日がすっかり傾き出した頃、各校戦車部隊員達(アリクイ以外)は、貸し切りにした大洗スパリゾート『潮騒の湯』に集まり、試合後の汗を流そうと海水温泉に入浴していた。
秋人は、食堂で料理を堪能し、良と幸也はゲーセンで遊んでいる。
『潮騒の湯』・入浴場
「本日は皆お疲れだった。先ずは全て部隊の健闘を讃えると共に、参加を快諾してくれた聖グロリアーナ女学院・プラウダ高校・知波単学園にも感謝の念を禁じ得ない。更には審判団を派遣してくれた日本戦車道連盟、北関東支部茨城第2管区」
湯船に浸かっている桃が長々と演説の様に挨拶をしている。いや、彼女達だけではなく、審判団達や試合に関わった人達はもうお風呂から上がり、一足先に宴会で盛り上がっている頃だろう。
「そして私事ながら、悲願の初撃破を………」
「河嶋、長い」
とうとう傍に居た杏からそうツッコミが入る。
「では以上!皆ゆっくりして行ってくれっ!!」
1番言いたかった部分を遮られ、若干不満そうにしながらも、桃はそう話を纏める。
「「「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」」」
大洗の面々が返事をし、
「いや〜〜〜〜〜今日は私が"大 活 躍"したのだが、残念ながら引き分けだったな〜」
「とりあえず今回は、あんこう踊りがなくてよかったかな」
未だに初撃破の事を引っ張る桃に、柚子は引き分けた事であんこう踊りをしなくて済んで安堵していると、
「でも小山先輩のあんこう踊りはまた見たかったです!キレがあるって商店街のみなさんも言ってますよ!」
「あまり嬉しくないような・・・・・・・」
「先輩、踊りに興味あるようでしたらバレエどうですか?もちろんバレーでもいいですよ」
「え?え?」
典子とあけびは柚子のあんこう踊りを称賛しバレエを薦める。
「「「「さっそく新学期から!」」」」
「いえ、あの・・・・・・・お気持ちだけで・・・・新学期か・・・・・・・迎えることが出来て、本当に良かった・・・・・・・」
バレー部のメンバーからの勧誘に柚子は丁重にお断りする。
「エキシビジョンとはいえ今回は、引き分けになってしまいましたわね」
「勝負は時の運ですわ」
今回のエキシビジョンでは、勝てると思ったが結局引き分けに終わったとアッサムが言うと、ダージリンはそう言う。
「ううう………もう出るっ!!」
と、温泉の熱さに耐えられなくなったカチューシャが湯船から出ようとする。
「長く入らないと、良い隊長になれませんよ。肩まで浸かって100は数えて下さい」
するとノンナが、まるで母親の様にそうカチューシャを諭す。
「うう………」
そう言われたカチューシャは、渋々と湯船に肩まで浸かる。
『1、2、3、4………』
「日本語で数えなさいよっ!!」
そこでクラーラがロシア語でカウントを始めるが、カチューシャにそうツッコミを入れられるのだった。
「西住隊長、申し訳ありませんでした!我々が、はやって突撃したりしなければ・・・・」
「あ、いえ。一緒にチームが組めて良かったです。色々勉強になりました」
玉田達の独断突撃の件を詫びる絹代だが、みほは逆に勉強になったと返す。
「どの辺りが勉強になったのですか?」
「あー、精神とか」
「なるほど!」
力強く頷く西を見て西住が微笑む。
「それなら我々も存分に勉強させて頂きました、この試合に誘って下さった日向殿には感謝の言葉もありません。後で改めてお礼をしに行こうかと思います」
男性の身でありながら戦車道の試合に参加を許された、特例中の特例と、事情を知らない西からすればよほどの素晴らしい実力を持つ選手に見え、そして実際に見て想像以上だった。
「あ〜〜気持ちいい〜〜このまま家に帰れたら最高なのに〜〜〜」
「戦車を置きに一度学校へ戻らないといけませんものね」
「はあ~、後1週間で新学期ですね。また毎日通うことになるじゃないですか」
蕩けそうな顔で湯に浸かっている優花里がそう口にする。
「あ!宿題まだ終わってない~」
その言葉で、まだ夏休みの宿題が残っていた事を思い出した沙織が、憂鬱そうに呟く。
「ハア~………また毎朝起きねばならないのか………学校など無くなってしまえば良いのに」
「廃校を免れたばかりなんですから」
折角優勝して廃校を免れたと言うのに麻子は、
「今日の勝ち鬨はおあずけか」
「明日は、幕末と明治の博物館で戦術の勉強ぜよ」
「うむ」
「異議なし」
とカバさんチームは、今回の作戦の失敗を反省して明日は戦術の勉強すると皆で決め合った。
「これから戦車の修理をして、明日はレストアしたZ20の試運転だな」
「いよいよか」
とレオポンチームこと自動車部が何やら試作運転の予定を話し合っていると、
「き、危険な走りは禁止です!」
「お、仕事してる」
「安全運転だって」
風紀委員長としてそど子が注意するとホシノが安全運転でやると補足する。
「あ〜〜あ、今日は大失敗だった〜」
「もうちょっと戦い方考えないとね」
「どうしよっか〜」
などと、一年生チームが話し合っていると
「五十鈴先輩!」
「明日は砲撃のコーチお願いします!」
「はい、喜んで」
あやとあゆみが華に射撃のコーチをお願いすると華は嫌な顔一つせず、快く受け入れてくれた。
「新学期からは新しい生徒会に移行するから、私たちもいよいよお役御免か」
「柚子もようやく書類仕事から解放だな」
「あ、そういや小山。今度の補正予算の書類を明日にでも・・・・・・・」
「はい、もう終わってますよ」
「おー、たすかるわー」
「言われずとも会長の心中を察する・・・・・・・さすがだな柚子」
「これで戦車道の資金面については今よりずっと楽になるね」
「戦車道受講者・・・・・・・特に西住についてはこちらの都合に巻き込んだ形になってしまったからな。今後は憂いなく戦車に乗ってもらえるといいのだが・・・・・・・」
などと、彼女たち生徒会チームも新学期に入れば生徒会を辞め、三年ともなれば受験なども控えている。
そんな時
『大洗女子学園生徒会長の角谷杏様。大至急学園にお戻りください。繰り返します、角谷杏様大至急学園にお戻りください』
と館内放送で杏を学園艦に戻るよう言われる。大洗女子学園から直接大洗に放送をかけてくるとか、どんだけ急ぎの用なのか。
「ん〜?」
「何でしょう、急に」
「とにかく先に戻ってるわ」
そう言って杏は、みんなより一足先に上がり学園艦へと向かう。
「なにか、あったんでしょうか」
「アッサム」
「はい」
急な杏の呼び出しにオレンジペコは疑問を浮かべる中、ダージリンは空になったティーカップをアッサムに差し出してアッサムはポットの紅茶を注ぐ。
『315、316・・・・』
「ねえ、まだ!?まだなの!?カチューシャ、すごい隊長になっちゃうわよ!!」
といい隊長になる為に100まで湯船に浸かっていたカチューシャだったが、ロシア語がわからないカチューシャはクラーラが既に300を超えて数えている事知らず、顔を真っ赤にしながらもいまだに湯船に浸かって我慢していた。
少し遡り、秋人は【潮騒の湯】の入り口に居た。先までは、食堂で海鮮料理を堪能していたが酒が入った日本戦車道連盟の審判員篠川香音・高島レミ・稲富ひびきや蝶野亜美達にダル絡みされ こっそり抜け出して来たのだ。みんなは、温泉に浸かりながら打ち上げ的なものをやっている頃だろうか。
「フゥ・・・・・・・酔っ払いの相手は疲れるな・・・・・・・ん?この音は?」
ふと、何か妙な音が聞こえてくる。それも聞き慣れない音色だ、弦楽器だというのはわかる。音のする方へと足を運んでいくとそこには一人の女性がベンチに座り、膝の上で弦楽器『カンテレ』を演奏していた。茶髪のストレートロングヘアーにチューリップハットをかぶり、上が等間隔に縦に細い白い線が入った水色のセーターに下はグレー色のスカートでカンテレを演奏中の女性。
「………」
その女性は俺には気付いていないのか、目を閉じたままカンテレを演奏中である。
その女性の醸し出す何とも幻想的な雰囲気も合わさってとても絵になる光景だ。もう少しこのカンテレの音色を聞いてたい気もするが。
「君も風に誘われて来たのかい?」
「…は?」
そう思っているとその女性がカンテレを弾きつつも目を開いて声をかけてきた。
「・・・・・・・あんた、見ない顔だな。そこで何やってんだ?見たところ大洗でも、聖グロとも、プラウダとも、知波単の生徒じゃなさそうだが」
「風に誘われて来たのさ」
「なるほど、全くわからない」
そう言うとピタリとカンテレを弾く彼女の手が止まった。
「ここにはね、探し物があって来たのさ」
「探し物…?探し物ってなんですか?」
「見つけにくいものさ」
とミカは、ここに探し物があってここに来たと言うのだ。
「わざわさこのこの港町まで来て探す様な物なのか?」
「何かを得たいと思うなら、自ら行動しなければ手に入らないものだよ」
「…はぁ、それで裏目に出たら目も当てられないがな」
「人は失敗する生き物だからね、大切なのはそこから何を学ぶかだよ」
「学んだとしても失敗を恐れれ成長はしない」
「…変わった考え方をするね、君は」
「そりゃ、どうも…」
「…少しお腹が空いたかな、何か食べ物持ってないかい?」
「え・・・・?(奢れってか、食いもん寄越せってか。初対面の相手に食べ物強請るなんた随分図太い神経してんな)」
そんな事を思いながらも秋人は、胸ポケットからハーシーズの板チョコを取り出した。
「チョコレートならあるけど」
「それで、構わないさ」
「まぁ、いいか。いい音色聞かせてもらったからチップ代わりに」
と秋人は、ミカのカンテレの音色を聞かせてもらったからチップの代わりにチョコをあげる事にした。そんな時
「ミカ!もー、やっと見つけたんだから!!」
何やら一人の女性がやって来た。ミカと呼ばれていたが、彼女と同じ制服を着て短い髪をツインテールにした女子だ。
「やぁ、アキ」
「やぁ…、じゃないよぉ!ミカ、急に居なくなるんだもん!」
「違う、風と語り合ってたのさ」
それって俺の事かな?風ってようは空気みたいな存在って事ですかね?
「もう、また訳わかんない事言って…、あれ?ミカ、その手に持ってるのって?」
「チョコレートだね」
「ズルいミカ!一人だけ食べようとするなんて!!」
「これは私にプレゼントされた、サンタからの贈り物だからね」
「もう、何言ってるのサンタなんて…、あれ?」
やって来たアキと言うらしいが、ようやく秋人に気付く、
「随分季節外れなサンタだな」
なんて皮肉った事を言う秋人。
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「はぁ…、甘くて美味しいね。あっちこっち探し回って疲れたから甘い物が染みる」
結局チョコレートをミカとアキで半分にして分けて食べた。
「で、結局君ら何なの?」
「私達が何なのか。それは、そんなに必要なことかい」
「ちょっとミカは黙ってて…、ごめんないうちのミカが迷惑かけてあの私達、継続高校の戦車道チームなんですけど」
ミカに変わってアキが答える。どうやら、このアキって子はミカと言う人よりは話が通じそうだった。
「実は私達の学校貧乏でお金がなくてあんまり戦車なく、それで戦車を探してて・・・・」
「・・・・戦車がそこらに落ちてるとは思わんが、それに金がないって君ら普段どんな生活してんの?」
「えと…それは、ミッコっ子が魚取ってきたり、森で食べれる茸を取ったりして…」
と秋人の問いにアキが答える。金がないから自給自足のサバイバルをしているらしい。不憫だなと思うと同時に逞しいと思う秋人。
「あ!ミカ、見つかったんだよ!私らの探してたの!!呑気にチョコなんて食べてる場合じゃないよ!早くしないと誰かに取られちゃう!!」
「誰の物になるかなんて、誰にもわからないさ。まだ私は見てもないからね」
急に慌て出したアキにカンテレをポロンと奏でながらミカさんは答える。どうやら探し物とやらは見つかったらしい。
「でも、もし出会えたなら、それにはきっと意味があるはずだよ、今の私達と君のようにね」
「はぁ…、よくわかりませんけど」
もし、この出会いに意味があるんだとしたら
「君とはまたどこかで会う気がする、その時にはチョコの借りも返すよ」
「もう!ちょっと待ってよミカ、あの…チョコ、ありがとう」
継続のミカとアキの二人組はそのまま見つかったらしい探し物のある場所に向かって行った。そんな時、
『大洗女子学園生徒会長の角谷 杏様。大至急学園にお戻り下さい』
とそんな放送が流れて来た。大洗女子学園から直接大洗に放送をかけてくるなんて、どんだけ急ぎの用なのか?しかも会長をご指名とか。などと考えていると
『続いて、大洗女子学園からお越しの日向秋人様。大至急学園にお戻り下さい』
「は?俺?」
まさか、自分も呼び出しを喰らうとは思っても見なかった秋人は、取り敢えず学園に向かう事にした。
因みに余談だが、あの後プラウダ高校の戦車と試合の時に配られる連盟印の戦闘糧食が盗まれたと騒ぎになったとか。