「……キリトさんが消えた?」
キリトとフレンド交換をしてから、ほんの半日ほどの話だった。
月夜の黒猫団サチから我々円卓の騎士の一人にその情報が流れて、アグラヴェインを伝い、それはアルトリアにも届く。
曰く、ラフィン・コフィンの残党に襲われたキリトは妙な薬品を打ち込まれて病院に搬送されたが、駆け込んだ病院からいつの間にか彼は姿を消していたという。
手術の結果、一命は取り留めたという話だったが、心停止が五分間以上に及んでいた為、脳に何かしらの障害が残るのではないと懸念されていたキリト。
奇跡的に障害がなくとも、直ぐに一人で抜け出せる状況ではなかったのことで、そこそこの人脈のあるアルトリアを彼女は頼ったようだった。
「しかし、手術に出頭した医師がそんな患者は見たことがないとシラケるですか。カルテも抹消されているようですし……どうにもキナ臭い」
一人、此度の件について情報を整理する。
先ず確実に外部による介入が伺えるのだが、事件発症から術後ということで絶対安静だと病室で眠らされているキリトを院内の人間に口封じをして運び出すまでがあまりに早すぎる。
まるで献血を受けたら、説明もなしにカルデアに誘拐された『藤丸立香』並みに唐突だ。
もしかして、キリト君もその口……いや、この世界が型月時空ではないのは散々確認してきた。
冬木なんて地名はないし、原因不明の大火災があった形跡もない。
第一、アルトリア顔の私がこれだけ大っぴらに表舞台を歩いて未だに何もないのが証明している。
……それでも百%安全といえないのが型月時空の怖い所だが、まずはそれを置いといてキリトが何に連れ去られたか考えてみよう。
型月風にいえば彼はSAOをクリアした最も新しい英雄である。
そんな注目の的にある彼に悪意を持つ人間……円卓?
いや、彼らはそこまで人でなしではない。SAOでは順当にクリアまでの道のりを進め、結果的に甘い汁だけ吸われた形になったので、血の滲むような努力を重ねてきた円卓からすれば、ゲーム内で報復するのもやむなし……だが現実世界まで事を起こそうとする愚者を円卓は招き入れない。
すでに病院内にある救急車が一台消えていたことから移送手段にそれが使われたことは分かった。
国の上層部が絡んでいるのだろう。
キリトは英雄かもしれないが、別にSAOで最強というわけでもないので、ますます分からない。
実は重役の息子なのか、それともSAO被害者の逆恨みか。
「キリトさんには申し訳ないですが、どれだけの危険があるか分からない内は私個人の判断で円卓は動かせません」
これでもかつて多くの命を預かった自負がある。
彼らは私を慕って今でも多くのことに答えてくれるが、石橋を叩いて渡る前に先に行かせて確認するようなことは出来ない。
キリトとの親交はあくまで私個人の話。
一応、私だけで出来ることはするつもりだが、ただの小娘にどれだけのことが出来るか……。
円卓は今回のキリト失踪について静観を決め込んだ。
―ただの小娘に過ぎない
※リアルで銃弾を斬ったり殴ったりできる。