学園十色の大所帯となった大洗女子学園の作戦会議中である。狭いテントの中央、テーブルを囲んでずらりと各高校の隊長が座っている。
「では、このとおり3個中隊の編成でいきたいと思います」
「OK!」
「中隊長は?」
「それぞれ、お姉ちゃん・・・・・西住まほ選手、ケイさん、それから私で」
みほがそれぞれに中隊長を振り分けていく。
「西側ばかりじゃない」
「ご不満?」
「隊長やりたいんですか?」
「私がやらなくてどうするのよ!」
納得のいってないカチューシャにまほが、睨むと借りて来た猫のように大人しく引く。
「まあ今度でいいけど」
「カチューシャさんには副隊長をお願いします」
険悪な雰囲気になりそうなのをみほが察してか、話を先に進める。これでカチューシャさんの方は収まる。
「あっ、そう?仕方ないわね、やってあげるわ」
「ダージリンさんと西さんも副隊長をお願いします」
「よろしいわ」
「誠心誠意、努力します!」
まぁ問題扱いしてしまうのもわざわざ応援に駆けつけてくれた彼女達には申し訳ないだろうが、こればかりは不安になるのも仕方ない。知波単学園、秋人が彼女達について知っている事は正直少ない。
一時はその戦法で戦車道全国大会のベスト4まで上り詰めたらしいが、それが余計に彼女達にそのやり方を定着させてしまったともいえる。
進歩の無い突撃一偏倒な戦術なんていくらでも対策して下さいと言っているようなものだ。そもそも知波単の保有戦車も九七式チハがメインで火力的にもとても突撃に適しているとは言い難い。事実、エキシビションではその突撃によってほぼ全車両撃破された。全てが堪え性のない気持ちが逸っての突撃、ぶっちゃけ命令違反での突撃だった。世が世なら軍法会議ものだ。
【突撃して潔く散る】のが彼女達の美学らしいが今回は大洗女子学園の命運がかかった試合だ。正直、自重して欲しいのだが、エキシビションで見たがみほの命令を聞かず独断行動をした前科がある。
「それと大洗からはM3」
とみほがまだチームについて話していた。
「…と、秋人さんのティーガー、ワシチームはこの編成でいきたいと思います」
「わおっ!アッキーと同じチームなんて感激ね!!」
ケイが嬉しそうにぶんぶんと手を振っている。
「日向さんと同じチームになれるとは光栄です!!」
そして敬礼する西。
「…みほさん?」
困惑の目でみほの方を見ると彼女は苦笑いを浮かべた。
「秋人さん、その…知波単学園の皆さんをお願いするね」
「まぁ、任されたからにやるけど」
「ごめんね…でも、秋人さんならきっと大丈夫だと思うから」
ずいぶんと信頼されただが、相手は隊長の命令を聞かず独断で行動する子達だ。
「…まぁ、期待に応えるよ」
「うん、期待してるね」
ニコニコと微笑むみほの笑顔に、秋人はやれやれと感じる。
「そういえば日向さんはエキシビションでは我々の突撃はご覧になれましたね!」
「…ん、まぁ、散々なやられ様だったな」
「では、今度こそ粉骨砕身の突撃をお見せします!我等の知波単魂、特と目に焼き付けて頂ければ!!」
「あー…うん、ほどほどにな」
大学選抜戦、対戦相手はなんなら知波単学園なまである。
「大隊長は、みほだな」
「あなたについていくわよ」
「大隊長殿、部隊名の下知をお願いします!」
西から部隊名を命名して欲しいと言われ、みほは咄嗟に向日葵、アサガオ、たんぽぽと花の名前を付ける。
「え?じゃあ、部隊名は西住まほチームがひまわり。ケイさんのところがあさがお、うちがたんぽぽでどうでしょう?」
「へ!ずいぶんお子様な名前ですこと」
「いいだろう」
「え?」
「よろしいんじゃない?」
ところでエリカが、みほの部隊名にケチをつけるがまほが承諾し、ダージリンも同意する。そして、アンチョビが作戦はどうするか尋ねる。
「作戦はどうする?」
あさがお組、ひまわり組、たんぽぽ組と三チームが出来上がり、会議はいよいよ作戦立案へと移る。
「行進間射撃しか、ないんじゃないかしら。常に動き続けて撃ち続けるのよ」
行進間射撃はダージリンさんが言うように常に動き続け、撃ち続ける戦い方だ。
利点をあげるなら動いている分、当然砲撃は当たりにくくはなる。欠点をあげるなら動いている分、当てにくくもなる。
敵からは撃破されにくいが、こちらもラッキーパンチで砲撃が当たる事を祈るような泥試合的な試合展開が想像できる。
「楔を打ち込み、浸透突破でいくべきよ!」
エリカが意見を述べてる。浸透戦術、敵前線の弱点部を突破し内部へ浸透、敵指揮官を撃ち取るのが主な戦術だ。
「優勢火力ドクトリンじゃない?1輌に対して10輌で攻撃ね」
ケイさんからの進言、単騎を数の暴力で潰し、それを次々と繰り返す、まぁ勝てるよね。まず相手側がそれを許さないだろうが。
「二重包囲がいいわ!それで冬まで待って冬将軍を味方につけましょう!殲滅戦は制限時間ないんだし」
カチューシャは包囲作戦を提言、例え出来たとして突破される未来しか見えない。
「わたくし、さまざまな可能性を鑑みましたが、ここは突撃するしかないかと!」
西に至っては論外だ。各高校得意戦術がバラバラなのでまとまるはずもない。
「とりあえずパスタをゆでてから考えていいか?」
そんな空気をガラッと変えるかのようにアンチョビさんがそう手を上げる。
「ここは秋人さん、あなたに聞いておこうかしら」
「なんですか?」
「誰の意見が最も優れていたか、参考までに聞かせて欲しいわ」
「ん?」
ダージリンは、先から沈黙を続ける秋人に誰の作戦が最も優れているのかと聞いてきた、
「やっぱり行進間射撃かしら?」
「浸透突破よ!!」
「優勢火力ドクトリンよね?」
「二重包囲!!」
「私、新たに様々な可能性を考えみましたが、ここは突撃しかないかと」
これはなにか意見を言っとかないと話が進まないのだろう。
「…まぁ、この中ならカチューシャさんだな」
「ふふん、でしょう」
カチューシャが嬉しそうにえへんと胸を張る。
「包囲か…確かに上手くハマれば効果的ではあるが」
「まぁ、冬まで待つって所は合理性に欠けますね、時間は有限だ」
秋人も包囲戦は強力なのは理解しているが、冬まで待つのは合理性にかけると判断する。
「みんな、みほに従うと言っただろう。みほ」
それを察してかまほがみほにバトンを渡す。
「あ、はい。ひまわりチームを主力としてあさがおとたんぽぽが側面を固めてください。連携が取れる距離を保ちつつ、離れすぎないよう注意してください」
「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
「で、ここからが肝心なんだけど・・・・作戦名はどうする?」
ダージリンが切り出し、作戦名をどうするかだった。
「三方向から攻めるんだから三種のチーズピザ作戦」
「ビーフストロガノフ作戦がいいわ!玉ねぎと牛肉とサワークリームの取り合わせは最高よ!」
「フィッシュ&チップス&ビネガー作戦と名付けましょう」
「グリューワインとアイスバイン作戦!」
「フライドチキンステーキwithグレイビーソース作戦!」
「あんこう干し芋ハマグリ作戦!」
「会長まで乗らないでください!」
「間を取ってスキヤキ作戦はどうですか?」
それからは、案が出るわ出るわでなんかさっきの作戦決めるやり取りよりイキイキしてませんか皆さん。
「面白そうだな、黒パンとカリーヴルスト作戦!」
「君まで…好きな食べ物と作戦は関係ないだろう」
「じゃあ何がいいのよ」
カチューシャさんに言われて少し間を置くまほ、言われて真面目に考えてるのだろう。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー作戦はどうだ?これは三幕からなるオペラで・・・・」
「長い!」
解説付きで作戦名を提案したまほを桃がばっさりとぶったぎる。
「へぇ、まほさんオペラ見るんだな」
「君も興味があるなら今度見てみると良い、黒森峰には有名な会場もある、良ければ私が案内をしよう」
「お、お姉ちゃん!?」
「隊長!こんな奴にオペラの高潔さが伝わるとは思えません!時間の無駄です!!」
「顎にジャブ入れて脳揺らすぞコラ、オペラならベルリンに居た頃、父に連れられて何度も見ている。まぁ、前向きに検討しておく」
まほから黒森峰にある劇場の誘いを受けた事にみほは動揺して、エリカもエリカで
「大隊長、作戦名を決めてくれ」
「あっはい…『こっつん作戦』で、相手をを突き出して「えいっ」と攻める作戦なので」
「なにそれ、迫力ないわね」
「それでいこう」
「えっ…」
まほによってスルーさせられる、まぁ妹大好きなお姉ちゃんが居るのだ、相手が悪い。
「こっつんですか、なるほど!」
「いいんじゃない?」
「では右側面はたんぽぽ、左にあさがお、中央にひまわりでお願いします」
「「「「「「「はい」」」」」」
「こっつん作戦開始します。パンツァーフォー!」
作戦がまとまった事によってみほ達大洗チームがテントから出ていき、残ったカチューシャ、まほ、エリカ、ミカ、アンチョビ、西らは、
「あなたね、なにも言わないんならなんで参加したのよ」
「なにも言わない事もひとつの意見、アンツィオの隊長さんもそう言っているじゃないかな」
「・・・・・・イヤ本人が思ってもない事を勝手に代弁するのはやめてくれないかな」
カチューシャが作戦会議中一言も発しなかったミカに苦言を言うが、ミカは涼しい顔でアンチョビを巻き込みながらいみふな事を言う。
「西住さん、お伺いしたい事があるのてわすが」
「わかった。エリカ先に戻って準備を進めておいてくれ」
「ですが、帰りの足は・・・・・・」
すると、まほの元に西がまほに何やら伺いたい事があるらしく、まほは承諾しエリカに先に戻ってる様に言う。だが、エリカが先に戻ってはまほの帰りの足が無くなる、そこでカチューシャが自分たちが送る事で解決したがエリカは寂しげな表情をしていた。
「仕方ないわね」
「助かる」
「・・・・・・はい」
「残念ね〜〜、大好きな隊長と一緒にいられなくて」
「うるさいわね、チビッコ!」
「失礼ね!カチューシャはちっちゃくなんてないわよ!」
「ええ、カチューシャはかわいいです」
「ちょっとノンナ!」
落ち込むエリカをカチューシャが煽る、拗ねたエリカはカチューシャにとって禁句を発して出て行った。
その頃秋人、杏、桃、みほらはゴリアテに乗って自分の陣地へと戻って行っていた。
ゴリアテ兵器、最大で100キロの爆薬を詰め込む事ができ、それをリモコン操作で敵陣へと突させ爆破する。要するに遠隔爆弾兵器。爆薬を取り外せば人間一人くらい乗せるのは訳がないポテンシャルがある、なんせ100キロの爆薬の搭載を想定されているのだ。そんな中で、みほはゴリアテに乗らず徒歩で陣地へと向かっていた。そんなみほの隣にクーゲルパンツァーが通りかかった。ハッチからエリカが顔を出す。
「エリカさん?」
「あなた・・・・・・なに?テントまで歩いて来たの?」
クーゲルパンツァー、ドイツ語で『玉戦車』と呼ばれるのも納得のまん丸ボディ。
「あ・・・・・・ううん、ゴリアテに乗って来たんだけど、私のは調子が悪かったから帰りは歩く事にしたの、考えもまとまたかったし」
「なにしてんの」
「え?」
「早く乗んなさいよ、送るつってんの」
「あ・・・・・・うん」
どうやり、みほのゴリアテは故障したらしく仕方なく徒歩で帰る事にしたと説明すると、エリカは陣地まで送ると言いみほを載せる。
「顔」
「え?」
「表情、険しいって言ってるの。指揮官は苦しい状況でも顔に出さない、いつも言われてたでしょ。あなた、他の生徒の前でもいつもそんな顔してるの?」
エリカから顔の表情が険しいと指摘されたみほはキョトンとした。
「あ・・・・普段はもっと気を付けてるんだけど、お姉ちゃんや秋人さんやエリカさんのまえだと・・・・・・つい、あ、でも最近は優花里さんの前でもちょっとしちゃうかな。えっと優花里さんって言うのは」
「あのモジャッ毛でしょ、知ってるわよ」
「え?」
「砲手は五十鈴華、操縦手は冷泉麻子、あと足がむっちりしてるのが武部沙織。一度負けた相手なんだから、次に備えて調べるのは当然でしょ」
みほがあんこうチームのみんなの特徴を言おうとしたらエリカが優花里の特徴を言い当て、それから華や麻子、沙織まで言い当てる。負けた相手の事は次に備えて調べた様だった。
「そっか・・・・・・みんな大切な友達なんだ」
「楽しそうね、そっちに行ってから」
「あ・・・・・・ゴメン・・・・」
「別に謝る必要なんてないわよ。よかったんじゃないの」
「しっかりやんなさいよ。戦力は整えたんだから」
「うん。エリカさん、ありがとう」
そして、クーゲルパンツァーが目的地に辿り着くとみほは、クーゲルパンツァーから降りるとエリカに一言礼を言ってあんこうチームのみんなの元へと走っていき、エリカはその背中を見つめていた。
一方、その頃大学選抜チームでは、
「おーい、準備終わったのか?」
大学選抜チーム側も試合に向けて準備を進めているが、中隊長であるルミの見回りに対して周りのメンバーは手を止めている。
「…お疲れルミ、ごめん、まだ」
「無駄話してないで早く済ませろよな」
「いやー…それなんだけどさ」
「ルミ先輩、この試合どう思います?」
「どうって・・・・まあちょっと変な感じはしてる」
「だろー、結果的に大洗が車輌数を合わせてきたけど、当初の30対9での殲滅戦ってもう試合じゃないじゃん」
当然、文科省は彼女達に試合の真相は伝えていない。元々廃校が決まった大洗が全国大会優勝校として、せめて廃校前に大学選抜チームと試合をする。結局脚色したストーリーにはどうしたって矛盾が生まれる。
「参戦車両もCV-33って、どう考えても戦力にはなりませんよね」
「生存要員なんでしょうか?時間制限ないんだから逃げ回ってればそれで負けにはならないし」
「うっわ・・・・最後まで残したくない・・・・」
「急遽決まった試合って言うのもあるけどさ、そもそも大学選抜の相手が全国優勝したとはいえ一高校ってどうなのよ」
「廃校前にせめてもの思い出作りみたいな配慮なんだろ」
「にしてはおかしいとは思うだろう、こっちは"アレ"まで持ち出して?」
「う〜〜ん・・・・いや、気乗りしないのも分かるけどさ、今は相手より自分たちの事だろ?くろがね戦も前半ボロボロだったじゃないか」
「中隊単位での練度は高まってきてますけど、個別で動くと綻びがヒドいですね・・・・」
「選抜が結成されて日も浅いからな、でも原因はそこじゃない」
「なにさ?」
「わかってるだろ、島田流の技を目の当たりにしてるとさ。全国から集まったエリートが練習でこてんぱんにされてるからな」
「みんな自信を無くしてるんだ。だから自分の立ち位置を見失ってる」
「いや〜〜なんなんですかね。あの強さ・・・・今までの戦車道観は粉々に砕かれましたよ」
「・・・・笑うしかないよな」
と島田流の強さを目の当たりにして心をおられる隊員もいる。
「あ、悪い。愚痴ってる訳じゃないんだ」
「わかってるよ」
「今日もしっかりやります!あ、それとおやつのみかんどうぞ」
ルミは隊員からみかんをもらってチームメイトと別れた。
「マズいな〜〜〜」
だが、結局脚色したストーリーにはどうしたって矛盾が生まれる。
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元々今回は観客の居ない試合である。
その理由は男性である、日向秋人の試合参加である。そして文科省が当初の予定としていた圧倒的有利な9両対30両の殲滅戦を隠蔽する為。これらの理由によりただでさえ人が少ない観客席の中で一際、人が全く近付かない観客席があった。その観客席に座っているのは二人。
西住流家元 西住 しほ。
島田流家元 島田 千代。
二人の流派の家元が座っているのだ、人が近付かない理由としてはこの二人の圧が原因だろうか。
「…文科省は弄しすぎましたね、策は試合の中だけで留めておくべきでした」
そんな中、島田千代は日傘を閉じるとスッと立ち上がる。
「ですが、事が愛里寿にまで及ぶというならこのまま黙っている訳にもいきません」
こうして日向秋人の意図せぬ所で彼女、島田流家元の島田千代まで動かす事となる。