日自分がいたはずの所よりも随分ジメジメとしている。決して、と言うよりおよそ居心地の良い場所には思えなかった。
少し考えてある1つの仮説を僕は立てる。きっと僕は夢を見ているんだ。そうでなければこんな見たことのない所に自分がいるわけがない。試しに頬をつねると、痛みはあった。随分とリアルな夢である。
少しの間うろついていると何やら後ろからガサガサ、といったような音が聞こえてくる。こんな森の奥深くだし野生の動物でもいるのだろうか?そんなこと考えながら歩いているとその音は次第にこちらへ近づいてくる。
さすがに気になってきた僕は後ろを振り返った。....一瞬情報が理解できなかった。そこには僕の数倍もあるようなサイズのイモムシのようなものがあった。その瞬間に僕はこの世界が夢だと分かった。
こんな生物がこの世にいるわけがない。そう思うと何かこの世界が滑稽に思えてきた。やがてそのバケモノはこちらの方へ襲いかかってきた。
そうだ、もしかしたらいっそ夢の中と現実世界とでは生死はリンクしているのかもしれない。ここで死ぬ=現実世界での死を意味しているのではないだろうか?
そうなれば都合が良い。僕は一切逃げる素振りも見せずにその場に突っ立っていた。すると
「危ない!」
という声と共に何かカラフルな光か何かが飛んでくるのが見える。その光はバケモノを焦がした。バランスを失ったソイツはこちらの方へ倒れ込んできたが、僕はその場で突っ立っていた。
「なっ!?アイツ何やってんだ!危ないぞ!」
さっきの声がこちらに注意をしてきたが、僕はそれを聞き入れなかった。というか助けてくれた人って女性だったのか―
すぐに目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ますと僕はベットで寝ていた。
「もう起きたのか。しかしよく生きてたもんだぜ」
女の人の声が聞こえる。やや語尾が不自然ではあるが。
「ここは....どこ?あなたは?」
彼女に尋ねる。
「後者に関してはそれはこっちのセリフだよ。まぁその格好をみた限り外から来た人間らしいが」
「そりゃあ人間でしょう。逆にそれ以外がいるんですか?」
体を起こして僕は言って、向こうの発言の主を見る。その姿に僕は少し驚いた。
まるで魔女の格好である。よくイメージされるあのとんがり帽子に黒の服。....奇妙なコスプレである。
「それがいるんだな。むしろそれの方が多いとも言えるさ。ここには妖怪だって幽霊だって神様だっているもんだ。もっとも私は人間だがな」
この女はメチャクチャなことを言うものだ。どうやら僕は夢の中で何かに襲われ、ちょっと、いや、大分電波な女の子に助けられたようだ。こんなコスプレの子があんなバケモノがいる中無事でいるというのは不思議なことだが。
「んー?その様子だとまだ信じてないみたいだな」
怪訝な顔をしていたのがバレたらしい。
「まぁ仕方の無いことかもしれないけどな。とりあえず自己紹介だけしておくぜ。私の名前は『霧雨魔理沙』だ。お前は?」
魔理沙と、名乗る少女が僕に尋ねる。
「....優です」
小さく下の名前だけ名乗った。
「優か、よろしくな。つってもまぁすぐに別れることになるんだろうけど」
「どういうことですか?」
「そうだな、まずは根本から説明しなきゃならないな。もっともこれは優が外の世界から来たこと前提の話にはなるが....」
さっきから外の世界とか妖怪とか何も要領を得ない。とりあえずここの説明はきっちり聞いておかなくては。
「まずここは『幻想郷』って言うんだ。さっきも言ったようにここには人間はもちろん、妖怪だって幽霊だって、あまつさえ神様さえもいる。多分お前が思っているようなモノとは違うだろうがな」
そう言って魔理沙は笑う。こちらからすればまだ状況が掴みきれないので笑い所が分からない。
「そんな暗い顔すんなって、それでまぁ、たまーになんだがさっき私が言った『外の世界』からここに来る人間がいる。そのままこっちに住み着いたやつもいるが、そのほとんどはすぐに外の世界、つまりは元居たお前の世界に帰りたいって言うヤツばかりだな。何か『オオイタ』とか、『ナガノ』?とかから来たとか言うが、その辺はよく分からないがな」
大分県、長野県のことだろうか?確かにその話を聞く限りは僕と同じような境遇にいる人間と言う人がいるようである。
「それでここからが本題だな。元の世界に帰るには幻想郷の東端にある『博麗神社』という所に行けばいい。そこに『霊夢』っていう巫女がいるからそいつに頼んでちょちょちょいっとやりゃ帰れるさ」
何か肝心な所が端折られているような気がする。というよりも僕は未だにここが現実だとは思えないのである。これ程までに具体的な夢と言うのは今まで見たことがないが、もしかすると現実世界の方で僕は余程の極限状態なのだろうか?
そうなると起きるのがやや怖い。もう少しだけこの滑稽な夢に付き合うとしよう。
「まぁさっきの事で分かるとは思うが、ここ『魔法の森』にはさっきみたいなバケモノもいるし、普通の人間からしたら居心地も悪い。だからここは私が案内してやる―」
「僕は戻りたくないです」
きっぱりと僕は魔理沙に申し立てた。