在るべき死に場所を探して   作:開屋

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想起、それと怒号

 さて、とりあえず自分の授業の時間まで待っていろとは言われたものの、やはり緊張は収まらない。慧音曰く『自分の好きにやればいい』とのことだが、一体どうしようか。

 

 ここに居ると自ずと慧音の授業が聞こえてくる。歴史の授業だろうか。さっきまでザワザワしていた教室は静まり返っているようで、慧音が何かを書いている音しか聞こえてこない。なるほど、やはり先生として生徒に慕われているのだろうか、皆熱心に授業を聞いているようである。

 

 ふと授業風景が気になった。というか確かに皆熱心に聞いているようだが、話し方が堅苦しいというか、機械的と言うのは少し違うのだが、中々長時間聞いている分には辛そうである。ここの生徒は僕ら基準で言う小学生くらいがほとんどだったはずだが....

 

 待っていても退屈なので、こっそり隙間から授業の様子を覗いてみることにした。なるほど、一生懸命皆板書を取って....いない!

 

 7,8割方の生徒は机に突っ伏している。普通寝ている生徒がいたら先生は注意するものだと思うが、というか慧音の板書の量が異常だ。悉く僕らの世界で人気のないパターンのそれだ。

 

 慧音がつらつらと板書を書き連ねている間、ぽつぽつと生徒が起き始める。やがてチルノと一部を除く大半の生徒が起きて何事もなかったかのようにしている。

 

 一通り板書を書き終えた慧音は生徒の方を向く。チルノは寝ている。そして案の定注意を受ける。何となくチルノがマークされている理由が分かった。だがこれはこれでどうなのだろうか。

 

 やがて授業が終わった。号令が掛かり生徒らは休み時間に入った。とても懐かしい光景である。

 

「ふぅ、終わった終わった。にしても相変わらずチルノは授業態度に難があるな....一体どうしたものか」

 

 慧音さんそれチルノに限ったことじゃないですよ—と、口から出かけたが、あえて黙っておいた。それをバラしてしまうと何か色々大変なことになりそうというか、慧音の精神衛生上あまりよろしくないように思えたからである。少し前の荒れ果てた僕ならきっとそれをあげつらってバカにしていただろう。もっとも今はそんな気は起きないが。

 

「さて、次は君の担当だ。このプリントは一応今日の授業用のものだが、使うのも使わないのも君に任せる。頑張って来い」

 

 そう発破をかけて慧音は僕を送り出す。普通は教育課程だとかなんだかあるということを考えれば改めてやはりこれはかなりの無茶ブリなのではないかと感じる。

 

 

 授業の時間になり僕が教室に入る。だが、さっきの慧音の時とは違い大半の生徒はまだ休み時間の気分である。一部の人間、あと昨日『大ちゃん』と呼ばれていた子は大人しく準備をしている。

 

「おーい、もう授業始まってる時間だぞ。静かにしろー」

 

 僕がそう言っても中々静まらない。一体どうしたものか。とりあえず手始めにこれまで一番僕に絡んできているチルノの方へ向かう。

 

「何だよすぐる。あたいはまだお前が先生だって認めてないからな」

 

 そう言って僕の方を睨んでくる。『そうだそうだー!』と、周りからはヤジが飛ぶ。活発的な性な分、ちょっとしたリーダー的存在なのだろうか。

 

「そんなこと言ったってもう決まったことだ。授業するからとっとと準備しろ」

 

 僕もチルノの方を見返してキツめに言う。

 

「そうだよチルノちゃん、一旦静かにしよ?」

 

 ここで大ちゃん、と呼ばれてた子が思いがけず僕の方へ援護射撃を送る。思いがけずいい子もいるものである。だが当のチルノは全然話を聞こうとしない。どうしてだろう、この構図は見覚えがある。多分僕が中学生くらいの頃、先生の注意、騒音、馬鹿共の集まり、出来れば思い出したくない—

 

 

 

 

「うるせえ!!」

 

 気づけば自分でも思いがけず、大きな声を出してしまった。教室内の空気が一瞬で変わる。ハッとなったがもう時すでに遅しといった様子である。この空気を一言で表すなら『最悪』以外のものはない。

 

 どうしたらいいか分からず僕は少しその場で棒立ちになっていたが、そうもしていられない。周りを見るともうみんなが席に着き、俯いて静かにしている。

 

 とんでもない動悸に襲われ肩で息をしていたが、少しずつ僕を現実が引き戻してくる。そして少しふらついた足取りで教壇の方へ向かった。

 

 それから僕は授業をしていたそうだが、あまりハッキリとしたことは覚えていない。手元に会ったプリントを配ることもなくいつの間にか授業は終わっていた。

 

 授業が終わって僕は裏に引っ込んですぐ、途轍もない後悔の波に呑み込まれた。掴みで一番やってはいけないことをやってしまった。体育座りになって僕は頭を抱え込む。

 

「大丈夫か....?」

 

 僕の様子を見かねた慧音が声を掛けて来る。何かを答えようとするが言葉が出てこない。そのまま僕は空間に溶け込むかの如くじっとしていた。その間慧音は僕に無理に話しかけようとはしなかった。

 

 

 

 翌日、ここではいつもと同じように授業が開かれる。正直に言って相当に憂鬱である。昨日の授業がどんな風に進んだかも覚えてないし、何よりもどの面を下げて生徒らの前に現れればよいのだろうか。

 

「おはよう、よく眠れたかな?」

 

 こちらを見つけて慧音は声をかけてくる。

 

「まぁ、なんとか」

 

 大噓である。と言うか寝たかも分からない。いつのまにか今に至る、と言った具合である。だが頭はボンヤリとしていてマトモに何かを考えられそうにもない。

 

「大丈夫か?今日は私が出た方がいいかな?」

 

 まぁ嘘はバレバレだった。このザマならさすがにチルノにも見破られそうである。

 

「今日は....お願いします」

 

 作り笑いを浮かべてそう答えた。

 

 

 

 それからしばらく経って、僕は再び教壇に立った。初日とは大きく違って授業が始まる時間になるやいなや、教室内が静まり返った。重苦しい空気が場を支配する。僕は仏頂面をぶら下げて感情の無い一礼から授業を始める。

 

 参考書に書かれていることをそのまま辛うじて聞き取れるような声で読んでいき、ほとんど生徒に顔を会わせることもなく、ダラダラと黒板を埋めていく。

 

 『僕が一番嫌いな先生』を演じ切り、授業が終わって奥に引っ込むと生徒等の声がする。

 

「~~~」

 

「~~~」

 

 よく言っていることは聞こえないが、恐らく陰口だろう。恐らく授業の不満だろう。その声は次第に大きくなっていき、僕の心を呑み込んでいく。

 

 一体どうすればいい?もう取り返せないのか?ここでも僕は失敗してしまうのか?やり場の無い負のエナジーが僕を立ち込めていき、雁字搦めにする。

 

「~~~」

 

「~~~」

 

 また聞こえてくる。人妖問わずに不満が膨らんでいく。もうやめてくれ。これ以上はもう耐えられない。抑えていたヘドロの様に汚れきった感情のようなものが脳髄まで侵食していく。

 

 正気を失いリミッターが外れた僕はバッと立ち上がり、奇声をあげて走り出した。




 
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