サンダース戦から翌日、秋人とみほ達は冷泉の祖母のお見舞いをする為に冷泉の祖母が入院している大洗の大きな総合病院にやって来ていた。
(病院か・・・・最後に病院に来たのは爺さんの見舞いに来た時以来だな)
「秋人さん、どうかしたんですか?」
「いや、何でもない・・・」
そうしていると、1029号の病室に着いた。そこには、冷泉と書かれた表札があった。
「ここですね」
そう言って五十鈴がドアをノックしようとした時
『もういいから帰りな!!』
「「「「っ!?」」」」
ドアの向こう病室から怒号が聞こえて来た。あまりの剣幕に秋人やみほ達は気圧される。
『いつまでも病人扱いするんじゃないよ!あたしの事はいいから学校行きな!遅刻なんかしたら許さないよ!!』
ドア越しなのに病室前の廊下まで聞こえてくる声。
『なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてのかい!全くお前はいつも返事も愛想も無さ過ぎなんだよ!!』
『そんなに怒鳴ると血圧が上がる・・・』
と怒号の中から今度は冷泉の声が聞こえて来た。
「・・・帰ります」
と病室の前で立ち尽くしていると秋山が提案して来た。君って案外小心者なんだな。
「いえ、折角来たんですから、ここは突撃です」
「五十鈴殿って結構肝座ってますよね」
と秋山が五十鈴の度胸に感心した様に言い、五十鈴が病室のドアを開けて入室した。
「失礼します」
「あ、華!」
「失礼します」
「みぽりんにゆかりんもそれに日向さんも入って入って」
と病室には、あの時冷泉と一緒に同行した武部もおり、みほ達を病室に招き入れる。病室のベッドには見るからに気難しそうな冷泉のお婆さんが
「なんだい?あんた達?」
「戦車道を一緒にやっている友達」
「戦車道?あんたがかい?」
「うん」
と冷泉がそう言い、冷泉が戦車道をしている事に意外そうに尋ねて来て冷泉は、頷いて肯定する。
「あ、西住みほです」
「五十鈴華です」
「秋山優花里です」
「日向秋人です」
それぞれ自己紹介をする。何か一瞬お婆さんから睨まれた感じがした。すると、
「私達、全国大会の一回戦勝ったんだよ!」
「一回戦くらい勝ってなくてどうするんだい」
と武部が一回戦の勝利を自慢げに言うが、冷泉のお婆さんは呆れ気味に反論する。
「で、戦車さん達がどうしたんだい?」
「試合が終わった後、おばあが倒れたって連絡が、それで心配してお見舞いに・・・・」
「あたしじゃなくてあんたを心配してくれたんだろ!!」
「・・・・わかってる」
「ちゃんとお礼言いな」
とお婆さんに言われた冷泉、成る程冷泉さんがああも律儀なのもお婆さんの影響なのか。冷泉は、恥ずかしいのか少し顔を赤くして、
「・・・わざわざありがとう」
「少しは愛想良く言えないのか!!」
「・・・ありがとう」
「さっきと同じだよ!!」
「だから怒鳴ったらまた血圧上がるから・・・」
とお婆さんにみんなに礼を言う様言い冷泉がみんなにお礼を言うが言い方がお気に召さなかったのかお婆さんに一喝される、今のが冷泉なりの精一杯の愛想なんだろう。
「お婆ちゃん、今朝まで意識が無かったんだけど、目が覚めるなりこれなんだもん」
と武部がそう言う、あの調子なら大丈夫だろう。
「寝てなんかいられないよ!明日には、退院するからね!!」
「いやだから、まだ無理だって」
「何言ってんだい!!こんな所で寝てなんていられないだよ!!」
「おばあ、みんなの前だからそれ位に・・・」
確かに、あれだと血圧が上昇するだろうな、それなのに明日退院すると息巻くお婆さん。そんな冷泉とお婆さんのやり取りを見て、みんな微笑ましそうに見ていた。
「あの、花瓶あります?」
「ないけど、ナースセンターで借りられると思うよ?行こ」
「はい」
そう言って、武部と五十鈴が病室を出て行く。
「あんた達もこんな所で油売ってないで、戦車に油さしたらどうだい?」
「え?」
とお婆さんの言う事にみほが首を傾げ、お婆さんが冷泉の方に向き直ると、
「お前もさっさと帰りな、どうせ皆さんの足を引っ張ってるだけだろうけどさ」
「え、そんな・・・冷泉さん、試合の時いつも冷静で助かってます」
「それに、凄く戦車の操縦が上手で憧れてます」
とお婆さんの言葉にみほと秋山がフォローするが、お婆さんはそっぽを向いて
「戦車は操縦出来たって、おまんま食べらんないだろ?」
とお婆さんが意味深な事を言う。まぁ、確かにお婆さんの言う通り戦車道をやって収益が入るわけじゃ無い
「じゃあ、おばあまた来るよ」
「ご婦人これ、良かったらどうぞ食べて下さい、あとこれも」
そう言って冷泉が退室し、秋人も見舞いの品として買った果物の籠盛りと来る途中に折った折り鶴をテーブルに置いて退室しようとした。
「あんたちょっといいかい、あの子とは一体どんな関係なんだい?」
とお婆さんに呼び止められ冷泉との関係を聞かれた。このやり取り前もあったなぁ。秋人は振り返り
「冷泉さんとは戦車道の仲間であり、友です」
「そうかい?あの子が懐いているから、まさか付き合ってるじゃないかい?」
「・・・いいえ、違います」
と冷泉とは恋人関係かと問われ、秋人は首を横に振って否定する。そもそも恋愛とか俺には縁が無いものだ。時々冷泉さんの送迎とかで付き合ったりしているが、それだけだ。お婆さんは、多分警戒していたんだろうな、冷泉さんと一緒に居た男だから、どんな男か気になったんだろう。
「・・・まぁいいよ、呼び止めて悪かったね。あんな愛想のない子だけどね、よろしく」
「はい」
「御意」
とお婆さんがそう呟いたので二人は返事をして、秋人とみほは病室の退室する。あれだけ怒鳴っていたけどやはり、お婆さんなんだかんだ言っても孫の冷泉さんが可愛んだなぁ。
冷泉のお婆さんのお見舞いが終わり、秋人とみほ達は電車に乗って連絡船乗り場の港まで行く。空はすっかり日が暮れてオレンジ色に染まっていた。帰りの電車の中で冷泉は武部の膝の上で寝っていた。
「麻子さんのお婆さん、思ったより元気で良かったね」
「えぇ」
「何か冷泉殿が、絶対単位が欲しい、落第出来ないって言う気持ちがわかりました」
「お婆さまを安心させてあげたいんですね」
「うん、卒業して早く側に居てあげたいみたい」
「祖父母孝行ってやつか・・・」
そして、武部は膝の上で寝ている冷泉の頭をそっと撫でる。
「麻子、あまり寝てないんだ。お婆ちゃん何度も倒れてて」
「お婆さまがご無事で安心したのかも」
「でも、この前は凄く動揺してましたね。あんな冷泉殿見たのは初めてです」
「たった一人の家族だから・・・」
「え、ご両親は?」
とみほが聞いてきて武部が暗い顔になった。そう言えば、そうだ。俺が彼女の家に迎えに行った時も冷泉さん以外誰も居なかった。
「麻子が小学生の時、事故で・・・」
「あ、そうだったんですか・・・」
「・・・・両親が亡くなったか冷泉さんも俺と似た様な境遇か」
と秋人遠目でそう呟く。秋人のその言葉に事情を知っているみほ達は少し暗そうに秋人を見ていた。そして、電車が大洗駅に着き秋人達はバスで港まで行きそこから連絡船に乗って学園艦を目指す。ベンチでは、秋山と五十鈴は疲れて眠っていた。みほと武部はプロムナードデッキで何か話していた。そんな時、秋人はポケットに入れていた一つの白黒写真を取り出して、遠い目で見つめていた。すると、
「何見ているんだ?日向さん」
と声を掛けられて、振り向くと冷泉が隣でこっちを見ていた。
「起きたのか冷泉さん」
「十分寝たから大丈夫だ。今日は、おばあの見舞いに来てくれてありがとう」
「(彼女、本当に夜だと元気だなぁ生活リズム乱れてるだろ)いいって事よ、気にするな」
見舞いに来てくれた事に礼を言う冷泉。秋人は、冷泉の生活リズムの乱れに少し呆れる。
「それよりも何見てるんだ?」
「あぁ、家族の写真だ」
とそう言って秋人は、持っていた写真を冷泉に見せる。そこに写っていたのはヨーロッパ建築の民家をバックに中央に幼い秋人とその右端に眼鏡をかけた痩せ型体型の男性と左端に長い髪に秋人そっくりな整った顔の女性が写っていた。
「日向さんは、元の時代に帰りたいって思うか?」
「え?」
と冷泉が突然そう聞いて来た。冷泉が戦車道に入って秋人達が過去から来たタイムトラベラーのナチスドイツの軍人という事は話した。冷泉は、それを知っても秋人達を受け入れてた。だが、家族などについては話していない。
「国に家族を残して帰りたいって思わないのか?親とか心配しているだろ?」
「・・・・・・皆死んだ」
「え?」
「俺には、もう家族と呼べる存在はいない。・・・・祖父は俺が12歳の時に病で、父と母は戦争で・・・・だから俺の帰りを待っている人なんてもう居ないから帰りたいって気持ちもない。俺は、両親が死んだってのに両親の葬儀にさえ出席しなかった親不孝な奴だよ、でももし帰れるとしたら両親の墓を参りをしたい」
それを聞いて、聞いちゃ不味かったと思い冷泉は後ろめたさを感じた。
「・・・・すまない」
「心配してくれてありがとうな、だから冷泉さんは俺の様になるなよ。冷泉さんは俺とは違うんだ」
と秋人は、冷泉の頭に手を乗せて微笑んで平気そう言ったが、しかしその目にはどこか悲しそうに見えた。そうしている間に連絡船は、学園艦に到着しみんな各々の家へと帰宅して行った。