外野と投手ができるという逆巻の扱いにチームメイトは困っていた。外野ができるというならそこに置いとくだけでフィールドに男子がいるという事で士気が上がり、ピッチャーなら意外性で押し切れるかもしれないと考えていた。
しかし、この世界の常識は男子は
逆巻のチームは後攻なのでプレイボールの合図と共に逆巻はレフトへと向かう。ピッチャーは山口賢、名前はともかく女子である。
非常に異常と思われるが、彼の知る男性選手が軒並み女性になっている上に名前だけは男と変わっていないという混乱させそうなことになっていた。が、男の名前を女児につけることは多いらしく余計に混乱してしまったのは言うまでもない。
「よーし、外野まで飛ばさせないようにしよう!」
オー、と小鷹美麗の掛け声に合わせてチームメイトが意気込む。もちろん外野にいる逆巻も声を上げたが苦笑い気味だった。なにせこの世界の男子の身体能力は女子よりも何故か劣っており逆巻がいるレフトに打ち込まれ続けると体力が尽きて守備が甘くなるかもしれないからと考えられているからだ。
そのことを見越してか三塁側の守備が無意識のうちか固められている。過保護か。
試合が開始して山口のピッチングが始まる。得意のマサカリ投法で120km台のピッチングを見せ、キレのあるフォークで三振を取っていく。右投げをしている彼女を見て安心したのは彼だけで、心配になったのも彼だけだった。
ツーアウトとなった時に出てきたのが友沢亮、激闘第一高校の面子がこの学校にいたので少し驚く。本当に少しだけ、というのも世界線によってはあかつきにいたメンバーがパワフル高校にいたこともあったし、闇野が恵比留におらずアンドロメダ高校にいたこともあった。誰がどこにいようとあまり不思議ではないのである。
友沢という巧打者は山口のボールを上手くさばきライト方向へ打ち込みヒット、それに続きたい相手チームであったが次の打者で凡退してしまい攻守交代となった。
裏の攻撃、一番バッターは逆巻だった。
「よーし、打っていくよー」
若干気の抜けた声だが緊張気味のチームメイトがクスッと笑う程度にはほぐすことはできただろう。ムードの作り方は経験から学んだ彼にとって簡単なことだった。
対して相手ピッチャーは早川あおい、いきなり名投手を先発として起用されていた。流石に彼女相手にヒットは難しいだろう、そう考えられていた。
カッキーン!
だが違った。
「フェンス直撃…………」
誰かが呟いた。ホームランには至らなかったがあおいの初球のマリンボールを強打で外野者を軽く超えてフェンスに当てた現実に打った本人以外理解が追いついていなかった。
あおいも少しビビらせてやろうとインコースに得意なマリンボールを投げ込んだつもりだった。それがどうだ、あっさり飛ばされたではないか。
(完全に読まれてた…………!)
初めて見る男子選手だったことからキャッチャーの小鷹もあおいが投手ならその手に乗っていただろうと考え、それを読んでいた逆巻に戦慄を覚えた。
マリンボールは決め球として直接見る機会もないし、逆巻という無名が見る機会なんてない球を1発で飛ばす。これがどういうことか分からない者は少なくない。
意外なヒットだったせいかツーベースまで行き、次の打席に名も知らない選手がバッターボックスに立ったところで彼はさらに予想外な行動を取る。
「っ!?サード!」
キャッチャーがあおいの初球を取った瞬間、すぐさまサードに投げ込む。
「どりゃあぁっ!」
「…………せ、セーフ!」
「よっし!」
誰が予想できたか、二塁から三塁への盗塁である。決して足は早すぎるといえないが最高のタイミングでの走りに加えて気迫あるヘッドスライディングに気圧されてタッチが遅れたため盗塁は成功、しかし歓声は上がらずシーンとした空気が当たりを包む。
動きが明らかに素人のソレではない。自身という意外性も利用した大立ち回りしている。というか練習試合に本気を出しすぎである。ユニフォームまだ配られてないからジャージだぞ今着てるの。
「なんスかあの人!?いくらなんでも大胆すぎやしません!?なんで今まで表に出てなかったんすか!?」
彼と同じチームである川星ほむらが叫ぶ。それは監督含め全員意見が一致していた。
脚力以外は一級品、その上技術もプロ顔負けで基本は外野だが投手まで本人は出来ると言っている。あながち嘘ではなさそうだし投手としてグラウンドに立つとどうなるのか。
その後はヒットを打たれ逆巻はホームインして一点がはいる。チームメイトにハイタッチしようとしてた逆巻だが反応が無かったので肩を落とした。
考えて欲しいのだが、男女比が変わってる世界でいつも通り振る舞ってる逆巻がおかしいだけで彼女達からしたらセクハラに繋がりかねないのだ。主に、逆巻への加害者として。
そんな気も知らずに試合は進んでいく。そして打順が一巡して再び逆巻に回ってきた。ピッチャーはあおいではなく別の人物になっていた。
カッキーン!
「よっし、フェンス越えた」
まるでバッティングセンターでホームランを打ったかのような台詞と共に彼は本日二度目のホームベースを踏むのだった。
なぜ簡単に打てるかって?読心術(野球限定チート)だよ。ただし必ず打てるわけではない模様。