在るべき死に場所を探して   作:開屋

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底無しの虚無

 よく分からないあの店からしばらく歩いていくと、やがて完全に森を抜けた。そこから少し歩いていくとさっきの所よりもずっと活気を感じられる場所に辿り着いた。人の往来もあり、さっきまで居た森とはまた違った場所だろうか。

 

 そこの人々は僕たちがイメージする江戸時代の庶民のような服を着ているのがほとんどであり、ここにいるのは基本妖怪ではなく人間だろう。

 

 ここで改めて今の自分の格好に気づいた。一応一糸は纏っているがあくまで布を裸の上にかけているような状態である。向こうで穿くものも何かしらくすねておくべきだった。とりあえずあまりここの人たちとは関わらないようにしよう。格好も格好だし憐れみの視線を向けられるのはたまったもんじゃない。そう言うのはもう向こうの世界で嫌と言うほど経験してきた。

 

 

 

 

 

「おどろけー!!」

 

 

 

 不意に物陰から何かが出てきた。子供だろうか。

 

「....」

 

 突然の出来事に僕は反応できなかった。驚かせてきた?のだろうか。こちらの反応を見て向こうは納得していない様子である。

 

「うーん、やっぱりだめかぁ。見覚えのない人間だし可能性はあると思ったんだけどなぁ」

 

 その子は小さく呟く。人間、と言っている限りもしかするとこの子は人間ではなく妖怪の類なのか?少なくとも正気の人間ではこんなダッサい傘を持つこともないと思う。と言うかホントに気色悪いなこの子の傘。そもそも晴天だというのにどうして傘を持っているのか。いろいろ気になることはあった。

 

「な、何よ。そんなジロジロ見ないでよ」

 

 相手の子は決まり悪そうにしている。と言うかコイツは何がしたかったのだろう。何を目的に僕を驚かしてきたんだろうか。

 

「何が目的なんだ?ちびっ子」

 

 僕はそう尋ねる。度重なる災難や自分のこれまでの境遇の所為か僕の人間性は内側からじわじわ浸食され大分荒んできた気がする。

 

「ち、ちびっ子!?私は貴方よりも長く生きているというのに。これだから人間風情は....あと私にも『多々良小傘』って名前が—」

 

「あーもう分かったって。ここは基本人しかいないんだろ?どうして自称妖怪がこんなところにいるんだ?」

 

「なっ....私は人を驚かせるのが仕事なの!だからこうやってカモになりそうな人間を—」

 

「んで、ここ最近で成功した試しはあるのか?明らか負け癖がついているようだったが」

 

 小傘とかいう妖怪を僕は嗤う。

 

「う、うるさい!あなたには関係ないでしょ!」

 

「と言うかこんな時間にこんなところであんな驚かし方したって意味ないだろ。もっと何か、ロケーションとかあるんじゃないのか?こんな場所だったら墓場とかもあるだろうし」

 

 何だかあまりにもかわいそうに思えてきたせいか、馴れ合いを避けて来たものの何故かこちらがアドバイザーの様になってきている。

 

「う....ま、前はそこもナワバリにしてたけど今は止ん事なき都合があって....」

 

「ふーん、まぁ頑張れ。」

 

 それだけ言って僕は立ち去った。

 

「あっちょっと!」

 

 小傘が後ろで何か言って僕を引き留めようとしていたが無視した。さて、一応人間のテリトリーに来たのだが、引き続きあてもないのでとりあえずその辺りをうろつく。

 

 ぐるっと回ってみたが、時代錯誤な点以外は特別変哲のない場所である。ここから少し行けばバケモノ達の巣窟であるとは到底思えない。夢にしては作り込まれ過ぎているようにも思えた。

 

 ....ダメだ、僕はここを現実とは思いたくない。頬をつねれば痛いし、これまで経験がなかったとはいえバケモノの胃の中のあの不快感も非現実と思えないほどまだ鮮明に残っている。およそ平常では思い付かないようなセンスの傘を持った妖怪とやらもいる。

 

 色々なことをグルグルと頭の中が駆け回って処理が追い付かない。どうしようもないのでボーッとしていると急に小さな子供の声が聞こえる。さっきの小傘とかいう妖怪とは別物で、それも複数人の。

 

 声の方に意識を向けると、これまた古臭い格好の子供たち....ん?

 

 ほとんどが着物の子供たちであったが、所々に奇妙な格好をした者もいる。何か触手の生えたのもいるし、面妖な見た目の多くに羽のようなものも生やしている。人間のコスプレか?それとも―

 

 子供たちは学校の帰り道のようにそれぞれ色々と話しながら家路についているように見える。奇妙な格好の者らも例外無くだ。

 

 子供たちが帰っていく方を見ると先生らしき女性が見送りをしている。何だろうあの奇妙な帽子?は。

 

「君は何をしているんだ?ウチの生徒に手を出したらタダじゃ済まさないよ」

 

 先生らしき女性は挙動不審な僕の立ち居振舞いに気づいたのか、厳しめの口調で僕の方へ詰め寄ってくる。こんなよく分からない世界で変質者扱いを受けるだなんてたまったもんじゃない。

 

「そんなつもりはない。そもそもここがどこかも分かっていないというのにそんな馬鹿げた真似するもんか」

 

 こちらも厳しめの口調で返す。

 

「それなら構わないが....っと君はさっきここがどこかも分からないって言っていたかな?」

 

「まぁ、そうですけど。何か幻想郷だとか言う場所だとは教えられたが、正直受け入れられない」

 

「確かに無理もないか。それとなんだが....君その格好は一体どういう風の吹き回しで至ったんだ?やはり君は....」

 

「そうじゃない!服は....色々あって失った」

 

 あらぬ汚れた疑いをかけられた僕はつい感情的になってしまう。らしくない自分の言動に少し苛立ちを覚えた。

 

「となると引剥の類いか何かか?いや別に話したくなければ話す必要はない。しかしその様では多分行くあても今日の宿もないだろう?今日は私のところに泊まるといい」

 

 誤解があるとはいえ嫌な疑いは晴れ、向こうの反応も柔和になる。

 

「別にいいです。どっちにしろ僕には何も残ってないですから。もういいです」

 

 最後にダメ押しを踏んで僕は虚無主義者のように呟く。

 

「その発言は一教育者としては聞き逃せないな」

 

 再び向こうの口調が厳しくなる。口ぶりからするにこの人はあの子らの先生に当たるだろう。....人だろうか。さっきの傘を持った妖怪も見た目だけで言えば普通の少女とあまり変わらなかったわけであるし。センスは別として。

 

「とりあえず僕は行きます」

 

「待て、これからの君を考えるに私は君を一人にすることはできない。君が納得するまで私は退くつもりはない」

 

 様子を見るにこの先生とやらはそう簡単に折れはしなさそうである。もう断るのも面倒である。死にたいと言う目的立ったのがもはや自分がどこに向かっているのかも分からない。何になりたいのかも分からない。

 

 意欲を失えば人は死んだも同然といった旨の格言をしばしば聞くこともあるが、果たして今の僕は生きていると言えるのだろうか。

 

「....分かりました」

 

 脱け殻のように空っぽの返事をその女性に僕は投げ返した。

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