一方、秋人とみほが生徒会室に呼ばれた同日、熊本県のとある邸宅。『西住』と書かれた表札が掲げられた古風な屋敷、この家こそ西住流戦車道の家元でみほの実家だ。
その一室に黒森峰の制服を着た西住まほと黒いレディーススーツを着た女性がいた。鋭い目や座る姿の凛々しさを醸し出すその女性の名は、西住しほ。みほとまほの母親で西住流の師範である。その二人を囲む机の上には月刊戦車道のある1ページが広がられ、その記事の項目には、次の準決勝で大洗女子学園とプラウダ高校が対決すると書かれており、大洗女子学園戦車道隊長西住みほ、プラウダ高校戦車道隊長のカチューシャの写真と名前が載っていた。
「あなたは、知っていたの?まほ、あの子が未だ、戦車道を続けている事を」
「はい」
「西住の名を背負っているのに、勝手な事ばかりして」
記事には、隊長の西住みほが黒森峰の西住まほの妹で西住の娘とまで書いてある。
「これ以上、生き恥を晒す事は許さないわ。『撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れなし、鉄の掟、鋼の心』それが西住流、まほ」
「私は、お母様と一緒で西住流そのものです!でも、みほが・・・・」
今まで、黙っていたまほが声を上げるが、しほが一睨みで黙らせる。
「もういいわ、準決勝は私も観に行く。・・・・・あの子に勘当を言い渡す為にね」
しほは、それだけ言うと月刊戦車道を片付け立ち上がる。
「今日は、まだ仕事があるから家を空けるわ。あなたは黒森峰に帰りなさい」
「お母様、菊代さんは・・・・」
とまほが聞く、菊代とは西住家に仕える使用人で送迎運転手も兼ねている人物だ。そんな、しほが彼女を連れずに出かける事は滅多にない。
「休みよ、大洗に行くと言っていたわ」
まほからそう聞かれたしほは動きを止め、特に振り返る事なくそれだけ答えまほを残して部屋を出る。そして、自室に入ったしほは、再び月刊戦車道を開く。しかし、今度はみほの記事では無く秋人の記事の方を開いた。
「日向秋人、戦車道の新星・・・・・面白いわ(彼がもし、正式にどこかの流派を習得すれば、特に変幻自在の島田流に取り込まれれば西住流を脅かす存在に成りかねない。あの親バカのちよきちが娘を差し出すとは思えないが、そうなる前に彼を西住流に取り込むことが出来れば西住流を繁栄させ、彼を絶対的な王者へと育てる事もできる。・・・・あの子に勘当を言い渡すついでに彼の実力を確かめに)」
としほは、月刊戦車道を見ながらそう呟く。
場所は移り、此処は『日本戦車道ここにあり』と世界に名を馳せる日本戦車道流派の一つ島田流の本家。
「お母様・・・・ちょっと良い?」
「ん?・・・・・あら愛里寿。どうしたの?」
「お母様に・・・お願いがあるの」
「お願い?」
西住邸よりは劣るがそれなりの敷地の広さを持つ島田邸の自室に座っている家元の島田千代を愛娘の愛里寿が訪ねて来た。秋人から譲り受けたボコのぬいぐるみを大事そうに抱いて部屋に入って来た愛里寿は、千代に向かって座り言った。愛里寿を溺愛する千代は、出来る限りのことは愛里寿の願いを叶えてあげたいと思っている。
「大洗の試合見に行きたいの」
「えっ?」
愛里寿の頼みに千代は、呆気に取られた返事をした。
「急にどうしたの?前なんて興味なさげだったのに、今になって行きたいだなんて・・・・」
「・・・・・・」
千代が聞くと、愛里寿は答える代わりにボコのぬいぐるみを抱きしめた。愛里寿が抱いているボコのぬいぐるみは、秋人から譲り受けた物だと言うのは愛里寿から聞いており、それを覚えていた千代は、何かを悟った様な表情を浮かべて言った。
「もしかして、愛里寿・・・・・彼に会いたいの?日向秋人君に」
と千代がそう言うと、愛里寿はその問いに首を縦に振って頷く。
「うん・・・・秋人お兄ちゃんに、あの時のお礼、未だに言ってないから・・・・」
「そう・・・・・・別にいいけど、会場は凄く寒いわよ?着れる限りの防寒服を着ても寒いかも知れないわ」
千代がそう言うが、愛里寿は気にしないとばかりに首を横に振る。
「大丈夫・・・・お兄ちゃんの為だから・・・我慢出来る」
「そう、余程彼に懐いているのね・・・・・まぁ、良いわ。連れて行ってあげるから、それまでに準備しておくのよ?」
「うん・・・っ!お母様、ありがとう!!」
そう言って、愛里寿は満面の笑みを浮かべて立ち上がり、部屋を出て行く。
「プラウダ高校、去年の優勝校が相手なのね。それもそうだけど、愛里寿が誰かに興味も持ってあんなにも懐くなんて、彼は一体愛里寿は彼の何処に惹かれたのかしら?」
愛里寿が出て行った扉を見ながら、千代はそう呟く。
大洗から帰って来てからと言うもの、愛里寿は四六時中秋人から譲り受けたボコのぬいぐるみを肌身離さず抱いている。
大学の選抜チームからも『時々『秋人お兄ちゃんがどーだこーだ』と言っている』とさえ言われる始末。
秋人の話になると、いつもは無表情の愛里寿から一転して楽しそうに話したり、ふざけた一人が試しに『秋人の事が好きなのか?』と聞いてみたところ、少し顔を赤くしながらも、あっさりと頷いたらしく。
愛里寿曰く、『うん、大好き・・・秋人お兄ちゃんの一緒に居ると安心するし、すごく胸がドキドキする』との事だ。
因みに、それを聞いた愛里寿の大学選抜チームの内3人(バミューダ三姉妹)は、相当なショックを受けたらしく、血涙を流したり血反吐を吐いたりしたそうな、機会があったら秋人を拉致監禁して、愛里寿との関係について詳しく問い詰めるたり、どうしたら隊長(愛里寿)ともっと親密になれるのかなど物騒な計画を企てているとか。
「そんなにも話題に出てら人物なら、一度会って見たい気もするわね。それに、愛里寿があんなにも好いているなら、いっその事あの子を愛里寿の婿にでもしてしまおうかしら?歳は愛里寿より上だろうけど、少なくても20には成ってないだろうしね。少なくても西住流・・・・しぽりんには渡したく無い逸材ね。彼のチームもかなり強いみたいだし・・・・・」
千代は、そう言って机の上にある珈琲の入ったマグカップを手に取り珈琲を飲む。
一方、千代との約束を終え部屋に戻った愛里寿は、勉強机の椅子に座りスタンドライトだけの暗い部屋の中で、愛里寿は手にしている月刊戦車道を持ち、もう片方の手には鋏が握られ、愛里寿は月刊戦車道のページを開くと無言でページの記事から写真を切り取ると更に写真を切り抜いて行く。切り落とした写真には目もくれず、その切り抜いた写真には、戦車と共にチームメイトと一緒に写っているはずだが一人だけ綺麗に切り抜かれていた。
「・・・・・」
愛里寿は、机の引き出しからスケッチブックを取り出して切り抜いた写真を貼っていく。そして、そのスケッチブックには秋人に関する今までの月刊戦車道の記事や写真などが貼られていた。
「・・・秋人お兄ちゃんに、もうすぐ会える・・・」
と切り抜いた秋人の写真を見て小さく微笑みを浮かべていた。
翌日、大洗戦車格納庫では、次の会場が雪原地帯という事でみんな防寒対策などをしていた。
「ねー、次の会場って超ー寒いんでしょー?」
「ええ、降雪地帯なのでしっかりと防寒対策しておかないと・・・・西住殿、それは?」
とみほがダンボールを持って来た、そして中身を見てみると
「生徒会から防寒用にって・・・・」
「まぁ、こんなに・・・・カイロまで、いるんですか?」
「戦車の中には暖房ないから、すぐ寒くなるから・・・・出来るだけ準備しておかないと」
ダンボールの中にはカイロやマフラーやチョコレートなどの防寒具を見て五十鈴がそう言あと、みほが答える。武部はチョコレートが入っていた事に嬉しそうにして、それを見た冷泉は呆れた顔をした。甘い物は体温を上げるが食べ過ぎには注意。
「ね、優花里さん」
「ですよねー、寒さ対策は必須でありますので!」
みほの言葉に、秋山は同調する。
「次の相手はイワンの戦車ね」
「まぁ、T-34の対決なんて俺達には御家芸だ」
「そうね」
「それと、ミーナ大きめの鍋とグラーシュの材料を調達しよう」
「まさか、試合の中作るの!?」
「スターリングラードの冬を経験したろ、寒いからこそ温かい食事でみんなの英気を養い、士気にも直結する」
「わかったわよ。スーパーで人数分の材料を調達するわ」
「頼む」
と秋人とミーナは、スターリングラードの戦いでロシアの冬将軍を体感して思い知らされた経験を持つ。冬を経験した気温が一気に下がり動きが取れなくなる事を知っている。機甲部隊には、冬は悪夢だ。毎晩エンジンの下に火をとぼすしておかないとオイルが凍結するし、脳からの指令を伝える神経細胞が極度の寒さによって伝達速度が遅くなり単純な手作業でも困難になるのだ。
「タイツ2枚重ねにしようか」
「ネックウォーマーもした方がいいよね」
「それより、リップ色付いたのにした方が良くない?」
「準決勝って、ギャラリー多いだろうしね」
「チークとか入れちゃう?」
楽しそうに話す一年生達、
「どうだ、これぞ侍の魂!戦場での武人の誇りの表れ!」
と左衛門左は時代劇のちょんまげカツラを装着する。
「ならば、私はこれだ!光明神アポロンの加護と勝利の栄光月桂冠!」
とカエサルは、月桂冠を取り出して被る。
「あなた達、メイク禁止!仮装も禁止!」
「いちいちうるさいぜよ・・・・」
風紀員としてのみどり子はみんなに注意するが、おりょうが嫌そうに言う
「これは授業の一環なのよ!校則は守りなさい!」
と、校則を守る様促す。すると、エルヴィンがみどり子の肩を掴み振り向かせ
「自分の人生は自分で演出する」
「何言ってるのよ!」
エルヴィンがドヤ顔で砂漠の狐エルヴィン・ロンメル元帥の名言を言うが、みどり子は当然知るはずも無くツッコミを入れる。
「今度は結構みんな見に来ますよ」
「戦車にバレー部員募集って書いて貼っておこうよ」
「いいね!」
と、バレー部は八九式にスローガンや部員募集の紙を貼る、戦車を宣伝カーにしようとしていた。
「アンツィオ校に勝ってから、みんな盛り上がってますね」
「クラスのみんなも期待しているし、頑張んないと!」
「次は新三郎も母を連れて見に来ると言っています」
みんな盛り上がりながらそう言うが
「羽目を外すなとは、言わないが少し浮かれ過ぎじゃないか?」
「これくらい普通でしょ?」
「そうですよ日向殿!何か不安な事でも?」
無名校で一回戦、二回戦と勝ち進んで盛り上がる気持ちはわかるが、緊張感が無さすぎる。自信と慢心はにて非なる物、その慢心が時に重大な過ちになる事もあるのだ。だが、そんな失敗から学んで行くしかない。