抽選会が終わった後秋人とみほ達は、戦車喫茶「ルクレール」にやって来た。店の名前は、フランス陸軍の第3世代戦車ルクレールに由来しており、店の内外には、土嚢やジェリカンやドラム缶などが置かれている。まさに、戦車好きには堪らない店だろう。抽選の後、みほ達はこの戦車喫茶「ルクレール」に行こうと言い出した。その時秋人もみほ達に誘われたのだ。秋人は、コーヒーが飲めると聞いて着いて来た。皆、注文する物が決まると秋山がFIAT2000の形をした注文用呼び出しボタンを押すと、
ドォーン
と爆音がした。すると、この店の制服であろう軍服にエプロンを付けたウェイトレスがやって来た。
「ご注文はお決まりですか?」
「ケーキセットでチョコレートケーキ2つといちごタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキひとつづつお願い致します」
「俺は、コーヒーセット。ホットコーヒーブラックとチョコレートケーキで」
「承りました。少々お待ち下さい」
ウェイトレスは、オーダーをとると敬礼して厨房へと行った。
「すまないな、俺まで着いて来て」
「いいよいいよ、誘ったの私たちなんだからさ」
と武部が言う。そして、皆が呼び出しボタンに目を向ける。
「それにしても、このボタン主砲の音に成っているんだ」
「この音は90式ですね」
秋山は爆音だけで、それがどの戦車の車種なのかを言い当てる。どんな耳してんだ?砲撃音だけで車種が分かるって・・・
「流石は戦車喫茶ですね」
「あ〜この音を聞くと最早ちょっと快感の自分が怖い」
と五十鈴が言う様に他の席からも主砲の発射音が聞こえて来る。確かにそれもこの喫茶店のこだわりなんだろう。顔を赤くして砲撃音に快感を抱くと言う武部。砲撃音に快感なんて抱くかな?そうしているとテーブルの脇に設置されている専用路から戦車を模様したケーキを荷台に乗せたドラゴンワゴンが運んできた。
「あ!?何これ?」
「これ、ドラゴンワゴンですよ」
「かわいい〜」
「ケーキも可愛いです」
そして、運ばれて来たケーキを各々で取る。戦車の形をしたケーキとは、随分と凝ったデザインだな。コーヒーの香りも悪くないこれぞ至福のひとときだ。
「ごめんね・・・・一回戦から強いところ当たっちゃって」
「くじ引きは、運否天賦なんだから仕方ない」
とみほが申し訳なさそうに言うも、秋人がさり気なくフォローを入れる。
「それより、サンダース大附属ってそんなに強いんですか?」
「強いって言うかすごいリッチな学校で、戦車の保有台数が全国一なんです!チーム数も一軍から三軍まであって・・・」
「公式戦の一回戦は戦車の数は10両までって限定されているから、砲弾の総数も決まってるし」
この全国大会では、参加車輌数は大会規定に定められており、公式戦1回戦・2回戦は10両と規定されていて、決勝戦に近づくに連れて参加車輌数も増えて行き準決勝では、15両まで、決勝では20両となっている。
「でも、10両ってうちの倍じゃん!それは、勝ってないんじゃ?」
と武部は、倍近い車両数に不安を抱く。確かに、どんなに強力な戦車にベテランが乗っていたとしても相手が数に物を言わせて押し寄せて来ればどんどん押されていくことがある。戦いと言うのは数の論理が大きく働くのだ、数の差はそのまま大きな戦力差になるのだ。だが、考え方を変えれば一回戦目でサンダース附属に当たったのは、不幸中の幸いかも知らない。戦車の保有台数が全国一のサンダースは、大会規定で一回戦は10両までと制限されているからまだ手はある。
「単位は?」
「負けたら貰えないんじゃない?」
と冷泉が聞くと武部が負けたら単位が貰えないかもと言うと、冷泉はフォークを手に持ってケーキに突き刺して食べる。それを見ていたみほ達はびっくりした。
「それより全国大会って、テレビ中継されるんでしょ!ファンレターとか来ちゃったらどうしよ〜」
「生中継は決勝だけですよ」
「うんじゃあ、決勝行ける様に頑張ろう!ほら、日向さんもみほも食べて!」
テレビで放映されるのか、世間から注目を浴びるのは俺としては不本意だな・・・それに武部さん、あなた通信手でしょ。戦車の中だから顔とかはあまり映らないと思うけど俺としてはその方がいいが、まぁ、武部さんがやる気ならそれで良いか。
「あぁ」
「うん」
武部に言われて秋人とみほは、、ケーキを食べて始めようとしていた時、
「副隊長?」
と、声のした方をみんなが見ると、そこには、ジャーマングレーの制服を着た二人の少女が居た。一人は、銀髪のショートロングヘアーの少女ともう一人、茶髪のボブヘアで吊り目の少女だ。秋人には、その女性に見覚えがある。
(彼女は、確かこの前せんしゃ倶楽部に行った時テレビに出でいた国際強化選手の確か名前は・・・・・西住まほさん・・・)
「あ〜、"元"でしたね」
と、西住まほの隣の銀髪の少女は"元"と言う単語を皮肉った様に強調して言う。
「お姉ちゃん・・・」
(やはり彼女は、西住さんのお姉さんだったか)
みほがそう言うとみんなみほの方を見る。
「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」
と西住まほはみほを見て無表情でそう言う。まほの心ない一言に秋山が立ち上がって
「お言葉ですがあの試合のみほさんの判断は間違ってませんでした!」
と声を上げる。
「部外者は口を出さないで欲しいわね」
「・・・すいません」
と銀髪の少女の鋭い目つきと威圧に、秋山が臆して席に座る。おいおい、そこで引きさがんのかよ。西住まほは、この前テレビで知ったがその隣の少女はテレビでまほの片隅に写って一応知ってはいるが名前は知らないので、
「秋山さん?」
「何ですか?」
「西住まほさんの隣の銀髪の女性は?」
「あの人は、逸見エリカ殿です。西住殿が大洗に転校した後黒森峰の副隊長に就任した」
戦車道に詳しい秋山に聞くことにした。すると、銀髪の少女は、秋人に目を向ける。
「ふーん、あなたが大洗学園の助っ人って言うのは?」
「だったら何だ?」
「いえ、連盟もよく許可を出したものね。男に手を借りなきゃ試合にもでれないなんて流石は、無名の弱小校ね、まともに人数すら足りてないねと思ってね。元副隊長も黒森峰と西住流から逃げ出したくせに今度は、大洗とか言う無名の弱小校で戦車道の隊長とか、また西住流の恥を晒す気かしら?あなたが去った後の黒森峰が何事もなくあのままだったと思わないでね!常勝の黒森峰無敗の10連覇その事が破れて・・・更にその副隊長がいなくなったのよ、バラバラになったみんなの心をまた一つにまとめるのはすごく大変だったわ。まぁ、でも感謝しないとね。あなたが辞めたお陰で私は今の副隊長に選ばれたわ・・・・西住まほ隊長に近付けた事をね!」
と言われてみほは、俯く。すると、
『驕るな!』
『ッ!!』
秋人から放たれる殺気にエリカは、後退りする。みほ達も、秋人の放つ殺気と威圧にびくつていた。そして、秋人の目は完全に人殺しの目をしていた。幸いな事に此処に好き嫌いの激しいミーナがもし、この場に居たら有無を言わずこの銀髪の子に突っかかるだろうな。
(何なの!?この男から放たれる息の詰まる様な殺気は、それに冷徹なまでの冷たいあの目・・・・まるで何人もの人間を平気で殺して来たかの様な・・・・・)
エリカは、一瞬呼吸が乱れある感情が過った。それは、"恐怖"だった。エリカは、秋人に恐怖した。隣にいるまほは、表情こそ表に出していないが冷や汗を流していた。
「生意気な奴だな、おいクソガキ!勘違いも甚だしいな。お前は腐った性根をしているな。いいか?相手をみて物を言えよ、発言は許してやるが言葉は慎重に選べ。お前はもう黙れ西住さんの事を喋るな。お前が、副隊長の椅子にいるのは実力で勝ち取ったもんじゃないただのおこぼれだ!西住さんが、大洗へ転校したからその空いた椅子に着いたに過ぎない。調子に乗るの大概にしな。副隊長になって選ばれた人間気取りか?笑止千万!悪い冗談だ!冗談でもユーモアがないがな。煽って人の心を乱しあまつさえ嘗ての仲間に暴言を吐くお前みたいな三流以下の副隊長気取り凡人を選んだ奴の気が知れん。センスを疑うな、そいつの目はとんだ節穴だ。エリートである俺には理解出来ないな」
「なっ!?あなた、私だけじゃなく隊長まで侮辱する気!今の言葉取り消しなさい!」
「真実を言って何が悪い。貴様は随分と傲慢だな、侮辱されても仕方ないな、言われて悔しいのならそこの隊長さんと副隊長の肩書きを貶める様なマネをしなければいいだけのことだ、分をわきまえろ痴れ者が。日本には、こんな言葉がある駄犬みたいに喚き散らす貴様に送ってやろう弱い犬ほどよく吠えるっとな。まぁ、エリートである俺の言っている事が凡人の貴女には理解出来ないでしょうが」
「あなた、いい加減にしなさいよ!よく、自信満々にエリートなんて名乗れるわね。少なくても、あなたのその全てをコケにして見下した様な態度は普通以下よ」
「お前のその舐めた態度、全く羨ましくないねぇ、殺したいねぇ。非道な人間にもな仁義ってがあるだろうが、口の聞き方教えてやろうか?礼儀知らずのクソガキが!」
突っかかるエリカに対して秋人は、腰のホルスターの拳銃に手を伸ばそうとして今にも一触即発の事態になっていた。すると
「エリカ、その辺にしろ。これ以上は、店に迷惑だ」
と西住まほが怒り心頭の逸見エリカを宥める。
「しかし、隊長!このままこの男に言われたままでは、私の気が・・・」
「私は、気にしていない。相手の挑発になるな」
「はい・・・・分かりました。隊長そろそろ行きましょうか、……隊長?」
「君の名前は?」
と西住まほが、秋人に名を聞いて来た。
「日向秋人」
「すまなかった。連れが失礼をした」
そう秋人は、まほに名乗るとまほは、謝る。どうやら、副隊長と違って隊長さんの方は良識がある様だ。
「行こう、エリカ」
「・・・はい。覚えてなさいよ!」
そして、二人はその場から去ろうとしていると、
「おい、クソガキ」
「なによ!」
「とりあえずあれだ。もし俺たちが勝ったら西住に謝れよ。俺が負けたら土下座でもなんでもしてやるから」
「あ、秋人さん!それはいくらなんでも……」
「いいわよ別に、万が一にもそんなことはないでしょうけど」
そして、エリカはみほの方を向き
「一回戦は、サンダース附属と当たるんでしょ?無様な戦い方をして西住流の名を汚さない事ね」
帰り際に、皮肉った言葉をみほに言った。な〜にあいつ、開き直ってんだ?すると、
「何よ!その言い方!!」
「あまりにも失礼じゃ!」
その言葉に、武部と五十鈴が席から立ち上がって声を上げるが
「あなた達こそ戦車道に対して失礼じゃない?無名校のくせに。この大会はね、戦車道のイメージダウンになる様な学校は参加しないのが暗黙のルールよ」
「強豪校が有利になる様に、示し合わせて作った暗黙のルールとやらに負けたら恥ずかしいな」
「一寸の虫にも五分の魂だな」
とケーキを食べながらクールに冷泉が反論し、秋からもコーヒーを飲みながら諺を言う。
「もし、あんた達と戦ったら絶対負けないから!」
「ふっ、頑張ってね」
そう捨て台詞を言って、エリカは西住まほを追って店を出て行った。
「べー!」
「嫌な感じですわ・・・」
武部と五十鈴は、逸見エリカに対して不快感を示した。
「あの、今の黒森峰は去年の準優勝校ですよ。それまでは、九連覇してて・・・」
「え!?そうなの!?それより私達、怖かったんだよ!!日向さんの殺気にマジでビビったんだからね!!」
と武部は、黒森峰が今まで、連勝している強豪校と言う事を聞かされて驚くと同時に半泣きでそう言う。みほ達も同じ様だった。
「秋山さん、先の俺って怖いの?」
「はい、怖すぎて正気を保つのがやっとです」
「悪かった、みんなに怖い思いさせちまってつい感情的になったしまった。だが、どんな理由だろうと俺は友達を傷付ける奴は許さない。あぁ言うプライドの高い奴は一度鼻っ柱を折ってやるに限る。それにあの性格だ、嫌っている人間も少なくない。俺も大嫌いだ・・・・お詫びに此処の代金は俺が払うから好きなの頼めよ」
「本当、じゃぁ、気を取り直してケーキもう一つ食べましょうか」
「もう二つ頼んでもいいか?」
と冷泉は、ケーキを二つお代わりすると言い出した。どんだけ食べる気だよ!?これは、財布の中身が枯渇するかもしれないなぁ。