プラウダ高校とのお茶会から次の日の朝、
「ふぅ〜・・・今日は、こんなところかな?」
秋人は、朝5時に起きてジャージに着替え毎朝の日課で公園でトレーニングをしていた。未来の平和な時代とはいえ、自身の鍛錬を怠らない。日も出始め鍛錬を終えた秋人は寮に戻ったそして、軽くシャワーを浴びて汗を流した後、私服に着替えて朝食の準備をする。準決勝を数日後に控えた大洗だが今日は練習がない為、みんなが自由な時間を過ごし、学園艦が久しぶりにまた大洗の港に寄港した、多くの者は久々の陸地なので陸でオフを過ごす。学園艦から降りた秋人は大洗の街へと向かう。聖グロリアーナとの練習試合で大洗を訪れたが今日は買い物ついでにゆっくりと大洗の街を見物する。
秋人は、大型ショッピングモールへとやって来ていた、日用品な衣類など必要なものを買い揃える為だ。そして、ある程度買い揃えた秋人は帰ろうとしていた。
「ん?」
ふっと秋人は足を止めてある場所に目を留める。それは、ショッピングモール内に設置されているゲームセンターだった。ゲーセンを見て秋人は、思い出す以前みほ達とゲームセンターに訪れた事があった。この時代に来て直ぐみほ達と戦車倶楽部に訪れた時秋山がやっていた戦車ゲームに興味を持ったのだ、みほ達に遊び方などを教えて貰いかなりのめり込んだ。。あの時代、ゲーム機などがなくゲームセンターなどの娯楽施設がまだない時代、ゲームセンターは秋人には新鮮な感じだった。
「ちょっと、遊んで行くか」
と秋人は、そう言って店内に入って行く。そこで、秋人はパンチングマシン、シューティングゲーム、音ゲー、レースゲームなど次々と新記録を打ち出し、店内の記録を塗り替えてやった。
「今度は、ミーナ達を連れてやろう」
とある程度遊んだ秋人は、最後に店の外に設置されたUFOキャッチャーをやって帰ろうと思い店の外に出た。すると、一台のUFOキャッチャーに張り付く様に黒いカチューシャの様なリボンで左側の髪を結び、サイドテールにしカチューシャよりは背が高く角谷会長と同じくらいの少女が目に入った。
(あの、女の子は何を見ているんだ?)
そう言って、秋人は少女が見ているUFOキャッチャーの景品を見る。中に入っていたのは、全身包帯で巻かれつぎはぎやアオタンや絆創膏、ギブスのくまのぬいぐるみだった。
(あれ、確か・・・みほさんの部屋に飾られていた『ボコられグマのボコ』だな。前にみほさんが幾らか擦ってやっと取ってたな)
以前、ゲームセンターでみほ達と来た時UFOキャッチャーでボコのぬいぐるみをみほが2000円も擦って取った事を思い出す。
「(この子もボコられグマが好きなのか?やっぱりこう言うのが女の子の間で流行ってるのか?ちょっとやってみるか)ちょっと、そこいいかな?」
「っ!?」
ゲーム機の前で張り付く様に立っている少女が邪魔で硬貨投入口に硬貨が入れられないので、少女に声を掛ける。急に声をかけられてびっくりしたのか、その子は驚いた表情で秋人の方を見た。
「すまないね、俺そのゲームをやりたいんだが、退いてもらってもいいかな?」
「・・・・・(コクリ)」
少女は無言のまま頷き、その場を空けた。退いたと至ってもその子は、投入口とボタンの位置から横に少し移動しただけで変わらず景品のボコを見つめる。
「(そんなに、このぬいぐるみから離れたくないだな・・・)どれにしようか」
秋人は、景品を見回すと右手左足にギブスを付けて左目を包帯で覆い隠す様に巻いている灰色のボコに狙いを定めた。狙いを決めた秋人は、投入口に硬貨を投入すると、ボコの主題歌《おいらボコだぜ!》が流れ、UFOキャッチャーのアームを動かすボタンが光る。光るボタンを順番に押してアームを狙いのボコの位置に動かして、位置に着いたらボタンを離した。アームはゆっくりと下がりながら爪を広げ、ボコのもとへと潜り込む。アームは、ボコのぬいぐるみを持ち上げるがすぐに落ちてしまった。
「あっ・・・」
少女は、ボコが落ちて残念そうな声を出すが、秋人は確信の笑み浮かべた。
(よし、ぬいぐるみの一番重い頭の部分を少しづつ取り出し口に寄せれば・・・・)
そうして、秋人はUFOキャッチャーの攻略法を見つけると、再び投入口に硬貨を入れて先と同じ様にやって行きぬいぐるみを取り出し口に寄せて行く。同じ事を繰り返しその後、3、4回目でぬいぐるみが取り出し口に落ちた。
「よし、取れた!」
「お〜・・・」
秋人は、落ちた景品を取り出し口から取り出して、そのまま家に帰ろうとしたが、
「・・・・・・」
少女が、先までUFOキャッチャーに景品に目を向けていた視線がいつの間にか秋人が取った景品のボコに向けられていた。
(何故、こっちをみるのだ?欲しいのか?)
小動物の様な目で見てくる少女に試しにボコのぬいぐるみを左に移動させると、少女の視線も追う様に左に向き、逆に右へと移動させると右へと視線を追い、まるで磁石の様に少女の視線が左右に揺れる。
(この子の反応が面白いなぁ・・・)
秋人は、悪戯心に火をつけ少女の反応を見て面白く遊んでしまった。だが流石にいつまでもこんな事している訳にはいかないので、ボコのぬいぐるみを抱えて家に帰ろうとしたが・・・・
「あっ・・・・」
秋人が、立ち去ろうとした時、少女が悲しそうな声が消えたので立ち止まざるを得なかった。振り向くと少女はまるで売られて行く子牛の様な目で見ていた。秋人は、一度抱えているボコに目をやると、やれやれと言った感じで小さくため息をつくと、
「はい、これ」
「えっ!?」
と秋人は、少女の前まで来ると屈んで、ぬいぐるみを少女の前に差し出す。
「君、このボコのぬいぐるみが欲しいだろ?あげるよ」
「・・・・いいの?」
「あぁ、俺よりも本当に必要としている人のもとにいた方がボコも幸せだろ。だから大事にしてくれ」
「うん、・・・・ありがとう」
「どういたしまして」
嬉しかったのか、恥ずかしいのか、ボコに顔を埋めながら少女はお礼を言い、秋人は微笑みながらそう言った。
「ところで、君一人で来たのか?」
「・・・・お母様と一緒に来た」
少女は、首を横に振って母親と一緒に来たと言った。
「お母さんは一緒じゃないのか?」
「・・・・・はぐれた」
「あぁ・・・・迷子か。携帯で親に連絡は?」
「携帯・・・・持ってない、大洗も初めて来たから・・・・どうしよう」
少女は、不安そうな表情でそう呟く。携帯を持っていれば迷子になっていないし、そもそも携帯を持っていないから番号なんて知るはずも無いので秋人の携帯で代わりに掛けようがない。そこで、秋人はある事を思い出す、祖父から任侠に生きろと言われて優しく、仁義を重んじる秋人からしたらこれは、捨て置くわけにいかない。
「これも、乗りかかった船だ。一緒にお母さんを探してあげるよ」
「・・・・いいの?」
「女の子が困ってるんだ。助けるには充分な理由だよ」
「ありがとう・・・・」
こうして、迷子になった少女を親元に送り届ける事になった。愛里寿は、秋人からはぐれない様に秋人の袖を掴みながら歩く。
「そういえば君は、名前はなんて言うんだ?」
「?」
街を歩き回る中秋人は不意に少女の名を聞いてみた。
「いや、いつまでも君やお嬢ちゃんじゃ不便だしどうかと思ってね。出来れば教えてもらいたいんだが」
「・・・・・」
少女は、無言を貫く。まぁ、知らない男にいきなり名前を教えてなんて言われても困るか。
「別に、名乗りたくなかったら無理に名乗らなくてもいいから」
「・・・・愛里寿(ありす)」
「え?」
「・・・・・島田愛里寿(しまだありす)」
「わかった。愛里寿ちゃんね、いい名だ。俺は、」
「知ってる。日向秋人お兄ちゃん、・・・・大洗女子学園戦車道に現れた男性選手で戦車道の新星」
「知ってたんだ?」
「大洗の試合・・・・全部見たし、月刊戦車道も読んだ。それに・・・・お母様が戦車道連盟の理事長だから教えてもらった」
「そうか、愛里寿ちゃんみたいな子にまで俺のことが知られているなんて光栄だな。(母親が戦車道連盟の理事長とは!?それに島田って名字もしかしてこの子は・・・・)」
と言いながら秋人は、愛里寿の頭を優しく撫でる。愛里寿は秋人に、撫でられて気持ち良さそうに目を細める。秋人は、自己紹介で島田という名字に引っ掛かり、そして確信した。
「秋人お兄ちゃんのチーム凄く強い・・・・サンダース戦の時のあの柔軟な戦術も凄かった。・・・・多分、私のチームとお兄ちゃんが対決したら私のチーム、勝てないかも」
「俺は、そんな大層なもんじゃないよ。俺一人の力では到底なし得なかったさ、チームみんなの力を合わせて成し得たさ」
「チームみんなと力を合わせて?」
「そう、俺たちみんな、いつもお互いの動きを見て連携プレイを心がけているのさ。装填手、砲手、戦車長、操縦手、無線手、それは固い絆で結ばれたチームさ。・・・・それにしても、愛里寿ちゃんは戦車道チームの隊長をしているのか?」
「うん・・・・・センチュリオンの車長もしている」
「へぇ・・・・英国の戦車A41センチュリオンか(戦車図鑑で見たがセンチュリオンって、確か戦後の第一世代戦車だった筈、戦車道の大会規定では1945年8月15日までの戦車しか運用できない筈なのに、いいのか?)」
とそんな疑問を抱きながら街を歩いていた。
「秋人お兄ちゃんは、何で戦車道をやっているの?」
と愛里寿は、秋人に疑問を投げかけて来た。そりゃ、戦車道は乙女の嗜みの武道だ。男の秋人がやっているのが不思議なのは当然だ。
「そうだなぁ、俺たちがちょっとした喧嘩で怪我をして倒れていたところを大洗の戦車道の人達に助けてもらったのさ。その後、大洗の生徒会長さんに戦車道に入って手を貸して欲しいって頼まれたんだ。で、助けてくれた恩があるから手伝っているだ。それに、戦車にももともと憧れがあったからな」
「それじゃ、戦術・戦法とかも大洗で身に付けたの?」
「いや、戦術とか独学で身に付けたんだ。・・・・・あそこに、交番があるから警官に迷子だって保護してもらおう。もしかしたらお母さんが交番に駆け込んでいるかもしれないし」
「うん・・・・・私、大学生なのに情け無い」
「ほぉー、愛里寿ちゃんは大学生なのか?」
「うん、でも飛び級だから、お兄ちゃんよりは年下」
「愛里寿ちゃんも俺と同じか」
「え?」
と秋人の言葉に愛里寿は驚いた。
「俺も大学を飛び級したんだ。海外の大学だけど、まぁ、今もうとっくに卒業して自由な身だけどね」
「・・・やっぱり、お兄ちゃんは凄い」
愛里寿にとって共通の話題が見つかった事に喜んだ様だ。そうして、歩いていると秋人と愛里寿の二人は交番前までやって来た。交番の前では貴婦人の様な穏やかそうな女性が警官と話しているのが見えた。
「お母様」
"お母様"と呼ばれた女性は、その声が聞こえたのか警官との話を止め愛里寿の方を向いた。
「お母様!」
その女性の顔を視野に捉えた愛里寿は、そのまま女性の方へと走って行った。
「愛里寿!」
女性は、走って向かって来た愛里寿を強く抱き締めた。
「何処行ってたのよ!心配かけて!」
「ごめんなさい」
そう言いつつも、少女の母親は抱き締めていた。それから警官が、母親に話しかけて、迷子になった愛里寿本人か確認をとる。その様子を遠くから見ていた秋人は、
「・・・・もう、親から離れるんじゃないぜ」
秋人が最後にそう言って、シュン!と消えていった。
「それで愛里寿、いままで何処にいたの?」
「ゲームセンター・・・・ボコのぬいぐるみがあったから」
秋人が、交番から立ち去った後、警官との話を終えた島田親子は帰る支度をしていた。彼女は、世界中に道場を持つ島田流戦車道の家元島田千代は愛娘の愛里寿が何処にいたのかを聞いた。
「それで・・・・・そのボコのぬいぐるみはどうしたの?」
「うん、そこにいる秋人お兄ちゃんが取って・・・・あれ?」
愛里寿が母親の千代に秋人を紹介しようと、後ろを振り向くと既に秋人の姿は無かった。
「秋人お兄ちゃん・・・・何処?」
愛里寿はそう言って交番の外の大通りを出て見渡すが誰もいない。
「ねぇ、愛里寿。その秋人って子、もしかして最近大洗に現れた男性戦車道の日向秋人君の事?」
その問いに愛里寿は頷く。
「そう、戦車道の新星の彼が・・・・・いつか、彼に会ったらお礼を言わなくちゃね。さぁ、愛里寿そろそろ帰りましょうか。態々ヘリまで飛ばして来たんだから、あまり長く待たせられないわ」
「はい」
そして二人は、手を繋ぎながら帰路へとついていく。
一方、愛里寿と千代との再会を見届けた秋人は
「あの子が、西住流と双璧を成す戦車道のもう一つの流派島田流の子か・・・・いつか、手合わせ願いたいものだ」
とそう呟きながら秋人は大洗の街中を歩いて学園艦へと帰って行く。