そう儚く言った彼女の表情はいつもより少し紅く、そして
哀愁に漂っていた。
「今日から僕も2年生か。ま、楽しくやりますか。」
僕こと浅倉一也が通う高校は県立桜田高校、県内では有数の進学校である。スポーツも他の強豪校に劣ることなくインターハイにも多く出場している学校だ。
そういう僕も陸上部で1年生ながら三段跳でインターハイに出場してチームに貢献した。
桜田高校というだけあって正門から多くの桜の花が咲き誇っているこの日。新たなクラスの教室へと足を運んだ。
「•••」
僕は思わず言葉を無くしてしまった。
「あ、カズ〜。やっほ〜」
丸く大きな目。ふわっとしたボブヘア。細身ながら女子らしいところはちゃんとある彼女。本田梨沙、1月に別れた僕の元カノである。
「…おう。今年も同じクラスか。よろしくな。」
「ん〜。仲良くやろうね〜。」
以前と変わらない態度で接してくる彼女に少し戸惑いながらも僕は自分の席へ座った。
「担任の今元だ。今後2年間よろしく。」
僕の高校は2年生の前に文系と理系でコース分けをしてクラスが決まる。僕は理系だが理系全体で45人しかおらず2、3年と同じクラスで担任も同じである。担任である今元慎太郎は物理の担当で1年の時からお世話になっている。
「んじゃHR終わり。明日から気を引き締めて2年生を過ごすように。」
担任のありがたい言葉と共にHRが終わり放課となった。
「カズ!今日も部活行くだろ!」
元気に声をかけた彼は岩崎健太。彼も1年生の時、僕と共にインターハイに出場し、互いに競い合っている仲だ。
「悪い。今日は少し用事あるから部長に伝えといてくれ。」
「しょーがなぇな。今度ジュース奢れよ!」
「仕方ねぇな。今度奢ってやるよ。」
快活な彼と別れてから早足に学校を飛び出た。
「じいちゃん、入るよ。」
「おぉ一也か。入れ入れ。」
祖父の俊則だ。1ヶ月前に膵臓付近に病気が見つかりそれから入院している。
「今日も気分は良い?無理は駄目だからね。」
「べっぴんなナースさんがおるから大丈夫じゃ!
一也もいっぺん見とくと良い!」
(このエロジジイ…)
だがこの分には元気は良さそうだ。
祖父の検査の前に病室から出て少し遠回りして帰ることにした。
桜咲く川沿いの道を歩く。やはりこの道は春になると気分が良い。
「あれ、一也くんじゃないですか。」
「真衣先輩。こんな所で何してるんですか?」
「いつも通り花見ですよ。一緒にします?」
「はい、喜んで。」
石田真衣先輩。僕の中学の時からの先輩で一番仲の良い先輩だ。美人だと学校内で評判で、憧れにしている男子も少なくない。
「今日もおじいさんのお見舞いですか?」
「いつも通り元気そうでした。」
「なら、よかったです。」
川辺のベンチに座って他愛のない話をする。最近、というか彼女と別れてからは時々そうしている。
別に2人とも恋愛感情がある訳でない。ただ先輩と話をしていると安心する。そんな感じだ。
「今週末の大会には何に出るんですか?」
「健太と一緒で三段跳です。」
「2人とも1年の時から大活躍でしたもんね。楽しみです。」
「あんまり春先で調整も出来てないですが頑張りますよ。」
「はい。応援してます。」
先輩と別れてからゆっくりと帰路へついた。
夕食を終え、風呂上りに1通のメールが届いた。
『今年も同じクラスだね!またよろしくッ!』
文面からでも元気さが伝わってくる。今年もクラスメートである新庄芽以だ。今日は声をかけられなかったが明日は声をかけよう。
『また楽しいクラスになりそうだな。』
そう返信し、予習を少ししてからベッドに入った。