キリトが指定された会議場につくと、血盟騎士団団長ヒースクリフを誕生席に据えた長机を囲い各攻略ギルドの長が腰かけていた。あの王様は見当たらないが、月夜の黒猫団団長の席も設けられておりキリトはそこに付く。
「――皆、よくぞ集まってくれた。会議を始めよう」
「…………?
おい、王様が来てないのに始めるのか?」
「あぁ、キミには話していなかったね。今回のフロアボス戦では円卓は参加しない……事になってしまったんだ」
それは、修正力……茅場晶彦すら意図せず、誰も望まなくして生まれた破綻した運命。
多くの命を散らし、友を失い、一人の男の夢を踏みにじる。
誰かが言った。
「あの王は完璧過ぎる」……と。
さぁ希望のないclear
最低のbadend
読む準備は出来たか?
これはクソッ垂れなモブの起こした世界への叛逆だ!
生まれながらのあの王も!絶望に打ち勝つあの剣士も!
これだけは防げねぇinpossible!
人間一番怖いのは…………裏切りだよなぁ?
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺たち攻略組は大きな犠牲を出しながらも第七十五階層ボス《ザ・スカル・リーパー》を討伐した。情報もろくになく、円卓の無参加、フロアボスの今までにない強さは多くの死者を生み、二十名。これは二十五階層以来、いや……円卓が本格的に攻略組に参加して以来誰一人として欠ける事のなかったフロアボス戦の中でも最多を誇る。
ギリギリと歯を食い縛る者、友の死に涙を流す者、暗い表情を浮かべ、見渡す限り誰一人としてボス攻略を喜んでなどいない。
「何がッ!プレイバランスだ!」
「円卓が強くなる事の何がいけないっていうんだよ……アイツらがいれば俺のダチは死なずにすんだ筈だろ!?」
これは、円卓に憧れそして嫉妬していた彼らへの罰なのだろう。
『攻略組』このたった一言が
レベル差が50以上開いている事
一刻も研鑽を忘れず己を磨き続けた事
五十層記念のあの祭りを除きアルトリアを含む円卓に休みなど睡眠時間以外存在しない事
才能もそれを補う努力もトッププレイヤーと円卓の間には決して埋められぬ溝が在ることを気付かせなかった。
踏みとどまるべきだった。誰か一人でも冷静に立ち止まって発言するべきだったのだ。
『これはゲームであって遊びではない』
注目を浴びたい?自分達も攻略組?お前らが束になって円卓に勝てるのか?
馬鹿馬鹿しい。英雄とは凡人には成し得ない奇跡の体現者である。お前らごときが彼らと同じ事を為せると思うなよ?
後悔する前に叫び蔑むべきだったのだ。
「俺は、見たぞ……ヒースクリフ!お前がボスから攻撃を食らったのにHPが減らなかった瞬間をなァァァ!!!!」
だからこんな
――俺は、見たぞ……ヒースクリフ!お前がボスから攻撃を食らったのにHPが減らなかった瞬間をなァァァ!!!!
キリトがアスナがクラインがエギルがその場にいる全ての者が目を見開く。今、あの男は何と言った……?
ヒースクリフが
団長は今回、円卓がボス戦に参加しない事に、犠牲者が生まれる事を真剣に悩み悲しんでいた!
一万人の命をゲーム感覚で弄ぶあんな男と団長が仲間であるわけがない!
「ぅ…………うぉぉぉぉ!!!!」「どうなっても知らねぇぞキリト!」
「キリト君!?」
そんな時、キリトが走り出す。
携えた剣は淡く輝きを放ち「ダメッ今団長を攻撃すればHPは0になってしまう!」既に一割を切ったヒースクリフが耐えられるわけがなく、キリトは団長を殺す気なのだと悟った。
確信もないこの状況で何故彼がこのような暴挙に出たのかはアスナには分からない。ただ、かつての相棒を理由なき殺人を犯した犯罪者に堕とさせる訳にはいかないとレイピアを抜いて横から割り込む事しか出来なかった。
「アスナッ!」
「団長ッ今の内に回復を!」
「…………」
ヒースクリフは反射的に持ち上げていた盾を下ろす。腰に在るポーチからポーションを取り出そうと腕を伸ばすがその瞬間―――トスッ
ヒースクリフの腕に刺さる細いピック。投げたのは他ならないクラインだ。
そして、
【Immortal Object】不死存在。
現れた紫カラーのカーソルは彼をデスゲームに閉じ込められた哀れなプレイヤーからデスゲームを造り出した
「……一つ聞こう、アスナ君が私を庇わず私がただのプレイヤーだったのなら君は無益な殺人を犯したレッドプレイヤーになっていた。何故私が――茅場晶彦だと確信を持てた?」
全てが凍りついたような静寂がおりる。この男は茅場晶彦に与する者ではなく本人であると宣言したのだ。
キリトもその一言は予想して居なかったのか、ごくりと唾をのみ崩れたような笑顔で言う。
「お前が、あの王様以外に負けるなんてあり得ないだろ?
………俺なんかの攻撃なんて簡単に防いだ筈だ!そして、もうそれ以上HPが減らないと言うのなら、一ドットでも食らわせられたら無実を証明出来たんだ!」
そう、キリトの起こした行動は全てヒースクリフの無実を証明する為の物であり、俺たちの憧れたあの王に唯一手の届くこの男もまた英雄と呼ばれる人間であることを信じたかったのだ。
「…………そうか。やはり彼女は」
しかし、英雄と同じ領域に立つこの男は英雄と相反する悪。
茅場は一瞬何かを呟きキリトを除くこの場にいる全てのプレイヤーが《麻痺》状態になる。
「選択しろ、黒の剣士キリト
私と今、ゲームクリアを賭けて戦うか
座して待つか。私と同じく英雄の名に憧れ目指す者ならば、私と云う悪を乗り越え英雄の名を手に入れてみせるがいい!」
「…………上等だぁぁぁ!」
何もしないなんて選択はなかった。
黒の剣士は高々と吼え、神聖の騎士は魔王のように嗤う
この日、新たな英雄が生まれた。
犠牲はあった
夢は諦める事になった
もっと上手くいく方法はちゃんと知っていたんだ
結末は最低で
憧れたものに自分じゃない誰かがなっていく様を最後に見せつけられた
そして私は消えてゆく
夢は幻想に終わり、憧れは記録として無機質な物に成り下がるだろう
けれど、この選択はきっと間違いではない。
今の私に後悔なんてないのだから…
敢えて描写せず読者の想像に戦いの結末を委ねるスタイル