「長い戦いだった」
ミノタウロスから始まり、青の巨人や阿修羅型の怪物。拳一本から登り詰め、今ではロンゴミニアドと云うアーサー王に馴染み深い槍を携えたアルトリアは小さな枝を絶ちきるルーンの刻まれた黄金の剣を
「円卓を随分と待たせてしまいました…………今、ログインしているのはモードレッドだけですか。」
悟りを開いた仏陀のようにとても穏やかな心を持つ我が王は三対六枚の翼を広げ――――飛ぶ、事は練習不足で出来ないので、普通に走っていった。
「羽が邪魔ですね」
騎乗スキルは乗り物でしかカウントされないのである。
「…………死にてぇ」
世界樹の根元、膝を抱えるのはキャラメイクに時間をかけすぎ円卓が父上と自身を残しログアウトしていたモードレッドである。
「おい、サラマンダーの領主が替わったらしいぞ」「マジかよ、って事はユージーン将軍が負けたのか!?」「何でも新しい領主はSAOサバイバーの…………」
たかが身長、されど身長。ベータ版に寄せるかリアルに寄せるかでモードレッドは思い悩み(ちなみにSAOクリア後に測ったら3cm伸びていた。地味に凹んだ)思い返すは父上と過ごした心地よい記憶。
アルトリアは身長で態度を変えるような人間ではない。小さかった時も大きい時もアルトリアと側にいるだけで幸せであることをモードレッドは忘れていたのだ!
――――身長 110cm
そして、これが欲望に負けた合法ロリッ子である。
赤いカーディガンを纏い少し長めの金髪をポニーテールにまとめた愛らしい少女だ。
時間を掛けすぎ、まだログインしているアルトリアにも恥ずかしくてメールが打てず通行人に不審がられないよう、世界樹の裏で項垂れる彼女は――自分の心の弱さに泣きたくなってきた。
「くそっ……父上は身長で態度を変える人じゃないって分かっていたのに!おれったらおれときたら!」
ポロポロと大粒の涙が溢れる。
……泣きたくて泣いている訳ではない。システムがそう判断しただけの勘違い、勘違いだ。
俺は喧嘩負け知らずの十七代目…………で、始まりの騎士で、こんな子供みたいな事で、泣くような弱虫じゃない。
「……俺は、最低だ」
モードレッドはよろよろと立ち上がりログアウト画面を開く。
――アカウントを消して新しいのを作りなおそう。
幸い、誰にもバレていない。今回の事は俺が馬鹿だった。それだけで終わらせればいいんだ。
涙を袖で拭いて画面をタップする直前に、
「――――モードレッド?」
彼の王は現れた。
「―――モードレッド?」
アルトリアが世界樹に訪れると何処か懐かしい外見をした少女が泣きそうな顔を歪めて立たずんでいた。
見た所、丁度ログアウトする寸前だったのだろう。
「あ、ちちうっえ!これは、その…………」
「懐かしいですね、あの頃より少し背が高くなりましたか?」
「あぅ…………」「うん?」
アルトリアがモードレッドの頭に手を当てると、やはりベータ版よりも少し高くなっているような感覚を受けた。
なら、体重はどうであろう?
興味本位でモードレッドを抱き上げたアルトリア。
「ぅぅぅ!?」「う~ん、私自身の等身が違うのでよく分かりませんね」
「…………」「モードレッド?」
「はい、なんでしょう」
「もしかして、嫌でした?」
「いやいやいや!!!!?」
降りそうかと提案するアルトリアであったが、首に手を巻いて体を預けるモードレッドに「暫く歩きますか?」こくりと頷いたのを見て歩き出した。
「そう言えば、初めて貴方が私に心を開いてくれた時もこうして街中を歩いていましたね」
「あの頃は、円卓も貴方と私二人っきりでアルトリアでもモードレッドでもなかった。」
アーサー・ペン・ドラゴン
タイガー
初めの頃は趣味全快のそんな名前で、アルトリアがプレイヤーネームで呼んだ時、何故かモードレッドが怒ってpvpをする事になり、アルトリアが本気を出すと木にぶつかって痛みがあった訳でもないのに泣き出して…………あの時はかなり焦った。
『誰か医者は居ないか!?この子が怪我しているんだ!』
ゲーム内で何を?
モードレッドを抱き上げた私はプレイヤー達には白い目で見られ、モードレッドは顔を真っ赤にしてビンタしてきた。
『俺はアンタを越える!』
『だから、モードレッドか…ふふふっ受けて立とうじゃないか!』
アグ君やガウェインが仲間になると、データを初期化してモードレッドと名乗ったあの日は鮮明に覚えている。
『くそっ……何で!』
『残念だったねモードレッド、君が父の背中を越えるには早かったのさ』
『誰が父だ!こら!』
そう言えば、モードレッドが“父上”と呼び始めたのはいつからだっただろう?
一階層をクリアした時?
『アーサー王!』
いや、違う。
二階層をクリアした時?
『アーサーァァ!!!!』
いや、違う。
三階層か?四階層だったか?
気づけば呼ばれていたような気もするし、反抗期だったモードレッドが急に甘え出したのはあの六階層の――
「モードレッド……貴方が私を父と呼んだのはいつ頃からだったでしょうか?」
「……すぅ…すぅ…」
「おや、寝てしまいましたか」
間も無くモードレッドの体がポリゴン化して消滅し、「ゲーム世界でも変わる物はあるのですね」アルトリアもログアウトボタンを押して現実世界へ帰った。
モードレッドの小さな体はあの頃と同じようで少しだけ重く感じた。
エクスキャリバー「あんまりだァァァ!!!!!」