『
アップデートが始まる3ヶ月前に須郷のメールを受け取った円卓一行は逸る気持ちを抑えられず直ぐにALOにダイブ……とはいかなかった。
「……すまねぇ父上」
モードレッドはアミュスフィアを買うお金がなかったのである。
「……バイトしますか。手伝いますよ」
「すまねぇ……すまねぇ……」
そこから始まったモードレッドとアルトリアのバイト三昧。
・新聞配達
・お弁当屋の配達
・アマ○ンの梱包作業
年齢的にバイトNGなアルトリアはモードレッドが請け負った内職等を手伝いながらチマチマ稼ぎ、モードレッドは朝、昼、晩、スクーターを飛ばし続け、働き疲れてアルトリアの膝上で力尽きることしばしば。
二ヶ月で合計ニ十万ほど稼いだ彼女達は、アミュスフィアとALOのメモリーカードを購入し、円卓の中でも特に付き合いの長い始まりの騎士達に連絡をいれる
『そうですか!ついにモードレッドが!』
「はい、5時に世界樹で」
『了解しました!』
他の騎士達にも連絡を入れようかと迷いはしたが、人数が人数なので断念。
「こ、これが……父上の部屋…ベッド以外何もねぇ…空き部屋の、間違いじゃねえか?」
「はいはい!モードレッド!寄って下さい、早くログインしますよ!」
「…………おおぅそうだな」
一人で使うにはあまりにデカ過ぎた大人サイズのベッドに背中を預けアミュスフィアを装着するアルトリアとモードレッドは――
「リンクスタート!」ついにALOの世界に飛び立ったのであった。
種族を選択して下さい。
「アルフとは一体?」
そして、スクロールしようにも一画面しか用意されていない種族欄に戸惑いの声を漏らしたのは我らが騎士王アルトリアである。
彼女が事前に調べた情報では《サラマンダー》《ウンディーネ》《シルフ》《ケットシー》《ノーム》《インプ》《スプリガン》《レプラコーン》《プーカ》9種族の中から選択するとの話だった。
それが、
《アルフ》あらゆる妖精族の頂点に立つ高位種族
種族特典:滞空時間無制限 世界樹への入場権
聞いたこともない種族一つだけしか表示されず、仕方なく選択すれば、何故かアルトリア(セイバー)最終再臨スタイル(マント装備)のアバターが既に出来上がっていた。
「…………兄さんが気をきかせて用意してくれたのでしょうか?
何故兄さんが昨日用意したばかりの私のアカウントを知っているのでしょう……」
転送されたエリアで困惑げに手のひらを見下ろすアルトリア。
「そもそも、ここは何処ですか?」
ヒュー ヒューウ
よく分からないが無茶苦茶高い場所、下を見れば一面雪景色で目の前には重厚な門がある。
……アルトリアは開始早々迷子になったかもしれない。
「ブォォォ!」
牛の化け物――恐らくはミノタウロスを元に創られた二匹のモンスターのうち一体がアルトリアを襲う。
「また回復ですかッ厄介な!」
ゲームを始めて間もないアルトリアは、ここに来るまでに倒したモブモンスターからポップした短剣を握り直す。
……かじかんで感覚が少し鈍い。吐く息は白く間違いなく装備が脆弱過ぎるせいで環境ダメージを受けている。
ここは神殿。
重厚な門の先にあったダンジョンだ。
それも初心者が訪れるレベルではない、中級から上級者向けの高難易度ダンジョン。SAOサバイバーとしてどうしても死んでリスポーン(死にリス)を躊躇ってしまったアルトリアが直感Aがビンビン警鐘を鳴らす門を潜って、現在進行形で地獄を見た……見ている。
「ブォォォォォ!!!!」
「やはり硬いッ」
大振りの攻撃の合間を縫って針を刺すように短剣を突き刺すアルトリア。
今、回復の座禅を組む方に比べてこのミノタウロスは兎に角固かった。
かれこれ一時間ほど短剣を突き刺す作業を繰り返し、やっと1ゲージHPバーが削れる。いくら大振りで隙が大きいとはいえ、アルトリアが集中を途切れさせず計三時間以上も戦闘を行えるのは円卓のレベ上げ地獄で培った強靭な精神力による物が大きいだろう。
「ブォォォ……」
そして、ミノタウロスが下がる。完全回復を終えたもう一体と交代する為だ。
「させない!」
アルトリアはミノタウロスに飛び乗り短剣で滅多刺しにする。
ミノタウロスは嫌がり足を止めてアルトリアを振るい落とそうと暴れた。
アルトリアはここで逃がしてなるものかと必死にしがみつき…………そして気づく。
「(何故、手を使って払わない?まさか、プレイヤーがしがみついた時のプログラムが組まれていないのか?)」
そうと決まれば徹底抗戦の構えだ。アルトリアはミノタウロスの皮膚に爪を食い込ませ、かぶりついた。短剣は腹で押す、まさに王は全身で戦かわれている。
「ブォォォ!?ブォォォ!!!!」
―――30分後
しがみついたモンスターが消滅し、心なしか「ブォォ(マジかよ、こいつ)」唖然とした表情を浮かべているように見える片割れのミノタウロスにアルトリアは嗤う。
「貴方はそこまで硬くないようだ」
アルトリアは短剣の熟練度が上がった。
―――その頃モードレッドは……
「クソ……俺はどうすればッ」
身長 110cm
アルトリアが謎のダンジョン攻略に手こずる中、モードレッドはアバター製作の身長設定欄で手が止まっていた。
「撫で…………られてぇ!
父上に頭をッ!だが、そんな事が許されるのか!?クソォォォ!!!!」
プロトセイバー時代のアルトリアとモードレッドの関係は正に誰しもが理想とした仲良し親子。
物心つく前に肉親を失ったモードレッドにとってその頃の記憶は何よりも大切で…………そして、自分の選択次第でまた父と子の関係に戻れるかも、いや、アルトリアはどちらにしろ女性アバターを選ぶ筈なので“母上”と呼べるかもしれない。
「いっそのこと…………システムの限界まで小さく…………いやいやいや、俺は180だぞ、そんな事をすればリアルとのギャップでろくに動く事なんか……………………(ごくりっ)」
理性と感情のぶつかり合い果たしてモードレッドの選択とは如何に。
一方その頃
アグ「円卓の拠点が欲しいな」
ガウェ「何処かの領主邸を襲いましょう!」
トリ「素晴らしい案ですね」ポロロン
ランス「個人的にはサラマンダー等はどうでしょうか!」
ベディ「私はシルフの―」
領主達「「「ヒイッ!?」」」