「いらっしゃい」
「……あぁ」
見慣れない男が椅子に腰掛ける。その男は老け顔でがっしりとした体に真っ黒なスーツでビシッと固めた見るからに重役然とした印象だった。
注文はまだ受けていないが、この店は暗黙のルールで初回のお客様にはコーヒーをプレゼントすることになっている。
店主はブラックにミルクと砂糖を添えて老け顔の男の前に置く。
「うん?私はまだ注文していないが?」
「いや~ねぇ、うちのサービスなんですよ。もしかしてコーヒーは飲めなかったかい?」
「いや、ありがたく受け取ろう」
男がコーヒーの味わいに少しばかり表情を緩めた。
「……美味しいな」
「それはどうも」
「…………すまない、急用を思い出した。また今度ここにはー」
老け顔の男は律儀にコーヒー一杯分の駄賃を置いて立ち上がる。普通の人間なら受け取り帰すか、受け取らず帰すのだろう。
……だが、この店の店主は大分変わり者であるようだ。「では、これは迷惑料として受け取っておこう」
「なに?」
「荒事なんだろ?
別に構わないさ、うちにはそういう客しかこないんでね……存分に暴れてくれたまえ!」
「あ…おい!」
そう言って店主はカウンターの奥へと行ってしまう。
アグラヴェインはそれを不気味に思いながらも、いつの間にか追加されていた――青い蝶が飾りとして添えられるパンケーキに気づく。
「……食べるか」
アグラヴェインは食べ残しが許せないタイプであった。
「やぁ久しぶりだね」
「……菊岡」
アグラヴェインが喫茶店に来て暫く、目当ての男が訪れる。
菊岡誠二郎。現在でこそ関わりは断たれているがアグラヴェインの同期だ。
「正直、円卓とは関わりを持ちたくないんだけどね。今回はあくまで同期のよしみ、プライベートで来てるんだ」
「残念だが、それは不可能だ」
視線がぶつかり合う。菊岡は目を細め刺すように、アグラヴェインは目を見開き逆に飲み込んでやると言わんばかりだ。
「須郷の元部下だった男が
「成る程、目的は柳井君か。彼はラースに来るまでSAOサバイバーの監視を担当していた。状況から察するに握手会の犯人は彼のようだね…………断る」
菊岡は笑顔でアグラヴェインに拒絶の意を示し、アグラヴェインの額にビキリッと血管が浮き上がる。
「これ以上、人材を引き抜かれては、僕の進めている計画が白紙になるかもしれなくてね。軽犯罪ごときで失うわけにはいかないんだ」
「軽犯罪…寝ぼけているのか?」
「僕が何を成そうとしているか、だいたい君なら察しがつくだろ。それに比べたら殺人だって軽犯罪さ」
ダンッ
アグラヴェインは菊岡を殴る。殴られた菊岡は椅子から転げ落ち浅く頭を切ったのかうっすら血を垂らしていた。
「使える手はなんだって使う。柳井は渡せない」
ハンカチを当てて立ち上がった菊岡はアグラヴェインに背を向ける。
「……ゴミが」
そんな彼に向けた視線は何処までも冷たく、汚物でもみたかのようだった。
明日――握手会が開催される
シリアスは嫌いだ。途中から何を書いているのか自分でも分からなくなる。
喫茶店の店主
新茶ぽいっ初老紳士