アルトリア・オンライン   作:ら・ま・ミュウ

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リメイク版


ALO編・GGO編
アルトリアァァ!!!!


私の母は冬になると祖父母の屋敷へ帰省する。

この時期になると師匠の剣術指導が受けられず、精神年齢に反して「行きたくない、行きたくない!」……と駄々捏ねる私に母は呆れ果て、いつも刃の潰れた子供サイズの真剣を私に預ける。

恐らく、一度近所の博物館で西洋武器を眺め続けていたことが原因だろう。母はどうも私が常に剣を持っていないと発狂する特殊なバトルジャンキーだと勘違いしている節がある。

子供にこんな物を買い与える時点で色々とあれな気がするが、家に道場があるぐらいだし、我が家はそういった文化に寛容的なのだろうか。

 

まさか、銀行の中まで持ち込む事を了解するとは思わず、手続きが終わるまで同年代ぽい本を読む女の子の横で……バレたら強盗だと間違えられるのでは?

鞘を“きゅ”と可愛らしく握っては一人震えていた。

 

「―――どけぇ!」

 

「きゃあ!」

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

「このカバンに金を入れろ、警報ボタンを押すなよ!」

 

酷く興奮した男が母を薙ぎ倒し、黒いカバンから取り出した銃で銀行員を脅しては金銭を要求する。

まだ幼い『朝田詩乃』はそれが強盗であると理解した。

――怖い

男の怒声に体を硬直させて縮こまる。

 

まだ幼い彼女だが、銃という物が照準を合わせ引き金を引くと音速のごとき速さで弾が射出され、それが人体を喰い破り死に至らしめる事が出来る危険な物であることを知っていた。

 

男はどうも正気ではなく、いつ自分が狙われるか分かったものではない。

隣を見れば、自分よりも幼くみえる少女が震えている。手に持つのは傘であろうか、それにしては少々細長い気もしたが……状況が状況であり、それを両手に握りしめて涙目を浮かべる彼女には思わず助けてあげたくなるような儚さと沸き上がる庇護欲があった。

 

――年上のわたしが、助けないと

 

恐怖に駆られながら、詩乃は少女へと手を伸ばす。

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

 

その時、警報音が鳴り響き、詩乃はこれで警察が助けにくる。そう思って少しだけ安堵した。

 

しかし、警察など助けに来ても遅いのだと理解する。

 

 

「押すなって言っただろうが!」

 

錯乱していた男はそのサイレンで余計に取り乱し、口から泡と奇声に近い大きな声を放って、引き金に掛ける指に力をいれる。

――不味い、撃つ気だ。

思わず、身構えた詩乃。そんな彼女は視界の端を高速で走る黄金の影を見逃さなかった。

 

男が引き金を引き、銀色の弾丸が飛び出す。

バンッ――と、その一コンマ後に飛び出した金色の影が銃口の向けられた男性の前に立ち――斬ッ――なんと、その弾を叩き斬った。

 

「なっ何だお前!?」

 

「……海賊版の玩具か何かですか?

弾道に添えただけで弾が弾け飛びましたよ」

 

金色の影は、先ほどの少女であった。

 

――あの子、いま弾丸を斬った!!!!?

 

目を見開いて驚く詩乃。

錯乱した男は信じられないモノを見たような目をして、少女に銃へと視線を交互させ――彼女へと突きつける。

 

「――ふっ」少女は薄く笑みを浮かべて剣を構える。

詩乃にはそれが「もっと撃ってみろ」そう挑発しているように感じた。

 

「ふざけんじゃねぇぇぇ!!!!!」

 

男は銃を撃つ。一度ではなく、二度、三度と、銃がカチャカチャと音を立て恐らく弾が尽きるまで撃ちきったのだろう。

詩乃は少女が、穴だらけになっている光景を想像し、思わず口に手をあてる――「流石に全部は無理か」そして頬と太ももにうっすら赤い線を描く金色の少女をみて、あてた口から「うっそ……」そんな間の抜けた声を漏らした。

 

「と、取り押さえろぉぉぉ!!!!」

 

弾が切れたと知った銀行員の人達が男に積み重なり男はうめき声を上げる。

慌てて母は私を抱きすくめるが…………今はあの少女に釘付けで、それ所ではない。私は母を押し退け――強盗に発砲、それを超至近距離&剣で防ぐという……とんでもない事件があったというのに、何事もなかったように帰ろうとする少女へ声をかけた。

 

「どうして!撃たれたのに大丈夫だったの!?」

 

少女は、振り返らずたった一言。

 

「あれだけ近ければ銃口から弾道は予測出来ます。ただ当てて少し押すだけです。何も特別なことはしていません。」

 

それだけ言うといつの間にか銀行の前に止まっていた黒塗りのワゴン車に乗って何処かへ行ってしまった。

 

「当てて……押すだけ……なら、もっと速くて重い銃だとどうなるのかな」

 

詩乃の中で何か善くないモノが目覚めた瞬間だった。


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