時刻は既に夕刻になり、秋人やみほ達は船で沖合で停泊している学園艦に向かっていた。船のデッキでみほは夕日を眺めていた。
「西住さん、どうしたんだ元気ないが?」
「日向さん・・・ううん、何でもないよ」
そんなみほに、秋人が声を掛ける。何やら元気がない表情だった。
「もしかして、あの逸見エリカの言っていた事を気にしているのか?」
「・・・・」
そう聞くと、みほは黙って俯く。返事は無いがおそらく図星だろう。最も近しい相手にあんな事言われれば誰だって傷つくだろう。
「あんな奴の言う事なんか気にするな、あいつはきっと西住さんに敵わないから僻んでいるだけさ」
「でも、私・・・」
「西住さんの過去に何があったかは知らないが、西住さんが自分の信念に従って正しいと感じた行動をとったならそれでいいんじゃないか。人は迷って悩んで失敗してそうして大きくなっていくんだと思う。思いっきり迷えばよ、それも生きてる証だと思う。思いを貫き通す意思があるなら結果は後からついてくるさ」
「日向さん・・・ありがとうございます」
秋人がそう言うと若干みほに笑顔が戻った。
「どういたしまして、・・・・みほさん」
「え!?」
と秋人が突然みほの事を名前で呼んだ事にみほが驚く。
「いや、西住じゃみほさんのお姉さんと区別つかないじゃんだから名前で呼んだんだが・・・ダメだったか?」
「ううん、そんな事ないです!・・・・あの私もこれから、日向さんの事を名前で呼んで良いですか?」
とみほも秋人の事を名前呼びしてもいいかと尋ねて来た。
「あぁ、勿論だ。改めてよろしく、みほさん」
「はい!よろしくお願いします!秋人さん」
秋人とみほがお互いに握手を交わし二人の名前を呼び合う。この時、二人の距離が少し縮まった。
「西住殿、日向殿。寒くないですか?」
そこへ秋山が声をかけて来た。
「あ・・・うん、大丈夫」
「平気だ」
「全国大会、出場出来るだけで私は嬉しいです。他の学校の試合も見れますし、大切なのはベストを尽くす事です。例え負けたとしても・・・」
と秋山は、そう言う。今の大洗が全国大会で優勝出来る可能性はかなり絶望的だ。今いる大洗のメンバーは、みほを除けば全員大した経験もない寄せ集めの素人集団だ。
「それじゃあ困るんだよね〜」
と声のした方を振り向くとそこには、角谷をはじめ生徒会のメンバーが居た。
「絶対に勝って!我々はどうしても勝たなくてはいけないんだ!」
「そうなんです。だって負けたら・・・」
「し〜!!」
と小山が何か言いかけた時、角谷が静止させる。矢張りこの生徒会三人組戦車道の勧誘の時もそうだったが何か隠しているな。あそこまで勝利にこだわる。他に何か隠しているな。
「まぁ、兎に角全ては西住ちゃんと日向君の肩に掛かってるんだから〜もし負けたら何やって貰おうかな?考えとくね〜」
そう言って角谷は船内へと行ってしまった。今度は、俺等にもあんな屈辱的な事をさせるのか?
「だ、大丈夫ですよ!!頑張りましょう!!」
「初戦だからファイアフライは出て来ない思う。せめて、チームの編成が分かれば戦いようもあるんだけど」
秋山はそう言うがみほは、不安そうにぶつぶつと呟きながら考え込む。そして、秋山は何やら決意に満ちた顔をしていた。
「日向殿!実は、折り入って頼みたい事がありますので、明日私の家に来てもらえないでしょうか?」
「秋山さんの家に?」
そして抽選会の翌日、秋人は秋山の家に向かっていた。秋山から一応家までの行き方を教えてもらったのでその通りに歩いていた。女の子の家に招かれるなんて初めてだな。
「地図だと、この辺の筈だよな秋山さんの家」
地図を見て秋山の家を目指していると一件の建物に辿り着いた。そこは、理髪店だった。看板には、秋山理髪店と書いてあった。
「ここか?地図の場所はここを指してるし看板には秋山って書いてあるし」
取り敢えず秋人は、店の中に入る事にした。
「いらっしゃい」
中に入るとそこには、夫婦と思われる二人の男女が居た。椅子に座って新聞を読む眼鏡を掛けたパンチパーマの男性と床を箒で穿いている秋山に似た髪形の女性。おそらく秋山さんの両親だろう。
「あ、いえ。俺は、客じゃないんです。秋山さんの友人で、今日は、秋山さんの家に呼ばれて来たんです」
と秋人が言うと、二人は動きを止め手に持っていたものを落っことす。すると、男性が突然秋人に詰まって来た。
「ゆ、ゆ、優花里の友達だって!!母さん一大事だよ!!あの優花里が男の友達を作った上に友達をうちに呼んだよ!!どうしたらいい!?赤飯を炊いたらいい!?」
「あなた落ち着いて!この人困ってるわよ!ごめんなさいね、あの子今まで友達がいなかったものだから。優花里の母です。優花里と仲良くしてくれてありがとね!」
「優花里父です。どうかな、君今度からうちの店でカットしていかないかい。サービスす・・・げふっ」
秋山の友達と聞いて二人とも物凄く慌てふためいている。秋山の父はどさくさに紛れて秋人に客引きしようとしたところ秋山の母に腹に肘鉄を食らってダウンした。
「秋山さんのご両親ですね、はじめまして日向秋人です。あのこれ、つまらないものですが、お近づきの印に」
と秋人は、秋山の両親に菓子折りを渡した。
「まぁ、わざわざごめんなさい」
((いい子だぁぁぁ!))
秋山の両親は顔には出していないが心の中で泣いていた。
「秋山さんとは、同じ戦車道でやっております」
「あら、男の子なのに戦車道をやっているの?」
「実は秋山さんには、以前助けてもらった事がありまして。その時の恩返しの為今助っ人として戦車道を共にさせてもらっています」
「そうだったの、ちょっと待ってってね。今、優花里を呼んでくるから」
そう言って秋山の母は秋山を呼ぶ為に奥へと行ってしまった。待っていると秋山が出て来た。
「日向殿、いらっしゃいませ。どうぞ上がってください」
「お邪魔します」
そう言って秋人は、上がらせてもらった。そんな様子を見ている秋山の両親は二人揃って半泣きで秋山に友達が出来て心底嬉しい様だった。
「今日は野戦服ではないのですね」
「あぁ、いつまでもあの格好って訳にはいかないからな、洗濯に出している。・・・似合ってなかったかこの服?」
「あ、いえ、そんな事ありません!いつも野戦服姿だったので、私服姿日向殿がなんだか新鮮だなぁ〜と思いまして」
秋山の言う様に今の秋人の服はいつもの野戦服ではなく、紺のシャツとベージュグレーのベスト姿だった。
「みんなさんには悪いですけど、ちょっと得をしちゃいました」ボソ
「なんか言ったか?」
「いえ!何でもありません!!」
秋山が何かぶつぶつ言っていたが、そんなやり取りをしている中、秋人は秋山の部屋に通された。
「さ、どうぞ、入ってください」
秋山の部屋の中に入るとそこには、戦車関連の品々がコレでもか!と言うくらい飾られていた。戦車の模型やポスター、砲弾、アメリカやドイツのパンツァージャケット、机には無線機材などがあり、秋山の戦車好きがどれほどのものか伺える。その後、秋山の母がジュースやお菓子を持って来てくれたので頂いた。
「すみません、急に呼び出してしまって」
「構わないさ、それで、俺に頼みたい事って何だ?」
そして、秋人は本題に入る事にした。すると、秋山は顔を赤くして身体をもじもじし始めた。いったいどうしたんだ?
「日向殿!私と・・・付き合ってください!」
「・・・ん!?」
秋山の言った言葉に秋人は、理解が追い付かなかった。今、付き合って単語が聞こえたんだが、何?戦車倶楽部で欲しいものであるから、買い物に付き合ってくれってことか?それとも・・・・
「あの、秋山さん。付き合うってのは、買い物に付き合って欲しいって事か?それとも、異性として付き合って欲しいって事か?」
「い、いえ!?どちらも違います!!そうではなくてですね、サンダース大附属の潜入偵察を私と一緒に来て欲しいんです!」
あ、そっちの付き合ってね、主語を使わないと誤解を招くぞ。
「サンダース大附属の潜入偵察?」
「はい、私少しでも西住殿のお役に立ちたく、でも私一人だと不安なのでそこで、ドイツ軍人である日向殿のお力添えをと思いまして」
と秋山は、そう言う。もしかして、昨日のみほさんの様子を見て、
「成る程、わかった。その頼み引き受けよう」
「ありがとうございます!!」
とお礼を言う秋山。
「それで、サンダース大附属に潜入する手筈は整っているのか?」
「はい、それでしたら」
と秋山は、後ろに置いてあるリュックを取り出した。
「随分大きい鞄だな、その鞄に潜入道具が入っているのか?」
「はい、見てみますか?」
そう言って秋山は、リュックの中の物を取り出す。
「まずは、コンビニ店員の制服とこれは、サンダース大附属の制服、ビデオカメラなどその他諸々です」
「サンダースに潜入するからサンダースの制服は分かるが、何故コンビニの制服まで必要なんだ?」
「それはですね、コンビニの定期船に乗り込んでサンダースの学園艦に潜入するんです。その為のコンビニ店員の制服です」
「あぁ、そうなんだ・・・」
コンビニの制服もそうだけどサンダースの制服なんてどこで入手したんだ?そこ気になるが、辞めておこう。真実を知るのがなんかこわい。
「それで、決行はいつだ?」
「決行は、明後日の0600に出発します!!」
と秋山は高らかに宣言する。こうして、秋人は、秋山と共にサンダース大附属に潜入する事となる。