ガールズ&パンツァー 蘇る宿命の砲火   作:人斬り抜刀斎

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ミミミ&ヒヲトモスー

 

「西住みほさんか…」

 

愛里寿は西住みほの写真を見ながら呟いた。今試合の対戦相手、大洗の隊長。島田流である自身に対し、西住流である彼女。ボコミュージアムで出会った、ボコが好きな人。

 

「お待たせしました、愛里寿」

 

「…お母様、お呼びでしょうか?」

 

母である島田千代に呼ばれた愛里寿はなるべく表情を崩さないように、努めて冷静に答える。

 

「えぇ、あなたに伝えておかなければならないことがあります」

 

だが、母親であり、戦車道の家元である島田千代にこの動揺は隠しきれない。

 

「試合に付随することについてです。あなたたちがこの試合て負けた場合

大洗女子学園の廃校は正式に撤回となります」

 

「…え?」

 

急に決まった試合、文科省からの直々の使命、全国大会優勝校とはいえ、高校生との試合。

 

そして、30両対9両の殲滅戦という、試合の体裁すら成り立たない試合形式。

 

「わざと負け、大洗を救うことができると言うことですね。このタイミングで伝えたか、わかりますか?あなたを動揺させるためです」

 

愛里寿は思わずそう呟いてしまった、母親として千代は優しいが、戦車道の家元である彼女からは普段決して出てこない言葉だからだ。

 

「普通に戦えばこの試合、あなたはわけもなく勝利するでしょう。自身にとってなんの糧も得られないままに、人を成長させる要素とは?」

 

「大きな目標に良質の負荷」

 

本来、大洗女子学園の廃校問題に大学選抜チームが関わる事は無かったものだ。大洗女子学園が西住流を動かし、西住流が戦車道連盟が動かし、最終的には文科省が島田流、大学選抜チームまで動かした。

 

「よく出来ました。つまりはそう言うことです。間違っても良質とは言えませんが、これからはこういった盤外での要素が絡む試合が多くなり、今まで静謐だったあなたの空間に、雑音がどんどん混ざってきます」

 

千代は母親としてではなく、戦車道の家元として。愛里寿の今後の戦車道について話しをする。

 

「ですがそれでもあなたは心を乱されることなく、常に冷静で皆の陣頭に立たねばならない。それが指揮官と言うものなのです」

 

ただ試合の事だけに目を向ける事が難しくなる日は必ず来る、と。

 

「知らされて気分のいいものではないでしょう。あなたの取った行動があなたの知らないところで、物事を悪くさせるほうに影響を及ぼす。知らされない方がよかったですか?」

 

島田千代は少し間を取る、戦車道の家元として、島田流の後継者へ向け。

 

「もう一度尋ねます、愛里寿。あなたがこの試合で勝つつもりなら『大洗の息の根を止める』という決断をしなければならない、できますか?」

 

「…私は」

 

愛里寿はすぐには答えられなかった。

 

そんな愛里寿に千代は優しい母親の顔に戻る。

 

「いいのよ、立ち止まっても。あなたにはいつも多くのものを背負わせてしまいます」

 

そして、優しく頬を撫でようと手を伸ばそうとする。

 

「いいえ、お母様」

 

だが、愛里寿はその母の手をギュッと掴んだ。

 

「…必ず、やり遂げてみせます」

 

そんな愛里寿の決断に千代は少しだけ寂しそうな表情を浮かべるが、娘に悟られぬようにすぐに戻した。

 

「では、行って来ます」

 

「ご武運を」

 

「私たちが勝てば、あるいは大洗の処遇を悪くないものにと要求する事も可能でしょう。後の選択肢を手にする、勝者と敗者の最大の違いはそこです。戦うことを選んだのなら、勝ちなさい愛里寿。全てはそこからです」

 

と千夜は去って行く娘の後ろ姿を見ながらそう言った。

 

一方、大学選抜チームの陣地では大学生達の間で噂が飛び交っていた。

 

「ねぇ、この試合の話聞いた?」

 

「聞いた聞いた、あれマジなのかな?」

 

「この試合に勝ったら大洗の廃校撤回って…じゃあ私らが勝ったら?」

 

「大洗を廃校させたのはうちらって事じゃない?」

 

「そんなの完全に悪者じゃない...」

 

「隊長はこの話、知ってたのかな?」

 

噂の伝達力は速い、この手の悪意あるものは余計にだろう。さらには元々試合に向けて準備の為に固まっていた大学選抜チームだ、広まるのにたいした時間はかからなかった。

 

「…マズイな~」

 

ルミはメンバー達が士気に関わってくる事に懸念を抱きながらテントの中へと入って行った。

 

「ただいま」

 

「おかえりルミ、みんなの様子は…聞かなくてもわかるわね」

 

「もうどこもその話ばっかでみんな試合どころじゃ無いって感じだな」

 

「隊長が帰ってくるまでになんとかしないとマズイわよ」

 

大学選抜チームが作戦会議に使用しているテントに集まっているのは選抜チーム中隊長の三人だった。

 

赤みを帯びた茶色のロングヘアが特徴的なメグミ。

 

大人っぽい雰囲気とナイスボディが特徴的なアズミ。

 

メガネをかけたスレンダーなルミ。

 

秋山からバミューダ三姉妹と言われた、大学選抜チームの中隊長、三副官である。

 

「ていうか、みんな気にしすぎなんだよな、相手チームの事をいちいち考えても仕方ないだろ」

 

「あら、結構シビアなのね、ルミ」

 

「あぁいや、もちろん本当なら同情はするけどさ。私だって前の高校じゃ戦車を賭けてアンティルールで試合もしてたし」

 

「継続高校って確かそれでプラウダからKV-1も手に入れたのよね」

 

「まぁそれは私が卒業した後の話だけどさ、それだって負け続けたらチームは成り立たなくなるんだ」

 

「実際の話、今は相手よりもまず自分達よね、社会人チームに勝ったって言っても前半戦はボロボロだったし」

 

「あぁ~…それを言わないで」

 

メグミが机にぐったりと頬をつく。

 

「連携の甘さが浮き彫りになって、そこを突かれてボロボロにされて」

 

「最後はほとんど隊長が決めちゃったようなもんよね」

 

「まぁ、アレを見せられるとヘコむわよね…たぶん、それでみんな自信を無くしちゃってるのよ」

 

「大学の選抜チームに選ばれて、自分は特別だって気持ちになって」

 

「そんで、練習で隊長にボコボコにされるまでが通過儀礼みたいなもんだよな」

 

彼女達…いや、大学選抜チームの誰もがそうだ。

 

各高校の戦車道エース級の選手が大学に進学し、その中からさらに選別された選りすぐりのメンバーが集められたチーム。それが大学選抜チームだ、チームに選ばれた者は誰もが自分こそ特別な存在だと自負をする。そして、そこで自分よりもよほど特別な才能と強さを持った存在を知るのだ。

 

「本当、なんなのかしらね、隊長のあの強さと…可愛さ」

 

「特に可愛さ、あれはもはや兵器ね」

 

「どんだけ練習でボコボコにされてもあの可愛さで全部許せる…むしろもっとボコボコにして欲しい」

 

「あぁ…隊長にもっとしごかれたい、鬼軍曹な隊長に笑ったり泣いたりできなくして欲しい」

 

※彼女達は大学選抜チームの中隊長です。

 

「だいたい、あの年齢で大学生を率いる大変さをみんな理解しているのかしら」

 

「おまけに流派まで背負ってるんだからな」

 

「それを決して表には出さない健気さ、心配だわ…ねぇ?今度抱き締めて良いかしら?良いわよね?」

 

「良いわけないでしょ!!」

 

「そうだぞ、それは私の役目だ!!」

 

※彼女達は大学選抜チームの中隊長です。

 

「まぁ、それは冗談…ではないけど」

 

「おい」

 

「…なにか、隊長の力にはなりたいわよね」

 

「…そうね」

 

彼女達は大学選抜チームの中隊長です。だからこそーーー。

 

「全国から優秀な選手を集めたのに、チームとしてはいまいち噛み合わない」

 

「実際、隊長単騎で試合展開を覆しちゃったもんね…みんなの気持ちもわからなくはない」

 

「…けど、みんなと隊長をもっと繋げないと」

 

彼女達は、チームの誰よりも愛里寿の為に行動する。

 

「隊長は島田流の後継者として、ずっと一人で戦ってきたのだから、そうじゃない戦車道も知って貰いましょう」

 

「えぇ、もし本当に大洗の廃校がこの試合にかかっていても、隊長一人にその重みは背負わせないわ」

 

「当然だ、流派の看板だって、私らも島田流家元に選抜されてここにいるんだ」

 

「どちらもみんなで背負う。だって私達はチーム、ですものね」

 

「よし、早速みんなを集めて話をーーー」

 

三人が決意し、立ち上がった時だった。

 

「アズミ、メグミ、ルミ」

 

テントの入り口で、愛里寿は三人に声をかけた。

 

「あ、愛里寿隊長!?」

 

「すまない、お母様と話をしていて少し遅れてしまった」

 

「い、いえ、それは別に良いんですが」

 

「あの~…隊長はどこから話を聞いてました?」

 

三人にとってなにより重要な所はそこである。…当然、聞かれて欲しくないあれやこれやの会話がある。

 

「…それより、みんなを集めて欲しい、試合を前に大事な話がしたい」

 

「…わ、わかりました」

 

愛里寿がどこから話を聞いていたのか、そこが気になって仕方ない三人だが。

 

「…それと、その」

 

「…隊長?」

 

「…三人共、その、ありがとう」

 

「「「は、はい!隊長!!」」」

 

普段は決して感情を表には出さない愛里寿の、少し照れた表情とその言葉に全てがどうでも良くなった。

 

 「全員、試合を前に聞いて欲しい事がある」

 

試合を前に大学選抜チームメンバー全員を集め、愛里寿は彼女達の前に立った。選抜メンバーの空気は当然ながら重い、この試合が大洗女子学園の廃校がかかった試合、自分達が勝つと相手の学園が廃校になる。噂の真偽はともかく、その話はもはやチームの全員が知っている事だった。

 

「この試合の結果で相手チームである大洗学園の廃校が決まる、という話は全員が聞いていると思う。それらは全て事実だ」

 

だから、愛里寿は隠さない。それは先ほど三人の中隊長達が言ってくれた言葉にも繋がるからだ。

 

みんなで背負う、それがチームだと。

 

「本当…なんだ」

 

「え?じゃあこの試合…勝ったらマズイんじゃ?」

 

「さすがに学校を潰す試合っていうのは…」

 

ざわざわと騒ぎだす大学選抜チーム。当然だろう、自分達の試合結果が大洗女子学園に関わる多くの人生を左右する事になると告げられたものだ。

 

「…だからこそ、私は全力で戦う」

 

だが、次の愛里寿の言葉には選抜チームの全員が思わず耳を疑った。廃校がかかったこの試合で、彼女は全力を出すと宣言したのだ。

 

「全力で戦い、勝ち、この試合を仕掛けた文科省に交渉しようと思う。交渉内容は大洗学園の処遇について」

 

だが、次の愛里寿の言葉に、選抜チームのメンバーは目を輝かせた。

 

「後の選択肢を手にする為に、文科省と対等に交渉する為に、私はこの試合に全力で取り組む」

 

これが愛里寿の決断。後の選択肢を手にするという、母親からの教え。

ボコミュージアムはあくまで彼女だけの希望だ、愛里寿と千代の二人の問題だけで話は終わる。だが、大洗女子学園の処遇について文科省と対等に交渉する為に必要な事は?

 

「だからみんなにもそうして貰えると嬉しい、私が指揮し、みんなで挑む」

 

それには大学選抜チームメンバー全員の了承が必要だと、彼女は考えた。

 

「そして文科省に我々の強さを示した上で大洗の待遇について交渉をする。我々が勝負においてできる事はそれだけだ」

 

「…お」

 

「おぉぉぉぉぉお!!」

 

そんな彼女の宣言に異を唱える者が居るはずがない。普段の練習でどうやっても勝ち目が無いと思わせた才能の塊、そんな彼女が自分達を頼り、大洗の廃校問題とも真っ向から向き合うと宣言したのだ。

 

「この試合、一切の遠慮はいらない。大洗女子学園に日本で最強の大学チームなのだという矜持を見せてやれ」

 

 

ーーー

 

ーー 

 

 

「…なるほど、あなたは全てを救うつもりなのね、愛里寿」

 

その様子を遠くから眺めていた千代は満足そうに微笑んだ。

 

「娘の成長はもちろん喜ぶべきなのでしょうが…」

 

だが、彼女はまだ西住しほの居る観客席に戻るつもりはない。つけるべき、落とし前を彼女はまだつけていないのだから。

 

「ですが、本来ならこの手の盤外の問題には愛里寿をまだ関わらせるつもりは無かったのも事実。この一件を仕掛けたのは」

 

大洗女子学園側で間違いない。

 

だが、大洗の隊長である西住流の娘の彼女がこの手の手段にでる事はない。という確信が千代にはあった。だとすれば、この試合に関わるイレギュラーであろう、そもそもがこの試合を仕掛け、文科省から大学選抜チームを試合の場に引き取り出させた、ある意味全ての元凶とも言える男子生徒。

 

「愛里寿のあの反応も気になりますし…、さて、秋人君、あなたはどう出るかしら?」

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

その頃、大洗陣営では試合開始前の準備がしていると

 

『戦車道連盟本部より、お呼びだしをします』

 

「…ん?」

 

そんな中、突如ピンポンパンポンと蝶野教官のアナウンスが聞こえてきた。

 

『大洗女子学園、日向秋人君、至急大会本部まで来て下さい、繰り返します。大洗女子学園、日向秋人君、至急大会本部まで来て下さい』

 

蝶野教官のアナウンスは更に続く。試合開始前の突然の呼び出しである、大学選抜の相手側からの異議申し立てでもあったのだろうか?

 

「秋人さん、今の放送って・・・・」

 

「あんた、いったい何をやらかしたのよ…」

 

みほとエリカ今の放送を聞いていたのだろう、慌てて俺の所にやって来る。

 

「人をトラブルメーカーみたいに言うのはやめろ、何もやっちゃいないさ」

 

「あはは…でも、もう試合も始まるのになんでだろ?」

 

「さぁ、出場停止にでもなるんじゃないかしら?」

 

そう言いながらほくそ笑むエリカが皮肉めいた事を言う。

 

「…たく、煮ても焼いても食えない女だな。ま、とにかく行ってくるわ」

 

もうすぐ試合が始まる今、大洗女子学園チームも大学選抜チームも各々の待機場所で試合の準備中だ。大会本部はその中で中立の場所という事で、ここから向かうとなれば少し距離がある。そうなるとゴリアテでの移動となる。

 

「…あんた、それで行くつもりなの?そんなノロノロなペースだといつまでたっても試合が始まらないじゃない!!」

 

「それでも歩くよりかはよっぽどマシなんだよ、恨むなら呼び出した蝶野教官を恨んでくれ」

 

「…ふん、仕方ないわね」

 

エリカは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるも深々とため息をつく。

 

「…クーゲルパンツァーの方がずっと速いわ、連れてってあげるからさっさと乗んなさい」

 

「…何だ、送ってくれんのか?明日は雪でも降るのか?」

 

そりゃクーゲルパンツァーならゴリアテよりもずっと速いので秋人としても願ってもない。

 

「どう言う意味よ、あんたのせいで試合全体が遅れるのはもっと良くないわ」

 

「あんたのそーゆー所嫌いじゃないね? むしろ好きだわ」

 

「なに、アンタ口説いてるの?」

 

「反吐が出る」

 

しかし、試合開始直前で呼び出した蝶野教官が悪いと思うんだが?しかしクーゲルパンツァーに乗る事が出来たのは役得というもので、なんなら蝶野教官には感謝しかない。世界で1両しかない珍戦車だ。そうして、中へと入ると

 

「…やはり、一人乗り用だから狭いな」

 

「当たり前でしょ、こういう戦車なんだから」

 

「ちなみに私の半径3メートルに入ってきたら追い出すわよ」

 

「寝言は寝て言え、片腹痛いわ」

 

「アンタね・・・・」

 

「だったら、俺が一人で乗るから貸してくんない?」

 

「嫌に決まってるでしょ!黒森峰の校章が見えないの!!・・・・ほら、行くわよ」

 

「はいはい、…よろしく頼むわ」

 

運転席に座るエリカの後ろへ、当然座るスペースなんて無いので立ちっぱにはなるが。

 

「…お、おじゃまします」

 

続けてみほがクーゲルパンツァーへと入ってくる。

 

「…え?」

 

「…え?」

 

「…え?」

 

最初に秋人がそれを見てえ?と言葉を漏らし、釣られてエリカがえ?と言葉を続け、最後にみほがキョトンと首を傾げながらえ?と呟いた。

 

「…あの、みほさん」

 

「うん、どうしたの秋人さん?」

 

「どうしてあなたまで乗ってくるのよ…」

 

エリカもさすがに困惑している。ただでさえ一人乗りのクーゲルパンツァーに三人乗っているのだから。

 

「まったく、ただでさえ狭いのに…」

 

「…だから、なんだけどな」

 

「…はぁ?」

 

「じ、じゃなくてね。わたしも隊長だから…その、ついて行った方が良いかなって」

 

「呼ばれたの俺だけなんだが…」

 

「だから心配なんだけどな…」

 

何やらみほはボソッと呟いたが秋人は聞き取れなかった。

 

「…えーと、良いかな?エリカさん」

 

「…まぁ、そいつと二人きりよりはまだマシね」

 

「お前って奴は… いっそ清々しいな」

 

ホント、呼吸をするように自然と毒を吐くなコイツ。もうここまでさっぱりしてると好感を持てる。

 

「…ありがとう、エリカさん」

 

「…別に、もう出発するわよ」

 

そう言い、エリカは視線を前に向け運転に集中する。

 

「…あなたもずいぶん変わったわね」

 

その代わり、背中越しにみほに向けて一つの言葉が投げかけられた。

 

「…そうかな?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「…うん、そうかも」

 

運転中なので当たり前ではあるが、俺からは決して振り向かないエリカの背中と、少し寂しげな表情を浮かべるみほの顔しか見えなかった。そんなこんなで本部へと向かって行く三人だった。

 

「で、でね、沙織さんが戦車に芳香剤を置こうって言い出してね」

 

「はぁ?芳香剤ですって…」

 

クーゲルパンツァーでの移動中、みほは果敢にもエリカに向け、会話を試みているようだ。過去には同じ高校、同じチームメンバーとして二人がどのような間柄だったのかは知らない。だが、その頃のみほと今のみほも違うのだろう。エリカに自分から積極的に声をかけているのがなによりの証拠だろう。それなら秋人は壁に寄りかかりつつ、後方腕組みで暖かく様子を見守ってやるのがここは正しい姿勢というものだ。ただみほの話題を出すのは結構だが戦車に芳香剤やらクッションの話はエリカにとってはどうかと思うが。

 

「…ま、確かに必要かもね、私も後で消臭剤置こうかしら」

 

「おい、今一瞬チラッと俺の方見て言っただろ」

 

「香りで誤魔化すのは好きじゃないのよ、血の匂いとかしてそうで。匂いの原因は根本から潰さないと」

 

「OK、喧嘩を売られてることはわかった。みほさん、ちょっとハッチ開けてくれないか。心苦しいがハッチからゴミを捨てる」

 

そう言ってカバンに入れていたロープを取り出してエリカを縛ろうとする秋人。

 

「だ、大丈夫だよ、秋人さんは匂いしないから!!」

 

「それはそれでどうなん?」

 

必死で秋人のフォローをするみほ、

 

「…そ、そうじゃなくてね。その、えーと」

 

「あら、大洗は戦車に芳香剤を積んでるのがなによりの証拠じゃない」

 

困っているみほを見て少し楽しくなってきたのか、エリカがからかうように話す。なによりそういうところなのはみほにちょっかいをかける為に秋人を遠慮無くディスってくるところ。

 

「む~…秋人さん、ちょっと良いかな?」

 

「ん?」

 

先ほどまで困り顔で右往左往していたみほは何を思ったか俺に急接近して来た。

 

「あ、あの、みほさん?」

 

「…動かないでね」

 

目を閉じ、すんすんと鼻を吸うように動かし、やがてぱっちりと目を開いた。

 

「大丈夫…私は気にしないよ?」

 

「そ、そうか?」

 

「うん、だから秋人さんも気にしなくて良いと思うな…本当は、気にしないっていうのは嘘だけど」

 

「…え?」

 

ふと呟いたみほの言葉が戦車内の音にかき消されたのか上手く聞き取れなくて、聞き返そうとしたが。

 

「…うおっ!?」

 

急にスピードを上げたクーゲルパンツァーに俺の体制はぐらりと傾いた。

 

「…おい、運転手」

 

「あらごめんなさい、お邪魔だったわね。どうぞ、続けたら」

 

などと言うエリカをじっと見て、

 

「何、見てんのよ」

 

「あー、クズの顔はほっとするなぁ」

 

「ぶち殺すわよ、こら」

 

このセリフを秋人が言ってるなんて他の奴が聞いたらそれはそれは怒りそうなものだ。

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