アルトリア・オンライン   作:ら・ま・ミュウ

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シリアスからシリアル時空へ


キリトォォ!!!!

「ハァァ!!!!」

 

「いいぞ少年!」

 

ALOのサービス開始半年を記念して開かれた『統一デュエル・トーナメント』

その初戦、デスゲームSAOのゲームクリアに貢献した攻略組の中でも郡を抜き、数多のフロアボス攻略に躍進してきた円卓のギルドマスターアルトリアと円卓を出し抜きデスゲームクリアの手柄を独り占めした……と(円卓の一部で)悪評を買う黒の剣士キリトは剣を交えて互いの実力に感嘆のため息を漏らした。

 

「やっぱり、円卓のギルドマスターともなると違うな」

 

「プレイヤーネームが同じなので、もしやと思いましたが月夜の黒猫団の団長さんでしたか」

 

キリトは五十層攻略記念の円卓主催の祭りで円卓の一人ランスロッドと一度だけやり合った事がある。結果的に勝利を拾えたとはいえあの時はかなりギリギリの戦いだった。それこそ二刀流を出し惜しんでいれば何も出来ずに敗北していただろうという凄味を彼からは感じた。

その時の雰囲気を思いだし、片手剣に両手を添えるキリトは一歩、二歩と横に動く。

 

「そういえば、二刀流は使わないのですか?」

 

何か策があるのだろうと察しながら楽しそうな笑みを浮かべてアルトリアは問い掛ける。

やはり、プレイヤー全ての命を背負っているという重圧に表情の変化すら乏しくなっていたあの頃に比べれば、心のゆとりという物が違うのだろう。キリトはそんな顔もするんだな……と意外な一面に内心驚きながら

 

「ちょっとな……」

 

二刀流を使わない理由を――遊びだから本気になれないなどと円卓の怒りの炎に油を注ぐような事を言える訳もなく誤魔化した。

 

「面白い太刀筋でしたので一度味わってみたいと思っていたのですが、それは残念です」

 

しかし、彼女にとってもこれはゲーム。命のやり取りをするわけではないのだ。使いたくないのならそれはどうぞと相手のプレイスタイルを尊重する礼儀は払う。

 

「ですが、私はランスロッドよりも当然強いですよ?」

 

彼女は黄金の剣を構えて踏み出した。

 

 

「そこだッ!」

 

キリトの剣が赤い光を放ちその光は縦に伸びる。

―ヴォーパルストライク―

 

(成る程。片手剣スキルの上位スキルですか)

アルトリアが踏み出す瞬間に合わせて放たれたそれは、確かに回避することは不可能だ。元々のスキルのスピードもそうだが、今彼女の片足は少し浮いているし、もう片方の足にもそれほど力を込めていない。

 

取りあえず、盾で剣の軌道をずらした彼女は数ミリほど減少するHPに目を細めて、スキル硬直で動けないであろう彼を叩こうと視線を向けるが―――「いない?」

 

 

彼女の視界からキリトは消えた。

 

アルトリアは少しだけ目を見開いて驚きのようなリアクションを取るも、彼が立っていた地面の周辺に漂う砂埃を見るとニヤリと笑い上を見上げる。

 

「原理は分かりませんが素晴らしい機転と行動力だ」

 

素直に称賛の言葉を送った。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

空から男の叫び声がして観客がその声につられて上をみれば、羽を広げたキリトが一直線にアルトリア目掛けて落下している。

恐らくだが、スキル硬直時間が始まる寸前に羽ばたいたのだろう。

 

反射神経がそのまま運動能力に比例するこの世界においてアルトリアの動きは己のそれを遥かに上回る。

 

SAO最後の時、『エクストラクラスでも希有なユニーク・スキルは一人一つ』だとヒースクリフは言った。だから、アルトリアが『騎士王』を得ていなければ二刀流は彼女の元に渡っていただろうとキリトは思っている。スキル硬直時間などのあからさまな隙を見せればその瞬間にHPを削り取られるのは分かりきった事だった。

 

故にキリトは天高く飛び上がって硬直時間が解けるまでの時間を稼ぐ。噂で聞くかぎり円卓のギルドマスターや幹部クラスの者は剣技においてトップクラスの実力者ばかり。長期戦はさることながら出来れば接近戦は避けたい。

決めるなら一撃に全てを込めて。

 

そして剣を矢のように引き、アルトリアを目指すキリトの表情がその気迫を物語っている。

 

「まるで燕のように素早い加速なことだ」

 

アルトリアは力強く踵を叩いて十メートルほど後方に下がる。

キリトは勢いを殺さず羽で位置を修正して綺麗な曲線を描きながらその後を追ってきた。

 

「これは二刀流なら防がれたのでしょうね」

 

アルトリアの顔に狼狽えた様子はなく、むしろ凪ぎのように静かで確かな勝利を確信している風格があった。

 

「――秘技、燕返し」

 

彼女が侍のような構えをとった、その瞬間キリトは三方向から迫る刃の軌跡を錯覚する。

 

(何、だって…)

 

どう防御すべきか。そんな思考を許す間も無く血を表す赤いドットが彼の肉体から表れ、羽を切られたのか機動力を失った彼はゴロゴロと地面に転がる。

 

「農民に出来たのだ。この私(アルトリア)に出来ない筈もないと子供のように打ち込んだ時期がありました。

結局、現実世界で再現することは出来ませんでしたが……どうでしょう三方向からの斬撃は?」

 

手を差し出して愉快そうに話す円卓の王にキリトは本物の実力者(化け物)を見た気がした。

 

(アイツはこんなのに挑戦しようとしてたんだな……)

 

ゲームクリアを前に立ちはだかる魔王でありながら絶望的な戦力差を前に果敢に挑む勇者のようなヒース・クリフ。そんな幻影を見る。

 

「本当にアンタが敵でなくてよかったよ」

 

彼女の手をとって立ち上がるキリト

 

 

「勝者!円卓のアーサァァァァ!!!!」

 

会場は湧き、記念すべき一回戦の勝者はアルトリアとなった。




キリトが初手から二刀流なら引き分けでした。

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