「それにしても、大洗の事も俺の事も月刊戦車道に載っているから知られていると思ったんだが知られていなかったのがちょっとショックだな」
「カチューシャが知らないだけです。私達は知っていますから」
どうやら、カチューシャだけが知らないだけでノンナさん達には知られているらしい。
「こいつ、何をしたのよ?」
「はい、彼は聖グロでダージリンさんを、サンダースではケイさんとナオミさんを彼が単独で撃破したんです」
とノンナが秋人が試合での戦績をカチューシャに説明した。
「ふ、ふーん中々やるみたいじゃない。そんなのカチューシャだって出来るんだから、そんなに実力があるならあなたプラウダに転校してきなさい!」
「・・・・・はい、彼はロシア語が堪能なようですし、是非うちに来て欲しいですねね」
カチューシャとノンナが秋人にプラウダへのヘッドハンティングをして来た。突然の事に唖然とする秋人、
「いやいや、第一此処、女子校でしょ!?男の俺が入れる訳ないでしょ?」
そう、此処はプラウダ高校は女子校だ、男子である秋人が入れる訳がない。だがそんな事カチューシャには関係無かった。
「そんな小さい事カチューシャには関係ないわ、このカチューシャが誘ってやてるのよ、感謝しなさい!ええ〜と大洗の・・・大介さん!」
「誰だよ、日向秋人だ」
「そう、ならアキーシャね」
(カチューシャが、彼を愛称で呼んだ!そこまで彼を気に入った言うの!?)
ノンナは、カチューシャが自身が認めた相手にあだ名呼ぶため、秋人がカチューシャに気に入られた事にノンナは驚いた。秋人自身、サンダースのケイにもあだ呼びされているので気にしてない。
そう話して、ロシアンティーを飲んでいるとコンコンとノックの音がして扉が開いた。入って来たのは、金髪碧眼のロシア人の女子生徒だった。そう言えば、プラウダ高校は、ロシアとの交流がありロシア人の留学生も居るとダージリンさんが言っていたのを思い出す。その女子生徒を見て秋人は、少々複雑な心境だった。戦争中秋人はソ連と戦ったがナチスのイデオロギーのスラブ人を劣等人種とは思ってもいないし、彼らだって祖国のため、愛する家族の為に戦ったんだ。その恨みや怒りと言った感情の矛先を彼女に向けるのはお門違いと言うものだ。
「クラーラ、何しに来たの?」
『カチューシャ様、相変わらずとても可愛いです』
『同志クラーラ-------』
「またクラーラとノンナが私にわからない言葉で密談してる!」
「密談だなんて、そんな」
『気のせいですよ』
ロシア人の女子生徒は、クラーラさんと言うらしい。内容の返答が全然合っていない、カチューシャがロシア語が分からないからノンナさんと二人でロシア語でカチューシャの事について語り合いたい、ロシア語が理解できる秋人はそんな会話を聞いて苦笑いを浮かべていた。すると、クラーラさんがこっちに来た。
『ようこそ、プラウダへ。私はクラーラと申します』
『日向秋人です。以後お見知りおきを。クラーラさんも、ノンナさんと同じくカチューシャさんの事を慕っているんですね』
『はい、しかし同志ノンナより私の方が西シベリア平原のように広く、母なる川ボルガのように雄大なカチューシャ様の素晴らしさを知っているかもしれません』
クラーラは、カチューシャを祖国ロシアの自然に例えて表現しながら語る。そして、秋人は悟ったこのクラーラと言う女生徒もノンナと同類なのだと。
「ちょっと日本語で話しなさいよ!アキーシャ通訳、二人はなんて言ってたの」
「えっと・・・・同志カチューシャは偉大だと二人は言っています」
ここで、二人の秘密を言うのは野暮だと思い、遠回しに言う事にした。二人からも言うじゃないみたいな雰囲気を出していたし、
「ふん、当然よ!それでクラーラ、結局あなたは何をしに来たの?」
『カチューシャ様、お昼寝の準備が出来ました』
「お昼寝の準備が出来たとクラーラさんは言ってます」
「あら、もうそんな時間?じゃあ、そろそろ寝るわ」
とカチューシャが昼寝の準備をする。しかし、彼女は秋人達が来る前も昼寝をしていた筈?
「え?でもまだ、午後1時だろ?午後の授業はどうするんだ?」
「同志カチューシャは、偉大なる指導者ですから午後の授業は彼女が起きてから始まる事になっています」
つまり、カチューシャさんが起きるまで授業が中止という事になる。これは、授業時間が減って遊ぶ時間が増えたと思う人もいるかもしれないがそれは、大きな間違いだ。毎学期それぞれ定期テストが当然ある。授業時間が短くなるって事はテスト範囲まで辿り着けない可能性だってある、そうなれば土日も潰して勉強漬けになる。学校にだって学習指導要領がある必要最低限学校で教えなきゃいけないのを無視して問題なんか作ったら大学受験なんて夢のまた夢だ、この学校進学とか考えてる生徒は大丈夫か?
「秋人さん、それじゃあそろそろ帰りましょう」
「そうですね。カチューシャさん、ノンナさん、クラーラさんでは、До свидания(さようなら)」
とダージリンが切り上げようと打ち出す。
「じゃあねぇー、ピロシキ。アキーシャ考えておきなさいよ」
「「До свидания」」
とカチューシャとノンナ、クラーラも秋人とダージリンを見送った。
プラウダ校とのお茶会も済ませて、ヘリでプラウダ高校を発ち今現在秋人は聖グロリアーナの学園艦に乗っている。すると、オレンジペコが丁度今、紅茶の準備をしていた。
「お帰りなさいませ、ダージリン様、お茶の用意は出来てますがいかがですか?」
「いただくわ、あなたももらうでしょ?」
「あぁ、いただこう」
「では、紅茶の葉は何がいいかしら?去年はセイロンが当たり年だったのよ、如何?」
「じゃぁ、それで」
二人は、聖グロリアーナの学園艦に帰って来て早々にティータイムに入った。
「先、プラウダでお茶したばかりなにまた紅茶飲むんだ・・・」
「私達は、大体朝に一回、学校で六回、帰宅してから三回ティータイムを楽しむの」
「(ほぼ一日の半分をティータイムに費やしてる)もしかして、それが聖グロ生徒の一日のルーティンなんですか?」
「淑女としては、当然よ」
いや、それにしても飲み過ぎは身体に良くないぞ、紅茶などの動物性タンパク質を過剰摂取していると尿路結石になるぞ。っと内心思っていた。
「それで、どうかしら?プラウダを訪問した感想は?」
ダージリンは、オレンジペコが入れた紅茶を少し飲みつつ、聞いてくる。
「隊長のカチューシャさんが幼児体型だった驚愕と大洗を完全に下に見て勝った気でいる事に対する腹立たしさ、ですかね。しかし、続くプラウダ戦はこれまで以上の相手になるでしょう。・・・ところで、準決勝前に俺をプラウダに連れて、何か目的でもあったんですか?」
「あら、私はただカチューシャとの約束を守っただけよ。カチューシャにはあなたを紹介する様に頼まれていたし、秋人さんにはお茶会の約束がありましたから、それにしても随分カチューシャと仲良くなりましたね。ヘッドハンティングまでされて」
「自分では、普通に接していたつもりだったんだがな・・・・ヘッドハンティングの件は断るつもりだ。みほさん達には、恩があるし今の俺の居場所は大洗だからな」
「そうですの・・・私も、秋人さんを我が聖グロリアーナに入れたいと思ってましたのに・・・」
と残念そうな顔で静かに紅茶を飲むダージリン。そんな時、
「ところで、秋人さん・・・・」
「何ですか?」
「秋人さんは、・・・・今付き合っている人とかいますの?」
「は?」
ダージリンの言葉に思わずキョトンとしてしまう秋人。
「突然何ですか!?」
「あら、大洗女子のチームに囲まれていらしゃるからもう既に本命の方が出来ていると思いましたが?」
「いや、俺にはそう言う女性はいません・・・・そんな暇なかった」
と秋人は、どこか切ない表情でそう言う。そもそも俺には、恋人とか無理な話だ。俺は、戦争で多くの人間を殺して来た。俺の手は既に血で染まりきっている、そんな俺が愛する人を抱きしめ幸せになる資格などないのだ。
「そうですか・・・付き合っている人はいないのですね、だったら私にもまだチャンスがあるわね。ゆっくりと彼を口説き落としてみせるわ」
とダージリンは小さい声で言っていたので秋人の耳には入らなかった。それから、一通り紅茶を飲みその後、聖グロリアーナの学園艦が港に寄港し、そこから大洗の学園艦へ向かう連絡船に乗って行く。