東通用門でダージリン達がT28に手こずっている頃、西達知波単学園が守備を任されている西裏門では
「正面から対峙しない!?本気か、福田!それでは敵と戦えんではないか!?」
福田からの提案は知波単学園の突撃スタイルにこだわる玉田にとって、それほどに衝撃的なものであった。
「いやまあ、戦えはするだろ」
「だがそれは知波単学園の戦い方ではない!」
「然り!」
玉田の意見に流石の細見もツッコミを入れる。だが、それは知波単らしくない戦い方であるとして玉田と細見が福田に詰め寄る。
「西隊長からも言ってやってください」
そう言い、玉田は西を見るが彼女は腕を組んだまま福田を見つめた。そしてゆっくりと口を開いた。
「我々には、足りないものがある」
「不退転の決意ですね!」
「わかります!」
「いや、そうじゃないんだ」
しかし西は指定したことで玉田が疑問視する。
「ではなんです!」
「さあ・・・・・なんなのだろうな」
西は直後に真澄に聞いたら予想の十倍は帰ってきそうな疑問を思い浮かべたと思った。その返答に細見が驚きの声を漏らした。
「え!?」
「ひとつわかっているのは、突撃は知波単学園の伝統として根づいたもので我々の在り方そのものおそらく今後もきっと切り離す事は出来ないと言う事だ」
彼女はそう言い、玉田はやはり西ならわかってくれると思い、玉田は俯く中
「おお!では、やはり!」
「だが今は控える」
その西の断言し、まさかの発言に細見は驚愕する。
「た、隊長!?まさか臆されたのですか!?」
「いや、なにせ今の我々には名実ともに大洗の生徒だからな。大洗はこれまで戦車道の経験が浅いながら、決して諦めず戦い方を自分達で考え全国優勝まで果たした。勝利を掴む筋道、これが私たちと違う」
「し、しかし、我々も今日こそは・・・・・」
「そう、今日は我々も大洗の生徒としてなんとしてでも勝たねばならない。だから、彼女たちに倣った戦いかたをしてみないか?突撃が出来なくとも案ずるな、我々の魂は不変だ。もし知波単学園と大洗女子の立場が逆になったとして、大洗の皆さんが助けに来てくれたとしよう。その時西住さんならきっとこう考えるはずだ。『最後まで勝利のために戦おう』と」
西はそこで今も戦っている同胞の顔を思い浮かべる。
「つまりこれは、大洗女子流の知波単魂!」
「おお、大洗流知波単魂!?」
「・・・・・ちょっと待て、それって知波単魂なのか?」
そこで細見が違和感を感じて首を傾げると、玉田が言う。
「馬鹿だなあ細見。知波単魂って名前がついているんだから、知波単魂に決まっているじゃないか」
「なるほど」
その反論に納得が行った様子で細見は頷くと、西の提案に賛同する。
「…やってみるか」
「やらいでか!」
玉田もそれに同調すると、細見は聞く。
「で、どうやって戦えばいいんですか?」
「うーん…突撃?」
西はその問いに明確な答えを用意していなかったので、回り回って突撃の言葉を漏らしてしまう。
「それについてですが」
すると福田が彼女達に提案を持ちかけた。
「先ほど使えそうなものを見つけました」
彼女はそう話すと、そこでボートの資材置き場に放置されていた多数のアヒルの頭を模したゴム風船を確保した。
南正面ゲートと東通用門で戦闘が開始される中、遂にこの西裏門にも敵が現れる。パーシング達が一斉砲撃を行い、西裏門を吹き飛ばす。
『敵影なし』
門を抜け、後続に場所を譲り、次々と園内に侵入。
『対岸にも敵影なし』
砲塔を回して周囲のどこにでも撃てるように警戒を行うも、視界の中にそれらしい影は一つも見えなかった。
『敵発見、歩道橋にチハ旧砲塔』
先頭車がチハに照準を合わせようとすると、チハは後退した。
ゆっくりと前進するパーシングがスワンボート乗り口に差し掛かった時、先頭車に衝撃が走った。
『先頭車何があった!?』
『履帯被弾!動けません!』
『こちら最後尾!同じく履帯を破損させられました!くそ!これじゃ、動けないぞ!』
『どこから狙われた!?』
『水中に潜んでいるようです!』
先頭のパーシングも最後尾のパーシングが履帯を狙われて外れてしまい行動不能になってしまった。そして、チャンスと言わんばかりに西は突撃の合図を送る。
「よし、今だ!」
「おりゃーっ!!」
そのボートが動き出し、玉田のチハ新砲塔が桟橋をよじ登る。パーシングがボートに照準を合わせようとするが、至近距離であるために照準がつく前にチハがボートを振り落として2両目のパーシングに肉薄し、ゼロ距離からパーシングの側面に発砲。ターレットリングを破壊したのか、白旗を上げさせた。
「うおおおおおおっ!」
「やったー!」
「玉田、よくやった!」
奇跡のような戦果を前に細見や西は称賛する。これまで、知波単学園は聖グロのスチュアートやエキシビションでマチルダⅡを撃破したことぐらいだった事からパーシングの様な重戦車を撃破は、大戦果であっただろう。
「よし、もういっちょ!」
「それくらいにしておけ!」
欲をかいてもう一両狙おうとした玉田を西は注意すると、すでに3両目が旋回を終えて照準を向けていた。
「って、あれ?」
「戻れ!」
その瞬間、パーシングから砲撃が届くも先に回避したことで砲塔を掠めるにとどまる。しかし砲弾を弾いた衝撃で水切りのようにチハは吹っ飛んでいった
「おのれ〜!」
「後退的前進!」
次々と砲撃が来る中を西が命令を下し、彼女達は桟橋から離れていく。
途中で反撃も行うが、そもそも全てのスペックにおいて負けているので逃げる以外の選択肢が彼女達にはなかった。
パーシングを一輌撃破した快挙を前に西達は双眼鏡で立ち往生をしている分隊を見つめる。
「相手は修理が必要だが、これでしばらく時間を稼げる」
西はそう話すと、隣で細見と玉田が言う。
「ここは再度攻勢に打って出るべきです」
「そうです!」
二人の意見に西は冷静に答える。
「いや、場所を変える。親善試合と同じ轍を踏むのは避けよう」
今と同じ戦法を隣のサファリパークでも実行しようと画策する西。
「せ、先輩方」
その隣で福田はそこで玉田達に話しかけた。
「いかがでしたでしょうか?」
やや恐る恐る彼女は聞くと、細見は答えた。
「悪くなかったぞ福田!」
「あ、ありがとうございます!」
パーシング一輌撃破という、輝かしい戦果を前に福田は嬉しげに頭を下げた。
「ああ、久しぶりにやったが、ここまで上手くいくとは」
その後ろでは細身と玉田が話していた。
「意外とこう言う戦い方が我々の性に合ってたりしてな」
「はっはっはっ、冗句というやつか。細見はハイカラなことを言う」
そんな事を話していると、西は先ほど福田が行った意見を思い出していた。
「西隊長、わかってはいふんですが、やはり待ちに徹すると言うのは慣れません」
「そう言うな玉田。我が校の存亡がかかっている」
西は大洗女子学園の生徒となって玉田に寄り添うと、彼女達に成り切るために思想面での教育を施す。
「規範となる大洗の生徒たれ」
「ぐっ…」
指摘をされ、玉田達も反論ができずに不慣れながら口調を変える。
「や、やあ、今日の大洗は波が高いな〜!」
「生しらす丼って絶品よね〜」
「いいぞ」
西は二人のやりようを誉めるが、聞いていた福田はやや冷めた視線で見ていた。
「福田。さっきの作戦といい、今してる作戦といい、指示の手際がいい。もしかして前々から考えていたのか?」
「は、はい。実は西隊長が仰っていた事と同じく、大洗の皆さんならどうするのだろうかとあうのをこのところ考えておりました。
少し恥ずかしげに福田は西に答えていた。
「そうか、だがおかげで助かった。あの場面で先輩達にも萎縮せず、正面から進言してくれた」
西はそう言い、福田を褒め称えていた。
「見せてもらったぞ、福田の知波単魂」
「きょ、恐縮であります!」
「それに私たちを信用して実行に移してくれた玉田や細見たち。私はいい仲間に恵まれた」
西はそう言ってから一瞬俯く。
「この試合は大洗にとって重要なものだが、我々にとっても転換点になりそうな気がする」
そして気を取り直したように西は顔を上げる。
「この調子で大洗の力になろう!」
「はい!」
福田も少し嬉しげな眼差しで新しくアヒル風船を装備する車両に近づく。
『相手の狙いは、火力で私たちを撹乱して各個撃破することです』
「任せといて、バラバラになんかさせないわよ。なんとかマホ達と挟撃できる形にしたいところだけど」
ケイはそこで東通用門を突破し、こちらを攻撃してくる部隊の中にあの巨大な車両が見当たらないことに警戒を促す。
『厳しそうね。T28が見当たらない。裏回りを狙ってる』
「あの鈍足にそんな事させるなんてね」
『きっと優雅に締め上げたいんでしょう』
ダージリンは勝手な嫌味混じりの推測をしながら砲撃による遅滞戦術を行っていた。
愛里寿はその戦況図をじっと見つめていた。
『こちら南正門軍、北へ敗走中』
『西裏門軍、履帯修復完了。敵は予想外にも縦深防御によって遊撃戦を仕掛けています』
『なかなか強固な防衛戦ね』
次々と飛び込んでくる報告を聞いて、少し考えると、愛里寿がマイクを取り上げる。
「作戦を変更する。分散がイヤなら望み通りにしてやろう」
『『『了解』』』
その頃、西裏門を突破した分隊は再進撃を行っていた。
「いいか、さっきと手順は一緒だ」
その途中で西は玉田達にいう。
「うう〜〜、さっきの手応えをまた味わえるのか!」
車内で玉田は先ほど撃破したパーシングのことを思い返しながら拳を強く握る。
「西隊長、まだでありますか?」
「まだまだ」
「そろそろ頃合いかと!」
「まだまだ」
サファリゾーンに身を隠した彼女達は、先ほどと同じく擬態を行って奇襲を仕掛ける算段であったが、玉田は先ほどの襲撃成功を前に前のめりになっていた。
「もはや我慢の限界であります!」
「こら、無闇に動くんじゃない。風船はデリケートなんだぞ!」
モゾモゾと動き出したアヒルに西が注意をした直後、そのアヒルが破裂すると、中から玉田の新砲塔チハが姿を現した。
「しまった!!撤退的前進!」
その後、蜘蛛の子を散らしたようにアヒル達は逃げ出す。
その頃、東通用門では突破した大学選抜の本隊と大洗連合の増援とダージリン達の攻防戦が続いていた。
「だんだん追い込まれてるね」
「うん・・・・・」
しかし火力で勝る大学選抜を前にジリジリと後退しているのを見て山郷と澤が唾を飲み込んでいた。
するとその直後、『TWILIGHT』と書かれた建物が爆発して瓦礫の中からT28が姿を現した。
「え!?なに!?」
「来たわね・・・・・T28・・・・・!?」
そこで瓦礫の奥から出てきたT28を見てアリサが冷や汗をかく。
『右側面から敵戦車出現!』
「なんだって!?」
その報告に河嶋は驚愕した。
「だろうな、シャイセ……」
T28を見ながら悪態をつく秋人。
「建物を突っ切ってきたの!?」
「出た!」
「逃げろー」
阪口が逃走しようとするが、T28が邪魔で前進できない。
「あ、ちょっと、そっちじゃない!」
慌ててUターンして、澤の注意が聞こえずに逃げ出していく。
建物に囲まれた場所で一方からパーシングに撃たれているが、M3リーのみが尻尾を巻いて逃げ出していく。
「ご丁寧に玄関からお越しくださるとは、優雅ですこと」
「でっかいからっていい気にならないでよ!」
ケイが嫌味を呟く隣でそど子が叫ぶ。
「こうしてやる!」
そしてそど子すると、B1bisの75mm砲と47mm砲を発射するも砲弾は簡単に弾かれてしまった。
「くぅ…」
「あんな車両が出てくるなんて…」
「…日頃の行いかな、最近素行悪かったし」
あっけない火力差に後藤と金春はつぶやいた。
「側面を晒している今がチャンスだ!T28が瓦礫を越えたら手に負えないぞ!」
「おう!」
エルヴィンに左衛門左が頷くと、直後に砲撃が集中する。
「秋人、命令を」
「撃て!」
「発射!」
秋人の号令で砲撃を開始する。
「命中パーシング1両撃破!」
「装填完了!」
「援護を」
「機銃掃射」
秋人はそう言って幸也は車載機関銃を連射させる。
「ぐっ、だめだ正面のパーシングに狙われる!」
そして本隊の妨害を受けている間にT28は前後に大洗連合を分断した。
「気をつけて!挟まれるわよ!」
「みんな、こっち!西の路地に逃げ込んで!そこから見える正面ドームを逆時計回りに!アッキー時間を稼いで頂戴!」
「はい!」
「はいにゃ」
ダージリンの注意喚起にケイが冷静に指示を出すと、磯部とねこにゃーが返事をした。
「よし、牽制するからその隙に急げ!」
そう言って秋人はキューポラに設置しているDshk38重機関銃に12.7mm弾を装填して撃鉄を起こし、引き金を引きパーシングに向けて乱射する。自分達もケイ達に続いていく。
そしてパーシングのいる方向に向かって加速し、建物の横を右折していく大洗連合。
「西ってどっち!?」
「分かんない」
「どこに進めばいいの!?」
しかしM3リーだけは先に逃げ出して、周りが建物だらけなことが災いして現在位置を見失ってしまった。
他の車両は路地に入り、ポルシェティーガーを先頭に建物から飛び出すと、直後に待ち構えていたパーシングの砲撃を受けた。しかし角度が悪く側面の装甲に阻まれ、転輪を破壊しただけで終わる。
「敵の包囲が始まってるわ」
「こちらの選択肢が狭められてる。よくない状況ね」
その砲撃を見てM4と八九式の砲撃が行われ、次々と砲撃が来るのでパーシングは後退をしていく。
一方、正門側では残存車両のチャーフィーをまほ達が追撃していた。
しかし本来であればその快速性を活かしてあっという間に距離を離せるはずだが、まほ達との距離感を重視している印象があった。
「こちら正門チーム、チャーフィーの動きに仕組まれた何かを感じる。通用門組は注意せよ」
その違和感にまほは無線で警戒を促した。
西裏門から続く通路では三輌のパーシングの側面を西達がアヒル頭を被って追撃を行っていた。しかしパーシングは急いでいる様子で彼女達に牽制すらしてこなかった。
「うーん、気がついているのに無視されている気がしないでもないのだが、気のせいかな?」
その様子に西は首を傾げた。
「こちら最後尾、追義攻撃は散発的…妙ね」
最後尾で追撃の様子を見ていたダージリンは一貫性のない砲撃を訝しんでいた。秋人の仮定を裏付けるような違和感をまほとダージリンが感じ取ったらしい。
「いえ、ダージリン。先頭は丁重なもてなしを受けているわ」
しかし指揮をとっていたケイは表情を暗くさせた。
「恐らく、包囲されたと見て間違い無いわ」
「シャイセ!ただでさえT28に手こずっているんだぞ………」
秋人の予感が見事に的中して悪態をつく。