病院は正直好きじゃない。
好きなヤツに会える所でもあるんだけれど……好きになれない。出ていける保証をしてくれないから。自分の事も……大切な友達の事も。
「……大丈夫だったのですね?」
「…………」
「私に嘘はつかないで下さい。それと、私に気を使うのも同じくです。……約束した筈ですよ。これを破るのなら、貴女との友情も今日限りで終わりです」
「わかった。わかった。……検査結果は良好だよ。大丈夫だってマルオ君にも太鼓判貰ってる」
「……そう、良かったです」
自分はもっと大変な癖に こうやって私の事ばっかり心配してきやがって。私がどれだけお前の事を心配しているのか判ってるのか? このやろう! って言ってやりたいんだが……、それが判らない訳ない。私とコイツの付き合いは長い。伊達に長く親友やってないんだから。
だから、もうこの手の話題は終わりだ。もう……病気の話なんざ懲り懲りだからな。医者と向き合う時だけ思い出せれば良い。零奈と一緒にいる時は……なるべく忘れる。それも約束の1つだ。
「はぁ……。んでも、零奈の苦労ってヤツ? 私にも漸く少しだけど判った気がしたよ」
「そうでした。貴女に子供が出来たんでしたね」
「まぁ、な。アイツらを一人前にしてやるのが私の今の夢だ。んでもって、お前も元気になってこっから抜け出る。それも同じくらいでけぇ夢だ」
病気の事はなるべく止めようって思ってるのに、どうしてもそっちに結びつけたくなってしまう。自分の事より、零奈の事の。……私が大丈夫になったんだから、零奈だってって。
「……私もです。あの子達を見届けたいと思っていますよ」
「はははっ、出来るさ! なんたってお前のファン一号が付きっ切りで診てくれてんだぜ? 後、現代医学舐めんなよ。日々進化してんだ」
「ふふ……、そうですね。貴女のおかげで私も後ろ向きな発言をいわなくなってます。……一度、彼に言ってしまいましたからね。私よりも自分の時間を、と」
「はは……。ま、マルオ君がそれを了承するなんてこれっぽっちも思ってないけど、言わなくなったんなら良いさ。私も嬉しい」
今のこの病院の一室では、迷惑なんじゃないかってくらい話し込んでる。
それが出来る様にしてくれてるんだから、ほんとあの男は零奈の事が好きなんだな。ま、女の私でも惚れるけど。こんな美人だったら。
「んでもよー、聞いてくれ。心配な事もあんだよ」
「何ですか?」
「……あの子の事なんだ。子供らしくねーっていうか、早熟っていうか。まぁ 確かに
「……妹さんと弟さんとは」
「あぁ、アイツが面倒を見ててくれるよ。零奈んトコみたいにずっと、とはいかねぇけど、家族の時間を子供だってのにスゲェ大切にしてくれてんのが判る。おかげで、兄貴にべったりだ2人とも」
仲睦まじいのは良い事なんだけどね。……でも、アイツには子供らしく子供らしくして欲しいって思うのは贅沢ってもんなのか?
「前ん時も話したけど……やっぱ心苦しいのは、アイツ……
「……無責任、かもしれませんが、私は然程心配はしてませんよ」
「そーかー? まだ早計だってか??」
「いえ。今は貴女の―――綾乃の子供なんですから。貴女が背を見せ続ければ、きっとわかってくれると私は確信してます」
歯に着せぬセリフをずばっと言ってくる所もモテる秘訣なんかね。私が男だったら マルオと取っ組み合いしてでも奪ってやってるトコだわ。
まぁ、そう言われたら何となく安心できるのは、零奈が先生だからっていうのもあるのかもな。高校の先生が全員こんな感じだったら良―――くもないか。怖いトコあるし。
「……何やら少々不快な事を考えてません?」
「いやいや、滅相もない。んじゃ、今後のアイツ……祐輔はわたしにかかってるって言いたい訳ね?」
「その通りです。……傍にいるコト。それが出来るんですから」
「勿論だ。……零奈。お前もだぞ。絶対、絶対な」
「……はい」
こうやっていつまでも話していたいけど、生憎そうはいかないんだよな。
名残惜しいケド時間ってもんがあるから。
だから、一瞬一瞬を大切にしていく。それに零奈に言われた事は絶対に守る。
今の私に出来る事はそのくらいだ。
後は――――マルオに釘さすくらいか。絶対助けてやれって。
……助けてくれ、って。
「
「にぃにーまだあそびたいよー! まだ、おねーちゃん達といっしょにいたい~!」
「ボクも!」
2人して、ひしっ と五月と一花にしがみついて離れないから困ったもんだ。
もう遅くなるし、ちゃんと時間を決めて遊びにいってるんだから、心配もかけたくない。でも………妹や弟のお願いも聞いてあげたい。
一緒にいるコト以外のお願いはなかなかしないから。色々大変だって事、2人なりに判ってるみたいで、あまり我儘を言わないから。
でも、……ダメなものはダメだ。
「ダメだって。ほら、お姉さん達にも予定があるんだし……」
「うぅ~……」
「むー……」
しっかり離れない2人。その頭をそっと撫でてくれるのは五月に一花。
「また遊ぼう? 今日はもう終わりにして……ね? ほら、早く帰ってご飯食べて、しっかり寝ないと大きくなれないよ? 私達にいつまでも勝てないままだよ~???」
「そうそう。私達ならいつだって遊んであげるから」
「ほんとっ??」
「ほんとーー?? そっちのおねえちゃんたちもっ!?」
一花や五月だけじゃない。
二乃も三玖も四葉も、皆頷いてくれた。
「じゃ、手を洗って帰る準備だね? お片付けの準備~~よーーい、どんっ!」
四葉がそういうと、きゃあきゃあと言いながら2人が散らかしたままになってたオモチャを箱に片付けを開始した。
本当に嬉しかった。だから、オレは礼を言う。家族に優しくしてくれる人には幾らでも。
「……ほんとありがとな。皆」
「ふふっ、大袈裟だってば。私達も楽しかったもんね?」
「うん!」
「ユースケ君の妹や弟だからやっぱり凄かったねー、凄い体力」
「私達が振り回されちゃったくらいだし……」
必至に片付ける2人を見ながら うんうんと頷く5人。息が合ってる姿を見ると、何だか面白くも思うし……、仲良さそうな所を見ると更に何だかふわふわする感覚がするんだ。言葉にするのって凄く難しいが。
「さて、また遊ぶ約束しよーよっ! ユースケ君も混ざって遊ぶんだからね??」
「うおっ、四葉…… いきなりとびかかってこられたらビックリするって」
「くそう……、後ろからだったら、絶対にバレないって思ったのに……」
「はぁ、そういうの仕掛けてくるのが二乃って事か」
「ん。たまに私もするよ」
「三玖もか……」
「ふっふっふっふ~ 私達は止めといてあげよう!」
「ねー?」
「一花に五月も……。ったく、悪戯はほどほどにな」
色々と大変な姉妹と縁がまだまだ続く様だ。
いつまで続くか判らないけれど………、ずっと続いて欲しいかな。家族が笑顔になるのなら、オレは嬉しいから。
――――――でも……。
『……は、いらな…………』
『…………、のトコにい……』
『今日から……………だから』
耳障りな雑音が頭の中に響く。
一言一句思い出してしまうから、無理矢理自分で別の雑音を頭の中で再生させて誤魔化してる。
それでも―――顔が強張るのはなかなか止められないもんなんだ。
「……ユースケ君?」
「……ああ、なんだ? 四葉」
「あ、いや……。何でもないよ。ほ、ほら 片付け終わったって!」
四葉が言った通り、オモチャの片づけは終わったみたいだから、オレは2人の手を取って。2人は中野姉妹の5人全員に手を振って……オレ達は公園を後にした。
四葉の視線だけが、何となく気になったけれど、次に遊ぶ約束をしてくれた事に凄く喜んでる2人を前にしたら、どうでも良くなってきてすぐに考えるのを止めた。
家に帰るまで、油断しない様にするために。
「………なんで、あんなにやさしいのに、時々怖い顔になっちゃうのかな……?」