西住流戦車道家元と言う看板が掲げられた家、みほの実家。その書斎でみほとまほの母親で西住流家元の西住しほが書類整理をしていると部屋の前を掃除用具を持ったまほが通りかかった。
「どうした、まほ?」
「お母様。はい、今日は学校の練習もないのでみほの部屋を掃除しようかと」
「もうすんでますよ」
学校がないまほは、みほの部屋を掃除しようとしていたがしほからもう済んであると言われて、みほの部屋に来て見れば確かに綺麗に整理整頓されている。朧げな表情で部屋を見ていたまほは、何もする事がなくなり飼い犬の散歩をする事にした。
所変わってみほの実家に向かっているヘリの機内の中では
「さて…どうしたもんか」
スマホに文字を打ち込んでは消していた。
「あの、日向少佐はさっきから何をやってるのですか?」
先ほどから何度も携帯と睨めっこして気になった蝶野が声をかけてきたのだ。
「いえ、今からみほさんの実家に行く訳ですよね…」
「あーそういえば西住ちゃん、今実家に帰ってるんだっけ?」
「あらそうなのみほさん、ご実家に帰られたのね」
「だから、ちょうど実家に居るかもしれませんし、一応連絡くらいした方がいいかと」
みほからすれば唐突に秋人が実家に来た感じだし、ばったり鉢合わせなんかすれば変な空気になりそうではある。
「ならさっさと送っちゃえばいいじゃん」
「いや、なんて送るんですこれ?」
西住家を訪れる理由は文科省が進めるプロリーグ設立の邪魔。設立委員会の委員長へと推薦を受けている西住流家元、西住しほさんを説得してこちらの味方に付ける為だ。
大洗女子学園廃校を阻止する為ではあるが、この事はまだ一般生徒はもちろん、戦車道関係者にも教えていない、生徒会と俺が独自で動いている事だ。
そもそも実現できるかも難しい話に、変に期待を持たせてぬか喜びをさせる訳にはいかない、これは賭けだった。
「ご両親にご挨拶に伺います、とか?」
「言い方ぁ…それにみほさんがもう実家から帰ってるなら無駄に心配させるだけになりますし、まだ着いてなくても不安にはさせるでしょうし」
「過保護だねぇ…」
「青春してるのね!いいじゃないの!!じゃあそんな日向少佐に私からアドバイスを送るわ」
「なんですか?」
「メッセージなんてバーッと書いてザッと送っちゃえばいいのよ!!」
「うん、ごめんさっぱりわからん」
是非とも今後の【茨城県横断お悩み相談メール】の回答はこの人に一任したい。人生の後輩から悩みを相談してはバーッとザックリ、ガガーっと解決してくれるだろう。
「…そういえば蝶野教官はモテるんでしたっけ?」
「撃破率は120%よ!!」
「…モテるんですよね?」
「120%よ!!」
「あ、そうですね」
「ところで日向少佐、みほさんもそうだけど…お姉さんの方はいいのかしら?」
確かにあの人も西住流なんだし、今回の一件とは無関係の話ではないんだが。
「いや、あの人黒森峰に居るんですし、連絡した所でどうにもならないでしょう」
もう夏休みはとっくに終わっている。大洗女子学園は廃校問題で学園艦から追い出されたので半ば夏休みの延長的にはなっているが他所の学園艦はとっくに新学期を迎えているだろう。
「ふふっ、連絡する手段がない、とは言わないのね?」
なんかこの人に上手く誘導された気がする。
「…まぁ、いろいろありましたから」
「日向くん、ここ最近じゃ一気に知り合いが増えたんじゃない?」
「そーですね、結構連絡先が増えましたよ」
「しかもアドレスの大半は女の子のだしね」
「あぁ、それは撃破されちゃうわね。撃破率でいうなら120%はあるかしら」
「それもうただの死刑宣告なのでは…?」
「じゃあそんな日向少佐に私からアドバイスを送るわ」
「またですか…」
一応聞くだけ聞いとくことにする秋人。きっとまたガィーンッでズババーンなアドバイスってやつなんだろうなって思っていると
「それはあなたがこれまでの戦車道を通じて得た大切な繋がりよ。大事にしてください、その繋がりはきっとあなたを、あなた達を助けてくれるわ」
「…はい」
意外と真面目な事を言う蝶野に呆気に取られてしまった秋人だった。
ーーー
ーー
ー
「… 夏の日本列島は典型的な高温多湿地域だな」
『西住流家元との面談の約束を取り付けるからちょっと待ってね』とは蝶野教官の言葉。まぁこれに関しては戦車道連盟の本部から直接ここに来た流れな訳で、そもそもアポイントを取っていないこちらが悪い。
大洗の代表として会長も蝶野教官に付き添い。
せっかくの熊本なのだが、土地勘なんてあるはずもない。迷子になるのもあれなので近くの公園のベンチに座り、ただ会長達からの報告を待つばかりだ。
「わんっ!!」
秋人は声のした方を見ると、目の前では一匹の芝犬が元気に走り回っている。
「わんっ!わんわん!!」
そのまま眺めていると犬は秋人を見つけてか、そのまままっすぐにこちらへ向かうと目の前できちんとお座りをしてくれた。
「へっへっへっ…」
「おーよしよし、飼い主どうした?」
ごろごろわんわんと頭を撫でると犬は気持ち良さそう目を細める。結構、動物に好かれる。
だいぶ人懐っこい犬だがリードがあるとはいえ自由にしすぎではないか?
「こら、あまり遠くには行くなと言ったはずだ」
とか思っているとすぐに飼い主がやってきた。
「…日向か」
「あぁ…えと、どうも?」
なんと西住まほがいた。私服で手にリードを持つ犬の散歩していたのだろう。
「…そうか、君を見つけたから普段よりはしゃいでしまったのかもな」
秋人姿を見たまほは犬に近付くとその頭を軽く撫でる。
犬の散歩スタイルでさえ絵になるくらいには格好いい。ただし、その手には犬用のおやつ骨クッキー持ってるけど。
「いや、その犬とは初対面だが?」
「きっとみほの匂いでもしたんだろう」
確かにまほの言うように秋人は、みほと一緒にいる時間が長いからみほの匂いが移ってそれで寄ってきたのだろう。
「せっかく会ったんだ、少し話をしよう。隣、良いだろうか?」
「あ、構わないぜ」
まほは秋人の隣に腰かけるとごそごそと犬用のおやついちごミルククッキーを取り出す。
「へっへっへっ…わんっ!」
すると匂いに釣られたのか、犬は尻尾を振りながらお座りして待っている。
「…驚かないのか?俺がここに居る事」
「大洗女子学園が廃校になると聞いて、君も動くと思ってね」
「そうか、俺は少し驚いている。学校は?」
さっさと話題を変えるべく当然の疑問を問いかける。さっきも言ったが他所の学園艦では普通に新学期が始まってる頃合いなんですが?
「私たち3年は休みだ。みほから家に帰る必要がある、と連絡を貰った」
「あぁ、転校手続きの書類に親の判子がいるって言ってたな」
たぶん入れてないんだろうなぁ…、あの親子関係だいぶ拗れてるし。
「だから私も一度家に帰る事にした」
「なるほど」
「だが、大洗の廃校が回避されれば転校手続きの書類も必要なくなるな」
「作っといて損は無いでしょ、現状じゃ状況は何も変わってませんし」
戦車道連盟は敵とは言えないが、表だって動けない事を考えるとまだ味方として動いては貰えない。
「状況なら変わっている、君がここに居る事だろう」
「…それは買いかぶりと言うものだ」
「一人の伏兵が戦況を覆す事はそう珍しい事じゃない、君だってそのつもりでここに来たのだろう」
「まぁ、
しかし、相変わらず例えが戦車脳だな。まぁ一周回ってわかりやすいまであるけど。
「…転校、か」
「ん?」
まほの横顔が憂いを帯びた物に見えた気がした、その犬の頭を優しく撫でるその仕草には寂しさも見える。
「もしこのまま大洗女子学園が廃校になったのなら、みほは黒森峰に戻って来るのだろうか・・・・・」
「………」
ふと呟いたその一言の意味に気付いたまほはすぐに気付いたようにこちらを振り向いた。
「い、いまのは違うんだ!失言だった。忘れたくれ・・・・・一緒に戦いたいのは本心だが、みほは・・・・・自分の道を見つけたんだからな」
それだと大洗の廃校はむしろ都合が良いとまで聞こえるんだろうが。
「別に失言でもなんでもないだろ。妹と同じ学校で、戦車道をまた一緒にやりたいって、自然な事だろ」
「だが、これではまるで大洗の廃校を願っているようではないか…」
「そう簡単に割りきれるもんじゃないだろ」
「…そうだな、君はそういう人だったな。だが、それで良い。君がここに来たという事はお母様に用があるのだろう」
「文科省を相手にするにはどうしても西住流の後ろ楯が必要ですからね」
「娘の私が言うのもなんだが…お母様は手強いぞ」
「知ってますよ」
家元が簡単には折れない事は秋人も重々承知の上だ。あの人との対面はどれも身が引き締まる。
「すまない、私にも何か出来る事があればいいが…立場上そうもいかないだろう」
この人も西住流だ、家元であるしほさんの意見を無視して勝手に動く事は出来ないだろう。
「あー…じゃあ一つだけ、いいですか?」
「あぁ、私にできる事ならなんでも聞こう」
「…それじゃ、遠慮なく。アイスとか売ってるとこ、知らないか?」
流石にこの暑さに参った秋人は、喉も渇いて来たからアイスでも食べて喉を潤そうと考えた。
「わんっ!わんわん!!」
「…そうだな、ここからなら駅の売店が一番近いだろうか」
そうして、まほに案内される形で秋人は駅前までやって来た二人は売店までやって来た。
ーーー
ーー
ー
「お姉ちゃん…と、え?えぇえ!?あ、秋人さん!?」
「みほ」
「…やあ、みほさん」
「あ、秋人さん?え?なんでここに秋人さんが?」
久しぶりに地元に帰ったら現地に何故か意中の相手が突然自分の実家を訪問しているのだ。
「…なんでお姉ちゃんと?」
「いや、まぁ…その、あれな」
考えてみればそもそもまほはみほの帰りに合わせて帰省してる訳で、そのまほが居るならみほがまだ地元に着いてないのは当然だった。
「みほさん、心配しなくてもいい」
そんな秋人とみほの雰囲気を察したのか、まほが間に入ってくれる。
「日向はお母様に会いに来ただけだ」
「え?えぇえ!?お母さんにって…そ、それってお、お姉ちゃんの事、で?」
「? いや、どちらかといえばお前の為に、だろう」
「わ、私の…為?それって…その、そういう事…なのかな?」
顔を真っ赤にしていじいじと両手の指を絡ませながら、みほはチラリとこちらを向いた。
「みほさん」
「は、はい!?」
「…とりあえず落ち着け、今話すから」
「あぅ…」
もうここまで来たら隠し事は出来ないというか、これ以上隠そうとしても余計ボロが出るだけだろう。なお、ボロを出すのは俺というより隣のまほの方だろうが。
「話の前に、私達はアイスを買いに来たんだが、みほも食べるだろう?」
「あ、うん!ありがとうお姉ちゃん」
久しぶりに妹に会えて、嬉しんだろう。やっぱりこの人はシスコンだ。
「今日は暑いからな、体調の方は問題ないか?」
「うん、電車だったからクーラーも効いてたし大丈夫だよ」
「そうか?それにしては先ほどからずっと顔が赤いのだが…」
「そ、そうだね!きっと暑さのせいだと思うから、早くアイス食べよ!!」
なお、仕方ないには限度はある模様で、まほはみほが絡むとポンコツになる。
ーーー
ーー
ー
「…そんな事があったんだ」
そんな訳で三人で並んでベンチに座ってアイスバーをパクつきながら、現状をみほに話す。戦車道連盟の立ち位置と、文科省を交渉の場に引きずり落とす為に西住流の家元の後ろ楯が必要な事。
ちなみに芝犬は走り疲れたのか、日陰でまったり中だ。さっきまでみほに久しぶりに会えたのが嬉しくてわんわんおと大はしゃぎだったが。
「…でも良かった」
「いや、まだなんも解決していないが?」
「そうじゃなくってね…秋人さん、最近ずっと思い詰めてたみたいだったから」
どうやらみほには、お見通しようだ。ほぼ毎日顔を合わせていた彼女達なら余計にだろう。
「私達も心配で何かしたくて…でも、何かすると秋人さん、もっと辛くなりそうで」
「…今回はやらかした責任が返ってきただけで、単なる自業自得だったりする。だから…みほさん達が心配するようなことじゃない」
「お友達を心配するのは、当然だよ」
そう言ってみほは少し寂しそうな表情を見せる。
「だって麻子さんの時、秋人さんは心配してたよね?」
「・・・・・」
「自分は相手を心配するのに、相手が自分を心配するのは許せないか」
「…お姉ちゃん」
「日向のその考えは周りに一方的に気持ちを押し付けているだけだ。それこそ君にとって嫌いな考え方ではないのか?」
「…耳が痛いな。慣れてないんだ、人に心配される事に。戦場じゃそんな余裕がないからな」
「なら、これから慣れていけば良い。…私だって君を心配していたんだ、それを拒絶されてしまって寂しく思う」
「…心配、だったんですか?」
「もちろんだ。…なにかおかしいだろうか?」
「いえ…ありがとうございます」
素直に頭を下げる。自然と長く話していたせいか、溶けかけてきたソーダアイスが見えたので慌ててパクりと食べきる。
「…うーん、ハズレかぁ」
それは西住も同じだったのか。だが違うのは西住は食べきったアイスの棒をしげしげと眺めながら少し残念そうに呟いていた。
「なに?なんかあんのこれ」
「えっとね…このアイス、当たりが出たらもう一本貰えるやつだったから」
あぁ、あまり考えず買ったんだがその手のタイプか。この手の当たり付きアイスや駄菓子は小学生の頃、重宝したものだ。
「まだ食べるのか…」
「ち、違うよ!食べたいとかそんなんじゃなくって…ほら!なんとなく当たったら嬉しいっていうか…秋人さんはどうだったの?」
「ハズレだな」
まぁそんなものだ。確か一説によるとアイスの当たり棒の当選確率は2%くらいなもんらしい。
「…当たりだ」
「すごい!さすがお姉ちゃん!!」
「運がいいんだな」
しかし、サクッと当たり引いちゃうとか、やっぱこの人なにか強運の女神でも味方につけているんだろう。
「そういえば昔、小さかった時もお姉ちゃんがアイス当たった事あったよね」
「あぁ、あれは確かみほにあげたんだったか」
「…覚えてるの?」
「もちろんだ、あの後戦車から落ちて、二人で泥だらけになって帰ってお母様に叱られたからな」
「そ、そこは忘れてて欲しかったかも…」
顔を赤くするみほの反応から、おそらくみほが原因で戦車から落ちたんだろう。昔のみほは相当ヤンチャっ子だったらしい。
「…そういえば、あの時の当たり棒はもう交換したのか?」
「ううん、なんか交換するのが勿体無いなって取っておいたら、機会が無くなっちゃって」
「…そうなのか?遠慮しなくてもいいと思うが」
「うーん…ほら、なんとなくだけどお守りみたいになるかもって、今もとってあるんだ」
「…お守りか」
当たり棒を見つめるまほはボソリと呟く。まぁ戦車道としても、『当たり』という言葉は縁起が良いのかもしれない。
「日向」
「はい」
「なら、これは君に持っていて欲しい」
「…はい?」
まほがその当たり棒を秋人に差し出してくる。いきなりのことに困惑する秋人、
「お、お姉ちゃん!?」
「ん?みほもやはり欲しいのか?前に一度あげたから二本も必要ないかと思ったが」
「えと…そうじゃないんだけど、だってそのアイス、お姉ちゃんの…」
そして、まほが食べた後のアイス棒を秋人に差し出す。
「これからお母様に会うのだろう。なら、お守り代わりにでも持っていて欲しい」
「え?むしろ会うのにお守り必要なレベルなの?あの人」
しかも娘から渡されるとか、どれだけ恐れられてるんだよあの人。
「…私が君にできる事は少ないが、せめてお守りくらい良いだろう。必要ないならそのまま交換して貰えばいい」
とそう言って、持っていたポケットティッシュで丁寧に当たり棒を包む。
「う、うぅ…、わ、私…もう一本、アイス食べよっかなー」
わざとらしく立ち上がるとみほは売店のアイスコーナーにふらふらと。
「アイスの食べ過ぎは身体に悪いが…一本では足りなかったか?」
「うん!今日は暑いし!!…それに次はなんか当たる気がするから」
そう言って真剣な表情でアイスコーナーを物色し始める。