日も沈み、辺りが暗くなり外の街灯が着き始めた頃、桃は一人ダンボールやパイプ椅子を載せたリアカーを引きながらゴミ捨て場へ運んでいたが多く積んでいた為にバランスを崩してしまい桃はそれらの下敷きになってしまう。するとそこへ、不在となっていた杏と秋人が帰って来ていた。
「ただいま」
と杏がそう言うと、
「かいちょ〜」
桃は泣きながら杏に抱き付きながら泣いていた。杏が不在の間桃が杏の代わりをしていたんで帰って来てくれて嬉しかったのだろう。それから杏達は放送室へと向かい
ピンポンパンポン。
『非常呼集非常呼集!会長が帰還されました!!』
大洗の仮校舎、いや、その周囲全域にも響くアナウンス。
『うぇぇーんっ!えんえーんっ!うえーんっ!!』
と同時に響く、桃の泣き声がこれである。
『戦車道受講者はただちに講堂へ集まって下さい、繰り返します…』
放送室のマイクを持った柚子の集合の合図と、その柚子に抱きついてえんえんと泣いている桃。
「桃ちゃん…泣きすぎ」
まったくだ。帰って来たときに見えたこの人は大量のパイプ椅子を弱音も吐かずに運んでいたというのに、会長の顔を見たとたんにこれである。
ーーー
ーー
ー
「全員揃ったな」
講堂に集合した戦車道メンバーを壇上に上がった会長が確認する。その隣には柚子、桃、秋人。突然の呼び出しに困惑している戦車道メンバー達だが、なんなら柚子と桃もまだこの召集の意味を聞いていない。
「カモさんチームが来てませーん」
「何ー!?」
あゆみが風紀委員のカモさんチームがいない事を指摘すると、欠員がいる事にキレる桃。
「ああ、どこ行くの?」
「遅刻を取り締まってくる」
すると、麻子がいないそど子達を連れて来ると言って、講堂から出て行く。麻子は動物小屋に向かうとそこでは、風紀委員三人がきゅうりを食べながら屯していた。
「何してる?」
「関係ないでしょ」
「集合だ」
「イヤだ」
「いいから来い」
「何すんのよ、離しなさいよー。私たちのことなんかほっといてよ〜」
言っても動こうとしないそど子に麻子が、腕を引っ張って連れて行こうとするも振り解かれる。
「そど子がいないと風紀が乱れるだろ!」
「ハッ!」
「それにちょっと寂しい」
「私たちは寂しくないんだからぁ〜!」
と普段風紀を乱す麻子からその様な事言われ泣き出すそど子、そしてそんなそど子達風紀委員を麻子は手を繋いで連れて講堂へとやって来た。
「それはやめてよ・・・・・」
沙織がそど子にハンカチを貸し、そど子は涙を拭き最後に鼻をかんだ事に沙織は引き気味に言う。
「みんな!試合が決まった!!」
「!?」
その彼女達に向け、会長は高らかに宣言する。
「試合?」
「大学強化チームとだ」
「「!!」」
その名前が出た瞬間、みほと優花里が反応を見せる。
「大学強化チームとの試合に勝てば、今度こそ廃校は撤回される!!」
そして会長は文科省で辻に書かせた念書を見せる。
「文科省局長から念書も取ってきた、戦車道連盟、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟の承認も貰った」
文部科学省大臣【牟田 正志】
文科省学園艦局長【辻 廉太】
戦車道連盟理事長【児玉 七郎】
大学戦車道連盟理事長【島田 千代】
高校戦車道連盟理事長【西住 しほ】
およそ戦車道に関係するお偉いさんの署名が並んだ誓約書だ。
実際、このサインを集めるのが実は一番苦労した。というか、このサイン待ちのせいで大洗への帰宅が遅れたんだった。書類にサインを貰うだけなので文部科学省大臣と大学戦車道連盟理事長の二人には会う事は無かった、そもそも大学戦車道連盟理事長の方は対戦相手だし。
「さすが会長~ッ!!」
「やっぱりちゃんと動いてくれてたんですね!」
「会長、もう隠してる事はないんですよね?」
カバチームのカエサルが会長に疑いの目を向ける。
「ないっ!」
「勝ったら本当に廃校撤回なんですね!」
「そうだ!」
バレー部の典子がさらに念を押す。
「無理な戦いと言うのはわかってる。だが、必ず勝って…みんなで大洗に…学園艦に帰ろう!!」
杏がみんなに向けてそう言うと
「やるぜよ!」
「イエス!」
「「「「「「「おーーーーーっ!!」」」」」」」
「頑張りましょう!」
「おーっ!」
「あんたも『おーっ!』とか言いなさいよ!」
「はいはい。そど子、やるぞ」
「バリバリよ」
「面白くなって来たわね」
「大学チームだろうと俺たちは止められないぜ!」
ーーー
ーー
ー
「社会人を破ったチーム!?」
戦車道新聞の一面を飾るのは【大学選抜、社会人チームを撃破!まるで下克上!!】の記事。
「無理ですよそんなのぉ~!!」
「無理は承知だよん」
とりあえずの嘆きスタートな桃を会長が宥めている。戦車道チームの各車長とあんこうチームメンバーはそのまま作戦会議へと仮生徒会室の奥にある旧校長室へと集まった。
「やっぱり大学生って強いんですね…」
「そりゃ私達よりずっと経験豊富だもんね、いいなぁ…きっとモテモテよ!!」
「この場合…モテるかどうかはたいした問題ではないのでは?」
「そもそも経験なら社会人チームの方が上じゃないのか?」
麻子の言う通り、単純な経験だけで言えば社会人チームの方が上だろう。
「大学側は強化チーム、つまり大学生の中でも選抜された、言うなれば大学選抜チームですからね、各大学の優れた選手が集まっているのでしょう」
「なにそれズルい!!」
このマッチングを組んだのは辻だ。西住流の家元に睨まれながら苦し紛れで口から出たとはいえ、しっかりこちらにとって最大限の不利な条件ときた。
「秋山さん、ここに載ってる写真の三人も有名な選手なのか?」
新聞の一覧には顔写真入りで選手が紹介されている。
【ルミ選手】【アズミ選手】【メグミ選手】
「もちろんです、その三人は各々中隊長として、バミューダ三姉妹として有名ですから」
「なんだ、そのバミューダトライアングル的な?自分達で名乗っているのか?」
「いえ、あくまでファンが付けた名称ですけど、三人揃ってのコンビネーションプレイがバミューダアタックというものですから」
「黒歴史になりそうな名前だなぁ・・・・・」
秋人は、メグミ、アズミ、ルミの三人に付けられた異名に顔を引きつる。流石にセンスがないんじゃないかと思えてくる。
「ちなみにメグミ選手はサンダース出身ですよ、私も当時の試合は見てました」
「あぁ、大学生だから必然的に各高校のOGになるのか。そうなるとケイ達の先輩になる訳だ。じゃあ他の二人も知ってる学校か?」
「ルミ選手は継続高校ですね」
「継続かぁ…(って事は、ミカさんの先輩になる訳か)」
「そしてアズミ選手はなんとあのBC自由学園です!!」
「確か一回戦でダージリンさんの聖グロリアーナと当たって負けてたところだったな」
「はい、そうです!!この学校は歴史が深くてですね…」
「いや、長くなりそうだし解説はいいんだが…」
BC自由学園について、解説しようとする優花里を秋人がとめる。どうも、これは長くなりそうなので
「プラウダ高校や聖グロリアーナ、黒森峰の選手ではないのだな」
ふむ、とカエサルが当然の疑問を口にする。
「そもそも今の大学生って事は黒森峰が9連覇の真っ最中は高校生だったんだろ、学校の強さよりも選手個人の強さに注目されてんのかもな」
そもそも黒森峰はまほが入学する前から連覇を続けていた訳で、時代は正に黒森峰の一強時代。つまり、大学に選抜された選手は学校の強さよりも個人の実力で選ばれた選りすぐりの選手という事だろう。
「まっ…そんだけの選手を集めるのにどれだけの手間と金がかかってるのかは知らんけど」
「レースでもお金のある所はタイヤもガソリンも使い放題だからね」
「許すマジ課金製!いったいいくら注ぎ込んだんだにゃー!!」
そもそもが今回の試合相手に指名できるくらいだ、文科省が後ろ楯にでもなっているのだろう。大学選抜チームとはそれだけヤバいチーム、という事だ。廃校撤回の対戦相手がここと言われた時、みほと優花里が素直に浮かれる事ができなかった理由もそこだろう。
「…秋人さん、あのね」
「…ん?どうしたみほさん」
「えっと…その、…向こうの隊長の事なんだけど、わざと見ないふりしてたりしない?」
「いや…まぁ」
大学選抜チーム隊長【島田 愛里寿】。
「わ、可愛い子!…だけど、この子が大学生の隊長なの?」
「プラウダの隊長みたいなものか?」
「天才少女と言われてるらしいな…なんでも飛び級したとか」
「選抜チームの隊長、どこかで見た気が・・・・・あっ!あの時ボコミュージアムにいた子だ!」
「あっ、本当だ。みぽりんにグッズ譲ってもらってた子だ」
「なんだ、愛里寿ちゃんと会ったのか?」
みほは、愛里寿の写真を見てボコミュージアムのボコショーで隣の席で応援していた姿を思い出す。秋人は、その時ベンチで休憩していたので愛里寿が来ていた事を知らず、いつの間にみほ達と会っていたか疑問だった。
「愛里寿ちゃんって日向さん、この子の知り合いなの?」
「一応・・・・・俺の婚約者候補って事になっている」
「「「「婚約者!!?」」」」
秋人の口から愛里寿との関係を聞いて驚愕とまたかと言った感じになる。主に、みほ、優花里、沙織、華、麻子のあんこうチームのメンバーが、
「ちょっと、日向さん!!婚約者ってどう言う事なの!?」
「あくまで、婚約者候補だ。正式に決まった訳じゃない」
「ですが、婚約者なのは変わりありませんよね」
「うッ・・・」
沙織が婚約と聞いて詰め寄って来たので、あくまでも候補だと言うが華の言葉にぐうの音も出ない。
「ですが、なんでまたそんな事に?」
「西住流の家元と同じだよ、黒森峰との決勝の後島田流の家元から愛里寿ちゃんの婿養子にならないかって誘われたんだ」
「あぁ、家元と同じ日向殿の才能ですか」
「それで、日向さん」
「…ん?」
「…まだ隠してる事ないよな?」
麻子がそう言ってじっとこちらを見てくる。他の面々もこっちを見てくる。
「き、キスされた・・・・・」
その言葉と共に異様な威圧感が襲いかかる。
華は氷の微笑を浮かべ、優花里はどこから出したのか今にもM24型柄付手榴弾の安全ピンを抜きそうな勢いで、麻子はハイライトのない目でこっちを見てくる、沙織は冷めた目で秋人を見る、みほは今にも泣き出しそうな勢いで。
「日向さん」「日向殿っ」「…日向さん」「日向さん・・・・・」「秋人さん…?」
「いや、キスは愛里寿ちゃんの方から・・・・・」
「日向さんっ」「日向殿っ!」「日向さん?」「日向さん・・・・・」「秋人さん…!?」
「は、話を聞いてくれません!ちょっ!?」
弁明しようとしたが彼女達は、聞く耳持たずに迫って来てこの後『O・H・A・N・A・S・H・I』と言う事で一旦落ち着いた。
「島田流、家元の娘と書いてありますね」
「つまり、この試合は西住流対島田流の対決でもあるんだなぁ」
日本戦車道の最大流派ともいえる西住流と双璧をなす、もう一つの流派【島田流】。
本来なら大学戦車道連盟の理事長の名前が【島田 千代】だった時点で気付くべきだったのだろう。大学戦車道連盟の理事長が島田流なら、その連盟が主軸となっている大学選抜チームも島田流の系譜である事は考えついたはずだ。
「世間的には、ですけどね」
そもそも大洗の戦車道は隊長こそみほだが、戦いかたは西住流とはまるで違う。それを一緒くたにして西住流VS島田流と名付けるのはいかがなものか
だが、みほが西住流家元の娘である事は間違いない。そこで大学側が今回の試合を拒んだら島田流は西住流から逃げた。と邪推に考える連中も出てくるだろう。日本を代表する二大流派だ。流派間の仲が悪いかどうかは知らないが、決定的な優劣をつけるのはどちらも避けたい所だろう。
「相手は何両出してくるんですか?」
典子が一番大事な事を聞いてくれる。戦いにおいて数とは分かりやすく、そして圧倒的な優劣の差だ。戦車道全国大会の決勝戦。黒森峰との戦力差は9両VS20両、なんとも馬鹿馬鹿しい戦力差だが、大洗はなんとかそれを突破し、優勝した。
「30両」
【試合の規則、形態等については主催者たるものが定める権限を有する。】
この試合を行う時、誓約書を作るにあたって文科省の辻がガンとして譲らなかった項目がここにある。
辻曰く、「男性を特例で参加させるのです、こういう項目は必要でしょう?」との事だが、実際は自分の都合の良い試合形式にしたいのがバレバレだ。秋人という存在が試合に出る事を認めて貰う以上、確かに必要な項目ではある、ここもまた嫌らしいところだ。そして決められたのが試合参加可能戦車の上限30両、辻が言うには大学側の試合に合わせたらしい。
どんなに頑張っても戦車が9両しかない大洗にとっては参加可能戦車の上限なんてあってないようなものだと知っているだろうに。
「もう駄目だぁ~!西住からも勝つのは無理だと言ってくれ!!」
「確かに…今の状況では勝てません」
動揺しまくっている桃と違い、みほは落ち着いた様子で資料を見る。
「ですが、この条件を取り付けるのも大変だったはずです。…ね?」
「…まぁ、たいした事じゃない」
みほがチラリと秋人を見る。まぁ…西住家に行って家元と直接交渉する。
俺が適当つけて誤魔化すと西住は少しだけ微笑んで戦車道メンバーを見渡す。
「普通は無理でも、戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです。困難な道ですが、勝てる手を考えましょう」
「はい!」
「わかりました!!」
「それに、私たちには秋人さんが居るから…ね?」
「頼りにされるのはいいが、君らも頑張るんだぞ」
「うん!!」
「正直戦力差は確かに大きいが、やる事は全国大会と一緒だ。相手のフラッグ車さえ潰せば勝てるならやりようはいくらでもある」
結局、相手の車両が何両だとしてもやる事は全国大会と変わらない訳で、フラッグ車をなんとか潰す事を考えれば良い。
「おぉ、さすが日向殿!頼りになります!!」
「ふむ、黒森峰でも1両で戦力差をひっくり返したからな」
「なんだかイケる気がしました!!」
翌日、大洗チームはフェリーで北海道試合会場の側にある宿泊施設にやって来るとそこには、辻と児玉の二人が来ていた。そこで、
「殲滅戦って何だったっけ?」
「相手の車輌を全部やっつけた方が勝つんだよ」
殲滅戦の意味を忘れたあやに、あゆみが意味を説明する。
「あの、30両に対して9両でその上突然殲滅戦ていうのは……」
「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっておりますのでそれに合わせていただきたい」
辻の淡々とした宣告に、みほの顔がさらに曇る。
「もう大会の準備は殲滅戦で進めてるんだって」
日本戦車道連盟の児玉理事長が、気まずそうな顔をしていた。プロリーグの試合形式に高校生であるこちらが合わせる必要だってない。だが、この辻に何を言っても無駄だろう。
【試合の規則、形態等については主催者たるものが定める権限を有する】
誓約書のこの一文を主張されればそれまでだ。
「辞退するなら早めに申し出るように」
勝ち誇った顔をして辻は去って行った。
「まったく、本当に9両でやることになりそうだね」
「何となく予想はしてたが………」
その日の夜、事前偵察も兼ねて試合会場を見に来ていたみほは試合会場の地図を見ながら全体の把握をしている。
「島田・・・・・愛里寿ちゃんか・・・・・」
と地図と一緒にクリップで止めている愛里寿の写真を見ながらそう言う。
「精が出るな、みほさん」
「秋人さん!!」
「試合会場の下調べか?」
「うん、試合会場の下見をちょっとね」
「どうする?明日の試合」
「え?」
「辞退するという選択肢も・・・・・」
「それはないよ、退いたら道はなくるから」
「厳しい戦いになるな」
「私たちの戦いは、いつもそうだよ。でも・・・・・」
「みぽりーん」
向こうから手を振りながら歩いてくるのは、沙織達あんこうチーム。
「みんながいるから」
「・・・・・そうか」
そんなあんこうチームを見つめながら、みほは決意を固めたかのように呟いた。
「お手伝いに来ました!あっ、日向殿も来てたんですね!!」
「あ、その写真、ミュージアムの娘・・・・・」
「うん、まさか対戦相手になるなんてね」
「気になりますか?」
「ううん、みんなと一生懸命、落ち着いて、いつも通りに」
みほ、首を横に張って決意を固めたように言う。その言葉にあんこうチームのメンバーは口角を上げた。
「では、早く終わらせて明日に備えての食事にしましょう。いま河嶋先輩と小山先輩が食事の準備をしてくれてますから」
「…なら、さっさと終わらせるか」
華から桃と柚子が夕食の準備をしていると言うので、あんこうチームと秋人は総出で準備にかかる。
ほぼ同時刻とある海域を航行する聖グロリアーナの学園艦の艦内では、
「秋の日のヴィオロンのためいきのひたぶるに身にしみてうら悲し、北の地にて、飲み交わすべし」
紅茶を飲みながらダージリンが一つの詩を綴る。その詩を隣で無線機でモールス信号を送るオレンジペコ。
「熱い紅茶ですね」
洋上の上を黒森峰の飛行船が飛び。
「紅茶って飲んだことないんだよなー」
そう言いながら夜汽車で北へと向かう西絹代。
「お茶会、楽しそうだよ」
「刹那主義には賛同できないね」
夜の森の中を焚き火を囲いながらアキとミカがそう言う。聖グロリアーナから招待状の様な詩を受けた各校の戦車道チームは一路同じ地へと向かって行く。