大洗女子学園から退艦した生徒は各々が次の転校先が決まるまでの間、一時的な待機場所へと移動する事になった。もちろん生徒数が多いので、生徒もバラバラに待機場所が割り振られている。
しかしこの待機場所、見るからにオンボロというか…元は廃校になった学校らしい。おそらくだが学園艦が主流になった事でこういう陸にある学校が割りを喰ったのだろう。学園艦が廃校になったみほ達が学園艦のせいで廃校になった学校で過ごす事になるとか、なかなかシャレが効いている。
「転校の振り分けが完了するまでひとまず、ここで待機となりま〜す」
「クラス別に教室が割り当ててある。速やかに移動しろー」
「「「「「はーい」」」」」
校舎の前でメガホンを手に声をあげて生徒を誘導しているのは柚子と桃だ。
「ウフフ・・・・、桃ちゃん大丈夫?」
「こういう時こそ、我々がしっかりしなければ。それにきっと会長がなんとかしてくれる・・・・・・はずだ」
今が大変な時だからこそ生徒会の自分たちがしっかりしなきゃと自覚している桃。そんな彼女達の後ろでは、
「大変なことになったわね、秋人」
「あぁ、そうだ。俺たちも明日の身の振り方を考えなきゃいけねぇ」
そんな事を話していた秋人達の視線に気付いた桃と柚子は
「…なんだ日向、何か言いたい事がありそうだな」
「いや、まぁ…」
秋人は柚子はともかく、桃は学園廃校をもっと引きずっているのかと思った。全国大会の時からあの人の大洗女子学園への思いは充分に見てきたのだから。
「桃ちゃんなら大丈夫よ、日向君」
「こういう状況だからな、我々がしっかりしないと」
「…そうですね」
決して吹っ切れた、という訳ではないだろうが、学園艦が無くなってもこの人達は大洗の生徒会なんだろう。
「だいたい貴様達は人の心配よりまず自分の心配をしたらどうだ?」
「今後の身の振り方の事か?それはこれから考えますが・・・・・」
今までの秋人達は、戦車道の補助金の一部を生活費として生徒会から仕送りを受けていたが学園艦が廃校になり収入源が絶たれ秋人達は今後どうやって生活費を稼ぐか考え中だ。
「それもそうだが私達は転校先が決まるまで、しばらくはここで住む事になるのよ?」
「それは聞いてますけど…」
転校先は文科省が決めるらしいので一時的な待機場所といってもいつまでここに居る事になるのかもわからない。
「日向君達は、当面のここでの住む場所は決まってるの?」
「まぁ、俺らは野宿には慣れているんで最悪野営でなんとかします。てか、そういうのって普通生徒会が手配してくれるもんじゃないですか?」
「もちろん部屋は割り振ってはいるが…まさかお前、一人部屋を貰えるものだと思っているのか?」
「いや、そんな図々しい事はしませんよ」
「まぁ、生徒数を考えるとどうしても何人かで部屋を共有する事になるから、他の誰かと数人での相部屋にはなっちゃうかな」
「うわぁ…」
「露骨に顔をしかめるんじゃない、生徒に対して部屋が足りないんだから仕方ないだろう」
いや、そらゃ露骨にしかめもする、男女七歳にして席を共にせずと言うだろう
「一応希望者には外でテントでの生活も了承してるんだけど…」
「あー…そういえば秋山さんが張り切ってテント道具一式用意してたわね」
「あぁ、そう言えばそうだな」
学園艦から持ってきていたのがやけに大荷物だとは思ったがこの為だったのか、相変わらずサバイバル能力が高い。
「たぶん後で申請書を持ってくるんじゃないかしら?あんこうチームのみんなとで住むと思うんだけど」
「まぁ、そうでしょうね」
「まさか日向、お前もそこに混ざると言うつもりじゃないだろうな?」
「…いや、さすがに無いですよ」
さすがに自分達の寝床ぐらい自分達でなんとかするつもりだ。みほ達に混ぜてもらおうなんてそんな事はしない。
「ならいい、ただでさえ今は風紀委員の連中がたるんでいるからな」
「…風紀委員、そど子さん達ですか?」
「学園艦があんな事になったから、仕方ないといえば仕方ないんだけどね、どうも元気が無いみたい」
あの風紀の鬼だったそど子さんがね、今なら風紀も乱し放題という訳か。
「それで日向君、あなた達もテントで生活するなら今からでも申請書を渡すんだけど」
「戦車道メンバーの何人かもそうするようだしな」
まぁ、野営は秋人達にとって慣れているため部屋数が足りないならそれでも構わなかった。それから秋人達は生徒会にテント生活の申請書を提出してテントを張ることにした。それから夕刻になり、
「私に任せてください!レーションも各種ありますから、ちょっと待っててくださいやね〜!」
小高い丘の上では、優花里が自身がコレクションしているレーションを寸胴鍋に入れて夕食の準備を始めている。秋人達も夕食作りに混ぜてもらっている。
「なんかイキイキしてるよ・・・・」
「たくましい」
「見習いたいです」
優花里のポジティブな所にみほ、沙織、華が感心する。
「もう海の上じゃないんだね・・・・・・」
みほ達学園艦の生徒にとっては陸地での生活というのはかなり久しぶりになる。慣れない陸上生活。それは、それまで当たり前だと思っていたものが急に感じなくなる。
「波の音も聞こえないし・・・・・・」
代わりに虫の鳴き声が学園艦に居た頃より二割増しくらいに聞こえますがね。
「潮の香りも、あまりしません」
大洗だって港町ではあるが、さすがに船の上に比べるとそうだろう。なんなら華はあまりとは言っている。
「え〜、いいじゃん。山も緑がいっぱいあって」
「まぁ、そうだが・・・・・・」
すると、空から飛行機のジェットエンジン音が聞こえて来る。みんなが茜空を見上げればサンダースの スーパーギャラクシーがこっちに向かって飛んで来た。
「ギャラクシーだ!来てくれたか!」
「迎えにいこう!」
その姿を見た秋人達や大洗の戦車道チームは待機場から飛び出し、国道51号線が上を通っている高架橋へ向かう。
そして、徐々に低空飛行になったスーパーギャラクシーはそのままハッチを開き、パラシュートを付けた大洗の戦車が次々と国道51号へと投下される。
「約束通り、運んできてくれました」
「よかった・・・・・・」
「帰ってきましたね!」
「ああ」
「戦車を見ると、ほっとする・・・・・・」
みんな各々自分たちの戦車を見て安堵の気持ちになる。
『ちゃんと届けたわよ』
「ありがとうございます!」
『この借りは高くつくわよ』
「え?」
『この借りを返すために戦車道を続けなさい!今度は、あたしたちがコテンパンにするんだから!』
「はいっ!」
無線通信機からアリサが、約束通り大洗の戦車を届けた事を伝えそしてこの借りは再び戦車道で返せと言った後ギャラクシーは夕陽の彼方へと飛び去っていた。
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翌日、生徒会室(仮)では
「とりあえず当面は、ここで生活できそうだな」
「いいんですか?このまま、ここにいて」
「こんな場所だが学園艦にいる時と同じように、朝は出席を取って全員無事なのを確認するように」
「分かりました」
学園艦がなくなっても彼女たち生徒会のやる事は学園艦にいた時と変わらない。ただいつも通りにするだけだ、
「出席確認の時間だがそう言えば風紀委員はどうした?」
生徒会室(仮)から出た桃は、出た先にいた生徒に風紀委員の行方を聞くと彼女らは放送室の方向を指差し桃が放送室の小窓から中を覗くとそど子達風紀員三人が中で雑魚寝していた。
「くっ!おい!風紀委員のくせにだらしないぞ、きちんとしろ!」
「もう学校もないのに、きちんとしたからってどうなるっていうんですかぁ。意味ないじゃないですか、私たちがいる意味すら」
「いいから全員の転校手続きが終わるまでは、ちゃんとやれ!」
「うう・・・・・ぜんいん、しゅーごぉー」
桃から叱責を受けたそど子はだるそうに放送室のマイクに向かってそう呼び掛けた。
朝っぱらから【全員しゅうごぅ~】とかいう覇気のないアナウンスによりみほ大洗女子学園生徒達は、この仮住まいの校舎の校庭に集められた。
「学校なくなったんだから、朝起きなくてもいいんじゃないか」
「出席は毎日、取るんだって」
「なら早く終わらせてくれ…、帰ってもう一度寝直す」
「せっかく起きたんですから、もう少しだけ頑張ってみませんか?」
「そうよ、麻子起こすの大変だったんだから」
あんこうチームで共にキャンプ生活をしている冷泉もこれには逃げられなかったのか、珍しく参加しているが不満たらたらの表情ではあるが。
しかし、生徒会の三人も壇上に上がっていないのを見ると出欠をとるのは風紀委員の三人だろうか?風紀委員の癖に遅刻とは度しがたい。
そう思っているとのろのろとした足取りでそど子さん達、風紀委員がやってきた。
「顔くらい洗え、そど子」
お前に言われたくない、ブーメラン発言。髪ぼっさぼさだし女子としてどうなのか?溢れる睡眠欲の前には女子力なんて無力なんだろうか。
「はいはい、どーせ私はそど子ですよー」
麻子のそんな文句もそど子さんはあっさりと受け流す。いつもならここで言い争いの一つでも起きるのだが、
「出欠を取りまーす。全員いるわねー、はい終了」
「ちゃんとやれ!」
のろのろと壇上に上がったそど子さん達は、それだけ言うと大して確認もせずにすぐに降りていく。そんなそど子に桃が叱責するもそど子は何処吹く風だ。
「なんてアバウトな出席の取り方なんでしょう・・・・・」
華もこれには唖然であった。
「気怠げね、あんなに元気だったのに」
「学園が廃校になって風紀委員の存在価値がなくなったからだろ」
秋人もミーナもそど子の変わりように心配する。