フロアボス攻略において血盟騎士団とまだそこまでレベル差の開いていなかった円卓の騎士が協力体制を敷いて攻略に当たるのは必然で、アルトリアの姿もそこにはあった。
「ここは私が抑える!」
「往くぞー!」
守りのヒースクリフと攻めのアルトリア。この二人が揃った時の安心感といったら何とも言葉では言い表し難い。
アルトリアに続き、瞬く間にフロアボスのHPゲージを一つ削り切った攻略組は歓声を上げる。
「――ッぅ!?」
だが、アルトリアの様子が可笑しい。ステータス画面を開き予備の回復薬を補充する筈だった彼女は驚愕に目を見開くと「ランスロット!私の抜けた穴は貴公が埋めろ!」ボス部屋から飛び出したのだ。
「何をやっているんだ!」「騎士王!」「おいッ誰か連れ戻せよ!」
攻略組は困惑し、思わず敏捷力特化のプレイヤーは彼女を追いかける。「待ちなさい」「お前ッ何を!」しかしそれを遮るのは円卓のベディヴィエール。筋力にスキルポイントを殆ど振り分けず円卓で速さのみを突き詰めた彼は食い止めたプレイヤーに剣を向ける。
「元より、このフロアボスは王のお力を借りるほどの物ではない。王が自らの意思で退出なされた以上、追う者は我々円卓の敵だ」
「だが、アーサー王に抜けられれば誰がー!」
「Arrrrrrrrrrrr!!!!!」
それは狂気。闇に落ちた騎士の成れの果て。世界に絶望し、悲観し、己の殻に閉じ籠った“遅すぎる救済”を得た円卓の怪物。
彼の者はたった一人フロアボスを切り刻み、また一つHPバーを削り切る。
「それで誰がとは?」
「アイツ……また振られたのか」
「こりゃ3日はあの鎧脱がねぇぞ」
「私は悲しい」ポロロン
「Arrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!」
(すまないランスロット。セッティングした私が言うのも何だが初日でホテルはやり過ぎだ!)
唖然とその光景を眺めるプレイヤー達の後ろでベディヴィエールは救済の遅れた合コンの敗北者に黙祷を捧げていた。
「――ならば、その願い。我が剣で叶えよう」
少年を横切り、剣を抜いたアーサー王は走り出す。
いや、走り出したように見えただけだ。気づけば王はモンスターの一体を斬り、細剣のソードスキル《ニュートロン》を思わせる高速の突きを両手剣で放ち、吹き飛ばしていた。
「アルトリアさん!?」
それは正にユナの残りHPを削りきろうとしていたモンスターを巻き込んで、硝子の割れる音が視界の外から響く。
少年が見れば左翼の雑魚モンスターが全滅していた。「凄い…………」少年は思わずそんな声を漏らす。そしてそんな言葉すら生ぬるいとアーサー王は捻れた両手槍をストレージから取り出す。
「はぁッ《スイフト・ランジ》!」
風が吹き荒れ今度こそアーサー王は消えた。アーサー王が槍を向けた先のモンスター達は強風に吹かれたように左右によろめき、数秒して弾ける。この時、誰がソードスキルを移動に使い途中でキャンセルした後、慣性の法則を利用し通り抜け様に刺してきた――そんな馬鹿げた話を信じられるのだろうか。
「……っユナ!今のうちに回復をー!」
気づけば体が動くようになっていた少年は次々とモンスターの消滅していく幻想的な空間に取り残されたユナにポーションを投げる。それを受け取り口に含んだ彼女を見て、再び闘志を奮い立たせる少年であったが……
「貴公が剣を握る必要はない」
ブチりッ
金髪の束が地面に落ちる…………鏖殺の始まりだ。
「僕さ、攻略組引退して花屋になろうと思うんだ」
「ノーチラス!?」
ユナという少女とノーチラスと呼ばれる少年の前からモンスターが一匹残らず消滅しアーサー王は去った。
その後の彼らの道行きを知るものは少ない……所か、五十層攻略記念祭りにおいて純白の歌姫と伝説のギターリストAEGとして一時期、時の人となるのだが―――それはまた次の機会で。
【円卓の騎士】ギルドメンバー
ランスロッド…彼女居ない歴=年齢。容姿は整っているが、本気過ぎてドン引きされフラれる。