「や、日向くん」
「あ、会長」
秋人が放送で呼び出しを受けたので大洗女子学園へと向かって歩いている学園の校門前で、秋人と同じく放送で呼び出しを受けた杏と遭遇する。
「どうせ一緒に学園に行くんだから潮騒の湯の前で待ってても良かったのに」
「待ち合わせタイミングが合うとは限らないからな、そう言えばもうすぐ新学期ですね」
「うん、新学期に入れば私ら生徒会も終わりだからね」
「…そういえばそうですね」
三年の二学期ともなれば受験に向けて部活でもなんでも引退の時期になる。生徒会の任期も三年の一学期まで、現生徒会のこの人達は解散する事になるのか。
「ありゃ、ひょっとして寂しいとか?」
「まぁ、寂しくないと言ったら嘘になりますが」
この人達だったので、いざ解散と聞いてもピンとこない。
「だからこういう面白そうな企画は今後、別の人に考えて貰わないとねー」
「そういうのは新しい生徒会がなんかやるんじゃないですか?」
それがどんなメンバーになるのかは知らないけど、この人達の後釜ってだけでプレッシャーヤバそうだが。
「ま、新学期までは一応まだ生徒会だけどね、だからこうして呼ばれたんだし」
「あと一週間限定ですけどね、となると…会長も呼ばれた理由は知らないんですか?」
「そりゃさっきまで試合してたんだし」
まぁ…そりゃそうか、と歩きながら話していると生徒会室の前でなにやら人だかりができていた。
「どうしたの?」
「あ…会長」
会長が生徒会メンバーの一人に声をかける、彼女は不安そうな表情で俺達に向き合った。
「その…文科省の役人の方が来ています」
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「わざわざ呼び出してすいませんね」
秋人と杏が応接室に入るとそこには一人の男が座っていた。
スーツ、メガネ、七三分け、となんとも特徴がない事が特徴というか、キャラ付けにしてもここまで典型的なキャラデザインはあんまり見ないレベルの絵に描いたような、見た目からもう文科省から来たお偉いお役人様という雰囲気の男である。
「試合、見させて貰いましたよ。惜しかったですね、引き分けで」
「要件はなんですか?」
会長がそんな役人の言葉を遮る、会長の表情を見るにあまり会いたくない相手だというのは一目でわかる。
「そうですね、なにぶん私も忙しい身ですから、要件だけお話しましょう」
対する役人の方はそんな会長の態度にも表情一つ変えず、淡々とした口調のまま机の上に資料を置いた。
【県立大洗学園の廃校及び、それに伴う学園艦統合案】
「大洗学園は8月31日をもって廃校、学園艦は解体します、これは決定事項です」
「戦車道全国大会で優勝すれば廃校は免れる、という約束だったはずですが」
戸惑いながら杏を横目に見る、彼女は役人を前に怯む事なくまっすぐに向き合った。
「その約束、何か書類でもありましたか?」
「…っ」
「口約束は約束ではないでしょう」
…つまり、きちんとした契約ではなかった、とこの役人は言いたいのだろう。
「そもそも廃校の話は来年の3月で、8月31日ではなかったはずですが」
「検討した結果、3月末では遅いと判断しました」
理由はわからないが文科省は大洗学園を廃校させたいのだろう。
期限を与えれば先の戦車道全国大会の優勝のように、大洗が何かしらの『結果』を残してしまう可能性もある。そうなるとまた廃校に持っていく事が難しくなるだろう。
相手がここまで大洗を廃校させたいとなれば、もうこの場で何を言ってものらりくらりと柳に風のようにかわされるだけだろう。
「その話を聞いて、私達が納得できると思いますか?」
だがそれでも抵抗しない理由にはならない、杏とは更に言葉を続けた。
「困りましたね、速やかな退艦ができないとなればこちらとしても学園艦に住む一般の方々への仕事の斡旋が滞ってしまう可能性があります」
まさに予定調和とでもいうように役人は答える。学園艦にはなにも生徒だけが住んでいる訳じゃない、生徒の親が住んでいたり、学園艦で仕事している大人達だっている。
「それは脅しですか?我々が抵抗すれば、学園艦に住む一般の人々は解雇すると」
「あくまでも可能性の話ですよ、そうならない為にもご協力をいただければと」
学園艦に住む、全住人を人質に取られたようなものだ。もちろん、俺の両親もその中に含まれている。文科省は本気で、大洗女子学園を潰す算段をつけてここに来たんだろう。
「それに戦車道全国大会優勝といっても、大洗女子学園は優勝校として相応しくはないでしょう?」
「…どういう意味でしょうか」
学園艦全住人を人質に取るくらいだ。それよりももっと簡単で、ずっと手っ取り早いやり口がある。
「そこの、君確か名前は…」
ずっと会長と話していた役人が手元の資料を見ながら始めて秋人を呼ぶ。
「あぁ、日向秋人君だったね」
「・・・・はい、貴方は?」
「初めてましてだね。僕は辻蓮太と言います、学園艦教育局の役人です。君の活躍は全国大会で見せてもらいましたよ。君の戦車道、なかなか素晴らしいものでした」
(学園艦教育局ね…………嫌な感じしかしないな。)
今までの会長とのやり取りだけを見れば俺を呼ぶ必要はないのは明らかだ。では、何故ここにわざわざ俺を呼び出したのか。辻と名乗った男はニヤニヤと秋人のことを見ており秋人は気持ち悪いと思っていた。
「しかし、伝統的で由緒正しい戦車道の競技に男性を参加させるような高校が戦車道全国大会の優勝校に相応しいとは、とても思いませんね」
戦車道は清く正しい乙女の武芸、その競技に男性を関わらせている学校は優勝校として相応しくない。
「大会規定には男性が参加してはいけないと言う規定は有りません。試合に参加してくれた聖グロリアーナ、プラウダ高校、知波単学園さらには戦車道連盟の許可は頂いています」
「そこが悪影響だと言えるんですよ。更に彼等のナチス・ドイツの制服やマークの使用、戦車道に政治的なイデオロギーを持ち込んだ事、ヒトラーやナチスの人種差別や戦争犯罪、全体主義を賛美する行為だからです」
そう言いながら役人は何枚かの写真を机の上に置く。そこには、軍服姿でナチス式敬礼をする秋人達やティーガーの車体にハーケンクロイツの旗が添えられなどの写真が写っている。
会長と役人のやり取りが続いていく中、もう二人の声もだんだんと遠くなっていき、耳には入って来ない。
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一方、そんな事知らない大洗戦車道チームらは戦車に乗りながら学園艦へと帰る途中、大洗の港の前で停泊している学園艦の前に何台ものトラックが止まっている。
「皆さん、荷物をまとめてらっしゃるんでしょうか・・・・・・・?」
「断捨離ブームでも来たのかなぁ・・・・」
「さあ・・・・」
華は多くのトラックが港前で止まっているのを見て不思議に思い、沙織は断捨離ブームが来たのかと考え、そうして学園の校門前にやって来てみれば校門に【KEEP OUT】のテープが貼られていた。
「誰よ!勝手にこんなことするなんて」
「まさか、落書きとかしてないよね」
校門に貼られたキープアウトのテープを見て風紀委員のそど子が怒りの声を上げ、
「あれ・・・・?キープアウトってどう言う意味だっけ?」
「体重をキープする」
「してないじゃん!アウトー!」
「ひっどーい」
「あはははー」
「そーいうこと、言ってる場合じゃないよ!」
一年生達は、キープアウトの意味が何なのかとふざけて合って梓が注意すると、
「君達、勝手に入っては困るよ」
彼女達の背後から辻がやって来て声をかけて来た。
「あの・・・・私達は、ここの生徒です!」
「もう君たちは生徒ではない」
「どういうことですか!?」
「君から説明しておきたまえ」
役人はそれだけ言うと会長に全ての説明を丸投げし、どこかへ去っていった。
「会長!?どうしたんですか!?会長!」
「会長?」
「大洗女子学園は・・・・8月31日付けで廃校が決定した」
エキシビションマッチの打ち上げも終え、戦車を学校に戻す為に一度戻ってきた戦車道メンバーに向け、会長はそう伝える。
「「「「「「え!?」」」」」」
「廃校に基づき学園艦は解体される」
「戦車道全国大会で優勝したら廃校は免れるって…」
「あれは、確約ではなかったそうだ」
「何っ!?」
残りあと一週間で学園は廃校と言うあまりに急過ぎる事態に驚き、更に会で優勝したら廃校は免れると言う口約束だけなので反故にされたと杏の口から告げられ
「存続を検討してもよいという意味で正式に取り決めたわけではないそうだ」
「そんな・・・・」
「それにしては急すぎます!」
「そうですぅ!廃校にしろ、もともとは3月末のはずじゃ〜」
「検討した結果、3月末では遅いと言う結論に至ったそうだ」
「なぁんで繰り上がるんですかぁ〜」
「じゃあ…」
戦車道メンバーの多くが驚き、どよめく中、ウサギチームの澤が声をあげる。
「私達の戦いはなんだったんですか…?学校がなくならない為に頑張ってたのに…」
「………」
あんずは何も答えない。いや、たぶん答える事ができないんだろう。
「なっとくでき〜ん!われわれは、ていこーするぅー!」
「何をする気!?」
「がっこーに、たてこもるぅー!」
廃校に納得のいかない桃は弱々しく抵抗する意思を表明する隣で柚子が宥める。
「戦艦バウンティ号の反乱だな!」
「ポチョムキン!ポチョムキン!」
「蟹工船・・・・」
「ケイン号の反乱!」
「それはフィクションだろ!」
「残念だが本当に廃校なんだ!我々が抵抗すれば艦内にいる一般の人たちの再就職はあっせんしない、全員解雇すると言われた」
「ひっく・・・・ひどすぎる・・・・・・・」
「あっ!?桃ちゃん!」
当然この話は桃も柚子も初耳で、泣き崩れそうになる桃を柚子が支える。
「じゃあ、何?学校がなくなるってことは私達、風紀委員じゃなくなるわけ!?」
「そこか」
「大切なことじゃない!」
そど子は、学園が無くなって自分が風紀委員じゃなくなる事が重要らしい。
「じゃあ部活もなくなるし・・・・・・・」
「バレー部、永久に復活できないです!」
「自動車部、解散か!?」
「学園艦GPの夢が・・・・」
バレー部、自動車部も学園がなくなる事で部活の復活と言う悲願も達成できず廃部という結末に愕然とし
「私たちも一年生じゃなくなるの?」
「一年じゃなくなったらどうなるの?」
「リアルニート・・・・」
「素浪人か・・・・」
「藩がなくなる前に脱藩しよう!」
「もう、なくなってるだろ!」
他の者たちも先の見えない行末に不安を募らせる。
「うおぉぉ、遂に俺らは浮浪者になるのか!!」
「よし、こうなったら・・・・・・・」
「あの役員を脅して廃校を撤回させるか」
「辞めなさい、あんた達」
ミーナ達も大洗が廃校になりこれまで警備員として雇ってもらっていたのでこれで解雇が確定して焦り、役員を脅迫しようと考えミーナがそれを止める。
「みんな静かに!今は落ち着いて指示に従ってくれ」
「会長は・・・・それでいいんですか?」
「・・・・・・・」
「…みんな、聞こえたよね?」
そんな会長を見て小山さんが話を進める。結局、これ以上ここで何を話しても事態は解決しない。
「申し訳ないけど、寮の人は寮へ戻って、自宅の人も家族の方と引っ越しの準備をして下さい」
「あ、あの!!」
そう告げた小山さんに西住が声をあげる。…俺はその顔すらまともに見る事が出来なかった。
「戦車は…どうなるんですか?」
大洗の戦車道が始まってから、彼女達が自力で探し当て、整備し、共に戦って来た、彼女達の戦車。
「全て…文科省預かりとなる」
それも文科省は持っていくという。学園の備品として、回収すると。
「まさか、俺らのティーガー改まで取り上げるってのか!」
「ティーガー改は、元々国防軍の所有物で今はあたし達の所有権があるはずよ!」
「戦車まで取り上げられてしまうんですか…」
「そんな・・・・」
「…すまない」
そう言って会長が頭を下げる。それはずっと、その場の戦車道メンバーが一度落ち着いて家に帰るまで続いていた。秋人は、ただそんな杏の背中を黙って見ているだけだった。
役人とのやり取りも、戦車道メンバーへの説明も、全てこの人に丸投げて。廃校の原因、ある一つの問題について会長が最後まで口にしなかった事に安堵すらしている。
「日向君達も一度帰らないと…」
「…え、あぁ、はい」
気付けばこの場には生徒会メンバーと秋人達だけが残っていた、みんなもう寮か家に帰って引っ越しの準備を進めているのか。
「会長・・・・・・・すみません。俺たちのせいで優勝校として相応しくないと役員に口実を与えて・・・・・・・」
「いいよ、日向くん。君達に戦車道の参加を頼んだのはこっちだし」
謝る秋人に杏は気にするなと、言う。どちらにせよ秋人達も一度寮に帰る事にした。
「・・・・・・・会長、もういいですよ」
「すまない」
「いいんです、それが私達の仕事ですから。さあ、桃ちゃんも立って」
「柚子ちゃぁん・・・・」
「ほら泣かないの、私たちも準備をしましょう」
柚子は泣き崩れる桃を立たせて生徒会として最後の仕事をする為に校舎へと入って行く。