アンチョビによる各校による祝勝会もお開きになり、そして次は二次会という事で優勝した大洗だけでの宴会が披露される。此処は学園艦が大洗の港に寄港した港付近にある宴会場。その宴会場の広間に、彼等彼女等は集まっていた。
「あ~、決勝戦はホントにご苦労だった。皆の素晴らしい活躍で我が校は見事優勝する事が出来た」
広間の壇上スペースに陣取る浴衣姿の生徒会メンバーの桃が同じく浴衣姿の皆に向かってマイクで演説していた。
「戦車道で無名の我が校が並み居る強豪部隊に打ち勝つとは誰が予想しえたであろうか。コレは高校戦車道史に残る快挙である。コレも一重に………」
「桃ちゃん、長いよ」
余りにも口上が長いので、柚子が耳打ちでそう言う。
「それでは、祝賀会を始めたいと思う。会長、一言お願いします」
「あいさ~」
相変わらず間延びした口調で返事を返すと、杏は桃からマイクを受け取った。
「いやいや、良かったね~、廃校にならずに済んで。んじゃ乾杯ーっ!!」
「それだけですか」
「乾杯ーっ!!」
そうして、メンバーは次々と、ジュースが注がれたコップを掲げる。
「か、乾杯~」
「乾杯~!」
「乾杯ーっ!!」
「お疲れ様でした」
「お~」
其々の個性が感じられる乾杯を挙げるあんこうチーム。
「「「学園の風紀に乾杯っ!」」」
相変わらず風紀命のカモさんチーム。
「戦車とバレー部に!」
「「「「乾杯ーっ!!」」」」
同じくバレー命のアヒルさんチーム。
「プロ―ジット」
「チンチン」
何故かカエサルがドイツ語、エルヴィンがイタリア語で乾杯と言うカバさんチーム。
「「「「「レッツラゴーッ!!」」」」」
キャンプ合宿で気に入ったのか、レッツラゴーを乾杯の音頭にするウサギさんチーム。
「「「「イグニッションッ!!」」」」
「「「シークエンス、スタートッ!!」」」
自動車用語で音頭を取るレオポンさんチームと、ゲーム用語で音頭を取るアリクイさんチーム。
「「「「イエーイッ!!」」」」
杏達カメさんチームもノリノリで乾杯する。
「「「「彌栄!!」」」」
秋人達もグラスを掲げて『彌栄(いやさか)』と唱える。これは、ますます栄えると言う意味の強い言霊を持つ言葉で戦前の日本で冠婚葬祭や祝杯を上げる際にも使われていたが、戦後は『乾杯』に置き換えられた。乾杯はGHQが作った言葉と言うわけではないが、『完敗』と同じ発音のこの言葉は日本人に敗北を植え付ける目的でGHQに利用されたと言われている。
その後少しして、桃がメンバーの注意を引いた。
「えー、大洗商工会及び町内会からは、花を沢山いただいている」
そう言う桃の傍には、大量の花が飾られていた。
「拍手~!」
『『『『『『『『わー!』』』』』』』』
「やめぇ〜!」
杏がそう言うと、皆一斉に拍手する。
「続いて、祝電を披露する!」
桃が言うと、運ばれてきた台車から柚子が1枚のハガキを手に取った。
「『Congratulations!NextはWeがWinするからね~!』、サンダース大学附属高校のケイ様からでした!」
柚子がそう言うと、傍には置かれていたモニターにピースサインをするケイが映し出された。
「サンダースらしい手紙だよね~」
「でも、日本語か英語で統一してほしかったな~」
「だよね~、あれじゃ逆に分かりづらいよ」
どうやらケイからの手紙は、ウサギさんチームの面々から微妙な評価を下されたようだ。
「日向君、これについて一言」
「…は?」
「 ひ と こ と 」
「か、角谷会長!?」
「ハヤクゥ」
「……ケイらしいと思いますよ?ちょっと外国人タレントみたいになってますけど…」
「はい、では次」
そして、柚子は次の手紙を読み上げる。
「おめでとうございます。私からはこの言葉を贈ります」
(この喋り方からすれば送り主はダージリンさんか?)
柚子が読み上げる手紙の口調で、秋人はそんな予想を立てた。
「『夫婦とは互いを見つめ合うものではなく、1つの星を見つめるものである』聖グロリアーナ女学院ダージリン様代理オレンジペコ」
(予想と違ったか……つか、夫婦?)
モニターに映し出されたオレンジペコを見て、秋人は少し残念そうな表情を浮かべつつ、オレンジペコからの言葉に首を傾げる。
「結婚式じゃない」
「どなたの結婚式だと思ってらっしゃるんでしょう?」
「ううん………」
まるで結婚式の様な祝電に、麻子、華、みほが困惑する。
「でも私の心の名言集に入れておきます。何時か使えるかも知れないし」
「私の結婚式に使って使ってー!」
しかし優花里の心には響いた様子で、こういう話が大好きな沙織はそんな事を言い、秋人の傍ではあんこうチームの面々が口々に言った。
「はい、では日向君、これについて一言ぉ」
「は!?またですか?格言とか、聖グロらしくていいんじゃないですか…それでいて、オレンジペコらしく…ちょっと抜けてる所がいいかと…」
そう言うと、柚子が次の祝電を読み上げる。
「『モスクワは涙を信じない。泣いても負けたと言う事実は変わらないから、もっと強くなるように頑張るわ!』…プラウダ高校のカチューシャさんからでした」
「後藤亦部も『次勝てば良し』と言っていたな!」
「世に生を承けるは事を為すにあり」
「部下に必勝の信念を持たせる事は容易だ。勝利の機会を沢山経験させる……」
「「「それだぁ!」」」
柚子が読み上げたカチューシャからの言葉には、カバさんチームの面々が反応を示した。最後にエルヴィンが言うと、残りの3人が一気に叫んだ。
「はい、では日向君、これについて一言ぉ」
「…カチューシャらしくて…よろしいかと…祝電と言えるかどうかは別で…」
「その他知波単学園の西絹代様、継続高校のミカ様、他からも祝電をいただいていますが時間の都合により、省略させていただきます」
「イエーイッ!!」
柚子がそう言うと、桃が別の台車を押して舞台から降りる。
「なお、アンツィオ高校からは、全員にアンチョビ缶が届いている」
そう言う桃から、全員にアンチョビの缶が配られた。
「これ、セール品だよ?」
「あの学校、あんまりお金無いからね~」
「お金は正直だねぇ~」
缶が配られると、『セール品』と書かれたシールが貼られてあるのを見ながらウサギさんチームの面々が言った。
「じゃあ、座も温まった事だし、そろそろ始めるかね~」
「拍手~!」
「「「「「「「「「「うわあ~~~っ!!」」」」」」」」」」
柚子が促すと、みんなから拍手が挙がる。
「止めーいっ!!………それでは、コレより………各戦車チームによる隠し芸の披露を行う」
それを桃が制すると、この祝賀会で最大のイベント各戦車チームによる『対抗隠し芸大会』が始まる。
「今回は其々得意な物は禁止だぞ。レオポンチームは自動車ネタ禁止。アリクイはネトゲネタ禁止。カバチームは歴史ネタ禁止。アヒルチームはバレーネタ禁止。あんこうチームはあんこう踊り禁止」
「私達からネトゲ取ったら何が残るんですか!?」
「同じくレオポンから自動車を取ったら…………」
「歴史を取ったら!」
「バレーを取ったら!」
「逆にお前等、他に取り柄ねぇのかよ!?」
口々に叫ぶ各チームに、秋人は堪らずツッコミを入れた。
「あんこう踊りを!………取られても全然平気だね」
「寧ろ禁止して欲しい………」
あんこう踊りを禁止されたあんこうチームだけは、安堵の笑みを漏らしていた。
「今思ったんだが………そもそも俺等って、禁止されるような特技ってあったか?」
ふと考えた秋人が、他の4人に問い掛けた。
「言われてみれば、別に無いような…………」
「同じチーム内でも、個人個人特技違ってるからね……」
「チーム全体としての特技って、今思えばねぇな」
「いや、それ以前にみんな個性と言うか、癖が強いだけじゃない」
秋人達は、自分達全体で禁止になる特技が思い浮かばなかった。
「優勝チームには豪華賞品も用意しているからなぁ」
「因みに3位は大洗商店街のサマーセールの福引補助券。2位は学食の食券500円分。1位の賞品は10万円相当の………」
「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」
「詳しくは後で発表する。以上!」
桃が言った『10万円相当』と言う単語に、メンバーは一気に盛り上がる。
「現金かな?」
「10万円あればティーガーの履帯が1枚買えます!」
「私ボコのぬいぐるみ買っても良いかな?」
「良いよ。ボコの何処が良いか分からないけど」
「皆で温泉に行きましょうよ」
「単位が欲しい………」
10万円と言う金額に、あんこうチームの面々も興味津々な様子である。
「10万円相当の賞品だろ? 現金って決まったワケじゃないよね?」
「金券ショップで売れば良い」
換金する気満々のツチヤとホシノ。
「優勝したい~」
「10万有れば大分良いアイテムやカードが買える~」
ネトゲに注ぎ込む気満々のももがーとぴよたん。
「別に欲しい物無いけど………」
「他のチームに渡ると風紀が乱れそうよね」
「風紀を守る為に勝とう!」
カモさんチームは、あくまでも『風紀を守る』と言う名目で優勝を目指すようだ。
「10万円ってどのくらい?」
「どのくらい?」
「沢山だよ!」
「沢山………」
「凄~い」
他にも、ウサギさんチームが盛り上がったりしている。当然ながら秋人達も盛り上がっている訳で…………
「10万円分の何か、現金じゃないなら貰っても使い道もねぇよなぁ………」
秋人は現金じゃない事が残念なのか、大して興味を示していないような反応をする。
「金券的なものなら、売ってお金に変えれば生活の足しにはなるんじゃない」
「此処は皆で折半するべきだ!」
「お前、その辺りの配慮は出来るんだな」
「でも、もし金券だったとしたら何か欲しいものってある?」
「特に無いわ」
など、ミーナ達は話し合っていた。
「優勝したいかー!?」
『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』
杏の問い掛けに、メンバー全員が拳を突き上げて答えた。そして、広間の明かりが全て消え、何時の間にか下がっていた垂れ幕にスポットライトが当てられた。
「それでは、各チームに渾身の一芸を披露して頂きます!」
柚子の言葉と共に、チーム対抗隠し芸大会が始まるのであった。