「―――アルトリア騎士長のアホ毛が欲しい、ですか?」
某日。セントラル・カセドラルにてやりたくもない書類仕事にぶつくさと文句を垂れ流しながら判子を押していくアドミニストレータは、突然思い出したかのようにアルトリアのアホ毛が必要だと訴えた。
「そうよ、ずっと前の話なんだけどね。あの子が最多ての地で拾ってきた剣を私があの子専用の神器に造り上げてあげるって約束してたの」
雑務の傍ら記憶容量の整理も平行して行っていたアドミニストレータは五年ほど前のこと。
まだ彼女達が下位整合騎士ぐらいの力しかなくて暗黒界との戦闘で重傷を負って帰還してくるのも珍しくなかったある日、アルトリアは最果ての大地と言われる――ポツンと存在する奇妙な石板を除けば、あらゆるオブジェクトの存在しない荒野にて一本の錆び付いた剣を持って帰還してきたのだと思い出すように語り出す。
……
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「アドミニストレータ様、このような剣を拾ったのですが」
「何がこのような剣を拾ったのですが、よ。
天命が一割切っているというのに、何故平気な顔をしているのかしら……全く、呆れてものも言えないわ」
外傷や血の痕などは事前に神聖術で誤魔化してきたようだが、アドミニストレータの手に掛かれば、他者の天命の残量を把握するなど容易いこと。
天命が一割あるかないかの状態で平然とするアルトリアに、やはり術式に不手際があったのかと頬に手を当てて困り顔になる。
最強の手駒――円卓の騎士は《アンダーワールド》の基盤となった世界《ソード・アート・オンライン》にて唯一無二の王として絶対的な力と富を誇っていたという。
アドミニストレータは蓄積された膨大なデータや本人のプレイデータなどを参照して彼女達を造り上げたのだが、あまりに高ステータスだと万が一反旗を起こされた時に手に終えない可能性があると懸念してステータスを初期化した。
彼女自身、他者の権限を消却するような真似は経験したことがない。
「貴方達には、死への恐怖というものがないのかしら?
例えば……そうね。この剣で貴方の肌を軽くつつけば死んでしまうのよ?」
軽い金属オブジェクト操作で短剣を作ったアドミニストレータはその刃先をアルトリアへと向けてみる。
殺す気など微塵もないが、この剣でチクりとでもやってしまえば死んでしまうのは事実であった。
「死ですか……?」
「なんで貴方が困ったような顔をするのよ」
まるで知らないことを聞かれたような顔。
まだ殺気がありませんからと達人ぶってくれた方がマシな返しに、息をこぼしたアドミニストレータは短剣を適当に投げる。
「それで、貴方が自身の天命に頓着しないのは理解しましたが、その錆びれた剣がどうしたのです?」
「それがですね。
私がカヴァスと共に暗黒界を抜けた最果ての大地の空を駆けていた時のことです。
突如として晴れ間であった天候に分厚い雲が広がって、落雷を危惧した私達は大地へと降りました」
それからまもなく激しい雷雨に襲われる一人と一匹。
アルトリアが即席の神聖術で作った穴蔵に避難していた為体を冷やして天命を消費するようなことはなかったものの、かなりの時間をその中で過ごしたという。
そして夜まで続いて、今日はここで野宿をするかと考え始めた時のことだ。
重低音。嵐の中を竜以外の何かが鈍足に駆ける音をアルトリアは聞いた。
とても大きな……下手をすればセントラル・カセドラルよりも大きいのではないかというナニかが動く音。
不気味ではあったが、それが人界の方角を示していることに気づいたアルトリアは相棒の飛竜であるカヴァスにお願いして暴風雨に構わず突っ込んだ。
「すまない、カヴァス。耐えてくれ!」
だが雲の中はゴロゴロと雷の音や光。そして顔に打ち付ける雨と風でナニかを目視する所ではなかった。
カヴァスの背から振り落とされないようにと手綱を握るのに必死で、カヴァスは悲鳴のような鳴き声を上げる。
「上だ……そうか、上なのか!」
いつ雷に打ち落とされてしまわないかという状況で、アルトリアはナニかを探った。
そして、あれほどまでに大きな気配だったそれが見つからないのはおかしい。
この雲の上にいるのではないかとアルトリアが気づいた時だ。
雲の裂け目を掻い潜ったアルトリアの視線の先に、石壁のようなものがチラリと映った。
「……あ」
嬉しさか、むさしさか、よく分からない感情が胸の内で弾ける……よりも先に、一筋の稲妻がカヴァスを直撃してカヴァスとアルトリアは落とされる。
そうして、目覚めた時に自分の横にこの剣があったのだとアルトリアは語った。
「貴方の天命がこれほどまでに減少していたのは空から落ちたからなのね」
ステータスでいえば下位整合騎士クラスでも四旋剣を束に相手にして無傷の勝利を飾れるアルトリアが、まさか暗黒界の軍勢風情にここまでしてやられると思えなかったアドミニストレータはその話に納得する。
そして彼女が持ってきた剣を見て舌を巻いた。
これは剣としては死んだも同然だが、上手く使えば新しい神器の素材へと出来るかもしれない。
ちょうど円卓の騎士達用に神器を用意しなければと考えていたアドミニストレータにとっては寝耳に水。
「このままだと、ただ膨大な天命を持つだけのなまくらだけど、使えそうね。
この剣は私が預かってもいいかしら?」
「質問なさるまでもありません。全てはアドミニストレータの思うがままに」
…………
………
……………
そう言えば、いつの間に立場が逆転したんだろうか。
今にして思えばかつての彼女達はまさに都合のいい駒のようであったのに、今では仕事と服を着ることを強要してくる悪魔みたいな存在だ。
「ま、あれよ。その剣を使ってアルトリア用に神器を作って上げようと思うんだけど、それにはあの子の一部が必要なの。
どうせ貴方達のことだから、あの子に剣を向けたくはないのでしょう?
なら、アホ毛をブチりと抜いてきなさいな」
「……御意」
ヒラヒラを手を振ってアグラヴェインを退室に追い込むアドミニストレータは、扉がしまった瞬間に「ヨシッ」と小さく拳を握りしめた。
アル「な、何をするガヴェイン卿、トリスタン、ランスロッド、アグ君!?」
アグ一同「騎士長ご覚悟!」
アド「やっとサボれるー!」
モー&ベディ「貴方も道連れです」