冷泉の祖母の見舞いに行ってから翌日、目が覚めた秋人は軽く朝食を済ませて、身だしなみを整えると学園に向かう為に部屋を出る。寮を出た所で偶然ミーナと出会したので一緒に行く事にした。
「それで、秋人。昨日、冷泉さんの祖母さんのお見舞いの為に本土の病院に行ったんでしょ?どうだったの?」
「朝方に目が覚めて、それから病室で怒鳴りっぱなしだったよ。あの様子だったらおそらく大丈夫だろう」
昨日の冷泉の祖母の容体を報告した。
「それなら安心ね」
「それから何でも、冷泉さんの両親冷泉さんが小学生の時に事故で他界したらしくて今は、祖母さんしか居ないらしい」
「・・・そう」
それを聞いて二人に少し沈黙が走る。そんな事を話して、しばらく歩いているとみほが声を掛けてやって来た。
「あ、秋人さん、紅月さんおはよう」
「ああ。おはようみほさん」
「おはよう」
と秋人とミーナが挨拶して来たみほに挨拶仕返すと
「みぽりん。日向さ〜ん、紅月さーん」
「「「ん?」」」
みほの後ろから声がしたので秋人達が振り返って見てみると
「お〜は〜よ〜」
「沙織さん!?」
そこには、寝息を立てて寝ている冷泉を背負って辛そうな武部だった。
「大丈夫!?」
「なんとか・・・」
と言うが武部は既にふらふらの状態だった。武部さんなんだかんだで家からここまで彼女を背負って来たんだ、面倒見がいいなぁ。
「ほら、秋人。こう困っている女の子がいる時男のあんたの出番でしょ」
「ふむ」
ミーナにそう言われた秋人は、頷きながらそう言って
「武部さん、途中まで俺が代わりに冷泉さんを背負って行くよ」
「ありがとう、日向さん・・・」
と秋人は、武部から冷泉を引き取り背負う取り敢えずは、校門前までは秋人が背負い後はみほと武部が冷泉の腕を両肩に担いで行く。
「寝ながら登校とは、いいご身分ね」
と学園の校門前に風紀委員のみどり子が居て、そこで冷泉が目を覚ましてふらつきながらみどり子につがみつく。
「おお〜そど子ちゃんと起きてるぞ〜」
「そど子って呼ばないでって何度も言ってるでしょ!私の名前は園みどり子ときちんと呼びなさい!」
そんな二人のじゃれ愛をみほと武部が校舎の方を見ると学園の校舎に『祝戦車道全国大会一回戦突破!!』と書かれた垂れ幕や戦車を模様したアドバルーンが上がっていた。
「凄い!私達、注目の的になっちゃうかな?」
「生徒会が勝手にやっただけだから、それより冷泉さんを何とかしてよ!」
と武部がそう言い、みどり子は冷泉を引き剥がしながらそう叫ぶ。
それから時間が経ち昼休みになり、生徒達はみんな学食に食べに行ったり、買いに行ったり、持参したお弁当を食べたりなどしていた。みほは、一人戦車格納庫に来ていた。
「2回戦、この戦車で勝てるのかな?サンダースとの試合だって秋人さん達が居て何とか勝てた様なものだし・・・・」
とⅣ号戦車を見てそう不安気に呟く。あの試合は、秋人達がファイアフライを相手にするなどのサポートが合って勝利を得たと言っても過言では無い。このままでは2回戦目や準決勝、決勝へと勝ち進んで行く自信がない。そんな不安に考えていると
「みほさん?」
とⅣ号戦車の隣のティーガー改のエンジン部分から秋人が現れた。
「秋人さん、どうしたんですか?」
「あぁ、ここで瞑想のついでにここで昼食を取ろうと思ってな、邪魔だった?」
「ううん、そんな事ないです」
そんな事を話していると
「西住殿に日向殿?」
と弁当箱を持った秋山が格納庫の扉から入って来た。
「秋山さんもここで昼食を?」
「はい今日は、戦車と一緒にお弁当を食べようと思って」
「ああ、いたいた」
「教室にも食堂にも居ないから、きっとここだと思って・・・」
秋山に続く様に武部と五十鈴も弁当を持って格納庫にやって来た。
「コンビニでみほの分のパン買って来たよ」
「ありがとう」
「秋山さんもここでお弁当ですか?」
「はい」
「じゃあ、みんなで一緒に食べようよ」
と武部がそう言うと
「私にも分けてくれ・・・」
と声のした方を振り向くとⅣ号戦車のキューポラの中から冷泉が眠たそうな目で出て来た。
「授業サボったの!?」
「自主的に休養した」
「も〜おばあに言いつけるよ?」
「それは、困る・・・」
と武部が冷泉の祖母の名を出すと冷泉の顔が青ざめた。すごいなぁ、武部さん今や冷泉さんに対抗出来る唯一の存在だ。その後、みほ達あんこうチームのメンバーはⅣ号戦車の車体の上で弁当を広げた。秋人は、ティーガー改の上で弁当を広げようとしていると
「ほら、日向さんもこっち来て食べよう」
「あぁ、じゃあ遠慮なく邪魔させてもらおう」
そう言って秋人弁当を持っては、ティーガー改からⅣ号戦車に乗り移る。
「母がこれ、戦車だって言い張るんです」
ご飯の上に海苔で戦車が描かれた弁当を秋山は見せながら恥ずかしそうに言う。
「すごーい!キャラ弁じゃん!」
「食べるの勿体ないですね」
秋山の見せた弁当を、武部が携帯で写真を撮り、五十鈴もその弁当を見て覗き込む。
「あ、そう言えば掲示板見ました!生徒会新聞の号外!」
「う、うん・・・・」
「凄かったね・・・」
「号外?」
そう言って秋山はポケットから小さく折り畳まれていた新聞記事を取り出して広げる。生徒会が発行している学園新聞でその見出しには『一回戦に大勝利!我が校は圧倒的ではないか」を称賛する記事とみほ達あんこうチームの写真が記載されていた。
「ほら、日向さんの事も載っているよ」
「え?」
武部に言われて秋人が新聞記事を読むとそこには『全国大会にて大洗戦車道に彗星の如く現れた貴公子!!』と秋人達の事も載っていた。まぁ、大会に出れば誰にも知られないと言うわけにはいかないし、タイムトラベラーとかナチスドイツ軍の軍人とか書かれるよりはマシだろう。載ってしまったからには仕方がない流石に言論統制なんて出来るわけない。
「そりゃ、サンダース付属に勝ったんですから」
「勝ったと言うよりなんとか勝ってたって・・・言う感じだけど?」
「でも勝利は勝利です!!」
「そうだよね・・・勝たないと意味がないだよね」
みほが俯いて暗い表情でそう言う。
「うん?そうですか?」
「え?」
「楽しかったじゃないですか」
「うん」
と秋山がそう言い武部が同調して他の皆も頷く。
「サンダース付属との試合も。聖グロリアーナとの試合もそれから練習も戦車の整備も練習帰りの寄り道もみんな!」
「うんうん。最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど何か戦車に乗るの楽しくなった!」
「それは、多分脳の神経伝達物質ドーパミンが放出されたからだな」
「そう言えば、私も楽しいって思った。前はずっと"勝たなきゃ"って思ってばっかりだったのに、だから負けた時に戦車から逃げたくなって」
「私、あのテレビで見てました!」
「!?」
そして、みほが重い口で語り始めた。事の始まりは、昨年の戦車道全国大会決勝戦で黒森峰とプラウダとの試合で黒森峰はこの試合で十連勝が掛かっていた。その時は、雨が降っており川沿いの断崖の道を黒森峰の戦車隊は一列で走行していた。その時、突然プラウダの奇襲攻撃を受けみほの前方を走っていたⅢ号戦車が砲撃でバランスを崩して崖から川へと滑り落ちっていた。落ちたⅢ号戦車は川の激流に飲み込まれた。それを見たみほはティーガーから降りて川に飛び込みⅢ号戦車のハッチを抉じ開けて中の乗員達を救出した。だが、しかしプラウダ高校はみほが不在で無防備となったティーガーのフラッグ車が砲撃し撃破され黒森峰は敗退し十連覇の逃した。
「それで、私達黒森峰は十連覇出来なかった」
「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!」
と秋山が声を張ってそう言い、
「じゃあ、みほさんは、あの時俺達が負傷して気絶していたところを助けた事が間違っていたと思って後悔しているか?」
「いいえ、そんな事ないです!」
と秋人に聞かれてみほは、首を横に振りながら否定する。
「ならそれでいいだろ。みほさんが俺達にした様にそれで救われた人達がいる。仲間が死んだら、全国大会も勝ち負けもないだろ。俺から言わせればみほさんは指揮官としては、軽率行動だけど・・・・・だが人としては合格だ」
「秋人さん・・・」
「そうですよ、前にも言いましたが助けに来てもらった人達は、西住殿に感謝してると思いますよ」
「秋山さん・・・ありがとう」
とみほが笑顔で秋山にお礼を言うと
「は!す、すごい!!私、西住殿に『ありがとう』って言われちゃいました!!は、でも二度目かな?偵察行った時にも言ってもらえたような?」
と秋山は照れながら自身の髪を撫で回す。
「オット・ボール軍曹」
「あ、それ言わないで下さいよ」
と冷泉に秋山がサンダースに偵察した時に名乗った偽名を言われて恥ずかしがる。
「戦車道の道は、一つじゃないですよね」
「そうそう、私達が歩いた道が戦車道になるんだよ!」
五十鈴もそう言って納得して、武部が天井を指差してそう言う。なかなかいい事言うじゃないか。