ガールズ&パンツァー 蘇る宿命の砲火   作:人斬り抜刀斎

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文科省の思惑とは?

その後、エリカに送られて戦車道本部へとやって来た秋人達を出迎える蝶野教官がいった。

 

「ごめんなさいね、日向少佐。試合を前に忙しい中を呼び出しちゃって」

 

「…いえ、別に」

 

とはさすがに言えない、そもそもこの試合前の準備時間だって蝶野教官達戦車道連盟があれこれ理由をくっつけて無理矢理作ってくれたものだ。

 

「あら、逸見さんと西住さんも、三人で来たのね」

 

ふと、蝶野教官は後ろに居る西住と大洗一般生徒Eさんを見てふふふと微笑んだ。

 

「もしかしてデートだったかしら?青春ね」

 

「三人でデートって、それを青春と呼べるのだろうか?」

 

「それもまた青春よ」

 

「急に呼び出されたもんで、それで蝶野教官、態々試合直前に呼び出した要件は、何です?」

 

蝶野教官に呼び出された理由について聞いてみる。戦車道連盟が味方なのはあくまでも試合の外での話。試合が始まればあとは自分達の結果次第だろう。

 

「いえ。あなたを呼び出したのは正確には私じゃないの。と言っても、私もあなたはその人に会うべきだと思うわ」

 

「…はぁ」

 

もう試合も始まるというのに自分をわざわざ呼び出してそれを遅らせる事が出来て、しかも蝶野教官をも動かせる人物は限られる。…というか、間違いなく大物の人物になるだろう。

 

「あー、やっと来たな」

 

「あれが噂の男性選手ね」

 

「ふぅん…中々に悪くないんじゃないの」

 

ふと声をかけてきた三人組には見覚えがある。直接見るのは初めてだか、試合前に秋山が用意してくれた資料の写真にも載っていた。アズミ、メグミ、ルミ、大学選抜チーム中隊長の三人組。人呼んでバミューダ三姉妹。

 

「あなたが試合に出る男子高校生ね、私はメグミよ」

 

ロングヘアーのメグミ、元サンダースのOGでケイやアリサ、ナオミの先輩にあたる。

 

「アズミよ、よろしく」

 

色気漂うナイスなバディの持ち主アズミ。ちなみに出身校はBC自由学園。優花里が言うには結構歴史はあるとこらしいが。

 

「ルミだ」

 

そんで最後の一人、メガネをかけてるのがルミ。継続高校出身なのであのミカさんの先輩だ。

 

「日向秋人です」

 

向こうが自己紹介をしてくれたという事で、秋人も名乗っておく。

 

「ふぅん…」

 

ルミ、アズミ、メグミの三人は品定めをするみたいに俺をジロジロと眺める。そりゃそういう目で見られる事も仕方ない。

 

「あなた、西住流の推薦って話だけど?」

 

「えぇ、そういう事になりますね」

 

「のわりにはそういう話って全然聞かないけどなー」

 

「まぁ、最近決まったばかりですからね」

 

「まっ、誰だろうと関係ないけどな」

 

「えぇそうね、隊長に近付く男は」

 

「全員潰す」

 

「わかったら怪我する前に帰った方が良いわよ?ぼーや」

 

アズミが余裕の表情を見せる。この手の大人の色気ムンムンな人にぼーやとか呼ばれる

 

「そうそう、試合になれば手加減なんてしないから」

 

「大人しく辞退すれば痛い目を見なくて済むかもな」

 

「西住流の推薦って言っても、お情けみたいなものって聞いてるわよ」

 

「………」

 

試合に向けて俺の情報も大学選抜チームには送っているだろうが、送った相手はあの役人だ。

 

「へぇ〜その忠告として貰っときますよ。せいぜい足元救われない様に気を付けなよ、お嬢ちゃん達」

 

秋人からお嬢ちゃん呼びされた3人は驚いた顔をした。乗っかっておこう。向こうが俺の事をナメているならむしろありがたいまである。

 

「ふぅん、まだ戦ってもいないのに油断?大学生って言ってもしょせんはその程度なのね」

 

「秋人さんはちゃんと選ばれて試合に出る、私達大洗の選手です」

 

「…お前ら?」

 

気付けばみほとエリカが秋人の両脇に立っていた。

 

「あら、言ってくれるじゃない」

 

「…西住、西住流の娘さんね、それにあなたは黒森峰の副隊長さんかしら」

 

「この二人がここまで言うには、それだけの実力があるって事か」

 

「…あんたも言われっぱなしで黙ってるんじゃないわよ!!」

 

「いやこれには訳が…つーか何怒ってんだよ?お前」

 

「だいたいいつもお前が言ってる事のがずっとひどいんだが?」

 

もしかしてさっきのやり取りもう忘れちゃってる?

 

「うるさいわね、別に怒ってなんかないわ、ちょっとイラついただけよ」

 

それは世間一般的には怒ってるって言うのでは?

 

「しっかし、西住流の隊長さん直々に来るとはね」

 

「試合ではよろしくね、西住流さん」

 

「…よろしくお願いします」

 

「今日は私達の隊長、島田流の方が上だって事を証明するわ」

 

「ふん、試合前に何を言っても意味は無いわ」

 

「確かにそうね、結果なんてすぐに出るもの」

 

「はぁ〜、それで三人が俺をここに呼んだんですか?」

 

怖いので話をさっさと進めよう。とはいえ、この三人が俺を呼び出したとは考えにくい。

 

「んにゃ、私達は付き添いだよ」

 

「そうだった、あの人をこれ以上待たせるのはさすがにマズイわね」

 

「そうね。あぁ、ぼーや、最後に一つだけ、良いかしら?」

 

「何か?」

 

アズミに呼び止められる。…この人のぼーや呼び、なんか釈然としない秋人は現在17歳だが実年齢で言えば80歳を当に超えており、この中で圧倒的に年上だ。

 

「お姉さん達を油断させようなんて、悪い考えね」

 

「てか、誰が相手でも油断なんてしないだろ、普通」

 

「えぇそうね、だって隊長に近付く男は誰であろうと全員潰すもの」

 

何が一番恐ろしいかって、全部最後の一文に詰まってるんだもん。

 

「みほさん、バ…逸見」

 

「秋人さん?」

 

「ちょっと!今、バカって言いそうになったでしょ!!」

 

「言いそうになってないよ。まぁ、ありがとうとな。…スカッとしたわ」

 

みほは嬉しそうに、エリカに、両極端な二人に見送られ、秋人はアズミ、メグミ、ルミのバミューダ三姉妹の後を付いていく。もう、誰が自分を呼びつけたか、予想は出来ていた。半ば試合開始を遅らせるような権力を持ち。蝶野教官に声をかけて動かせる人物。そしてなにより、大学選抜チームの中隊長三人を付き添いとして連れてこれる者。そこから導き出される結論はただ一人。

 

「やはり、貴女だったんですね。千代さん」

 

「わざわざ呼び出してしまってごめんなさい。こうして会うのは決勝戦の時以来かしら?」

 

「そうですね、試合の認可貰う時も結局会えませんでしたし」

 

島田 千代。

 

戦車道二大流派として西住流と対とされる島田流、その家元。大学戦車道連盟の理事長であり、大学選抜チーム隊長、島田 愛里寿の母親。

 

「三人共ありがとう。私は彼と少しお話があるのであなた達は下がっていいわ」

 

「しかし家元…」

 

千代はバミューダ三姉妹の三人をそう言って離れさせる。さすがに島田流家元の前だとこの三人の雰囲気も先ほどとまるで違う。

 

「お願いね」

 

「…わかりました」

 

しかし言葉や態度こそ柔らかいものだが、有無を言わさないこの圧力…しほさんもそうだが、戦車道の家元クラスにもなると標準装備のスキルだったりするんだろうか。

 

「さて、邪魔する者はいなくなったわけだから、本題に入りましょうか」

 

「はい」

 

完全に離れた事を確認すると島田さんは改めて話をするべく俺に視線を向ける。わざわざ試合を前に名指しで俺と話す為に呼び出したのだ。そもそもこの試合、本来なら大学選抜チームは全くの無関係だったものに巻き込まれたのだ。巻き込んだのは条件を付けてきた文科省だが、その文科省をここまで追い込んだのは大洗女子学園。

 

「愛里寿とは結婚してくれる気になってくれたからしら?」

 

「………はい?」

 

いろいろと考えていたあらゆる想定がぶっ壊れた。

 

「あの子があなたと試合出来ると聞いて今まで以上に秋人くんの事を意識していたので」

 

愛里寿くらいのちっちゃな子に意識されるとか、社会的に怖いのもあるが一番怖いのは意識している相手が対戦相手として戦車に乗ってやってくる事である。

 

「単に俺と試合出来るのが嬉しいだけなのでは?」

 

「ふふっ、秋人くん。あの子がたかがそれくらいで揺らぐはずがありません、そんな風には育てていませんから」

 

島田流の戦車団体が攻め込みにやって来そうだなぁ。その考えがなんかデジャブだと思ったら西住流でも同じ事考えてた気がする。

 

「では情報交換、というのはどうでしょう?」

 

「…情報?大学選抜チームの編成とか教えてくれるんですか?」 

 

「ここでそれを聞ける度胸は買いたい所ですが、こういうのはどうでしょう?」

 

まぁ、言うだけならタダですからね。むしろこう言ってはぐらかせば深く追及される事もないだろう。島田さんには悪いがわざわざ話す事もない、そもそもあれは俺が勝手にやった事だ。

 

「文科省がなぜこうまでして大洗女子学園を廃校させようとしているのか…知りたくはありませんか?」

 

「………」

 

島田さんは持っていた扇子を広げて口元を隠す、きっとその口は微笑んでいるだろう。

 

「知っていれば今後の文科省に対しての牽制に繋がると思いますよ」

 

柔軟で和やかな口調を前につい忘れそうになっていたが、気付けば完全にこの人のペースだ。千代の持ちかけた情報は文科省の真意を知る唯一の機会、こちらが呑む以外の選択肢が無い事をわかってやっている。しかもこの情報、元々文科省の情報なので実際この人はノーダメージ、全ての負債は文科省に押し付けられるときている。西住流、しほさんがあらゆる障害を正面突破で破るとするなら、この人はそれを変幻自在に突破する。

 

「…受けましょう。って言っても、こっちもそんなたいした話はできませんが」

 

とはいえ、こっちも試合に関わる話をする訳じゃない。パンッと島田さんは持っていた扇子を畳むと手のひらに打ち付ける。

 

「島田流の家元として、今回の文科省の目論みをお話します」

 

それだけで空気がほんの少しピリつくのを感じた。会った時、この人は愛里寿の母親と自己紹介をしてくれた。もちろんそれも間違いではない。だが、今目の前に今居るこの人は娘を心配する母親から島田流の家元に雰囲気を変えたのだ。

 

「改めて大洗女子学園、戦車道全国大会の優勝おめでとうございます」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

決勝戦の後もそうだが、突然の賛辞に思わず空返事をしてしまう。

 

「大洗女子学園は今年から戦車道を始めた生徒が多かったみたいですが、指導はやはり西住みほさんとあなたが?」

 

「まぁ、多いというか全員素人でしたから、経験者のみほさんか、自分が指導するしかない状況でしたから」

 

蝶野教官が来てくれたりもしたが、蝶野教官はガーッとやってバーンとする指導方法だった。

 

「…そう」

 

「…?」

 

千代が何を言いたいのか掴めずこの人の次の言葉を待つ、少し間を開けたのは言葉を考えているのか、それとも秋人が落ち着くのを待ってくれているのか。

 

「短期間で全国大会優勝までの選手を育てたみほさんの指導力、そしてその指導を受けた生徒達、彼女達を全国の学校に転校という形で派遣し、戦車道全体のレベルを上げる、それが文科省の目論みです」

 

「馬鹿じゃないですか?」

 

島田流の家元という、ビックネームを持つ人を前にして何一つオブラートに包む事なく、スラッと思ってる事が口から出てしまった。

 

「それ、本気で成功すると思ってるんですか?」

 

「少なくとも文科省は思っているのでしょう。だからこそ、ここまで強引に大洗の廃校を進めているのですから」

 

みほの指導を受けた生徒なら、他の学校でその指導のやり方を真似してそこの学校の戦車道も強く出来るだろうと。なんとも杜撰で成功の保証が何もない計画、学園艦に住む万単位の人々を巻き込んでやることがこれとか、お粗末にも程がある。そんな馬鹿げた計画の為に大洗女子学園艦は解体、優勝は否定され、バラバラにされるという。

 

「文科省って全員縁故採用とか天下りが集まって出来てんですかね」

 

「世界大会を前に日本の戦車道はまだまだ力不足、彼等もまた必死なのでしょう」

 

その必死がなぜこうも明後日の方に向かれるのか。

 

「だからってそんな回りくどいやり方、今の現代人はしないでしょう」

 

「ふふっ…そうかも知れないわね」

 

要約すると文科省の目論見はこういう事だ。今年から戦車道を再開した大洗女子学園、当然戦車道履修生徒は素人ばかり。その素人集団を指導し、戦車道全国大会優勝までのチームを作り上げた西住。大洗の生徒なら、その西住の指導を受けているのでノウハウを知っている。知っているなら、大洗戦車道チームを学園艦ごと解体し、全国の学校に派遣すれば全国的な戦車道のレベルアップが出来るだろうと。

 

「全ては世界大会に向けてのこの国の戦車道の為に、というのが文科省の言い分です」

 

「…この国の戦車道の為に?違うでしょ」

 

「さて、なぜそう思われるのですか?」

 

「失敗した時に文科省が本来取るべき責任、そのリスクを最小限に抑える為の計画でしょ、これ」

 

おそらくこの人だって気付いている。だからこそ言い分という言葉を選んだのだろう。

 

「なんせ実際に現場出て指導するのは大洗の生徒になるわけですから、計画失敗時の言い訳なんていくらでも用意ができる」

 

仮にこの計画が実現したとして、それでも全国的な戦車道のレベルアップが失敗したとしてもそこはすでに文科省の関わっていない所だ。現場の生徒の指導不足、能力不足と自分達が言い逃れのできる理由がいかにも作りやすい。

 

「戦車道全体のレベルアップは狙いたい。しかし、自分達が直接関わって失敗すれば責任問題にはなる。それは避けたい」

 

世界大会に向けての戦車道全体のレベルアップ、これは本音なのだろう。プロリーグ設立と、その為に西住流の西住しほの委員長に構えようとしているくらいだ、そこは文科省も本気なのだろう。

 

「だから策を巡らせ、押し付ける相手を探した。ちょうど良かったのが大洗だったって話でしょう」

 

戦車道の全体的なレベルアップに繋がれば大洗を解体した自分達の功績、失敗すれば現場で指導した生徒達の責任。ほんと、良い計画考えたもんだ。なお、ここでの良い計画とは頭に『自分達にとって都合の』と入るが。

 

「…日向秋人くん」

 

「…え?あ、はい?」

 

急に名前を呼ばれたので思わず素で生返事を返してしまった、思いの外熱くなっていたのか。

 

「あぁ、ごめんなさい。改めてあなたの名前を呼んでみただけよ。お気になさらず」

 

「いや、それ普通にめっちゃ気になるんですが?」

 

「それで、あなたならどうしますか?」

 

「どうって…なにがです?」

 

「全国的に見ても全国大会に出場すら出来ない学校が多くあるのも事実でしょう。だからこそ、文科省も今回の計画に踏み切ったと言えます」

 

「そんな回りくどい事しなくても、もっと手っ取り早い方法があると思いますがね?」

 

「では聞かせて貰いましょうか」

 

千代がスっと目を細める。試されているのか、どうにもここまで誘導されている気がしないでもない。

 

「そりゃもちろん金ですね、もっと助成金ばらまかないと」

 

「…ずいぶん現実的な話ですね」

 

「元々大洗が廃校になった理由もソレですからね。私情抜きにしても戦車なんて金食い虫、お金はいくらあっても足りないくらいです」

 

練習で動かすだけでも燃料代、砲弾代、壊れれば修理代にパーツ代、とまさに貴族の遊び。大洗は自動車部無かったら詰んでた説。

 

「上手くいけば新しい戦車だって買えますし、アホな計画立ててる暇あるなら文科省は全国の学校にさっさと助成金ばらまくべきでしょ」

 

「予算の問題もあるのでしょう」

 

「本当に戦車道全体の未來を思っているなら、未來ある若者の為に文科省のお偉いさんが給料やら退職金からでも予算を回すもんじゃないですかね?」

 

「ふふっ…ずいぶんと過激ね」

 

「少なくとも学園艦一つ解体してそこに住む万単位の住民と生徒全員を巻き込むよりかはずっと健全だと思いますよ」

 

それだって住民の再就職の斡旋や転校手続きのあれやこれやでどれだけの金が動いているか。

 

「文科省の計画は責任逃れのやり方として“だけ”見るなら参考にしたいくらいですが、失敗の見えてる計画にその予算を使ってるって時点で話になりませんね」

 

「失敗…と断言するのね。仮に派遣されたとして指導するのはあなたのチームメンバー、彼女達の事を少しは信頼しても良いのではなくて?」

 

「絶対失敗します」

 

「そ、そう…?」

 

根性根性ど根性なバレー部メンバーの誰かが派遣された学校は根性根性ど根性な戦車道になるだろうし。風紀委員なそど子達が派遣された学校はもれなく戦車道チーム全員のおかっぱ頭が義務付けられそうだ。

 

「みほさんの指導を真似て他所の学園で指導ですか、彼女達がそんなたまじゃありませんよ」

 

「…なるほど、それもまた一つの信頼という事ですか」

 

千代さんが柔らかく微笑む、先ほどまで感じたプレッシャーのようなものは少し緩くなった気がした。

 

「文科省は西住流であるみほさんと、彼女の産み出した結果しか見ていませんがあなたはきちんと大洗を見ている、差はそこにあるのでしょう」

 

まぁ上部の情報しか知らない文科省からすれば全てはみほの功績に見えるのだろう。西住流の娘という看板はそれほど大きい。

 

「戦車は一人で乗るものではなく、戦車道もまた、1両で競うものではありません。あなたの言う通り道を外れた文科省の計画は失敗に終わるでしょう」

 

「最初からわかってて言ってるでしょう?」

 

「さて、それはどうでしょうか?」

 

そもそも俺ばかり質問に答えているのもフェアじゃない。

 

「…そこまでわかってるなら、なんでこの試合受けたんですか」

 

文科省の計画は失敗する、それがわからないこの人ではないだろう。それでも試合は成立し、島田流の後継者と大学選抜強化チームという最悪の敵としてこの人は立ちはだかるという。

 

「西住流を徹底的に叩き潰す絶好の機会、という事にしておきましょうか」

 

「容赦ないですね」

 

「どんな形、どんな思惑があったとしても、こうして試合として成立した以上こちらが手を抜く事はありません」

 

なんなら試合を受けた理由だっておおよそ見当はついているが。流派を背負う看板という物はそんな秋人の見当より、もっとずっと重いのだろう。

 

「試合前に話せて良かったわ。お礼に今度我が家にでもいらして」

 

「そうですか、予定が出来ましたら是非お伺いします」

 

「えぇ、是非そうしてちょうだい。ふふっ…試合ではどのような戦い方を見せてくれるのでしょうね?楽しみにしていますよ、秋人くん」

 

そして、秋人はその場を後にしてみほとエリカの元へと戻って行く。

 

ーーー

 

ーー

 

 

「お待たせしてしまったかしら?」

 

来賓席に戻った島田 千代は西住 しほの隣に座り込む。

 

「…もう良いのですか?」

 

「えぇ、気になる事は全て聞けましたので。ふふっ…今日、この試合が成立した理由がわかった気がします」

 

千代は楽しそうに微笑むのを隠すように口元に扇子を広げる。

 

「戦車道連盟を動かし、文科省と対立し、私達を巻き込んだ秋人くんがね」

 

「えぇ、なんせ我々西住流の推薦ですから」

 

「あら、とはいえ彼は西住流の門下生…というわけではないのでしょう?西住流を叩きのめすまたとない機会ではあったのですが、こうも一方的ではといささか興醒めしておりました。文科省の思惑とは違う形になりましたが、これで少しは試合らしくなりそうですね」

 

「ふっ…」

 

「ふふふっ…」

 

など、としほと千代はお互いに不適な笑みを浮かべて笑い合うのだった。

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