「はぁ〜、寒い・・・・」
と呟きながら秋人はため息混じりに白い息を吐き出す。一応、白いシャツに黒のベスト、タイを締めた私服の上にM36オーバーコートやマフラーを纏っても少し寒いがこれくらいならロシアの冬将軍に比べれば大した事ない。流氷が漂う極寒の海を航行する1隻の学園艦。今、秋人がいるのはキエフ級空母に酷似したプラウダ高校の学園艦にいるのだ。どうして、プラウダに居るのかと言うと、2回戦の試合が終わって暫くして、聖グロリアーナのダージリンから『お茶会の招待状』が送られて来たのだ。学園艦が燃料補給の為に寄港した港に、後からやって来た聖グロリアーナの学園艦に連れて行かれたのだ。しかも、お茶会は聖グロリアーナではなく、次の準決勝で大洗と対峙するプラウダ高校だと言うのだ。そして、今秋人はダージリンと共にプラウダ高校へ向かって歩いていた。
「秋人さん、2回戦突破おめでとうございます。やっぱりあなた達の戦車道は面白いわね」
「ありがとうダージリンさん・・・準決勝見ました。残念でしたね」
「公式戦、あなた達と戦えないのが残念ね」
ダージリンが残念そうにそう言う。しかし、すぐに立ち直り
「ですが、まだ来年がございます。来年こそは公式戦で戦える事を願ってますわ」
「あぁ、その時が来るのを楽しみにしています。(・・・来年かぁ・・・・このまま大洗を優勝させたら、俺達はどうなるんだろな?俺達が、大洗戦車道に入っているのは、大洗を全国優勝させる為、それまでの契約・・・)」
と秋人は、この先の自分達はどうするんだろうと考えていたら
「どうかしました?」
「いや、何でもない。だが、何で態々プラウダ高校でお茶会なんだ?」
「プラウダ高校は、我が聖グロリアーナと交流があり、プラウダとは時々お茶会をいたしますの。それに、秋人さんに紹介したい人がいるの」
「紹介したい人?」
秋人が、態々聖グロではなくプラウダでお茶会するのか疑問に思いダージリンに聞くと、ダージリンはそう答えた。俺に紹介したい人?プラウダに?
「それより、秋人さんは、準決勝のプラウダ高校についてどれくらい知っていて?」
「去年の黒森峰の10連覇を阻止した優勝校で、学校名から察するにロシアの戦車が中心か」
「プラウダは青森県の実業系の学園艦よ。戦車道においては雪上戦を得意として、プラウダはロシアとの交流もありロシアからの留学生も多く、秋人さんの仰る通りだからロシア戦車が中心ね」
「ロシア戦車となるとT-34とIS-2などスターリン重戦車か」
「あとKV-2ね、プラウダのカチューシャ隊長のお気に入り戦車なの」
ソ連の傑作戦車T-34、ドイツ戦車キラーのIS-2重戦車、街道上の怪物『ギガント』KV-2重戦車と独ソ戦を戦った秋人達にとっては、T-34などソ連軍戦車は因縁の戦車だった。
そして、暫く歩いてプラウダ高校の校門前まで来ると、黒髪長身の女性が二人を出迎えた。
「プラウダ高校へようこそ、お久しぶりですダージリンさんとお客様」
「えぇ、お久しぶりねノンナ。今日も美味しい紅茶を期待しているわ」
と礼儀正しく挨拶をする。秋人もノンナと呼ばれる女性に挨拶をした。
「日向秋人です。今日のお茶会にお招きありがとうございます」
「どうも、あなたが日向さんですね、ダージリンさんから話は聞いています。今回の案内役を務めます、プラウダ副隊長のノンナです」
と二人は、軽く自己紹介をする。彼女がプラウダの副隊長か。
「では、案内します。どうぞ、ついて来てください」
ノンナに校内に案内されてお茶会の会場へと向かう。
「プラウダ高校はどうですか?」
「ロシア風の建築物に低い気温、まるでまたロシアに来たみたいだ」
「また?・・・ロシアに行った事があるのですか?」
「えぇ、ちょっと事情で3年程ロシアで過ごしていたんで」
「それでは、ロシア語も堪能で?」
「まぁ、齧った程度ですけど」
その後、お茶会の会場であろう扉の前に着いた。扉を開けて中に入ると部屋にはもう既にお茶会の用意が出来て、ティーセットが置いてあった。しかし、そこには何故かわからないがベッドが置いっており、そのベッドの中に
「・・・Zzz」
クリーム色のショートヘアで、身長も130cmあるかないか位の女の子がすやすやと寝息を立てて寝ていた。小学生か?しかし、ここは、高校だし寝ている女の子もプラウダ高校の制服を着ている。
「カチューシャ、起きてください。ダージリンさんが来ましたよ」
彼女の肩に手を置き、揺さぶりながら声を掛ける。
「うーん、ノンナぁ・・・」
と彼女は眠そうな体を起こして、目を擦りながら起きる。ベッドから降りてダージリンに体を向ける。
「ダージリンさん、何で小学生が制服着て紛れ込んでいるだ?」
「ちょっと誰が、小学生よ!!この偉大なカチューシャを子供呼ばわりするき!!『しゅくせー』されたいの!シベリア送り25ルーブル、それとも永久凍土で穴掘り10ルーブルかしら?」
「まあまあ、落ち着いて(シベリアってウラル山脈の!?)」
「うるさい!カチューシャを侮辱した罪は大きいのよ!」
と秋人が思った事を言うと、その少女は秋人に子供呼ばわりされた事に怒り突っかかる。粛清とは物騒だな。
「と言うか・・・カチューシャ!?てことは、もしかして俺に紹介したい人って・・・」
「えぇ、紹介するわ秋人さん。彼女がカチューシャ、プラウダ高校の隊長よ。因みに彼女はあなたと同い年よ」
とダージリンが、プラウダの隊長カチューシャを紹介してくれたがこの見た目で俺と同じ17歳だと言うのだ。どれくらいの小さいかと言うと9歳児平均身長が127〜129cm位なのでカチューシャは9歳児と同等と言うことだ。
「うそだろ!どう見ても小学生なんだけど!細胞の老化現象を抑える実験にでも受けさせられたのか?」
「・・・そうかも知れませんね」
とダージリンと2人でそう言い、カチューシャを可哀想な人を見るまで見ていた。
「ちょっと、2人共!何、カチューシャを置いて勝手に話を進めないでよ!だいたいその男誰よ!!」
とカチューシャは秋人を指差して問いただす。
「私の客人よ、今日のお茶会に連れてくるって言ったでしょ」
「は!?そんなの聞いてないわよ!」
それは、多分君が人の話を聞いてないだけだろ。内心ツッコミを入れると、
「日向秋人だ、よろしく」
と少し屈んだ秋人がカチューシャに右手を差し出して握手を求めようとした。
「ノンナ!」
「へ?」
カチューシャは、ノンナを呼びつけると、ノンナは屈んでカチューシャを担ぎ肩車する。ノンナに肩車してもらったカチューシャは、秋人を見下ろしながら勝ち誇った様に言う。
「ふん、まあいいわ。このカチューシャ様は広い心の持ち主なの、だから先の事は特別に許してあげる。もちろん身長もねっ!」
身長の所を強調している辺り、どうやらカチューシャは、相当身長が低い事を気にしているみたいで、ナポレオン・コンプレックスの女性バージョンだ。
「背丈かつ寛大な心遣い感謝します」
「分かればいいのよ、分かればね」
なんとか誤魔化す秋人。肩車されながら嬉しそうに体を揺らすカチューシャ。このカチューシャに我儘に付き合わされているノンナは、大変そうだなぁと秋人は内心思っていたがノンナの表情はどこか清々しい感じだ。
そうして、お茶会が始まった。
「準決勝は残念でしたね」
「去年カチューシャ達が勝った所に負けるなんて」
ダージリンの聖グロが黒森峰に敗れた事を皮肉って言ってくるカチューシャ
「勝負は時の運と言うでしょ」
ダージリンとカチューシャが話している間にノンナさんが、紅茶とジャムそしてお菓子を配った。
「どうぞ」
「ありがとう、ノンナ」
「日向さんも」
「ありがとうございます」
秋人は、一応ロシアンティーの作法は心得ている。
『Это вкусно. Этот русский чай(美味しいです。このロシアンティー)』
『Большое спасибо(ありがとうございます)』
「ちょっと、あなた達日本語で話しなさいよ!」
ロシア語で会話する二人にカチューシャがツッコミを入れる。その光景を軽く微笑んだダージリンは、ジャムをスプーンで掬い紅茶に入れようとしてした。すると、
「違うの!」
とカチューシャが、紅茶にジャムを入れようとするダージリンの行動を止める。
「紅茶にジャムを入れるのは邪道よ!本場ロシアのロシアンティーはジャムを中に入れるんじゃないの!舐めながら紅茶を飲むのよ」
日本では、ジャムを紅茶に入れて飲むのがロシアンティーだと思っているかも知れないが、実はこれは、ロシアでなくウクライナやポーランドでポピュラーな飲み方なのだ。ロシアでそれをしないのは、ジャムを直接紅茶に入れると紅茶の温度が下がって冷めて、体を温める事ができないからと言われている。因みに、余談だがイギリスではロシアンティーをレモンティーと指すのだ。19世紀末のビクトリア女王がロシア王室を訪れた際に、レモンを浮かべた紅茶が振る舞われたそうで、その事からレモンティーをロシアンティーと呼ぶ様になったと。
見本を見せるつもりでカチューシャは、スプーンで掬ったジャムを口に含み、紅茶で流し込んだ。そして、案の定カチューシャの口の周りにジャムがこびり付いていた。
「付いてますよ」
「余計な事言わないで!」
ノンナがカチューシャの口の周りに付いているジャムの事を指摘すると、カチューシャが怒り出す。子供っぽさを思わせるカチューシャの姿にノンナは、微笑む。すると、
「はぁ、仕方ない・・・・そら、じっとしてろ」
「ん・・・」
「折角の綺麗な顔が台無しだぞ」
そう言って秋人は、ハンカチを取り出してカチューシャの口の周りについているジャムを拭く。何故か、ノンナから嫉妬に満ちた視線を向けられていた。視線に気付いていた秋人は少し引きつった。一方のカチューシャは呆けた顔したかと思えば照れながらながら秋人の方を見る。
「へ、へぇ、なかなか見る目あるのね、綺麗だって当然よ。それに、意外と気が効くじゃない。偉大なカチューシャ専属の召使いにしてあげてもいいわよ。ありがたく思いなさい!」
「はいはい、嬉しい嬉しいありがとうございます」
と秋人は、カチューシャの頭に手を置いてカチューシャの誘いを軽くあしらった。側から見ると男女というより兄妹に見えるだろう。カチューシャは、わあわあ喚き、そんな二人のやり取りを見ていたダージリンは複雑そうな顔をしていた。
「ピロージナエ・カトルーシカとペチーネもどうぞ」
ノンナは、流暢なロシア語で言いながら、クッキー系の乗った皿を置く。秋人は、早速茶菓子を口に運ぶ。
「このピロージナ・カトルーシカ、お茶受けにとても合う。今度、みんなに教えてやるか」
ダージリンも、茶菓子に手を伸ばそうとした時、フッとある事を思い出して手を止める。
「次は準決勝なのに随分と余裕ですわね。練習しなくていいですの?」
とダージリンが、聞く。確かに準決勝も近いのに全く練習をしている気配がない。カチューシャは、思いっきり馬鹿にした様に
「燃料と弾薬、時間が勿体ないわ。相手は聞いた事のない無名の弱小校だもの」
まぁ、その全く無名の弱小校が非公式だが、聖グローリアナに勝ちそのままサンダース、アンツィオと連勝しているんだが、
「でも、隊長は家元の娘よ。西住流の」
「えっ!?そんな大事な事を何故先に言わないの!!」
カチューシャは、まるで初めて聞いた様な感じノンナに詰め寄った。ノンナは、相変わらず落ち着き払った様子で言い返す。
「何度も言ってます」
「聞いてないわよ!!」
それは、カチューシャが覚えていないだけだろうな。
「ただし、妹の方だけれど」
「えっ?・・・なんだ・・・」
しかし、大洗の隊長が姉の西住まほでなく、妹のみほだと聞いてカチューシャは、ホッとした表情になる。
「黒森峰から転校して来て、無名の学校をここまで引っ張って来たの」
「そんな事を言いに態々来たの、ダージリン」
「まさか、美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ」
と余裕ぶるカチューシャをよそに紅茶を飲むダージリン。そして、チラチラと秋人の方を見るダージリン、
「それに、彼もいるから連れて来たのよ。彼、大洗のメンバーよ」
「え?あなた、男なのに戦車道をやっているの?」
「そうだが、不服か?」
「ふーん、それでこいつがここにいるの。まぁ、戦車道において大切なのは強さよ!男とか女とかそんな小さい事カチューシャには興味ないし、どうだっていいわ」
ダージリンが、秋人の正体をバラすがカチューシャには関係ないみたいだ。まぁ、今回は偵察とかでは無く、ただ純粋にお茶会を楽しみに来ただけなのだが、