訓練が終わった後、俺や西住さんや他のチームの車長である磯部典子、澤梓、本来だったら車長のエルヴィンだが、今回来たのは歴女の中ではリーダー格の装填手カエサルが生徒会室に集められた。理由は、今週末の日曜日に行われる聖グローリアナ女学院との練習試合に向けての作戦会議が行われた。
「いいか!相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている。とくかく相手の戦車は堅い、主力のマチルダⅡに対して、我々の砲は100m以内でないと通用しないと思え!!そこで一両が囮となってこちらが有利になるキルゾーンに敵を引き摺り込み、高低差を利用して残りがこれを叩く!」
(成る程、聖グロリアーナはイギリス戦車のマチルダⅡか)
河嶋はホワイトボードに張られた図面のマチルダⅡと聖グローリアナの戦法を説明する。マチルダⅡは、2ポンド砲(40mm)を装備し1500m先の標的を撃破する能力がある。最大の特徴が正面装甲厚が75mmの頑丈な造りなのだ。フランス侵攻時、ドイツ軍を手こずらせた戦車がマチルダⅡなのだ。速度も主砲も平均的だったが分厚い装甲でドイツ軍の対戦車砲やⅢ号戦車や38(t)戦車の主砲を跳ね返していたのだ。ドイツ軍の主な対戦車砲はラインメタル社製の3.7cm Pak36だったのでマチルダⅡには効き目がなく、装甲をコンコンとノックするだけだったので『ノッキングマシーン』とあだ名が付けられていたのだ。そして、8.8cmFlak18でようやくマチルダを仕留められたのだ。独ソ戦でも、ソ連軍はレンドリース法によりイギリスからマチルダⅡを送られたが足回りのスカートが誘導輪を支える構造材を兼ねていたため、取り外しが出来ず泥詰まりなどを起こしやすかった為ソ連兵からは酷評だった。
河嶋の言葉を聞いて皆頷き勝利を確信する中で、みほだけが不安げな顔に気付いた角谷が話し掛ける。
「西住ちゃん〜どうかした?」
「あ〜いえ・・・」
「いいから言ってみ〜」
最初こそ遠慮していたみほだが、角谷からそう言われてみほは静かにこう言った。
「・・・聖グロリアーナは、当然こちらが囮を使って来る事は想定すると思います。裏をかかれて逆包囲される可能性があるので・・・・」
「あ〜確かに!」
そうみほが言うと、皆納得する。へぇ〜中々分かっているじゃん西住さん流石戦車道の名家のお嬢さんってだけは有る。そんな時、
「うるさい黙れ!私の作戦に口を挟むな!!そんな事を言うのならお前が隊長をやれ!!」
「えぇ!!・・・・すみません」
と河嶋に怒鳴られ謝るみほ。河嶋さんは、気が短くていけねぇや、カルシウムでも足りてないんじゃ無いか?小魚でも食べろよ。
「いや、西住さんが謝る事はない、西住さんの言う事にも一理ある。作戦に絶対なんてものは存在しない。敗北を目的とした作戦で戦争を始める間抜けはいない戦争も競技も最後の最後で何が起こるか分からないし誰にも予想は出来ない。だが、やるからには全ての力を勝利に注ぎ込むべきだ」
「日向さん・・・」
「なんだと!日向!貴様まで私の作戦に異論を唱えるのか!?」
と西住さんを庇うと河嶋は今度は秋人に突っかかる。
「勝負に100%などない。作戦の本質自体は悪くないので良いとして、問題は相手は準優勝の強豪校なんだろ。この作戦が必ず成功するって保証はどこにも無い!作戦ってのは最悪の事態を想定し相手の先の先まで策を練らなければならないのが勝負の鉄則だ。だが、この作戦には失敗した時の具体的にどのような行動にでるか明確に示されていない、第一段階で失敗した時点で大洗が勝利する全ての可能性が消失する。その程度の事も見抜けず慢心している様じゃまだまだ甘いな」
「何を!?偉そうに!何様のつもりだ!!」
「ドイツ国防陸軍少佐だ!それ以上でもそれ以下でもない!!戦争や戦車戦もろくに知らない小娘が!経験者の言葉に耳を傾けろ!」
「ひぃっ…」
と秋人は、河嶋に怒声の聞いた声で自分は軍人だ!と威圧して言う。その光景を見た河嶋は涙目で脅えた。そんな中、角谷が納めに入る。
「まあ、まあ、でもまぁ、隊長は西住ちゃんが良いかもね」
「はい?」
「西住ちゃんがうちのチームの指揮取って!」
「へ!?」
「あ、それと日向君」
「何です?」
「君には副隊長補佐兼隊長代理を務めてくれないかな?本当は副隊長は君にやってもらいたいんだけど〜副隊長は河嶋にもう決まっちゃってるだけど河嶋だけだと心配だからさその補佐役をやって貰いたいんだ。それに君との約束に有事の際の指揮権の移譲も有るからね。西住ちゃんに何かあった時はその時はよろしくね〜」
そう言うと角谷は笑顔で拍手をして、それに釣られる様に他の子達も拍手をする。
副隊長補佐か、大隊長の俺が補佐役そして隊長代理とはねぇ・・・・
「わかりました。引き受けます」
「頑張ってよ〜っ、二人とも勝ったら素晴らしい賞品挙げるから」
「え!?何ですか?」
「干し芋3日分!!」
干し芋3日分ってそんなの欲しがるのは角谷会長だけだと思うが・・・・何で、自分の好きな物を他人にまで押し付けようとするんだ?
「あの、もし負けたら?」
と磯部が負けた時の処遇があるのか聞くと、
「大納涼祭りで履修生全員アンコウ踊りを踊ってもらおうかな〜?」
そう角谷が言うと皆が固まり顔が青ざめていた。みほは、転校してきたばかりなのでアンコウ踊りを知らず、秋人はヨーロッパ暮らしだったのでそもそも知らないので首を傾げる。その後、作戦会議はお開きになり各々帰宅して行く。
俺と西住さんは西住さんの帰りを待っていた武部さん達と合流する。
「アンコウ踊り・・・・恥ずかし過ぎる!!あんなの踊っちゃたらもうお嫁に行けないよ!!いや、いっそ日向さんと婚約すれば・・・ブツブツ」
「絶対ネットにアップされて全国的な晒し者になってしまいます」
「一生笑われますよね」
「そんなにあんまりな踊りなの・・・?」
「どんな踊りか逆に気になるが、そんなに嫌なら勝てば良いだけの話だ」
と負けたらアンコウ踊りを踊らされる羞恥と絶望する皆に秋人が勝てば良いと言う。すると武部が、
「そうよ!勝とうよ!!勝ってばいいでしょ!!」
「わかりました!負けたら私もアンコウ踊りやります!西住殿一人だけに辱めは受けさせません!!」
「わたくしも恥を忍んでやります!」
「私も!」
と負けたらあんなに嫌がっていたアンコウ踊りをやると言い出したのだ。西住さんは、如何やらいい友達を持った様だ。と秋人は少し頬をあげる。
「皆でやれば恥ずかしくないよ!!」
「ありがとう」
「それよか、私は麻子がちゃんと来るかの方が心配だよ・・・・」
「仕方ねぇ、俺も一緒に行って冷泉さんを起こすの手伝ってやるよ」
「ありがとう日向さん〜」
と皆の一番の心配事の今この場に居ない冷泉がちゃんと起きてくる事かだった。ただでさえ、早起きが苦手な遅刻常習犯の冷泉が時間通りに来る確率は低いな。そこで、秋人も冷泉を起こすのを手伝うと言うと武部が泣き付いてきた。その後皆はそれぞれ家路に着いていく。