プリンセスコネクト!リ・ダイブゥゥゥゥゥゥゥン!!!(ガッチョーン 作:古賀コーラ
「目は覚めた?いや…『眠った』かしら?」
不意に私の頭に声が響いた、少女の声だ。
聞き覚えはないのだが不思議と安心感を覚えるような声だった。
「…君は……?」
私が目を覚ました時、私は床で横になっていた。上半身を起こすと目の前には声の主である少女が立っていた。
緑と薄い青の混じった長い髪、かなり奇抜な髪色と髪型だが目を引くのはそこじゃない。
まるで壊れた天使のようなイメージをした輪に機械仕掛けの破壊された翼。
何者だ?この少女は…
少し考えを整理する。私は檀黎斗…のバックアップの1つ、檀黎斗9610。
他世界などに行ったと思われるバックアップデータを整理しそれを元に新たなゲームを開発している途中だったはずだが…
推測するならばこの私自身が別世界に招かれたか…これに関しては私という個体自体では初めての事象だ。
ふふ、パラドの言葉を借りる事になるが心が躍るというのはこういう事かと納得したよ。
私は今、まさに未知の扉を開き自分自身の足でこの地に降り立ったのだから…!!
…ん?降り立った…という割には何か変だ。
周りの風景が異様だ、なんだこれは…
見渡せば見渡すほど不可解な景色が広がる、まるでモヤがかかったかのように遠くの方は朧げで見えず近くには建造物などまるで無い、印象的なのは噴水くらいなものだ。
まるで夢の世界…といっても差し支えがないくらい奇妙な空間に私はいた、そこに私とこの珍妙な少女がポツンと2人。
「その様子だと、あたしの事覚えてないわよね」
「…待て、それはどういう意味…っ」
なんだ?声の調子が…それに…私の両手を見ると見た事のないグローブを身につけていた、それだけではない見慣れない衣服にこの聞き慣れない自分自身の声…
それに彼女の指す言葉…『その様子だと』の意味する答えは…
「…そうか…これは他者の体か…」
「ん?何か言った?」
「…いいや、何も」
彼女は私に対し『過去を知る』ような態度を取った、これは私ではなく私の体、本来の持ち主に対しての物だと推測できる。
確かバックアップのデータの1つにも他世界で他者に憑依してしまったという記録もあった筈だ、今回のケースもそれだろう。
さて、どうしたものか…馬鹿正直に話すべきか?
なんにせよ彼女の最初の言葉で分かったことがある。
この体の『持ち主は何らかのことがあり記憶を失っている』という事。
彼女の言葉は記憶を失っても当然だと言わんばかりの物言いだった。
記憶を失ったか…はたまた体の持ち主の魂は死に私という魂が入ったか…バグスターでデータである私に魂とは少々皮肉かもしれないが…永夢、これが実証されればバグスターもまた魂があるという事だ。
とにかく行動が先決か、思考をするだけでは物語は進まない。
私は私を変えるつもりはない、演じるつもりも毛頭ない、ならば出すべき答えは簡単だ。
「すまない、私は君のことを知らない、君の知っている『コレ』とは恐らく違う」
「…そうね、あんたなんかおかしいものさっきから」
少女はそう言って人差し指で頬部分に垂れ下がる三つ編みをクルクルと回しながら呟く。
「あんたの心が分からない、なんか黒いモヤみたいなものがかかってて見えないし…いくら記憶を失ったからってそこまで根本的に性格というか話し方が変わるとは思えないもの」
「理解があって助かるよ、私の名前は檀黎斗、君は?」
「…檀…黎斗…ねぇ…成る程、本当に…でもどうして…」
少女は何やら考え込んでいるようだが
「すまないが話を円滑にスムーズにしよう」
「えっ?あ、そ、そうよね!!…うう…あいつの顔でこんな知的な話し方されると調子狂うわ〜…っとコホン、あたしの名前はフ…いや、今はアメスって呼ばれているわそっちで大丈夫よ」
何かを言いかけたようだがそこは別にさしたる問題では無いだろう。
「アメス、聞きたい事がある」
「それはあたしもよ…って言ってもお互いに腹の探り合いしたところで意味はあまりないんだけど」
「…どういう意味だ?」
彼女はため息を一つ溢し
「ここはね、夢の世界なのよ、それも脆く儚い幻の夢…」
「幻の夢…」
つくづく私に縁のある言葉だ。
「だからねあんたに色々情報を与えても目が覚めたら全部…とまではいかなくとも殆ど忘れちゃう、例えあんたがアイツじゃない特別な存在だとしても人間であるというのなら例外じゃない」
人間…先も言ったが私はバグスター、人間であった檀黎斗を元に作られたデータだ。
だが限りなく人間に近い…いや人間の遺伝子もかなり含まれておりマイティノベルXにて完成してしまった私達は人間と言ってもいいだろう。
彼女の言っていることは必ず私にも当てはまる、だとすれば深い問答は無意味…か
「見ての通り、あたしもあちこちボロボロでさ…ここから動くこともできないしこの空間を長く維持することもできない…だからあんたをサポートする事も出来ない」
彼女の寂しそうの顔は本来この体の持ち主に向けられたものだろう、しかしその顔を向けられると私もまた寂しい気持ちに包まれる。
この感覚…恐らく体の持ち主の記憶か…魂か…それが作用しているのかもしれない、でなければ初対面である私が彼女の顔を見ただけでこのような感情を抱くはずがない。
中々に難儀な状態なのかもしれないな今の私の体、精神は。
「ではどうする?私は何をすればいい?」
「黎斗…あんたにはいきなりで悪いかもしれないけど…あんた…いやあんたが借りてる体の子はね主人公なのよ」
「主人公?…まるでゲームや小説の登場人物のような物言いだな」
ゲームという単語にピクリと反応したアメスは言葉を強くしながら
「そう…そうよ!ゲーム…あんたは主人公、この際だから巻き込まれて頂戴、黎斗!!」
「…これも何かの縁として受け取っておこう」
「そう考えてくれるならありがたいわ…あんたには世界の命運がかかってる、これから先理不尽な事も降りかかるだろうし辛い事も起こると思う…でも大丈夫」
アメスは人差し指を立てて顔の横に持ってくる。
「ちゃあんとあんたを導くガイド役も用意しておいたから」
「世界の命運か…それは壮大だ、それにガイド役?ふっ…本当にRPGのような親切丁寧な設計だな」
「そこは用意周到と言って欲しいものね…黎斗、多分あんたならアイツ…本来の体の持ち主よりも早く世界の謎に辿り着くと思う、だからね」
彼女は一呼吸おいた後、グイッと私に顔を近づけ
「…仲間を信じなさい」
「…それは私宛かな?」
彼女の目は真っ直ぐ私を、私の心を、魂を捉えていた。
「…そうね、アイツにはこんな事言う必要ないから、アイツは真っ直ぐでむしろ人を信じすぎなところがあったし…でも」
アメスは私から顔を離した後にクルリとその場で1回転し
「今のあんたにはこの忠告をした方がいいと思ってね」
「…」
ふむ、何か彼女には見透かされているような気がしなくもない、が私はそんなに信用がないだろうか?
過去の記憶を遡っても私が人を裏切ったり騙したり仲間を信じなかったりなどした覚えがないのだが…
まぁ、今はこの忠告を聞いておく事にしよう、さて少し気になった事を質問し早めに目覚めることにする。
どの道ここは夢の世界これ以上話を続けても忘れるだけ、ならば
「アメス、その忠告をしたという事は今後、仲間が必要な展開があるという事、つまり私はこの体の持ち主…この少年のロールプレイをした方が良いのかな?」
ロールプレイ…即ち、なりきりだ。私は私らしく有りたいがそれでプレイに支障が出るというのであればそこは改善しなければならないだろう、私としてもこんな別世界でバッドエンドは避けたいところだ。
「ロールプレイ…それにさっきからゲームって言ってるし…あんたってもしかして……はぁ、まぁいいわ、今はそんな事…そうね、必要ないんじゃないかしら」
「意外だな、私とこの少年ではかなり性格が違うのだろう」
「ええ、そうね、でも…さっきあたしが悲しい表情した時、あんたも顔曇ってたわよね?」
…意外と目敏い女だ。
「つまり、あんたは知らず知らずのうちにアイツのロールプレイをしてる訳、無意識の内にね、アレよアレ、記憶になくても体は覚える〜って奴」
「っち、まるで自分の体じゃないみたいで気味が悪い…が現に私の体ではないからな、文句は言えない、か」
アメスはふふんと鼻歌を1つした所でこちらに笑みを向ける。
「なんだか不思議な事になっちゃったけど、後はよろしくね黎斗、ガイド役の子とかその他諸々にはあたしからあんたの事伝えておくから」
そう言って彼女は私の額に手のひらを当てる、すると私の意識はスッと光の中に消える感覚。
「『おはよう』黎斗。そしていってらっしゃい」
その言葉と共に私は眠りに落ちた。