俺が始まりの街を去って直ぐのこと、とあるβテスター組がその正体を明かして、新人プレイヤーにチュートリアル講座のようなことをしていると風の噂で聞いた。
正直、凄いヤツも居たものだと思う。
阿鼻叫喚渦巻くあの中で、保身を考えれば先ずそのような提案をする事は出来ない。
この世界――ソード・アート・オンラインにはフレンドリーファイヤー防止システムなんて気の効いたものはないし、圏外に出れば他のプレイヤー全てが自身を殺し得る。
気の知れた身内で囲うならまだしも、同レベルという足並みを揃えて、そして他人より少し前に立って先導しようだなんて行為は命知らずにも程があった。
だから俺のようなβテスターは誰にも殺されないように、殺しにきても返り討ちに出来る力を身につける為に、レベルアップという自己の強化を優先するのだ。
……けど、そんな馬鹿な行為を嬉々としてやりそうな奴らなら心当たりはある。
βテスター時代。
【円卓の騎士】という当時最強のギルドを築き上げた異彩を放つ7人組だ。彼らはゲーム廃人の温床とも言うべきβテスター内の中でも飛び抜けたプレイスキルを持ち、そしてまるでお伽噺の騎士が如く紳士的で、弱者を助け強者と肩を並べるという特異なスタンスがかなりの目を引いた。
ロール・プレイングというやつだろう。俺もフロアボス戦で遠目に見る程度で直接会話したことはないが、確か全員がアーサー王伝説に出てくる騎士達の名をプレイヤーネームとして使用していた筈。
あまりに強いのでチーター疑惑が浮上し、そして運営から不正はないと公言されると、ただ強いだけで運営を動かしたという伝説を作り上げた存在だ。
奴らなら素人同然のプレイヤー相手に例え同レベルといえど不覚も取ることもない。
β時代と変わらず、王や騎士として困っている人が居たら助けるのは当たり前というスタンスを変わらず掲げるつもりなら正気を疑うが……ゲームが現実となったこの世界で、その
「ま、今はせいぜい楽しませてもらうぜ?」
灰色のポンチョを被り、ゲラゲラと笑いながら片手斧を振り下ろす。「ぎゃあ!」切り刻まれた女は己のHP残量が0になった現実に絶叫し、そして絶望に顔を歪めながら電子の塵屑へと消えていった。
「…ビーターに円卓とはこの世界も面白くなってきたもんだねぇ」
その男の名を――
オレンジから真っ赤に変化した星を天に掲げる彼は、弧に口を描き上げた。
PoHがβテスター。捏造設定というか主人公が生まれた故のバグ。