デスゲーム開始から少なからず時を刻んだある日の夜。アルトリアは書類仕事に嫌気がさして街に飛び出し「らっら~、ら~ら~♪」あの歌の音に耳を傾けていた。
――――サブタイトル『純白の歌姫』
「クッこの!うぉぉぉぉ!!!!」
ガキンッ
「甘い。大振りの一撃など横から叩いてしまえば重心は崩れ、剣は下を向いてしまう。
…………これで十合目。
悪いことは言わない血盟騎士団に帰りなさい、貴方は円卓に入るには余りにも
肩で大きく息をする少年に優しく諭す大男『ガウェイン』はその決意の揺らがない熱い瞳に小さく息を吐く。
「(私も暇じゃないんですが……)」
土下座までして入団を申し込まれ、仕方なく模擬戦をしたものの……剣は操るのではなく振り回す、挨拶代わりの殺気にはガタガタと震えて、しまいには目を瞑って突撃とは………中層上位とは聞いていたが、レベルを除けば初心者とさほど変わらない技量に円卓一の脳筋と揶揄されるガウェインですらため息が漏れてしまう。
「どうして、円卓に入りたいのですか?」
「恐怖を克服したいんです。怖くなって足が動かなくなった時、彼女を守れないんじゃないかと不安になって、いてもたってもいられず…………」
「成る程、私は度胸試しですか」
「うぇ!?そそっんな!つもりは!?」
失言だったかと狼狽える少年。
「まぁいいでしょう、貴方が円卓に本気で入るつもりはないことは分かりましたし、恐怖を克服したいなら兎に角、死線をくぐり抜けることです。私も初めの頃は怖かったですが、なに……三百回ほど死にかければ丁度いい具合に感覚も麻痺しますよ」
バシバシと少年の背中を叩くガウェイン。少年はそれを冗談かと困ったように頷くばかりだった。
―――しかし、2023年10月15日。
この日ほど、怠惰な自分を呪ったことはない。何故自分はガウェインさんの助言を無視して恐怖を克服する所か、未熟な剣の腕も磨いてこなかったのか。
「ァァァァ!!!!」
恨めしい、恨めしい、恨めしい、恨めしい!
何も出来ない自分が!何もしてこなかった自分が!
彼女を見捨てたアイツらが彼女を殺すモンスターが!全部全部全部!!!!
「動けよ……まだ、彼女は生きてる……お願いだから……動け……動けよ!」
少年は叫ぶ。しかし体は自分の物ではなくなかったように口以外ピクリとも動かない。
その間にも“彼女”のHPはみるみる減少していく。
「…………お願いだから…僕は……………僕じゃ、無理なんだよ……………………………誰か彼女を…………ユナを助けてくれよぉ…………」
「――ならば、その願い。我が剣で叶えよう」
涙でくしゃくしゃになったその瞳に映ったのは「あ”ーさ”ーお”う”」騎士王だった。
フレンド登録したプレイヤーのHP残量は把握できるらしい