アルトリア・オンライン   作:ら・ま・ミュウ

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茅場ァァァァ!!!!?

漆黒の男が槍のように突き出した大盾がアドミニストレータの懐に潜り、彼女は細剣を滑り込ませ寸前で弾いた。

 

「ッゥ!」

 

「はぁぁっ!!!」

 

思いの外、重い一撃だった。

だが、円卓の誰よりも軽い一手であった。アドミニストレータは流れるように細剣を構え、淡い光が彼女の細剣を覆ったかと思うと

―細剣ソードスキル《ニュートロン》―

五連突きをお見舞いする。

漆黒の男はそれを盾で受けるも、武器の優劣は此方が圧倒している為にノックバックを受けて後ろに大きく後退する。

 

(想定出来たことだけど、当たり前のように連続技に対応したわね……)

 

『門』の件といい、この空間に侵入して見せた事実からこの世界の者である可能性は低いと思っていたが、秘奥義などと呼ばれるソードスキル、未だ単発技しか伝わっていない状況で完璧に防いでみせるなんて簡単に出来る芸当ではない。偶然と片付けるには違和感を感じずにはいられない物だ。

 

アドミニストレータは追撃の手を休めず空間遮断を解いて外部から無理やり引き寄せた神聖力を束ねる。

「《システム・コール》《ジェネレート・メタリック・エレメント》《フォーム・エレメント》《アロー・シェイプ》《フライ・ストレート》《ディスチャージ》」

 

神聖力が鋼素の塊に変換され、そこから更に鋼の矢じりへと形を与える。

――出し惜しみはする気はない。全身の触覚を使い千個の矢じりを生み出した彼女は一斉にそれらを射出した。

 

「むうっ!?」

 

漆黒の男はそれに少しだけ驚いたような顔をして先程と同じように盾を前に出す。その途端、アドミニストレータはニヤリと笑い、矢を操作して男の四方八方に拡散させた。

 

「これで終わりよ」

 

散らばった矢が空中で静止し男の方へ方向転換する。その大盾で全身を覆えるのなら話は変わるが、どの方角へ大盾を構えようと背中は隙になる。

 

「《システム・コー」

 

男は神聖術を唱えようとするが、間に合う訳がなく。

矢じりは鎧を突き破り、穴の空いた水風船のように男は死ぬ。

 

 

 

その筈だった。

 

 

 

 

「これが心意というものか」

 

(あり得ないッッ!!?)

 

男の周囲直前で停止した。

アドミニストレータは狼狽する中で、男はその光を反射しない瞳で此方をジロリと見る。

 

「人の想いはシステムを越える。かつてそれを示した人間がいた」

 

男は口を開き、世間話でもするかのように剣をしまう。

鋼の矢じりが震え出した。

 

「その時、彼は確かに満たされた。

目指した物は違ったが、こんな結末も悪くないと笑って最後を迎えたのだ」

 

男は表情を変えず、千の矢じりの矛先が彼女へと向いて男の背後に広がる。

 

「――だが、心残りがあった。

()の英雄に魔王として対峙し、雌雄を決するという子供のような夢だ。

電子の渦に脳内が焼ききれていく中で、彼は思った。

 

この夢の続きを見たいと。英雄と魔王。どちらが真の勝者に相応しいのかと死に行く中で抱いたのだ」

 

「何意味の分からない事を――」

 

アドミニストレータは意図の読めない発言に戸惑いながらも防壁を構築していく。

 

「その人間の名を茅場晶彦という。彼は夢に生き夢の中で死んだ男だ。そして私は彼の思いを受け継ぎ相容れない本体から切り離された端末の一つである」

 

何故、此方の時間稼ぎに協力するような隙を見せるのか、自ら放った矢じりに対して、心意がプラスされようと防ぎきれる術式を構築した彼女は――そこで、弧を画く男の口元に視線が吸い寄せられた。

 

「この舞台(ゲーム)、彼女と私の為に乗っ取らさせて貰う事にした」

 

まるで喝采するように男が両手を広げたのとほぼ同時に鋼の矢じりが彼女に迫る。

金属オブジェクト無効化に加え、何十と防御を重ねているのだ。当然の如くそれらは彼女を前にして遮られる。

 

男は跳んで大盾を突き出した。

 

「馬鹿の一つ覚えもいい加減に……?」

 

彼女は細剣でそれを防ごうとするのだが、先程よりもその一撃が重く……それでも細剣ソードスキルを放つ彼女だが、不思議な事にノックバックは起こらず男は堂々と目の前に立っていた。

 

「言い忘れていたが君の使う秘奥義という物は全て私が生み出したものだ」

 

男の振り上げた剣。

 

「私に挑戦するのなら、秘奥義なしで十全に戦えるようにならないとな。

まぁここで死ぬ君には関係ないことかもしれないがね」

 

彼女の心臓へ軌跡を描いていく剣は紙のように防壁を破壊していき、彼女は何となくこれに斬られれば死ぬと悟った。

抵抗する意思はある。しかしソードスキルには硬直時間という物があり、肉体は動かない。

 

(こんなに呆気なく――私死ぬんだ)

 

死ぬ恐怖すら許されない寸前において彼女は、今までの走馬灯が浮かび上がり、己が生きてきた年月でみれば瞬きのような、円卓の騎士達との思い出ばかりが頭を過る。

 

『我が王、今日中にこの山を片付けますよ!』

 

『いやー!そんなに仕事がしたいなら貴方がやりなさいよ!』

 

 

『おっ、王様はサボりか?ならオレと殺し合えるな』

 

『何故そうなる!!?』

 

 

『またフラれました』

 

『……あっそ』

 

 

『うそっ美味い!』

 

『フハハそうでしょう!そうでしょう!マッシュは無限の可能性を秘めているのです!』

 

『はいっカット!!』

 

『打ち上げね!つまり休み!!!』

 

 

『匿ってベディ、アグラヴェインに殺される!!!』

 

『全く、仕方ないですね…』

 

 

『やっ、やめろぉぉぉ私のアホ毛を抜こうとするのではない!』

 

『あはは!王様命令よ、アルトリアのアホ毛を私に謙譲させなさい!』

 

『『『ハッ』』』

 

『貴様ら!!!?』

 

…………

 

 

……そっか。アイツら達には迷惑ばかり感じていたけど。それでも私がリセットしなかったのは、楽しかったからだ。

 

涙腺が緩んだのか視界が波紋に揺れる。

 

 

「我が王よ!!!!!」

 

瞬間、黒い鎖が壁を突き抜け彼女に巻き付いた。




次回『円卓全滅』

暗黒神ベクタ(茅場晶彦の亡霊)

ネットの海に解き放たれた茅場晶彦の心残り。
データの存在となった彼にとってそれは重大なバクであり、本体の消滅すら誘発しかねなかった。故に茅場晶彦はそれを分離し、消滅させようとしたが逃げられた。
彼は英雄(アルトリア)と真の決着をつけることだけに執着し、その為ならば手段を選ばない。
アンダーワールドに侵入した彼は、最高アカウントをジャックすると暗黒界から侵略を開始した。

全ては彼女と再び戦う為だけに。

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