『先生が言ってたんだけど、瓜を半分に切っても同じ形だから『瓜二つ』っていうらしいよ』
『瓜ってなに?』
『わかんなーい』
『食べ物だって言ってた』
『それならメロンだってそうじゃない?』
『『メロン二つ』は変でしょ』
『だねー』
『うーん……』
いつも私達は一緒。いつも5人一緒。それが、私達だから。
瓜の話は正直どうでも良くて、重要なのはここからだ。
『どうしたの? 四葉』
『瓜は5つに切っても同じ形なのかな、って』
『あははは。じゃあ私達は『瓜五つ』だね』
『……うんっ』
そっくりな事は自分達にっては褒め言葉だから。
皆一緒。喜びも、哀しみも、怒りも、慈しみも、全てが――五等分。
そうだと、思ってたんだけどなぁ……。
「二乃と三玖! みんな呼んできて!」
「皆、じゃなくて、一番は誰か大人の人!」
「2人とも落ち着いて! あの子が心配なのは皆同じだから」
「そうっ! わたし、ここで見てるから! 落っこちちゃわない様に、頑張れって言い続けるから!」
今、見上げてるのは大きな大きな木の上。沢山枝分かれした枝の先に、プルプルと震えてる黒い猫がいた。高い所に上り過ぎてて、降りる事が出来なくなっちゃったんだろう、って事は直ぐに判った。
今、一花と五月は先に帰ってていなくているのは3人だけ。でも自分達の身長よりずっとずっと大きな木を前にしたら、何にも出来ない。何時、あの子が落ちちゃうか判らない。
あそこから落ちちゃったら、そのまま川に落ちちゃうよ!
でも、わたしなら、行けるかもしれない。助けれるかもしれない。
以前サッカーの試合に出た時、監督が言っていた。一番うまくなってるって。体力も一番あるだろうって。正直ヘボ監督だったから、そんなに強く思ったりしなかったけれど、ひょっとしたら自分なら、と今思ってしまう。だって、あの子を助けたいから。
「ちょっと四葉! 危ない事、考えないでよ! 直ぐに呼んでくるから」
「登ろうとかコト考えたらダメだからね!」
考えてる事がバレちゃったみたいだ。
自分が考えてる事なんて、簡単にバレちゃう。他の皆も同じ。私だって解るから。
「わ、わかってるよ! 危ない事なんてしないから早くっ!」
「うん! 三玖、いそごっ!」
「うん!」
2人は 思いっきり駆け出した。
この林道は結構長い。お散歩コースだから人がいない訳じゃないんだけど、今は運悪く誰もいなかった。大きな道路に出て誰かを呼ぶか、直ぐ傍の家に戻ってお巡りさんに電話した後、4人で駆けつけるか。
「何にしても、遅いかも……、だって、あの子……っ」
ぷるぷるぷる、と震えてる猫を見てそう感じてしまう。身体全体で震えてて、今にも落ちそうだから。しっかりと爪で枝につかまってるみたいだけれど、時折 ずるっ、と落ちちゃいそうになってるから。
「まてない。まってられないよっ……! ……ごめんね、二乃、三玖。わたし、いくから!」
だから、私は決心した。
ちょっとでも身軽になれるようにカバンを下において、かぶってた帽子も木に引っ掛けて、準備体操だけは忘れずに。
「……よしっ! 絶対に助けるからね!」
さぁ、登るぞ! って構えてたら……頭に感触、あったんだ。
それが帽子だって気付くよりも早く、声が聞こえてきた。
――待ってろ。
そう一言だけ。
風の様に現れたのは男の子だった。
するする、とあっと言う間に木に登っていく。落っこちたら危ないのに、怪我、大怪我しちゃう。それに川に落ちちゃったら……、って 何度も考えてたのに、その子に視線が釘付けになっちゃってた。
「っ、と、ほっ……、よし」
まるでおサルさん。あっという間に猫ちゃんの所にたどり着いてた。
「馬鹿だな。無理して登って、イイことあったか?」
両手をハイ、と広げてる。
そこに飛び込めば……解決! 何だけど、猫ちゃんも状況が判らないみたい。怖いって気持ちだけが前面に出てて、ただただ震えてるだけだった。
それを判ったのか、男の子は前に出ていった。枝が細くなってて、より危ないのに するすると。それで、猫ちゃんの所について。
「あっ、あぶないっっ!」
猫ちゃんは落ちそうになっちゃった。
助けてくれるんだという事が、猫ちゃんながら判ったんだと思う。だから、身体の力、抜いちゃったんだ。しっかりつかんでた枝も放しちゃって、そのまま下に……。
「っとと、あぶねっ。ほら、落ち着いて 落ち着いて。直ぐ降りるからな」
落ちなかった。
男の子が猫をキャッチしちゃったから。両足を枝に絡ませて……、まるで鉄棒でもしてる様にぐるんっ、とまわって……、猫ちゃんを片手に、またするっ、するっっ、と降りてきて……、私の前に。
「お前の猫か? しっかり躾はしといた方が良いぞ」
「え、えっと、その…… わ、わたしのじゃなくて……」
「なんだ? 違うのか。どっちでも良いか。ほら」
猫ちゃんは、地面に下ろされると、ぴゅっと走って行っちゃった。お礼くらい、って思ったけど、そういうものだよね。でも、最後にこっちを向いて、少しだけ頭を下げたんだ。まるでお礼をしてるみたいで驚いた。
そんな時だ。少し強い風が吹いてきて……。
「あっ、わたしの帽子が………っ」
しっかりかぶってなかったから、帽子はふわりと浮いて、風に流されちゃった。それも川の方に。フェンスを越えそうになった所で、またあの男の子。
「よ、っと」
いつの間に、なんだろう。本当に凄いと思った。まるで風の子? 風の精霊さん?? 色んな考えが頭の中にあったよ。
「結構お前って、ドジなんだな。しっかりかぶってろよ。 ここに落ちたら取れねーぞ」
「あ、うん…… そ、その ありがと……」
「おう。じゃ、オレ行くから」
「ちょ、ちょっと待って! えっと、キミは……?」
「悪い。これからサッカーの試合があるんだ。時間がヤバいから、また今度な」
手を伸ばしたけど……掴めなかった。するっと抜けていっちゃった。ほんとに風みたい。
暫く、私はぼーっとしてた。二乃や三玖、五月と一花が来て、皆が呼んでくれた大人たちも来て…… それで猫ちゃんがどうなったのかを説明して、それでも 私の中にはあの男の子の事だけでいっぱいだった。
「サッカー……か。あのヘボ監督なら、あの男の子のこと、何かわかるかな?」