在るべき死に場所を探して   作:開屋

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賢者の答え合わせ

「僕のお守り....本当に知っているのか?」

 

 食い気味に紫に尋ねる。

 

「ええ、まぁあくまで予想に近いものだけど....恐らく大方合ってるはず」

 

 そう準備置いて紫が話し始めた。

 

「そのお守りは貴方の母親が渡してくれたものね。でもその時はまだ普通のお守りだったの」

 

「その時はまだ普通?」

 

 僕は首を傾げる。この紫の口ぶりだと今僕のお守りは普通ではないというのか?

 

「ええ、そして何らかのきっかけがあって幻想郷へ貴方が来た」

 

「何らかのきっかけって何だ?」

 

「それについてはっきりとは分からない。外の世界の不特定多数のどこかでは人知れず幻想郷と繋がっていることがあるから、その中の一つに貴方が迷い込んだ、としか言えないわ」

 

 んな無責任な、と言おうとしたのを呑み込んで僕は話の続きを促した。

 

「そしてあなたがここに来るほんの少し前、別の人間が幻想郷に入って来た。誰だか判る?」

 

 紫がこちらに質問する。すぐに僕の中で『ある候補』が浮かんだ。

 

「....母さん?」

 

「ご名答。鈍くない人間との会話は疲れなくていいわね」

 

「....」

 

 どこか、どいうよりもどこかしこも掴みどころのない紫の言葉に僕は翻弄される。戸惑いながらも僕は紫に

 

「じゃあ僕が人里で会ったのは....?」

 

 と、尋ねる。

 

「ええ、ちゃんと本当の貴方の母親」

 

 紫が答える。あの時僕が抱き着いた、誰にも見せたくないような恥ずかしい泣き顔を見せた、その相手は正真正銘僕の母さんだったんだ。そう思うと再び込み上げてくるものがあった。

 

「貴方の母親がこちらに来てすぐの時も、あなたが見た母の姿と大して変わっていないわ。何を考えているかも分からないし、心此処に在らずといった様子ね」

 

「....前者は自分の事じゃないか?」

 

 言葉に少し詰まったが、思わず僕は紫に突っ込む。

 

「それで貴方の母親は人里の方へ行った。正直あの状況でここに棲みついてる奴らに襲われなかったのは相当幸運だったんじゃないかしら」

 

 無視かよ。というか話がどんどん逸れて言っているような気がする。

 

「あら、少しずつ話が逸れてきたかしら?そろそろ本題に入るわね」

 

 また本心を見透かされたかのようなことを言ってくる。どうも彼女と話すのは何か気が置ける。

 

「貴方の母親が『魂が抜かれているようだ』って言われてるのもあながち間違いではないのよね。だって実際に似たような状況になってるわけだし」

 

「....どういうこと?」

 

 思わぬことを言われて思わず聞き返す。

 

「貴方の母親の本体は今あなたが持っているの」

 

 一体彼女は何を言っているんだ?母親の本体?僕が持ってる?

 

「幻想郷に来てから貴方は色々変な経験をしてないかしら?そもそもあんなバケモノに呑まれてどうして今こうやって五体満足でいられる。どんな毒キノコを食べても無事でいられる。どれだけ走っても疲れを感じないでいる」

 

 そういえば魔理沙はあの時、僕が食べたキノコはものすごい致死性が高いみたいなことを言っていた気がする。

 

「じゃあそれって....」

 

「ええ、そのお守り。母親の貴方への愛情がそのままお守りに乗り移った、まさしく物に魂が宿っている状態。だから貴方を守りたい強い気持ちが貴方を何度も守った。何度も貴方から離れても、再三貴方の元に舞い戻って来た。....とは言っても貴方がそれを本当だと思えるかは分からないけどね」

 

 ここまで聞いた僕は言葉を失った。このお守りが母さん自体だったなんて....じゃあ前に僕が地面に叩きつけたのも....

 

 思わず手が震えた。

 

「でもこのお守り、もう力を失ってきてる」

 

「え....?」

 

 紫の言葉に再び僕は言葉に詰まる。

 

「正直、母親の貴方を守りたいという気持ちは貴方の想像以上のものだと思うわ。何度も死に目に遭ったり消耗するようなことが繰り返しであってもまだこうやって力を発揮したのだもの。....でもその気持ちとは別にそろそろキャパの方の限界が近いみたい。実際貴方がこうして今生きているのはまさしく奇跡に近いと思うわ」

 

 僕はお守りを両手で持って膝から崩れ落ちた。このお守りの効力が切れるということは....そこから先は考えられない。考えたくもない。

 

「これで大方の答え合わせはお終い。もう少し順序立てて説明するつもりだったけど、結局一気に話してしまったわね。それで....貴方はこれからどうするつもり?この薄暗い森の中で母親と一緒に添い遂げる?それとも—」

 

 紫の言葉を待つ前に僕はまた走り出した。しばらく走ったがまだ疲れは感じない。とはいえ限界が近いと言われた以上、あまり無茶はできない。とはいえ体力に配慮して歩いて行ったところで方向も分からない。そうなれば飢えのせいでどっちにしろ....

 

 

 

「あっ!お前は!」

 

 聞き覚えのある声が上からした。紫の声ではない。声の方を見ると今度は姿が見えた。....?箒?

 

「あん時以来だな。まさかまた生きて姿を見るとは夢にも思わなかった」

 

 確か彼女は、ここに来て最初に出逢った....そうだ魔理沙だ。魔女って本当に箒に乗って飛ぶのか。思わず少し感心する。

 

 

 

 ちょっと待て、箒で....

 

「こんな所で何してるんだ?ここは—」

 

「頼みがあるんだ。聞いてくれ」

 

 魔理沙が何か言おうとするのを遮り僕は懇願する。

 

「な、何だよいきなり....」

 

 思わぬ僕の行動に魔理沙は戸惑う。

 

「さっき乗ってたその箒って、2人乗りって出来るか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残りは結局彼次第....どっちにしろ迎える最期が同じなら、少しでも彼にとって幸せな方が良いでしょう?」

 

 優を見送った後、そう言い残してスキマの中へ消えていった。


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